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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第二章:集結・天
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40:放たれた火

「おい、なんか焦げ臭くねえか?」


 傷ついたグラウ・クラウさんを抱えて治療するビブリオたちを抱えて歩いていた私は、足元からのマッシュの声に足を止める。


「うん。確かに煙か、炭素の濃い空気が微量ではあるが来ているな……」


 たしかにマッシュが言う通り、近くで煙が上がっているらしい情報を私も感知できている。


「まさか、鋼魔が火攻めに!?」


「それはあると思うが、まだ断言はできないな」


 私のつぶやきを受けて、慌ててホリィが気流による対煙バリアを展開。

 私もその可能性は考えたが、確証が得られていない以上いい加減なことは言えない。

 最悪の可能性に備えるのはいいことであるが。


「ライブリンガー、何か見えるか?」


「いや、周りの木がこう高くてはさすがに私が背伸びしてもね……」


 ヒト型モードの私の背丈よりも高い木々に囲まれた状態では、私でも物見役は出来ない。


 ケガを治したばかりのグラウ・クラウさんを高くへ放るのも気が引けてしまう。


 ここは少し心配だが、みんなに少し離れてもらって、スラスターでハイジャンプでも……っと、それよりもいい方法がありそうだ。


「すまないラヒノス。ちょっと頼れるかな」


 私が窺ってみると、大熊のラヒノスは任せろとばかりに鼻息を強くして、私に近づいてくる。


「少し私を持ち上げてくれるかな? 重たいとは思うが、頼みたい」


「ボクが魔法で地面を盛り上げても……」


「ビブリオの気持ちはありがたいけれど、ちょっと負担が重すぎるんじゃないかと思うんだけれど」


 ビブリオの案も絶対に無しではないが、バースストーンの増幅があっても難しいと思う。

 それに、一時の物見のためだけに森林の地形を荒らすというのは気が進まない。

 そういう意味では、マキシローラーもローリーもデカすぎるので、踏み台にするためだけに呼ぶのは遠慮したい。


 森林は大切だ。

 人の、命の生きていく上で必要不可欠なものだ。場合によっては人の手による手入れをし続けることで安定させ続ける必要もある。


 私の森林保護論はともかく、煙の臭いの元凶を突き止める必要がある。どう動くにせよ、早く確認しなくてはならない。


 改めてラヒノスに目配せして依頼すれば、彼はその力強い手で私の腰を掴んで、抱き上げてくれる。

 どっしりとしたラヒノスの体は、私のフルメタルボディを土台としてゆるぎなく支えてくれている。


 そうして大木から頭を出した私が見たのは、進行方向のおおよその先で煙が上がっている状況だ。


「グラウ・クラウさん、どうかな?」


 枝葉のてっぺんから抜けた私の視線と高さを合わせて、ビブリオたちを乗せた手の平を持ち上げる。

 そうして水先案内人である白フクロウにも確認してもらえば、彼は目を険しく細める。


「ホッホウ、これはいかんな。アレは目的地に、フクロウの石像に近いぞ。それもずいぶんと」


「じゃあ急がなきゃ!」


 目的地の危機に慌てるビブリオだが、ラヒノス、私、そしてビブリオたちの三段積みを安全に解除するため、焦らずに分離していく。


「ではビブリオたちはこのまま、私が抱えて先行するから、残る皆はラヒノスに乗って……」


 私とラヒノスの足で強引に急行する体制を作る私たちのところへ、巨大な魔獣のものらしい咆哮が届く。


 それも巨木をなぎ倒すような鈍くて重々しい音と共に後方から。

 鬱蒼と壁を成す木々ごしにもビリビリと感じるほどの波となって。


 殿しんがりやろうか?

 いやいやそれなら自分たちが。

 それならいっそ連携して片付けてから目的地へ行けば?

 急がなきゃならんと判断したからの急行姿勢でがしょうよ。

 ならば固まって逃げての出たとこ勝負で。


 わずかな間の目配せにこれだけの意見交換を交わしてまとめた私たちは、そういうことでと走り出した。


 ただならぬパワーを含んだ獣の気配を背に、火の手の上がった方を目掛けて。


 災難に挟み撃ちにされている形であるが、後ろの分は撒けば済むモノかもしれない。

 それに偶然に道がいくらか重なっているだけかもしれない。


 とにかく今は行く手にあるものに集中。と、私たちは森を急ぐ。


 そうしている内に、幸いにも後方からの気配は遠退いて。しかしその一方で木々の合間に濃い煙が立ち込めるようになってきている。

 ビブリオたちの魔法のお陰で、元々無用な私は元よりだが、窒息の心配無く進めている。

 だが視界は遮られて、火と煙から逃げる獣たちが飛び出してくるので、どうしても順調とはいかない。


 そうしている内に煙に巻かれて、ほうほうの体になった人が正面に現れる。


「ヒィイ!? 鋼魔ッ!?」


 羽毛のあるキゴッソ人の男性は、私の爪先から辿るように見上げて、尻餅をつく。

 これまでもままあった反応ではあるし、見た目だけでは一緒くたにされても仕方がないしね。うん、仕方ない。仕方がないことだ。


「ちょっとおじさん! 知らないかもだけど顔見るなりに鋼魔扱いはちょっとヒドイよッ!」


 代わりになって怒ってくれるビブリオたちがいる。それだけで十分以上に幸せなことだしね。


「へぇ!? こ、鋼魔の抱えた坊やが鋼魔とはヒドイなって? でも魔獣つれた鉄巨人ってどう見ても鋼魔で?」


「失礼、混乱するのも分かるが、俺たちはあなたの敵じゃない。ひとまずこれはいいか?」


 混乱するキゴッソの男性だったが、マッシュが声をかけたことで、こちらの正体はともかくいきなり傷つけられることはなさそうだと落ち着いてくれる。


「あ、ああ、はい……ではそう言うあなた方は?」


「私はメレテ王国のマステマス・ボン・イナクト。鋼魔への反攻作戦のために動いている。この先に眠れる聖なる獣だと祀られた石像があると聞いているが間違いないか?」


 名乗り、探し物の在処を問うマッシュに、キゴッソのおじさんは半信半疑にうなずき返す。が、私の腕の中にいるエアンナと、ビブリオの抱えるグラウ・クラウさんの姿を認めると、血相を変えて何度も首を縦に振る。


「ああそうだ! でなくてそうです! おれはこの先の村のモンだが、そこでお祀りしてる像が確かにあります!」


 私の足にすがり付く勢いでおじさんが言うことには、森の深くにあって目をつけられていなかった彼の村は、近隣の鋼魔に追われた人たちが集まってレジスタンスの拠点となっていたのだと。そこに突然鋼魔族が襲いかかってきて、村に火を放ったのだそうだ。


 そこまで聞いた私たちは、このおじさんを連れてさらに村へ急ぐ。

 せっかく逃げてきたところを悪いが、ビブリオたちの気流魔法のバリア無しでは、煙か獣かにもみくちゃにされる未来が目に見えている。なので強引にでも同行してもらった。


 そうして煙の壁を蹴破り進むこと程なく、私たちは開けた場所に出る。

 しかしそこにあったのは地獄だった。


 燃える建物。鋼魔か、あるいはそれにけしかけられた魔獣によるものか、横たわる人々。

 血の海に倒れ、曲がってはいけない方向に手足を折り曲げた親と、そのすぐ傍でうずくまる子ども。


 この光景に、私の体内にあるバースストーンが煮えるような熱を放つ。


「みんな、せめて息がある人たちだけでも、頼む」


「わかったよ」


 うなずき、魔法を帯びて私の腕から飛び降りるビブリオたち。

 彼らをはじめとした仲間たちが動き出すのと同時に、私もまたロルフカリバーをコール。

 握りしめたそれに、燃えるようなエネルギーを込めて振り抜く!


「人々を踏みにじるなど許さんッ! この私がライブリンガーがまとめて相手になるぞッ!!」


 そして放った朝焼け色の剣風に名乗りをのせて、私は炎の合間に走る黒い影へと踏み込んだ!

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