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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
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3:誰にも負けないボクらの友達

 ボクの名前はビブリオ。


 メレテって国のはしっこにある、ラヒーノっていう村で暮らしてるんだ。

 場所がら都会とはいかないけど、それでもボクみたいな神殿暮らしの孤児が、ちゃんと食べれて凍えもせずに生きてけるくらいには豊かな村だよ。


 そうなんだ。ボクは両親の顔を知らない。

 というか、気づいたときから村で神官をやってるフォステラルダ母さんとホリィ姉ちゃんと暮らしてるから、産みの親が別にいるって言われても、正直そういうもんなんだとしか思えないけど。

 だからいつかはボクも村の神官になって、姉ちゃんたちに誉められた魔法の力でホリィ姉ちゃんや母さん、村の力になれる大人になりたいって思ってるんだ!


 そんなちょっと魔法が得意で、あとは赤い髪が暖かそうなんて言われてるくらいしか特徴のない、普通の辺境村の子のボクだけど、最近新しい秘密の友達ができたんだ。


「わっほぉい! ライブリンガー、いまの片輪上げ? あれもう一回、もう一回やって!?」


「ハハハ、慌てなくてもまたすぐにあるさ……っと、言ってるそばから!」


「わっほぉい!」


 それがいまボクを乗せて、夜の森を走ってる黒いクルマ、ライブリンガーだ。


 時々に当たる月の光を跳ね返す、黒くて流れるように整えられた金属の箱。

 それがギュンギュンと空気を切り裂いて走っていくんだ!

 中から見てると、ライブリンガーの目から出てる光の当たった木の幹が、あっという間に後ろに流れてしまう。

 それなのにボクの座った椅子は柔らかくて、体を振り回すような揺れでもないとほとんど分からないんだ。

 こんなの、どんなすごい魔法の馬車があったって敵わないよ!


「ところで、どうしてもこんな暗くなってからじゃいけなかったのかい?」


「えー!? だってボクも昼間はやることあるし、ライブリンガーだって村のみんなが驚くから、明るい内は出られないって言ってたじゃんか」


「それは、そうだが……やはり夜に出掛けるというのはどうしても心配だよ」


 まったく、ライブリンガーは心配性だよ。


 ボクだって天の光は呼べるし、ライブリンガーはそんなの必要ないくらい明るくできてる。

 それに初めて会った時に、魔獣ガイアベアを投げ飛ばしたり抑え込んだり、叩きのめして追い払ったり出来てる。


 そう、ここら辺で出る魔獣の中で、一番強くて危ない魔獣、ガイアベア。

 狩人でも隠れてやり過ごすのが当たり前。鋼魔族が屈服させて兵隊扱いにけしかけてくることもあるらしいけれど、そうなったら一匹でも陣地がめちゃくちゃにされちゃうんだとか。あれはそんな凶暴で、強力なモンスターなんだ。

 あの時も、たまたま森で出会ったボクとホリィ姉ちゃんで魔法をぶつけたりしながら逃げ回ってたけど、ライブリンガーが来てくれなかったら絶対にお腹の中にしまわれちゃってたよ。

 あんなのを一対一で退治できるくらいに強くて、何がそんなに心配なんだろ?


「まあまあ。出掛けるときにも言ったでしょ? このライブリンガーの速さならすぐに行って戻ってこれる場所だし、ライブリンガーのためにも絶対必要になってくることだからって」


「……うぅん。もう出てきてしまったからには、なるべく早く済ませる方が懸命か……ところで、そろそろ詳しく説明してくれないか?」


「もうじきだから、着いたらね」


 そう言ってる内に開けた場所に出て、ライブリンガーの出してる光がグンッて伸びた。

 それからライブリンガーは大きく体を振って横滑りになりながら止まった。


 ボクはライブリンガーから降りると、明かりに天の光玉を呼び出して浮かべる。

 すると、ライブリンガーは「チェンジ」と掛け声を上げて、クルマから鋼の巨人に姿を変えた。


 立ち上がったライブリンガーの姿をまたしっかりと見上げてみると、これがたまらなく格好イイ!

 黒くて力強くも引き締まった体。その胸に輝く朝焼け色の宝石。

 高いところからボクを見守る二つの目も、同じ日の出のオレンジ色だ。

 黒い兜と対照的に白い顔は、憧れるくらいにハンサムに整ってる。


 こんな頼もしくて格好イイのを、初対面だからって怖がってただなんて、あの時のボクはどうかしてる……実際どうかしてたね。魔獣に追っかけられての、死にかけての、ビビっててのって。


「どうかしたのかな、ビブリオ?」


 ぼんやり見上げてたら心配されちゃった。

 でも眠たいのかって子ども扱いは失礼だったので天の光玉をもう一つ呼び出して投げつけてやった。

 でも胸のところで受け止めて全然平気そうにされた。


 八つ当たりの効果のあるなしにこだわってても仕方ないし、話を進めることにする。そんなことするほど子どもじゃないし。子どもじゃないし!


「で、ライブリンガーをここに連れてきたのは、アレをどうにかしてほしかったんだ」


 ボクが何とかしてほしいって指さしたのは、川に沈んだ大きな岩だ。


 何日か前から急に村近くの川に流れる水の量が減ってしまったんだけど、その原因だ。


 もともと川辺というか、流れに沿って立ってた岩だったんだけど、何かの拍子にバランスを崩したのか、倒れ込んで流れを大きく堰き止めてしまってる。

 しかも悪いことに、大きな流木まで引っかかって余計に水の流れを邪魔してる。

 今のうちに対処しないと、このすぐ下流にあるボクらの村は大変なことになっちゃう。


「なるほど。これは道具次第ではあるが、相当人数を集めないと難しそうだね」


 ボクの説明に、ライブリンガーは流れを遮ってる岩を眺めてうなずいてる。


「うん。だから準備が出来次第すぐにでも村のみんなで片付けようって話になってるんだ」


「うん? もう工事の計画があるのかい?」


「そりゃあ、まぁね」


 村が生きるか死ぬかの問題だからね。分ったその時には解決のために村総動員で、領主様の力も借りて解決に動くことが決まってた。

 でも大きな工事となると、きっとケガ人は出る。魔獣に襲われたりもするだろうから余計に。


「でも予定より早く川が詰まってるのが直ったら、絶対みんな大助かりだから! ここで役に立ったらきっとみんなライブリンガーの事を受け入れてくれるから! 守り神的な感じで!」


 それはそれとして、明るめに冗談っぽくライブリンガーにも得なところを推してみる。

 だいたいライブリンガーがいい人だっていうのは、ちょっと話してみればすぐに分かることなんだ。

 この活躍をきっかけにさえしちゃえば、後はトントントンのちょちょいのちょいさ!


 僕はそこのところを熱くライブリンガーに主張しておく。

 するとライブリンガーはもう一回岩とボクを見比べると、ボクに笑いかけてくる。


「ありがとう。それじゃあやってみようか」


「うん! ボクも手伝うよ! 一緒にやろう!」


 うなずき合ったボク達はさっそく仕事に取りかかろうと、立ち位置を動かす。


 ライブリンガーは岩の下流側に入って、ボクは上流側の少し離れて高めの岸辺に立つ形だ。


「ここでいいの?」


「ああ。そこがいい。そこから水の魔法で川の流れを少し緩やかに出来るかい?」


「大丈夫だよ! 任せといて!」


「ああ。これくらいの溜まり方なら心配ないと思うが……出来るだけ下流で水が暴れるようなことは避けたいからね」


 言いながらライブリンガーは、まず岩周りに引っかかって一緒に水を受け止めてる流木たちを退けていく。


「では始めようか。ビブリオも用意はいいかい?」


「いつでもいいよ! あ、ライブリンガー! 岩に指をめり込ませたりとかで跡……っていうか手形つけたりしてよ、活躍の証拠に出来るから!」


「分かった。やるだけやってみよう……ふんっ!」


 ライブリンガーはボクの注文に笑い返すと、腰を落として岩を抱える。

 それにボクが慌てて溜まった水の流れを抑えるようにコントロールする中、ライブリンガーはゆっくりと、少しずつ、岩を浮かせていく。


 見上げるほどに大きなライブリンガーが、大きく腕を広げなくちゃいけないような岩だ。

 それなり以上に重たいし、なによりライブリンガーの足場は水の中。濡れて苔もある川底を踏んでいるんだから、慎重に動かさなきゃ危ない。


 でもゆっくり動かしてるのはそれもあるけれど、それだけじゃなかった。

 ボクも水の流れを抑えてはいるけれど、それ以上に水かさが増えるペースを抑えようとしてるんだ。


 そうしてじりじりとライブリンガーが岩を持ち上げて、水の上に出す。

 そうしたらば後はひょいっと。

 樽でも担ぐみたいに岩を肩に乗せてしまう。


「ふぅ……ところでこの岩だけれど、何か有り難がられていたりはしないかな? それか逆に曰く付きだったりとかは?」


「うーん? そんなの聞いたことないけど? みんないつか川を塞がないかとか心配してるだけだったし、お爺さんたちも割れるもんなら割ってしまった方がいいだろうにーとか言ってたし」


 もしも誰も知らないくらいに古い時代の封印石だったとしても、それならそれで川に転げたところで解けて何かが起こってるはず。

 そうじゃないってことは違うんだってことだと思う。


「ふむ……特に希少な成分なども見られず、普通の大きな岩だね……では!」


 ライブリンガーはうなずくと、抱えた岩を岸辺に置いて鉄拳一発、からのスパイクシューター!

 鉄杭の貫いた岩は、その穴から二つに割れる。


「これで、この岩が川を堰き止めるようなことはなくなるだろう」


「わー! ありがとう、ライブリンガー!」


 強く握りしめておいてくれたのか、大きな断片それぞれにくっきりと手形を残して割れた岩に、ボクは拍手喝采。

 ライブリンガーは川から出てボクの横に並ぶと、また黒いクルマに変身する。


「さあ、帰ろう。ただでさえ暗いのに、遅くなればなるほどホリィ達に心配をかけてしまう」


「そうだね。せっかくいい事したんだから、帰るところまできっちりやりきっちゃおう!」


 フォス母さんの拳骨は痛いけど、ホリィ姉ちゃんも怒鳴ったりはしないんだけど、説明も何にもできなくさせられちゃうからね。それは勘弁だ。


 でも、こっそり帰ったはずのボクを待ってたのは、フォス母さんの拳骨だった。

 ちなみにライブリンガーもホリィ姉ちゃんにこってり絞られたんだってさ。

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