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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第二章:集結・天
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52:稲妻迸る剣の舞

「なんと……」


 駆けつけたその場で出迎えてくれたモノに私も、私の中に座るビブリオとホリィも絶句する。

 草地に転がる、私を模したのだろう石像の首。

 物言わずにこちらを見るそれが、まず私たちの前に飛んできたのであった。


「なんか……ヤダな、これ」


「うん。不吉だわ」


 討ち取られた私。そんな図を連想させる石首に、ビブリオたちが顔をしかめる。

 二人が気分を悪くするのも仕方がない。確かに石首の見せつけ単独では、私たちへの嫌がらせ以外の何物でもないだろうから。


「だが、恐らくはこれが、私の偽物の正体なのだろうね」


 しかし今回の場合は、ニセライブリンガーが先の動かされた聖獣像と同じ方法で作られた、鋼魔の尖兵であることを知らせてくれるものでもある。

 それにしても、さんざん煮え湯を飲ませてきただろう私を模した像など、よく作ろうと思ったものだ。

 実は憂さ晴らし用の的として作っていたとか……それこそまさかか。


「確かに偽者の正体は分かったわけだけれど、それがなんで壊されて転がっているのかとなると……」


「……誰の仕業かは、おおよそ見当はついているけれどね」


 ホリィに応える私の言葉を激しい雷鳴が遮る。

 それは私の正面方向。小高い丘の向こうから、程近い距離で何度も何度も閃き轟いているものだ。


「……その程度でなぁーッ!? よくもあの男を、かたれたものだなぁああッ!!」


 そんな稲妻に混じってなおはっきりと聞き取れる覚えのある怒声である。

 もうくっきりはっきりと、私たちよりも早くニセライブリンガーにぶつかっている者の顔が私たちの頭の中には浮かんでいる。


 すでに戦いが始まっていることもあり、私はビブリオたちを降ろして人型にチェンジ。

 ロルフカリバーも構えて、壁をやっていた丘を越える。


「散れッ! 忌々しい贋作どもめッ!」


 吐き捨てるようにニセライブリンガーの黒いボディを唐竹割りに両断していたのは案の定、翼ある鋼の女騎士だ。


 私の気配に気付いてか、彼女はその場で反転。

 合わせて翻る稲妻の剣と旋風とで、偽者たちの首が飛ぶ。


「はは! ライブリンガー、本物のじゃないかッ!?」


 偽者の一体と見なされて斬りかかられるかも、と構えていた私だが、予想に反してグリフィーヌの鉄仮面に瞬いたのは喜びのリズムだ。

 剣を散らしかねないその喜色を好機と見てか、動きを止めた背中にニセライブリンガーが殴りかかって――。


「会えて嬉しいぞ! だがこの贋作どものせいで、しばらく不快な思いをさせられたことだろう?」


 だがグリフィーヌは私への労りの言葉の片手間に、迫る腕を切り飛ばして金属から石へ。

 立て続けに振り返りもせずに突き出した稲妻の刃で胸を刺し仕留める。


 ううん。この鮮やかな技の冴えよ。

 と、感心している間に、私と後ろに控えたビブリオたちもニセモノたちは標的にし始めたので、これをロルフカリバーで叩き割る。


「そちらも……大丈夫だったのか? ほとんど城を明け渡して引き上げていったようなものだったろう?」


 実際には糾弾され、厳しい沙汰が下されつつあったのをネガティオンの目を通して知っている。が、詳細を分かっている風なのは不自然だろう。

 そう思って言葉を選んだ問いかけに、グリフィーヌは弱々しくバイザー型の目を瞬かせる。


「どう言うべきかな……ウィバーンにはあることないこと吹聴されたが、ネガティオン様はのたれ死ねばよい……と追放処分を下されたよ」


「そんなッ!? グリフィーヌはただ……」


「よいのだ。私の思うままにすれば良い。そういう、ネガティオン様なりの温情なのだ」


 私の非難の声を半ばに遮って、グリフィーヌは私とビブリオたちを挟んだ背中合わせになる。


「たいして興味もない人間相手の戦を強要されるでもない、気の合わない上役に苛立つこともない。そんなしがらみが取り払われて、かえってスッキリしたというものさ。ハハハ!」


 自由になってスカッとした。そう軽快に笑い、ニセライブリンガーを切り裂くグリフィーヌ。

 だがその背中はどこか寂しげだ。


 それはそうだろう。

 いくら彼女自身が言うように、肌の合わない仲間たちだったとは言え、同胞たちであり、それまでの居場所であったことには違いない。

 しがらみが無くなった喜びも本心に違いないとしても、居場所を無くした喪失感を完全に消し去るモノではないはずだ。


「それでニセライブリンガーを倒してくれてるって事は、ボクたちの、ライブリンガーの味方になってくれるつもりなの?」


「ふむ。なるほどそう見えるか。確かに、ライブリンガーのような強者と肩を並べるのは好ましい。飛竜の参謀に使われるよりはよっぽど有意義で、やりがいもありそうだ」


 ビブリオの問いかけに、グリフィーヌの返事は満更でもない風である。

 だったら。と、これに歓迎の言葉を続けようとしたビブリオを、しかしグリフィーヌは「だが」と遮る。


「勘違いするなよ少年。私がこの忌々しい贋物どもの首を刈っているのは、何も人間の軍門に下る手土産にするためではない。私が敬意を払う強者を真似たコイツらが、目障り極まっただけだ」


 強くも激しくも無い。が、期待と共に差しのべた手をつれなく払いのけるこの言葉に、ビブリオは着地点を見失ったように目を泳がせる。


「ではやはり、ライブリンガーと戦うためだけに?」


 そこでビブリオからバトンを受け取る形でホリィが問いかけを。

 これにグリフィーヌはジロリと神官娘を一瞥、稲妻の剣を一閃する。

 が、それはニセモノのスパイクシューターを切り払うためのもの。

 同時に、ホリィを撃ち抜こうとしたニセモノは私のロルフカリバーがカチ割っている。


「手を煩わせてしまったね、グリフィーヌ」


「構わん。しかしさすがはライブリンガー。私の動きを読んだうえで合わせてくれるとは」


「私を怒らせて戦うためであったとしても、私の仲間を傷つけるのはらしくない行動だろう? ここで私を挑発する意味もないからね」


「甘いことだ。が、貴公がそうまで買ってくれていることに応えたくもなる。やはりさすがだよライブリンガー」


 そう言うグリフィーヌの目は柔らかく瞬いていて、私に対する彼女らしい真っ直ぐな気持ちが感じられた。

 少々面映ゆいものはあるが。

 しかしそれ以上に、同時にニセライブリンガーを切り裂いている稲妻の刃が全く勢いを緩めていないのは、私からもさすがだとしか言いようがないのであるが。

 そうしてニセモノたちを切り伏せながら、グリフィーヌは改めてホリィを見やる。


「……さて人の娘よ、先の問いだがその通りだ。いまの私には満足のいく闘争を、ライブリンガーとの決着しか残されていないからな」


「それで、決着をつけた後はどうするつもりなのです?」


 稲妻の刃を携えた巨大な女戦士。それを前にしてもホリィが怯えを見せずに見返すのに、グリフィーヌの目に私に向けた時と似たようなリズムが刻まれる。


「勝ったところで、それを手土産にいまさら古巣に帰参するのもないからな。負けた場合は言わずもがな。その先のことを考える意味がない」


「鋼魔に戻る気がないと言ったからには本心なのでしょうけれど……それでどうするつもりなのです? 無為な時間を過ごすつもりなのですか? それに負けた後は考えなくていいなんて言ってますけれど、あなたにライブリンガーがトドメを刺すだなんてホントに思ってるんですか?」


「生きている限りは決着ではないさ。少なくとも私側がな。それに、いくら言われようが強者との決着を求める意思は揺るがんぞ?」


 通したい意地。その一点についてはどんな説得にも耳を貸す気はない。

 この宣言と共に放った電光の刃がニセライブリンガーの首を落とす。

 それが石となって草地に落ちた音を最後に辺りは静かになる。

 私たちが話している内に、偽物で作られた部隊は完全壊滅。私たちに襲いかかるものはもういなくなっていた。


「これで目障りな贋物どもは……邪魔になるものはこの場にいなくなった、な!」


 グリフィーヌが身を翻しての横一閃。

 これに私はロルフカリバーを叩きつけてつばぜり合いに。


「さあ……今こそ約束を、決闘の約束を果たしてくれ」


 フルメタルボディだと言うのに酔ったような口調で求めてくるグリフィーヌの目を受け止めて、私は足元のビブリオたちに離れているようにと目配せを。


 私がどうするつもりなのか。彼女にどう応えるつもりなのか。

 それだけで察した二人は刃を合わせた私たちの足元から離れていってくれる。


「嬉しいぞ! 誠実に私の願いを叶えてくれるつもりなのだな!?」


「ああ任せてくれ。キミの願いは受け止めきって見せる!」


 私はボディとカリバー。バースストーンたちの共振エネルギーを爆発。

 刃ごしにのし掛かるグリフィーヌを空へ押し返して、ロルフカリバーで天を突く。


「マキシビークルズッ!!」


 グリフィーヌが望む、私の最大戦闘形態となるために。

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