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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
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6:たとえ力で劣ったとしても!

 ズシリと重みのある足音と共に立ち上がった鎧熊が吠える。

 圧力と衝撃さえ伴ったその声から、私はビブリオとホリィを庇う盾になる。


 そのために固く踏ん張った私に巨大な鎧熊が掴みかかってくる。


 押しつぶすような圧力。それを私が堪え、はね返そうとしていると、森の中から飛び立つものがある。


「クッソ……オレの、オレの脚をよくも……ッ!!」


 メタルスパイクの突き刺さった足を抑えながら空に上がったのはウィバーンだ。


 羽ばたきホバリングしているものの、度々にバランスを崩しているその様からは墜落で小さくないダメージを負っていることが見て取れる。


 そんな彼は私と、私を抑え込む鎧熊を見下ろすと、屈辱に剣呑な光を湛えていた目を柔らかくする。


「フンッ! だが、いい格好じゃないかおあつらえ向きに憎しみを抱えた魔獣を見つけたからイルネスメタルをくれてやったが……なかなかにいいバンガードに出来上がってくれてるじゃないか」


 ウィバーンが結果オーライだとほくそ笑む。が、その言葉にはどうにも聞き逃せないものがある。


「憎しみ、だと……?」


 口ぶりからするに、私という個への恨み、ということだろう。

 だが、いったい誰から?


 そんな疑問を抱いた私は、ある一点に目を奪われる。

 それは私に圧し掛かろうとする鎧熊の、その右肩であった。


 濁った緑色に輝く金属。

 脈動するようにその毒々しい光を瞬かせるそれは、まるで血を溢れさせるかのように熊の体から黒いものを湧き出させている。

 この黒いものが、それこそ血が固まるようにして獣の全身を包む鎧になっているのだ。


 おそらく、この鎧を作る黒いものが、禍々しい緑の金属「イルネスメタル」とやらによって具現化された熊の憎しみなのだろう。


 しかしそれはそれとして、また別に重要なのは、それが熊の右肩に存在するということだ。


「私が追い払った、ガイアベアなのかッ!?」


 その答えにたどり着いた私に、鎧熊は毒々しい緑に染まった両目をギラつかせて吠える。

 合わせて獣の右腕を包む鎧が、一気に刺々しさと大きさを増した。

 伴い増大した圧力に私の両足は地に沈んでしまう!


「ハハハ! 強力でいいバンガードじゃないか! また邪魔されても面倒だからな、きっちりブッ潰してやれよなッ!」


 なんというパワーなのか!?

 私は全力で押し返そうとしている。しているのだがしかし、肘も膝も曲がり、地面には足首の上までめり込まされてしまっている。これはとても、力では勝てない!


「ライブリンガーッ!?」


「グッ……離れて、いてくれ……グゥッ!」


 心配してくれているビブリオたちには悪いが、近づかれては巻き込んでしまいかねないのだ。


「ホリィ! ビブリオ! 離れなッ!!」


 そんな押し潰されつつある私の頭上で、炎が弾ける!


 それは村に残る戦力を集めてきたらしいフォステラルダさんの火の魔法だ。


「先生!? でも……ッ!?」


「いいからこっちに来なッ! 爺さんから話は聞いてる。黒い鋼魔がアンタらの味方をやってくれてるってんなら、デカいのが遠慮なく組み打ち出来る場所くらい作ってやんなッ!?」


 フォステラルダさんに叱られて、ホリィとビブリオはハッとなって早足に私から離れていく。

 二人を迎える養母さんの近くには、ウィバーンに襲われていた猟師のお爺さんの姿がある。

 ありがたいことに、彼が私を敵ではないと説明してくれたようだ。


 ともあれ、せっかくお膳立てをしてくれたのだ。

 ここでもう一つ踏んばれないようでは嘘だろう!


「おぉおおおおおッ!!」


 私は雄叫びを上げる……が、その力のベクトルは前や上ではなく斜め後ろだ。

 圧し掛かっていたメタルガイアベアはその力のままに顔面から地面へ。

 そうして相手が仰向け大の字に倒れている隙に、私は沈められた足を引き抜いて倒れたところへプラズマショットを連射。


 これにメタルガイアベアは声を上げる。だがその声色には苦しみよりも怒りの色の方が濃い。

 やはり確実に決着を、と言うのならば私の場合スパイクシューターを渾身の力で打ち込む他にない。


「おおっと、そいつはさせないぞ」


 しかしそう考えて拳を構えた私を、ウィバーンの射撃が襲う。

 そしてこの牽制の間にガイアベアが起き上がったのに、とっさに身を低くして横転。

 その直後に私のいた場所を強大な熊の腕が叩き割った!


 すぐさま私は横っ飛びにスパイクシューター。

 しかし、射出した杭ではやはりガイアベアの鎧に弾かれるだけ。威力が足りないのだ。


 威力を高めつつ取りつく。そのための間隙を作ろうと、目眩ましと牽制のプラズマショットを放つ。が、その出鼻はやはりウィバーンのエネルギーと烈風の弾丸にくじかれてしまう。


 この間に私を見つけたガイアベアが叩き潰しにきたので、身をかわしながらエネルギー弾を見舞う。

 この内の一発が、偶然にベアの右肩に食い込んだ禍々しい金属に当たったが、やはりまぐれ当たりの一発ではびくともしない。


 二対一、この状況でどうにか捕まらずにいられているが、こちらも決定打を打ち込ませてはもらえない。

 完全にジリ貧の状況だ。

 ウィバーンもガイアベアも、今は私を叩き潰すことを優先しているようだが、いつその目先が村人たちに向くかもしれない。

 今の内だ、今の内に決着をつけなければならないのだ!

 決着のチャンスを作るためにまず必要なのは、両方の目をごまかさなくては。


 そう考えた私は、弾幕と豪腕から逃げ続けていた足を止める。


「ようやく観念したか!? まったく粘り強いヤツだなッ!」


 そこへウィバーンが猛烈に烈風とエネルギーの弾丸を雨あられと降らせてくる。

 これは腕を傘にした私に容赦なく叩きつけ、足元から土煙を巻き上げる。


「さあ! オレが足を止めてやってる内に止めを刺してやれ!」


 この命令を受けたガイアベアは緑色に濁った目を光らせて私を叩き潰しに迫る。


「今だッ!!」


 堪え忍び、待ち構えていた瞬間に、私はプラズマショットを連射。

 しかしそれはベアにでもウィバーンにでもなく、地面に向けてだ!


「まだ無駄な足掻きをするのか……って、しまった煙幕ッ!?」


 私の狙いに気づいたウィバーンが慌てて弾幕を止める。だがすでに私を覆い隠す土煙は充分な濃さだ。


 鎧熊は煙に構わずに私のいた場所を薙ぎ払う。だが当然その腕が払ったのは土煙だけだ。


「チェーンジッ!!」


 大振りの一撃を振り切った熊の背に、私は車モードから変形しつつ突進。


「しまったッ!?」


 気がついたウィバーンが再びの弾幕。

 だがそれは別方向からの火や水、あるいは岩の飛礫にぶつかって散らされる。


「頑張れ! ライブリンガーッ!!」


「おおッ!!」


 援護してくれたビブリオたちに、私は気合の声で応える。

 迫る私を迎え撃とうと、ガイアベアは強引に振り向きながら裏拳気味に左腕を振るう。


 だが私の頭はその少し下だ。


 深く身を沈めて左腕を潜った私は、合わせて左レッグスパイクを地面に突き刺しターン。回転の力を上乗せした右拳とスパイクを撃ち出す!


 鋭く伸びたスパイクシューターは、熊の顔面――を掠めて右肩を、そこに食い込んだ禍々しい緑色を撃ち貫いた。


 イルネスメタルが砕けるや、ガイアベアの全身を覆っていた鎧もまた砕けて、元の大きな熊の姿に戻る。

 そのまま巨大な熊は力を使い果たしたかのように、私に覆い被さってくる。

 これを私はほとんど担ぎ上げる形で受け止めた。


「ば、バカな……ッ!? イルネスメタルを砕いて、尖兵化した魔獣を元に戻した、だとぉ……ッ!?」


 そんな声に空を見れば、愕然としたウィバーンの姿がある。

 こちらを見下ろしておののいたように震える彼に、私は拳とスパイクシューターとを向ける。


「クソッ! ライブリンガーとか言われてたか!? 今度会った時にはこうはいかんぞッ!!」


 するとウィバーンは飛竜形態へチェンジ。捨て台詞を残して遠くの空へ飛び去っていく。


 逃げられてしまった。が、逃げてくれてよかったとも言える。

 正直なところ、私にももう余裕はない。


 今はとにかく、私に駆け寄ってきてくれるビブリオとホリィが、二人が暮らす村を守りきれた。それが何よりのことだ。

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