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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第二章:集結・天
53/168

53:求めていた決着が……

「ハハッ! 来た来た来たぁあッ!!」


 空に開いたゲートに、グリフィーヌは拳を握ってその目を激しく明滅させる。


 彼女の期待を受けて地に降りたのは、巨大なロードローラーとタンクローリー。

 踏み潰す敵もいないのでワープ同然に着地した二機は、間髪入れずに車輪を回転。私の周囲を互い違いに囲む形で走り始める。


「ああ早く、早く、早く!」


 ワクワクソワソワと完成を待ってくれる相手を前に、二機の轍が光の柱を形成。

 それに引き上げられるようにマキシローラーは上空への道を舗装しつつ駆け上がる。

 その一方でマキシローリーはタンク部分を脚部に、車両部位を腰部へと変形。

 そして私を収めるために開きつつある口をこちらへ突進してくる。

 これに私はスラスターを全開にハイジャンプ。跳躍した私の真下でマキシローリーの変形したマックス下半身が立ち上がる。


 ローラーの上半身、私、ローリーの下半身。光の柱の中で縦一文字になったところで私はカーモードに変形して垂直落下。腰部に開いた受け皿へ突っ込む。

 そして立て続けに落ちてきていた上半身が、車な私の後ろ半分を覆う形でドッキング!

 繋がったこの巨大なボディに私の意識が広がり、全力全開の巨大戦闘形態が完成する。


「ライズアップ! ライブリンガー……マックスッ!!」


 地を踏みしめて拳を打ち鳴らし、名乗りを上げる私に、グリフィーヌは上空ではしゃぐあまりに手を叩く。


「来たぞ、来たな、ライブリンガーマックス!? この時を待っていたのだ、邪魔が入らぬように整った場で、貴公と対峙するこの瞬間をぉおおッ!!」


 昂るままに叫び終わるが早いか、彼女はグリフォンモードへ変形して急降下。

 彼女お得意の高機動変形での一撃離脱技だ。


「速いッ!?」


 だが私のマックスボディは稲妻の刃に焼き切られていた。

 見知ったタイミングに合わせ剣を出したのにすり抜けて、だ。


「見くびってくれるなよライブリンガー!? 何の工夫もなしに、同じ技を使うわけがないだろう!?」


 急ぎ追いかけ振り向いた私だが、その時にはまたすれ違い様に切られていた。


 同じ技を用いるからには改善してから。なるほど道理だ。

 しかし自慢の技に慢心せず、さらなる研きをかけてくるとは、まったく向上心に溢れた戦士だ。アッパレだと戦慄をもって称える他無い。


 ならばと研き高めた速度に合わせて剣を振るえば逆に緩めて、では守りの嵐を帯びた腕と刃で身を守れば、空からの飛ぶ斬擊でもって崩しに来る。


 マックス形態はその巨体に見合った耐久力も備えているとは言え、彼女の剣の鋭さは大地を切り裂いても不思議はない。

 耐久力に勝るとは言え、頼りきりにできるものではない。


「頑張れ! 頑張ってライブリンガーッ!」


 完全に翻弄されてしまっている私を見かねて、ビブリオたちが諦めるなと声を張り上げてくれる。


 グリフィーヌの起こす風をどうにか地面にしがみついてやり過ごしているような状態で、自分達のことこそ心配するべきだろうに。

 にもかかわらず、危険を冒して私と共にあろうとしてくれる。

 この友情に、なんとしても応えねば!


 この一心で、私はタイミングを見計らって守りの嵐を展開。

 しかしグリフィーヌはお見通しだとばかりに急上昇して広がる気流を置き去りに空へ。


「何度やろうと、その手は食わんぞ!?」


 ああ、それでいい。

 ちょうどたった今、空中方向へ間合いを開けて欲しかったんだ。

 狙い通りに空へ逃げてくれた彼女めがけて、私はバスタースラッシュを。


 破壊竜巻を帯びた斬擊は、彼女の飛ばした電光飛剣を一方的に散らして伸びる。

 だがそれだけで叩き落とせるほど甘い相手であるはずもなく、グリフィーヌは翼を振り回して私の剣をかわす。

 だがこれだけで終わりだなどと、そう安心させるつもりはない!


「立て続けの!?」


 避けたその先を目掛けてもう一撃。

 これも焦らせはしたものの、グリフィーヌは空中ステップに回避。しかし私はまたもその先を狙ってバスタースラッシュを飛ばす。


「でたらめに、数を撃ったところで、そうそうに……当たるものでは、無いぞ!」


 避けられる度にバスタースラッシュを重ね連ねていく私だが、その尽くをグリフィーヌは翼とスラスターを巧みに操ってかわし続けていく。

 軽快に天を舞う彼女に、弄ばれるままに空を切り裂くばかりにだ。


 だが、それでいい。


「う、ぬッ!? 気流が、渦を巻いて!?」


 またも回避した瞬間に、戸惑いの声とともにバランスを崩すグリフィーヌ。

 待ち構えていたこの瞬間の到来に、私は逃さずひと際力を込めたバスタースラッシュを放つ!


「仕組んだなライブリンガーッ!?」


 サンダーブレードの二本重ねで私の剣を受け流したグリフィーヌが叫んだ通り、彼女をからめとった旋風は私流のトラップ技。名付けてサイクロンウェブだ。


 更なる鋭さと緩急を備えて得意技に磨きをかけてきたグリフィーヌ。

 であるが、それだけに繊細な力加減が要求されるのは至極当然。

 そこでバスタースラッシュで気流を激しく乱しつつ、同時にその中心に追い込めば彼女自慢の翼でも利かなくなる!


 いまだ絡めとられている今のうちに、私はだめ押しのもう一発を振り上げる。


「見事! だが、翼を捕られた程度でなぁあッ!?」


 しかしグリフィーヌは称賛の一言と合わせスラスターを全開に急降下。

 放った刃も旋風の網もすり抜けて私の懐へ一直線に迫る。

 これに私は振り上げた勢いのままロルフカリバーを手放し、左回転のエネルギーを帯びた拳を突き出す!


「おおおッ!!」


 一打必倒。

 互いにその一念をたぎらせた雄叫びが重なり、ぶつかる。


 一瞬の交差を経てすれ違った私たちは、共に残心に振り向くこともなく背を向けたまま。

 そして肩から弾けたスパークに私は膝をついてしまう。

 同時に、グリフィーヌもまた苦痛の呻き声をあげてしゃがみこむ。


「……相打ち……と言いたいが、私の敗けだな」


 共に膝をついたにも関わらず、彼女は私を勝者だと言う。

 振り返れば彼女の片翼は根本から折れて、辛うじて繋がっているという状態になっていた。

 私の放った拳は狙い違わずに、グリフィーヌ最大の武器である機動力だけを奪うことに成功していたのだ。


「フフ……これが技を、力を尽くしての敗北か……初めてのことだが、悪くない……悪くないな」


 満足げに笑いながら、グリフィーヌははうようにして私に向き直る。


「もう思い残すことはない。満足だ。さあ、ひとおもいにトドメを刺してくれ」


 そして満ち足りた輝きを湛えた目でトドメを、取り返しのつかない決着を私に求めてくる。


 そんなグリフィーヌの前に、私との間に割り込むようにしてビブリオとホリィが飛び込む。


「そんな! 満足だなんて……たった一回、それもライブリンガーたった一人じゃないかッ!? それでおしまいで良いわけなんかないよッ!?」


「そうです! 勝負はついても、まだお互い生きてるのに! それにアナタが知らないだけで、思いがけない強敵だってまだいるかも知れないのに、それなのに捌かれるのを待つトリみたいにするのはおかしいですよッ!?」


「誰がシメられつつある家禽か……」


 まな板の鯉……のような慣用句なのだろうが、ちょっとどうかとは私も思った。

 しかしそう言いながらも、説得を試みる二人に向いたグリフィーヌの目の光は柔らかだ。


「それはともかくとして、お前たちもまた甘いものだな……ライブリンガーと共にあるだけのことはある。追放されたとは言え、私は鋼魔なんだぞ?」


「鋼魔の誰にでもこんなこと言わないよ!」


「アナタだから、ライブリンガーが信じているアナタだからここで終わりにすることはないと言っているんです!」


「それはまた、嬉しいことを言ってくれるものだ」


 グリフィーヌが穏やかな声音で応じるのに、ビブリオたちは説得の手応えを感じてか前のめりに。


「同胞にさえ煙たがられた私を、お前たちもまた認めてくれた。戦いに満ち足りたのにさらに重ねてもらえるとはな……冥土の土産にはもらいすぎだな」


 しかしその出鼻をグリフィーヌは頭を振って挫く。


「決心は固いようだね」


「ああ。満たされた今のうちに、さあひとおもいにやってくれ」


 決意の固い彼女を前に、私は放り投げていたロルフカリバーを手の中に呼び寄せる。

 剣を手に取る私の姿に、グリフィーヌはうなずきトドメを刺すようにと促してくる。


 しかし私は、掴んだ剣を地面に突き立てる。


「なん……だと……!?」


 この動きが予想外であったのか、グリフィーヌはがく然と目を点滅させる。

 決意に応えるのを期待していた彼女からすれば、ある意味では裏切りだろうから、この反応も分からないでもない。


 だが、ビブリオとホリィも本気でホッとしている風なのはどういうことだろうか?

 まさか私がグリフィーヌを手にかけると心配していたとでも言うのか。

 解せぬ。


 いやしかし振り返るに、私の言動がグリフィーヌを期待させ、友人たちにまさかと思わせてしまうような紛らわしいものには間違いなかったか。


「どういうつもりだライブリンガー!? 情けをかけているつもりだというのならば的外れだぞッ!? 私は貴公に、戦いの果てへと送って欲しいのだ!」


「たとえ願われても、私は君を討つつもりはない」


 戦いの果ての華々しい終わり。

 それを欲する彼女に私は首を横に振る。

 きっぱりと断る私に、グリフィーヌは激情にその目をヂカヂカと発光させてくる。


「甘いぞッ! たとえ鋼魔に属していなくとも、私が標的と定めた強者は貴公だけだ! 時を置いてこの翼が直れば、再び貴公との勝負を求めて付け狙うだけだぞッ!?」


「ああ。それでいい」


「なに……?」


 食ってかかる勢いの彼女だったが、受け止めてみれば途端にその勢いを失い止まる。


「翼を直してまた私に挑む。いいじゃないか。それがグリフィーヌの生きる理由になるのなら、私は受け止めるよ。何度でもね」


 そんな彼女に対して、私はさらに両腕を広げて受け入れの姿勢を見せる。


 これにグリフィーヌはかすかなうめき声をこぼすと、私の手を取るでなくその場に手を着いてしまう。


「フ、フフフ……何度でも受け止めると、受け止めてくれると言うのか……」


「もちろんだ。だから一回勝負で終わりとしないで、続けるチャンスが有る限りは挑み続けてきて欲しい。なんなら、再挑戦しやすいように私の近くにいるのもいいと思う。色々言われてしまうとは思うが……」


 追放された彼女の拠り所としてあり続けられるならそれでいい。

 そんなつもりでの申し出であるが、友人たちには面倒をかけることになるだろう。と言うことで、ビブリオとホリィに目を向ければ、二人とも任せてくれと首を縦に振って、私を後押ししてくれる。


 この頼もしい友人たちに感謝しつつ、改めてグリフィーヌへ手を差しのべる。するとグリフィーヌは張りつめていた肩を柔らかく下ろして、私の手を取ろうとする。


「やはり甘いことだな……だが、貴公のその甘さに、頼らせてもらうことに……」


「いやー見てしまったなぁ、知ってしまったなぁ。鋼魔空将の裏切りの証拠を!」


 グリフィーヌの言葉を遮った嫌らしい声音。これに私は反射的に額からプラズマショット。

 これに弾けて散ったのは野ざらしになったニセライブリンガーの石首だった。


「ウィバーン、覗き見をしているのかッ!? 姿を現せ!?」


 それを認めるや私は、友とグリフィーヌをかばう形で身構え、企みを含んで潜んでいるだろう鋼魔参謀の姿を求め、探す。


「グリフィーヌの裏切りだと貴様は言うが、先に裏切り、追放をさせたのはそちら側からだろうに!? その口でよくもグリフィーヌばかりを責める!!」


 私がウィバーンのやり口への憤りを素直に乗せて叫ぶのに、これを嘲笑うような含み笑いが辺りの繁みから。

 聞こえた端からプラズマショットを撃ち込むも、飛び出すのはイルネスメタルと石像の破片ばかり。まぐれ当たりはない。


「フン! グリフィーヌをどうこうと言うのなら、たぶらかしたお前も相当じゃあないか?」


「それを言いながら、副官をかばうどころか貶めておいてッ!?」


 しかし今回のプラズマショットも、吹き飛ばしたのはニセモノの残骸だけ。

 これはやはり、声のしたところにこそいないと見るべきか。

 いや、むしろこの場に来ているかどうかも怪しいな。


 ここはいっそのこと、ウィバーンに言いたい放題をさせているニセモノの残骸を一気に片付けてしまうか。

 そんな誘惑に私は拳を腰だめに。

 するとそうはさせじと、周囲から一斉に緑の光が飛び出す!


 四方八方から迫る毒の塊のような光の矢じり。これを私は構えていた拳を突き出し迎え撃つ。

 そんな私はもちろん、ビブリオたちもまたバースストーンで強化した守りの魔法で危なげなく弾いている。

 そしてグリフィーヌもまた、自身のコアと同じそれらを容赦なく切り払う。


 私たちに散らされ、緑の霧となる金属片たち。だがそれらはそのまま散り消えるのではなく、まるで一粒一粒がひとつの意志を持って動いているかのように動いていく。まるで分散した魚群がひとまとまりに戻るように、ただ一点を目指して。

 その一点とは――。


「ひッ!?」


「う、あッ!?」


 ビブリオたちのすぐそばだ!


 捩じり縒り束ねて鋭い杭を為すイルネスメタル。その鋭さは私の装甲にすら穴をあけかねない!?


 友たちの運命に、私は思わず割り込みに。

だが間合いが悪すぎる。

 完全に懐に潜ったイルネスメタルは、私の必死さをあざ笑うかのように、私の友たちへ迫る!


「ぐぅぁあああああああッ!?」


「グリフィーヌッ!?」


 だがその鋭いイルネスメタルの槍を受けたのはグリフィーヌだ。

 その素早さで私に代わってビブリオたちををかばってくれたのだ!


「ハハハ! ここまで狙い通りにいくとはなぁ!?」


 そして苦悶の声を上げるグリフィーヌへ入り込むイルネスメタルたちからは、ウィバーンの会心の笑いが上がるのであった。

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