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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第三章:三聖獣集結、そして飛翔
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58:魔獣巣食った港町

 航路が封鎖されてしまっている問題を解決する。

 そのために急行する私たちは現在空の上だ。

 ――と言っても、私が飛行能力を得ていたり、人型モードでのハイジャンプの最中、と言うわけではない。

 車モードの私が遠征メンバーの一部を乗せてグリフィーヌに掴まれているのだ。


「まったく……私を足がわりになど、よくも使ってくれるものだ」


「足じゃないよ。翼だよ」


「そういう言葉の端を掴まえての茶々入れはやめてくれ」


 急行している、とは言っても、こんな風に私の助手席に座るビブリオとグリフィーヌとで軽口の投げ合いができる程度の速度でだ。


「すまない。自慢の翼で私を運ばせるような仕事をさせてしまって」


 ある程度の地形を無視して進める空での移動と言うのは、非常事態には大変な魅力だ。

 とはいえ、私が飛べないばかりに不本意な仕事をさせてしまっていることは申し訳なくて、私はまた改めて一言お詫びをいれておく。

 するとグリフィーヌは不規則なリズムで目を瞬かせて、目線をそらしてしまう。


「ああ、いや……別にそこは、な……ライブリンガーたちを運ぶの自体は、言ってしまったほど不満に思っているわけではない。使うなら使うで、どうせならもっと急速急行、直通するのに使いたいものだ、とな」


 彼女が気まずげに語ったとおり、ルートも問題の海域をまっすぐに目指してのものでもない。

 ではどこを目指しているのかと言えば――。


「見えてきたわ。あれが、あの町がそうよね」


 運転席のホリィが指さす先には港町が。

 そう。このキゴッソ国最大の港町が私たちの第一の目的地なのだ。


 海に居座った暴れん坊を退治するなり追い払うなりする。これが今回の遠征最大目的である。が、本当にそれだけで終わりとしていいものではない。


 イコーメ―メレテ間の通商航路も今は数を控えてはいるだろうが、無理を押したのが襲われている場面にかち合わないとも限らない。

 その時の避難に使える拠点として、キゴッソ側の港も奪還、確保しておくことがセージオウルたちから下準備として提案されているのである。


 もし仮にグランガルトらがキゴッソ港を寝床としているのならば儲けモノ。それくらいの皮算用もないではない。

 が、本命としては海上の捜索と戦闘が想定される私たちの拠点として利用するためであり、その後のキゴッソ奪還と復興に弾みをつけるためである、


 もちろん私とグリフィーヌ、ビブリオとホリィだけで占拠と復興作業が任されているわけがなく、ガイアベアのラヒノスに資材を担がせた先遣隊が私たちの後に続いている。

 私たちは言わば、先遣隊の先遣隊で、一番の厄介者を真っ先に叩く担当をかねているのだ。


「こちらも鋼魔の攻撃を受けていて、近隣魔獣に荒らされてもいるだろうからすぐに完全整備とはいかないだろうけれど……と、すまない、グリフィーヌ」


「何をライブリンガーが謝ることがある。私がかつては鋼魔の一員だったのは事実だ。この辺りに攻める頃にはとっくに人間相手の勝負がつまらぬと知って拒んでいたがな」


 グリフィーヌは事実は変わらぬと、気にした風もない返事をしてくれた。が、私が無神経なことを言ってしまったのもまた事実。

 そこのところを重ねて謝罪すれば、彼女からは「律儀なことだ」と苦笑混じりに。

 しかし柔らかな声音であったので、外したわけでは無さそうだ。


「私としてはむしろ、大抵のところでどの程度の攻撃があったのか伝聞でしか語れないのが、今更に悔やまれる部分ではあるのだがな」


 だがそこから彼女は、提供できる情報の浅さを悔やみ自重し始めてしまう。


「いや、そこは逆に考えよう。人間軍の蹂躙に参加してしまって、名指しの恨みは買わずに済んでいると考えよう」


「そうよ。追放した古巣は敵とするにしても、それこそ今更に人間と協力するなど……なんてこじらせてたかもしれないし」


「ライブリンガーに嫌われるようなことが少なくて良かったってことだよね」


 フォローに入った私に、ホリィとビブリオがすかさず後押しを。

 これに私を掴んだグリフィーヌの手からフッと笑みの気配が伝わってくる。


「……そうだな。良し悪しは表裏一体というものだな……では頭の切り換えついでに突入と行こうか。この作戦を考えたヤツが拠点で留守役に居座っているのはどうにもだが」


「そこは仕方がないさ。私たち全員が城を開けてしまうわけにはいかないんだから」


 今回も我々の参謀である空の賢者セージオウルはキゴッソ城の守りに居残りだ。

 広く目配りが出来て、策を立てて罠を張り、指揮も取れる軍師役である彼には、守備隊と連携しての拠点防衛が適任だ。

 普段怠け者ぶった態度を取ってはいるが、自分のこなすべき所はしっかりとこなしてくれる頼もしい仲間なのだ。


「そこのところを分かっていてやっているところがあるから好かないッ!」


 しかしグリフィーヌは反感を噴き出すままに港へ加速。

 分かってくれてはいるのだろうが、馬が合わないのはどうしようもないか。

 特にグリフィーヌには、策士タイプの人物に対して苦々しい思いもあるのだからなおさらにだ。


 急降下にグンと近づいた港の景色には、たむろする魔獣たちの姿が。

 案の定と言うべきか、獣の蔓延る建物のほとんどは積み木細工のようになぎ倒されていて、廃墟にされてしまっている。


 その破れ屋根を吹き飛ばす勢いで、こちらに気づいた飛行魔獣たちが飛び立って。


「行くぞ、ライブリンガー! 空は私が!」


「ああ、陸は私たちに任せてくれッ!」


 迎撃に上がってくる翼持ちたちに対して、グリフィーヌは私を手放して加速。

 その速度と刃の鋭さでもって、敵の翼を容赦なく叩き切る。

 空へ上がった者。そのすべてを瞬く間に狩り尽くしてしまいそうな彼女という驚異に、魔獣たちも数を頼りに必死の抵抗に専念することに。

 その為に自由落下する私たちに構っている余裕はまるでない。


 グリフィーヌが引き付けてくれている間に、私は翼持ちの魔獣たちとすれ違いながらチェンジ。二人の友を車内から腕に抱え直し、二本の足で着地する。

 下半身で衝撃を受け止めた私へ、トカゲ巨人が武器を振りかぶり迫る。

 これに私はプラズマショット!

 この迎撃光弾はダイノマンの振りかぶる棍棒を直撃、粉砕。さらに本人の腕や鼻っ面、胸板に光を弾けさせる。


「天の精よ、光の刃を!」


 一方、地に足付いたビブリオとホリィは、この光を通じて天の精霊に呼びかけ、弾けた光の粒一つ一つを鋭く固めてダイノマンの鱗を切り裂く。


 バースストーンによる強化もあってか、魔獣の強壮なる巨体を切り裂いた光の粒たち。

 小さな手裏剣の群れとも見えるこれをビブリオたちは指揮者のように腕を振るって、苦悶に吠えるダイノマンから引き剥がす。


 そのまま手繰り寄せた二人は昼間の天ノ川を宙に描き出すと、さらに振り回して渦巻銀河銀河へと変え、最終的には爆散させる!


 放射状に弾けて拡散した無数の輝きは、半ば崩壊した周囲の建物を穿ち崩す。

 この取り壊しをかねてと言わんばかりの遠慮なしの破壊に、周囲から魔獣の痛みと怒りの声が重なり響く。


「援護ありがとうッ! しかしまた随分と派手にやったものだね」


「この町全体が魔獣の巣窟のようなものだもの!」


「元の持ち主さんたちに悪いとは思うけど、まず町を取り戻さないとだし!」


 確かにホリィとビブリオの言う通り、私たちが生きてこの港町を、土地を奪い返さなければ返すことも復興することもできない!


「ああ、思い出を抱えて逃げ延びた人々には申し訳ないがッ!!」


 遠慮も躊躇もしている場合ではないと振り切った私はロルフカリバーともう一つ、大金鎚をコール。掴み取ったそのハンマーヘッドを、崩落での混乱の最中にある一角へ投げ込む。

 この質量の衝突は、重々しい音と盛大な土煙を高々と上げ、廃墟を切り裂いていく。


 そして私たちは親指を立ててうなずき合うと、私はロルフカリバーを、ビブリオとホリィは呼びかける声と腕を振るい、またもう一度崩れた建物ごとに辺り一帯の魔獣たちを攻撃する。


「ウギャアアッ!? いきなり何てことしやがるッ!」


 そんな無差別範囲殲滅攻撃を何度か重ねていると、立ち込める土埃の向こうから悲鳴じみた声が。

 聞き覚えのあるこの声に私は二人と目配せ。同時に放った剣風と風の術で粉塵の幕を切り裂く。


 割れたところから散って埃が晴れると、太陽の光を跳ね返す緑色の装甲がある。

 折り畳んだ翼を体の両サイドに、長い首と尾でバランスを取って走るその姿は――。


「やはりいたなウィバーンッ!!」


「ゲェーッ!? ライブリンガーッ!?」


 鋼魔の参謀であり前線指揮も取るフルメタル飛竜のウィバーンであった。

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