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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第二章:集結・天
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32:ヤゴーナ首脳会談劇場

「いやはやそれにしても凄まじきは勇者殿の力よ。出会う魔獣の尽くを鎧袖一触に蹴散らしてくれて。おかげでメレテに入るや我が兵の損害はパタリと無くなったわ」


「おお、そちらもか。これまで我らが合力しながら、終ぞ勝利を得られなかった鋼魔を相手に退けたというのもうなづけるというものよ」


「はい。彼の方の尽力と献身。それがあるからこそ、私も故郷を奪い返す兵を蹴散らされながらも、こうして生きてこの場にいられるのですから」


 メレテ王の音頭で集合したヤゴーナ連合の首脳たち。

 フェザベラ王女にイコーメ王といった彼らの話し合い……を、今ビブリオたちが私の目の前で再現してくれている最中だ。


 私たちがいるこの場所は、メレテ王都を囲う城壁の内側の土地に急遽作られた小屋、私のためのガレージだ。

 「勇者の寝床」と人の呼ぶこの場所で車になって休む私に、ビブリオたちが王様たちの会談の内容を語って聞かせてくれているというわけだ。

 誰の入れ知恵なのか、付け髭や冠に見立てた花環など、誰を演じてるのか分かりやすくする小道具まで用意して。


 客に回ったホリィと一緒に芝居付きで事後報告に聞かせてもらっている形の私だが、もちろん首脳会談には参加していない。

 いや別に、ハブられた訳ではない。ないんだ。ただ、急造の屋根だけで壁もないところや、私を強引にねじ込めるような玄関同然の大広間を会談場でございと、貴賓を案内するわけにはいかなかったんだ。

 このあたり、身体を折りたたんでも人を乗せられる巨体というサイズ差は不便だ。


 そういうわけで、会談場に入れなかった私のために、フェザベラ王女のお付きとして参加していた仲間たちが寸劇交じりに語って聞かせてくれている最中だというわけだ。


「……幸いなことに、勇者殿という希望と勝利に士気も高い。この機を逃さず、キゴッソの奪還作戦を再開すべきではありませんかな? 可及的速やかに」


「それは……ッ!? いけません! いけませんよ!?」


 そのうちにマッシュが担当する人物の領土奪還作戦の提案に、エアンナの演じるフェザベラ王女が反発する。


「なぜです? 金属の化け物どもに奪われたキゴッソの土地を奪い返す。そのために軍を動かすのに、なぜあなたが待ったをかけるのです? 勇者殿が鋼魔を討ち取った。どうしてこの機をみすみす逃そうとなどと?」


 悲願への助力だというのに何故かと問う声に、フェザベラ王女役のエアンナは言葉を返せずに言いよどむ。


「そうは仰るが、鋼魔を討ち取ったと言っても一体のみ。さらに言うなら、我が都を強襲してきたのはランミッドの山々を無視できるだろう翼持ちばかり。キゴッソの土地にはどれほどの獣がのさばっているやら」


「うむ。それに先の遠征軍は壊滅させられておることだしな。我がイコーメも商売相手が立ち直ってもらわねば困る故、兵站から戦力から出来る限りの支援をする。するがしかし……財布の中身には限りがあるでな?」


 そこへビブリオがフォローに入るメレテ王を再現し、羽根で髭をしごくマネをするグラウ・クラウさんがこれに続く。


 勝利に士気が高まっているのも確かならば、メレテ王たちの見識もまた確かだ。

 戦うというのは巨大な集団であっても膨大な体力が要る。ヤゴーナ連合に今すぐに大攻勢をかけられるだけの力があるのか。鋼魔がどれだけの余力を残しているのか分からないのにぶつかって、消耗に納得できる結果が得られるのか。

 怪しいところではある。


「その通り、我らキゴッソの民もライブリンガーの参戦が大きな希望になっています。しかし、先の敗戦での傷が癒えていないものがほとんどなのです。ですから時期尚早であると……」


 二人の助け船に乗っかって、悲願は悲願として、しかし急いては事を仕損じるとフェザベラ王女は主張する。しかし、後ろ楯を得ての反対意見にも、マッシュ演じる急進派の余裕は揺るがない。


「では勝てる人物を、戦える存在を前面に出しておけばよろしい。そうではないかね?」


 つまりは私、ライブリンガーを中心とした少数精鋭に戦いを任せ、その間に連合軍の本隊を立て直そう。そういう提案だ。

 対鋼魔の主力となる戦力が動ける以上、遊ばせておくのは惜しい。人々に明るいニュースを届けられて士気を保つのは、民を率いるものとしても必要を認めざるを得ない提案だろう。


「……しかし、しかし……そんな勇者様だけを頼るような……って、もー! ヤメヤメ、おしまい! ここまでッ!」


 葛藤するフェザベラ王女の再現に耐えかねたのか、エアンナは脱ぎ捨てるようにお芝居を放り出す。


「えー! ちゃんと最後までやろうよー」


「イヤッ! 大体会議の様子を教えるのに、なんでこんな小芝居しなきゃなんないの!? もー恥ずかしいったらもー!」


「いやいや。みんななかなか堂に入った演技だったよ。役者とか向いてるんじゃないかな?」


「やめてよもー! ライブリンガー一人相手でも恥ずかしくて死にそうなのに、大勢の前でお芝居するとか顔どころか全身から火が出ちゃうじゃない!」


 素直な感想を伝えたつもりだったのだが、エアンナは顔の火照りを拭うようにしながらそっぽを向いてしまう。

 なぜだ。


「ホッホウ、つまりは火の鳥というわけだな」


「茶々いれないでよ、自称賢者のものぐさフクロウ!」


「まあまあエアンナ嬢ちゃん、落ち着けって。まあしかし嬢ちゃんじゃないが、俺も急進派の芝居を続けるのはきつかったからな。心に無いことどころか、真逆のことを言うのはどうもな……」


 エアンナを苦笑交じりになだめながら、マッシュは自分の肩を揉みほぐす。

 演技とは普段の自分とかけ離れたものを演じる方が楽しいものらしいが、性に合わない人にとっては疲れるだけか。


「ちぇー……それじゃあしょうがないかー」


 マッシュも疲れを理由に芝居を打ち切ろうと言うのを受けて、ビブリオは仕方がないかと会議劇を幕引きとする。


「さて、それで御偉様方の会議の結末だが……結局、急進派に賛成多数で勇者殿を先遣隊とする意見で決まってしまったわけだよ。ホッホウ」


 私のボンネットに座ったビブリオの肩で、グラウ・クラウさんが結果を語ってくれる。


「やはりそうなるか」


 こうは言ったが、私に落胆は無い。

 私たちに負担が偏る形になるのをフェザベラ王女が嫌い、避けようとしてくれた。それが分かっただけで十分だ。むしろより大きく人々の力となれるのは、私としては望むところだ。先遣隊として立つこと。それは良い。


「ホッホウ? その言い草、ライブリンガーも予測できていたと?」


「そうなの? ボクはもっと反対に回ってくれる人が出てきてくれるんじゃないかって思ってたのにー」


 唇を尖らせるビブリオに、一緒に会議劇を見物していたホリィが歩み寄ってその頭を撫でる。


「ビブリオが言う通りになってくれてたらいいんだけれどね」


「一個の人間としてはそりゃあそうだが、でかい集団の損得を考えたらそうはいかないものなんだよな。悲しいことだが」


 どうしても大勢の得を、数手先のことを考えると、少数に犠牲を強いたり、損をとらなければならなくなる。それは大小問わず、集団を作る以上はどうしようもないことだ。


「ライブリンガーの大将にはデカイ恩はあるが、しかしこれ以上領内で戦をしたくないし、キゴッソからの避難民を送り返せる宛ができるに越したことはない……ってのが、メレテの陛下の本音だろうぜ」


 そういう事情があるから、メレテ王も急進派の意見に慎重論を挙げる以上のことはできず、フェザベラ王女も妥協案で飲まざるを得ないのだ。


「でも、でもさ……だからって、ライブリンガーばっかを当てにしようだなんて、そんな考えが通るだなんてさ……ッ!」


 しかしビブリオは納得いかないと、うつむき下唇を噛む。

 そんなビブリオに肩に留まったグラウ・クラウさんが半目を送る。


「ホッホウ。そうは言うがなビブリオや。もしお前を頼ってきた誰かがいたとして、村を……家族を放り出してまで助けに行けるのか?」


「それは……!?」


 この問いかけにビブリオは言葉をつまらせてしまう。

 だが、その答えは簡単だ。


「頼られた話の内容にもよるが、その時は私も出来る限りの力を貸そう。留守を守るなり、代理で私が行くなりね」


「そうよ。ビブリオはどうしても助けたい人がいる。けど村や私たちに迷惑になるかもって心配になるようなことがあったら、頼ってくれていいの!」


 私とホリィの言葉に、ビブリオはキョトンと瞬きを繰り返す。

 そう。自分のために集団に迷惑がかかるのなら、まず信頼できる仲間と報告と相談をするのが第一だ。どこまで協力できるかは別にして、別の視点からの知恵を借りたり、集団全体で状況と向き合って折り合いや妥協をつけたり。それだけでも随分と違うのだから。

 この答えに、ビブリオは表情を明るくさせる。


「そうか! ライブリンガーとボクたちで最前線に行くなら!?」


「俺たちで頼れる連中から人手なりなんなりに可能な限りの支援をかき集めてやればいいってこったな。当面の拠点はどうせウチの領地にあるランミッドの砦だろうから、俺も実家に泣きついて脛をかじらせてもらうことにするさ」


 このマッシュの軽口に、私たちは揃って苦笑を浮かべるのであった。

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