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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第二章:集結・天
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44:キゴッソ王城奪還作戦!

「いきなりライズアーップッ! かーらーのバスタートルネードッ!!」


 開幕一番のぶちかましに、正面の魔獣の群れがキリキリとかき混ぜられて真っ二つに裂ける。


 しかし軍団単位での痛撃は明らかなのにも関わらず、割れた塊はそれぞれに態勢を立て直してこちらへ向かってくる。

 これに私は左のバスタートルネードを見舞いながら、右手にロルフカリバーをコール。


「先陣は私がッ!!」


 手にした分厚い刃を高々と掲げた私は、立て直し中の敵陣へ踏み込む。


「我らには勇者殿の力添えがあります! 恐れることはありません。我らの都を、国を取り返すのです!!」


 そんな私の背中をフェザベラ王女の声と、それに続くキゴッソ王都奪還軍の雄叫びが後押しする。


「急くなよ!? 勇者に引っ張られることはない! 列を乱さず、固まって、一匹のヤマアラシになったつもりで進め!」


 王女の傍に立ったマッシュの指揮を背に聞きながら、私は正面の大型の猪を刃でぶん殴り、別の魔獣の塊へぶつける。


 そうして乱れて浮き足だったところへすかさずのプラズマショットを斉射。

 そこへ負けじと別の魔獣の集団が、腹で練った魔力を口から炎にして放ってくる。


 大波となって迫る炎は、私ばかりかその後に続く軍勢も狙ったもの。

 それを許してなるものかと、私はシールドストームを展開。守りの嵐を壁にして炎を散らす。


 そのまま剣を持つ手のローラーを左回転。

 破壊の螺旋を帯びた剣を振るって叩きつけてきた業火もろともに魔獣の軍団を断ち切り、私はさらに進む。


 そこへ切り裂いたのとは別の炎の塊が私に向けて突っ込んでくる。

 この突撃に、私は防御旋風を纏わせた拳をシールドバッシュに叩きつける。


「やはりクレタオスッ!?」


「よう、ライブリンガー!」


 旋風で炎がはがれて現れたクレタオスは好戦的に目を瞬かせてチェンジ。守りの風を起こす私の腕を抱え込む。

 猛牛戦士の機体がブレーキとなり、エネルギーを生み出す回転を妨げてくる。


「やはり大した力だが、抱えたくらいで止められるとでも思うかッ!!」


 力押しのブレーキに、私もまた回転数を上げること生み出すパワーも重ねて吹き飛ばしにかかる。


「……ああ、望むところだ!」


 勝算を持って望みどおりに力比べに応じた私に、しかしクレタオスは鉄仮面のバイザーをリズミカルに瞬かせてくる。


 なんのつもりかと思ったが、回転アップは躊躇なしに強行する。

 しかし守りの嵐が屈強な猛牛戦士を振り払うと同時に、巨大で硬質な塊が降ってくる。


「ハサミッ!?」


 それはカニのハサミだった。ただし金属質で、私の胴体さえも挟んでしまえそうなほどのサイズのもの、であるが。


 地面に突き立てられたまま、盾を押し出すように迫る分厚いハサミを私はロルフカリバーでそらす。

 ハサミが流れ広がって正面に出てきたのは、また金属質な甲殻類の顔だ。

 その目の間に毒々しく脈動するイルネスメタルを叩き割ろうと、私は受け流しに使った剣を翻す。


「おおっと、俺を忘れないでくれよ?」


 だがそこへクレタオスの放った炎が私の足元から腰にかけて爆発。足場から揺るがすこの連鎖に私はバランスを崩して、剣をメタルの甲殻にぶつけてしまう。


 外骨格を砕いて刃が食い込んだダメージに、大カニの魔獣は口から水を吹き出す!


 とっさのプラズマショットをぶつけて散らしたものの、鉄砲水じみた勢いのアクアブレスは霧になって私のマックスボディに降りかかってくる。

 すると飛沫に触れた私の装甲から煙が上がる。

 これは、強酸性の溶解液だ!?

 だが、いくら強力だとして、ただの酸をミストに振りかけたところで私に通じるはずが無い。

 これはおそらく「酸」という概念を魔法的に具現化したものだ。


 とっさに散らしていなかったらどれ程溶かされてしまったか。いやそれ以上に、浴びせられたのがビブリオたちだったとしたら、どれ程の惨劇となっていたか!


 この想像に戦慄した私はプラズマショットを連射、溶解液の噴射口を封じにかかる。


 大物と組み合う私を助けようと、遠くからの魔法が支援砲撃に降り注ぐ。

 この威力に、ミスト状に広がった酸も吹き飛ばされて散る。


 だが、それで晴れた視界の中で、カニの魔獣が背負ったものが軋み音を上げて広がる。

 イルネスメタルコーティングを受けた魔獣の骨格。それを組んだらしい箱状の背負い物は、展開したその流れのまま新たな形へと自ら組みなおしていく。


 そうしてできたのは、髄の抜けて筒となった骨格を突き出した砲塔めいた形だ。


 どうやらこの甲殻類魔獣のバンガード、カニでなくヤドカリだったらしい。

 ……と、原型魔獣本来の種別・分類どころではない!


 メタルな骨格標本のキャノンから放たれるだろう物。それを察した私は大急ぎに両腕のローラーを右回転。

 ロルフカリバーにもまとわせて全力のシールドを正面に展開。

 直後、激しく渦巻く防護エネルギーに強酸の鉄砲水がぶつかり弾ける。


「援護ありがたい! だがやるにも私たちから距離を取ってくれ!」


「おおっと、バンガードばっかに構ってくれるなよっと!?」


 酸は防げたものの、守りの嵐の及ばぬ範囲を狙ってクレタオスが火炎弾を放ってくる。

 二方向からの攻撃に対応するのは出来なくもない。が、仲間と入り乱れてまったく巻き込まずにこなせると思えるほど、自惚れてはいない。

 自分の攻撃で仲間を傷つけてしまうようなことがあれば、切り替える間にどれだけの好機を敵に与えてしまうことになるか。

 ましてや敵の使うのは強酸の霧である。

 後続の魔獣たちのうち、うっかり私に向かってきた大物数体が、体表と呼吸系を溶かされもだえ苦しんでしまうような。


「広がりやすく、触れるだけで鎧も肉も焼く猛毒をバラまいてる! 気流の盾も張って、遠巻きの援護で!」


「ライブリンガーの指示通りに! 天系統の魔法の使い手はエアシールド、水系は浄化を適宜に! その効果の中で槍衾を組んで構えろ。特に迂回してくる魔獣にだ!」


 とにかく巻き込まないように、犠牲を少なくとの私の声に、王女の補佐役もやるマッシュは良く答えてくれている。

 踏み込んだ大型の魔獣が悶える様を見た恐怖もあるだろうが、浮足立たせずに対策を取らせられるのは流石だ。ありがたい。


 こうして大きく前に出た私がクレタオスとバンガードと。

 その戦場を恐る恐ると迂回しながらも前進してきた魔獣たちを、人間の軍団が相手をするという構図が出来上がる。

 大型のものはラヒノスが受け止めて、キゴッソ農兵のチームも比較的小型の魔獣を相手に崩れずにぶつかることができている。


 これでひと先ずは作戦通りか。

 ヤドカリのバンガードを巻き込んで人間の軍に向かう大型の魔獣へバスタースラッシュを見舞いながら、私は空を一瞥する。

 そちらから動いているだろう発案者にしてたった一人の別動隊をやっている仲間を思って。


 フェザベラ王女を擁したキゴッソ王都奪還作戦。

 時期尚早ともいえるこの作戦の実行に踏み切らせたのが、斥候部隊からの報告であった。


 国境砦に駆け込んだ早馬で届けられたその報せとは、キゴッソの王城跡に聖獣の石像が集められているというものであった。


 聖獣像の回収任務を任されたグリフィーヌと思われる目撃情報があり、その裏付けをビッグスとウェッジをはじめとした斥候隊が取ったのである。

 鋼魔と、それに従う魔獣たちが拠点とする王城跡への偵察は危険を極めて、生き残って情報を持ち帰ったビッグスたちはこの作戦に参加できてない状態だ。


 手当たり次第に集められただろう聖獣像に、本物が混じっているとは限らない。


 目撃されるのは折り込み済みで、罠を仕込んで手ぐすね引いて待ち構えているかも。そうでなくても敵が拠点化している場所だ。突っ込むにもリスクが大きい。


 だが仲間を集めている我々が、みすみす味方の当てを敵に渡すことはできない。

 危険は見えている。だが踏み込む以外の選択肢を取れない。

 私たちが置かれたのはそう言う盤面だ。


 ここでセージオウルの出した策というのが、この聖獣像の救出チームを分けたキゴッソ王都奪還作戦の急行である。


 敵の目を引いて、その隙に鋼魔が集めたという聖獣像に本物があるのかを確認。

 あったなら確保、あわよくば復活させてこちらの増援に。

 無いことが確認出来たならば、即座に奪還軍の援護に加わるという作戦だ。


 この救出チームを担当するのはセージオウルただ一人だ。


 もちろん、なにも好き好んで彼だけのワンマンチームを許したわけではない。

 確保対象である聖獣像が本物かどうかを見るだけで確認できるのは、同胞である彼だけ。


 加えて少数精鋭に私、ライブリンガーが同行しようにも、私に対する鋼魔の警戒心は強い。

 姿をカモフラージュするような能力は持ち合わせていないしね。

 無音で飛べるセージオウルのステルス性を確実に殺してしまうことになる。

 ならば私は囮として目を引く側を担当する。これが適材適所というものだ。


 それに囮とは言ったが、城の奪還そのものはブラフではない。

 フェザベラ王女をはじめ、キゴッソの民は本気で取り戻そうと望んでいるものだ。

 だのに整いきっていない農兵軍だけで進軍させるなど、内外双方に向けて出来るわけがない。

 私だって不安で、とても出来たものではない。


 そんなこんなで能力面を主に様々な理由が絡んだ結果、ヤゴーナ連合の助勢を受けたキゴッソ軍を中心とした人間軍を私が引っ張って、セージオウルが単独潜入問形になってしまったのだ。


 ちなみに、鋼魔の目を引くのを担当する主力人類軍であるが、マッシュは「奪い返して全然構わん」隊と呼ぼうとしていた。が、なぜか不吉な感じがあると全員からの反対を受けて却下となっている。


 なんにせよ、私の役割は人々の軍勢を背負って派手に立ち回ることだ。

 それが潜入したセージオウルの助けとなり、人々の犠牲を抑えることになる!


 その一念で私は二重螺旋を帯びた剣を一閃。ヤドカリのバンガードを、その核であるイルネスメタルもろともに両断する。


 これで酸をバラまく、はた迷惑なのは討ち取った。

 後はクレタオスと魔獣の大物を。


 そう思って私が研いだ刃を突き付けるや、城の方で稲妻が閃く。


 正と負。相反する印象の二色の雷光の衝突は大気を揺るがす。


 空そのものが吠えたかのような雷鳴を浴びて、私は城の側で何かがあったのだと。進軍を急ぐ必要があるのだと確信するのであった。

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