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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第二章:集結・天
55/168

55:頼もしい天空の女騎士に歓迎を

 私でも見上げる程の大樹。

 それを軸としたキゴッソ王城。

 これを取り囲む家々や防壁を、私は大工道具を担いで修理して回っている。


「楽しそうだね、ライブリンガー」


「ああ、それはそうだよ。近頃はようやく修復再建も広がるようになってきたし」


 防衛用の武装が充実してきたこともあって、王城の拠点整備もスムーズになってきた。


 クレタオス率いる襲撃も、先のニセライブリンガー作戦阻止から大幅に頻度が落ちていることも大きい。


 直した端から壊されることなく、休憩前までに直したところから修理を再開させられる。

 戦いに追われることもなく、手間を台無しにされることもない。

 作業場へ向かう足取りも、作業する手も軽くなるというものだ。

 そうして拠点を整えることで人が集まり、集まった人手がまた拠点を整備する。

 箱とその中に収まる者たちが生む好循環というやつだ。


「で、ライブリンガーの工事と守備が、その流れを支えてるってワケか」


「私の働きもだけれど、もう一つ重要な働きをしてくれているのが……」


 うなずくビブリオから空へ視線を移せば、巨大な怪鳥らしい影が近づいてくるのが見える。

 だが私が身構えるまでもなく、接近する鳥の魔獣は、横合いからより鋭い勢いで突っ込んだ影に落とされる。


 鋭い影は墜落する怪鳥を空中でキャッチ。

 自分よりも大きなそれをぶら下げてこちらへ飛んでくる。


「わっほい! すっごいや!」


「やあグリフィーヌ。今回も大物だね」


「なんの。この程度軽いものさ。斬るまでもないつまらぬ相手よ」


 獲物を運んで飛んできたのは、元鋼魔空将・グリフィーヌだ。


 イルネスメタル追加による凶暴強大化。それから無事解き放ってから、改めて私たちに合流するように誘ったところ、彼女はこれを承諾。

 私たちと一緒にキゴッソ王城を拠点に過ごしているのだ。


「今日もありがとう! 今度のも丸々してて食べれるトコいっぱいありそう!」


「恩を着せるつもりでやっている事ではないさ。宿を借りている身の上で、何もせずにいるのは私が我慢ならんだけだ」


 ビブリオの感謝に、グリフィーヌは視線を逸らしながら獲物をドサリと落とす。

 すると肉付きのいい鳥から食肉を剥ぎ取ろうと、人々が集まり始める。


 彼女は私たちとともにキゴッソ城に居ついてから、こうやって度々に魔獣を狩って来ているのだ。

 それも今回のような襲撃を返り討ちにするばかりではなく、空からのパトロールついでに近隣を徘徊する大物魔獣を仕留めてくる事も。


 これが拠点の安全と食料確保という面で重きを占め、人々を養う大きな働きとなっているのである。


 最初は解体の人手を集めるにも私たち……というかホリィや、ビッグスにウェッジといったマッシュ代理の人たちが音頭を取らないとなかなか動いてもらえなかった。が、何度か繰り返した今となっては慣れたものだ。

 グリフィーヌに一礼して剥ぎに行く者もいる。

 鋼魔が何を企んでいるのだと、そんな風に警戒されていたのはなんだったのか。


「やれやれ。多少荷の重そうな相手を代わりに仕留めて食料に変えているだけだというのに。現金なことだな」


 口ではそう言いながらも、人々から礼を受けるグリフィーヌの目の瞬きは優しい。


「でも、悪い気はしないだろう?」


「鋼魔を追放されるまでは、仕事をして感謝されるなどついぞなかったからな。新鮮では、ある」


 そこまで素直に心情を吐露しておいて、ふとした気づきに慌てて顔を背ける。


「だが、まったく困ったものだよ。私がここに居るのはライブリンガーのすぐそばで再戦の機会を窺っているだけだというのに。いつまた敵になるか分からんような相手が飯を運んできただけでこんな……まったく困った奴らだよ!」


 今回に限らず、度々に彼女が口に出して主張している真の目的なのであるが……。


「ふむ。では待たせるのも忍びないし、一つやるかい? 場所は、一度更地にした方が良さそうなくらいに荒廃した砦跡で」


「……今は、まだその時ではない」


 実際のところはこれである。いや手合わせすることはあるにはあるのだが、試合レベルで満足してくれる。

 変われば変わってくれるものだ。

 うん。好ましい変化だ。


「うぅむ。あざとい……ッ!」


「ホッホウ。あざといなぁ」


「んなッ!? ホリィにセージオウルッ!? あざといだなどと、私のどこがだッ!?」


 そこへ飛んできたセージオウルとその上のホリィの一言に、グリフィーヌはついばみに行かんばかりの勢いで食ってかかる。


「いやだって、言うことは言うけど、ねえ」


「ただの照れ隠しっぽい感じだもんね」


「っぽいではなく、実際ただの照れ隠しだろうホッホウ。隠しきれていないどころか丸出し同然であるがな」


 ビブリオまで加わっての容赦ない物言いに、グリフィーヌは「ぐぬぬ」とうなだれてしまう。


「ま、まあまあ。ストレートな言葉にするのが気恥ずかしいというのはままある話じゃないか」


「……気持ちは嬉しいが、あまりフォローになっていないぞライブリンガー」


 なんと、まさかそんなことが!?

 ショックで仲間たちを見るが、皆の目は例外なく「しょうがないなぁ」って感じになっている。

 なんと言うことだ……ッ!!


「打撃を受けている勇者殿はともかくとして、予想外に加わってくれた味方が、予想外に頼もしく、また信頼できそうというのは喜ばしいことだな。ホッホウ」


 ともかくとされてしまった。が、セージオウルやビブリオたち以外の人々にもグリフィーヌが受け入れてもらえそうなこの状況は手放しに歓迎するものだ。


「ああ。ガードドラゴに、残るキゴッソの土地。取り戻さなくてはならないものが未だ山積みで、グリフィーヌが魔獣狩りをやってくれてるのは心強い」


「魔獣狩りだけと言わず、許しがあれば鋼魔軍の撃退にも出るぞ。あちらの味方を、特にウィバーンの味方をしていると思われるのは気に入らんからな」


「わっほい!? そりゃボクらはありがたいけどホントにいいの?」


「ああ構わんさ。追放されて人間軍の拠点に流れ着いた身だ。義理立てすべきはお前たちであり、ライブリンガーに、だろう? それに、ウィバーンのヤツは一回ぶちのめしてやらないと私の気がすまないからね」


 グリフィーヌが復讐心に目をギラギラとさせるが、仕方ないことだろう。

 ソリが合わない上司と言うだけならともかく、あることないこと吹聴して名誉を傷つけ追放へと追いやり、挙げ句に体を奪い取って手駒にしようとまでしたのだ。


「ホッホウ。標的を見つけるなり「会いたかったぞ首よこせ」などと言って突っ込んでいかないよう、しっかり見ててやってくれよ、ライブリンガー」


「それはもちろん。任せてくれ」


 セージオウルに念押しされるまでもなく、彼女のことは私がしっかりと見ているつもりだ。

 行動によって信用を得てきているとは言っても、元鋼魔という出自が警戒心を煽るのは仕方がない。

 私の偽物作戦なんてものを展開していたウィバーンが、その辺りをついてかき回してこないとも限らないのだ。


「……ところで、セージオウル。お前の口ぶりだと、まるで拾ってきた獣の面倒を丸投げしているようだが?」


 ジロリとしたメカ猛禽の目に、まるっこいメカ猛禽はくるうりと首を回して視線をそらす。


「いやいやまさかまさかホッホウ。私とそちらで空戦対応組ではあるが、そのくくりでの先任である私よりは、信頼して敬意も持ってるスカウト主のライブリンガーの方がよいだろうと思ってな。決して面倒くさいと思ったわけではないぞ?」


 最後に添えた本音で台無しである。


「……そうだな。向こうでのいけすかない上役に近いもののある賢者殿よりかは、ライブリンガーからの方が素直に忠告も聞けそうだからな」


「ホッホウ!? そいつはちょいと聞き捨てならんぞ、ホッホウッ!?」


 嫌な相手と結びつけたグリフィーヌの軽い返しに、セージオウルは翼を持ち上げ断固たる抗議のポーズ。


 これにビブリオは腹を抱えて笑いだし、ホリィもこらえきれずに笑い出す。

 この笑い声を受けてセージオウルとグリフィーヌは軽く小突き合いに軽口合戦を始める。


 このやり取りに、私はこの先どう転がっていくにせよ、きっと悪いことにはならないだろう。そんなことを確信するのであった。

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