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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第二章:集結・天
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51:悩ましきはニセモノ騒動

 我々の拠点であるキゴッソ王都。

 その中心である王城壁内側の倉庫。

 ここが現在の私の車庫、私室という扱いになっている。


「おいおい、どうしたよライブリンガーさっきから唸りっぱなしでよ」


「ああ、すまないマッシュ。どうも、ここに居ていいものかと落ち着かなくてね」


 車体の唸りを収めて居住まいを正す私に、マッシュは私のボンネットに手を弾ませて笑い飛ばす。


「ああ、ニセモノ騒動な。気にすんなよって。言いたい奴には言わせときゃいいさ」


「そうだよ、ライブリンガーが気にすることは何にもないんだから!」


「マッシュもビブリオも……ありがとう」


 先日はどうにか収まった駆けつけた先での私の偽物騒動。

 しかしそれは始まりに過ぎなかった。

 あの一件から今日まで、キゴッソの各地で私に襲われたという報告が後を絶たずに王城へ寄せられ続けているのだ。


 フェザベラ王女とその補佐であるマッシュ、ホリィとビブリオを始めとした仲間たちのアリバイ証言と尽力によって、今のところは私の無実と鋼魔に作られた偽物が存在することは認められている。


 しかし、それは辛うじてでしかない。

 私への疑いを含んだ目は、完全に消え去ったわけではないのだから。


 そうした目が仲間たちにまで向けられてしまうのは避けたくて、私は自重して居を都の外に移して距離を取るべきかとも考えたのだが――


「ホッホウ。そういうものは不仲説を流布して不埒物を釣り上げる時の行動だな。もしやるなら合図はこちらで出すから、その時までは軽率にやってくれるなよ勇者殿?」


「分かっているよ。また弱気からのバグが出てしまったようだ」


 倉庫を覗いてきた眼光は私の答えに満足したのか、その鋭いものを引っ込めてくれる。

 この釘刺しも初めてではないし、分かってはいる。いるのだが、私を庇うことでの仲間の負担を考えてしまうとどうも、ね。


「ていうか、ライブリンガーがそんなことするならボクもそこで寝泊まりするようにするからね?」


「その時はビブリオだけでは危ないので私も」


「俺もと言いたいが姫さんの傍を離れるわけにもいかんしな。したら付き合いの長い隊のメンバーをよこすしかないか」


「いや、いやいや……それでは本末転倒もいいところじゃないか」


「だったら、ボクらへの負担とか迷惑とか考えないで、ちゃんと頼るとこは頼ってよ」


「……分かった。ありがとう」


 あっさりとやり込められてしまった。

 情けない姿をさらしているとは思うが、助けてくれる、助けようとしてくれる仲間がいるというのは嬉しいものだ。


「しかしまあニセライブリンガー騒動にも、それに便乗しようって連中にも腹は立つからな。なんとか素早く始末をつけてやりたいものだが……」


「ああ、被害もバカにならないからね」


 私の偽物による襲撃報告は、連続してかつ同時多発的に各所で起こっている。

 偽物による離間作戦だとすれば少々お粗末なものであるが、最低限バンガード魔獣並みの戦力が同時多発的に暴れるのである。

 素早く撤収する強襲スタイルであるとはいえ、被害という面では忌々しいほどに大きくなる。

 一刻も早く事態を終息させなくてはならない……のであるが。


「せめて親方さんの持ってきた大砲の数が揃っていてくれれば、鋼魔側に乗り込みに行く選択肢もあるのだが……」


 鳴り物入りで迎撃に使われた大砲は、魔獣相手になら十分に通じた。

 残念ながら、クレタオスは命中してもビクともしていなかったが。

 しかし大砲と魔法による遠距離攻撃を主体に、罠を駆使して戦えば、鋼魔側の魔獣部隊を相手に防衛戦を展開することはできるだろう。


「ホッホウ。逸るのは仕方がないが焦ってくれるなよライブリンガー。勇者殿が遠征に出られたら私が鋼魔に当たらなければならないではないか」


 ううむ、この役目を避けようとして隠しもしない物言い。

 これにビブリオをはじめとした面々は眉根を寄せて倉庫の外を見る。


 怠け根性と辛辣な言葉を向けられているが、見ようによっては悪いところばかりでもない性根である。

 ただ目の前の問題から目を背けて流されるままにあるようではいけないが、セージオウルの場合は動くのならばできるだけ楽に、つまりは効率良く動くべき、というのをモットーにしているのだ。

 誤解をまるきり恐れない、セージオウルの言動に問題はないとは言わないが。


 そこのところをフォローすれば、倉庫内の仲間たちも苦言を止める。


「ホッホウ。誤解を恐れないなどととんでもない。私は心底から安全な後方で意見だけ出して悠々と過ごしていたいだけだぞ。ホッホウ」


 そこでこの一言である。

 これもセージオウル流の照れ隠しでおふざけだから。

 だからそんな「あんなこと言ってるぞ」とか言いたげな目で外を指さされても、困るな。

 うん。正直私も、おふざけだろうと信じるしかないのだけれども。


「しかしまあセージオウルの言いたいことは分かったよ。留守にするなら鋼魔占領地方面何てざっくりしたのじゃなくて、目星くらいはつけていけと、こう言いたい訳だろう?」


 遠出して、闇雲に探し回って、無駄に防衛力の落ちた時間を長引かす。

 そんな愚を犯すくらいなら前準備をしっかりしておけと言うわけだ。


「そこまで分かってくれたのならいい。手がかりくらいは各地に送った斥候と哨戒役の部隊から上がってくるかもしれんしな」


 ずいぶんと悠長に構えた話であることだ。

 しかし探索にも手がかりが少なく、防衛と建築にと私が担っている仕事は多いのも確か。

 ここでさらにやることを多くするとなると、二日か、せめて三日に一回、日帰りで私もパトロールと調査に出る、とするくらいだろうか。


「反対はしないが、完全に一定間隔に日を開けるのはやめた方がいいかもな。行動がパターンになってると見切られやすいだろ」


「あと行くならボクかホリィ姉ちゃんのどっちがが一緒でね。その場で助けになれることあるだろうし、どっちかが留守番でいればライブリンガーと話はできるし」


 遠征するならばと私の出した案に、マッシュとビブリオを始めとして補足改善のためのアイデアが続々と出てくる。

 私を案じて、私がやろうと思うこと実現のために知恵を絞ってくれる仲間がいる。ありがたいことだ。


 そうしてああでもないこうでもないと意見が飛び交う中、戸を破るように駆け込んでくるものがある。

 息を切らせてきたその彼は、マッシュ隊のウェッジだ。


「どうした何があった?」


 血相変えて飛び込んで来た腹心の姿に、マッシュの顔つきはすでに戦闘モードだ。


「鋼魔占領域に出てた哨戒の連中からの狼煙です。敵軍が迫ってきてるって……それも鋼魔ばっかの」


「んなバカな!?」


 出された水を飲み、急ぎ息を整えたウェッジからの報告に、この場にいた全員がどよめく。

 鋼魔はネガティオンを頂点に、将やその補佐の肩書を与えられているが、実態としてその下についている鋼魔族は確認されていないのだ。

 鋼魔だけの軍勢が成立するとは思えない。


「なんかの間違いじゃないのか?」


「いや、最大の危険を示す色で、煙の切れ方が鋼魔、鋼魔、鋼魔って……」


「マジに鋼魔だらけで軍勢組んできたってのか……」


 煙信号の読み取りミスでは無いとなると、考えられるのは恐らくニセライブリンガー。量産されているらしいアレを主力にか、かさ増しに使っているのだろう。

 だとしてもニセライブリンガーは恐らくバンガード魔獣級の戦力だ。

 その群れをこの城で受け止めるのは、現実的な話ではないな。


「ただ城で到着を待つのでなく、私が討って出て削って来ようと思うが、どうか?」


「一人だけで出るつもりなの!?」


「目立つ行軍で迫ってきているのがもしも囮だったとしたら? 城を守る戦力は少しでも多く残すべきだ」


 仮にセージオウルと共に迎撃に出てしまえば、城の防衛力は大幅に落ちる。

 荒らされ放題を避けるためには、私が単独で出撃した方がいい。


「……ホッホウ、確かに現実解であるな」


「セージオウルッ!?」


 賛成するセージオウルにビブリオとホリィが非難するように名を呼ぶ。

 けれどマッシュも口には出さないが、その目は他に選べる手段は城を捨てての撤退しかないと悟っているようだ。


「……スマン、頼めるか?」


「ああ。任せてくれ。偽者どもの群れにせよなんにせよ、完膚無きまでに叩きのめして凱旋してくるさ!」


「なら、俺たちが城を守りきらなきゃ凱旋どころじゃねえな。そっちは任せてくれ」


 私とマッシュはそれぞれのやるべき事を言葉にして目配せ。


「ホッホウ、しかしライブリンガー。ビブリオとホリィ嬢は連れていく方がいいだろう」


 そしていざ出撃とタイヤを転がし始めた私に、セージオウルが待ったをかけてくる。

 何を言うのかと思ったが、ガレージの出口を塞ぐその目は真剣そのもの。

 声を介さずに飛ばしてきた考えによれば、それは万が一の城側の陥落に備えての事であると。

 私についていた方が二人が生き延びる可能性が高いと見たのだと。


「ああ。二人の援護があれば心強いからな。そうさせてもらおう」


「へへ! セージオウルも分かってるじゃないか!」


「ラヒノスにも声をかけていきましょう。この前は急ぐからって置いていったら拗ねちゃったから」


 セージオウルの提案に乗ってドアを開けた私に、二人は躊躇無く乗り込んできてくれる。

 行くも危険だと分かっているだろうに、私たちに考えがあると信じてくれているのだろう。ありがたいことだ。


「ああ。では行こうか!」


 そうして二人の友を乗せた私は、迫る鋼魔の軍団に向けてガレージを飛び出すのであった。

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