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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
28/168

28:折れたッ!?

「ほう? はじめまして……のはずだが、よく分るものだな。いかにも、我が鋼魔の王ネガティオンである」


 しまった。

 初対面の相手を、夢以外の情報もなしに思い切り名指しで呼んでしまった。


「しかし我がどうしてネガティオンだと分かった? 人間どもを攻撃し始める前にも後にも姿を見せた覚えはないが……」


 言いながらネガティオンは。かろうじて飛んでいるバルフォットや埋まろうとしているクレタオスをじろりと。


「その威圧感! 見れば誰もが思うことだろう! お前こそが鋼魔の王だと!」


 主君の圧に竦んだ鋼魔たちをあらぬ誤解から庇う形で、私は見たまんまに思ったことだと主張する。

 私の構えた剣ごとに一歩踏み込んでの言葉に、ネガティオンは虚を突かれたように緑色の目を点滅させる。

 が、すぐに固まっていた口角を高々と持ち上げ、口を大開に。


「フッハハハハハハッ!? 敵を庇い立てするか? ずいぶんと、ククク……お優しいことではないかッ!?」


 大口を開けて景気良く笑い始めるネガティオンに、私は油断せずに伝説の剣を構える。

 しかし気づけば、私の目の前には白い拳が迫っていた!?

 とっさに首を倒してかわした私だが、同時に腰を強烈な衝撃が襲う。

 ネガティオンがスパイク付きの膝を叩き込んできたのだ!


「しかし甘いことだな!?」


 よろめきながらも踏ん張った私は後退りしつつ天狼剣を振るう。

 が、ネガティオンは前腕から伸ばした緑色に輝く水晶体の刃で私の剣を受け流し踏み込んでくる。


「あの場はハッタリでも我の疑念を煽るなりして、我らの動きを鈍らせるべきだったな。綻びはどんな小さなものでも容赦なく突くべきだ。これは戦いなのだぞ!?」


「そう言う貴方も、随分と余裕ではないか! 私相手にアドバイスなどと!」


 助言と合わせて迫る刃を受け流した私は、額・胸・腰の四門のプラズマショットをフルバースト!

 だがネガティオンは、エネルギー弾の弾幕を真っ向から踏み破ってくる。


「それは貴様の言う通りだな!」


 笑みのまま踏み込んできた白い魔王は左腕を展開変形。緑の光を灯した砲身を私の胸に押し当て、うねりを上げるエネルギーを解き放つ!


 ゼロ距離で放たれた暴力的なエネルギー。これにマックス形態の私の足が浮き上がってしまう。


 押し流された私は、その勢いのまま重々しい音を響かせて地に背を着いた。

 倒れたままではいられないと、私はとっさに身を起こす。しかし眼前に突きつけられた緑の刃に、待ったをかけられてしまう。


「配下相手ならばともかく、敵対者に助言と機会を与えてしまった。まったく、らしからぬ甘さだ」


 ネガティオンは語りながら、突きつけた刃を私の口元を覆う装甲に押し込んでくる。

 その逆の手には緑の輝きを漲らせた砲が、私に口を向けている。


「これも、顔を合わせた瞬間に貴様に感じた奇妙な縁ゆえか?」


 ネガティオンのその言葉に、私の内側がざわめく。

 私もまた共感とでも言うのか、この魔王を相手に威圧感とは別の懐かしさも感じていたのだから。

 しかし同時に、その共感以上に私の頭脳に沸き上がったものもある。

 それは――。


「しかし、貴様をなんとしても除かねばならんという嫌悪感を抑えるものではないがな!」


「それは私も同じことだッ!!」


 ネガティオンが刃と砲を動かすよりも早く、私もまた拒否感に従いプラズマショットを連射。

 しかしこれで怯むネガティオンではないのは先刻承知。

 だがそれでいい!

 ほんの一瞬、それだけの目眩ましでいい!


 プラズマショットが生んだ一瞬の間に私は天狼剣を一閃。口許に突き入れられた緑の刃を半ばから折る!

 すかさずに起き上がり様の右拳にバスタートルネードを乗せて。

 力を蓄えた魔王の左腕を殴打と竜巻で体ごとに跳ね上げた!


「おぉお! クロスブレイドォオッ!!」


 ネガティオンの足が浮き、たたらを踏むその隙に、私は天狼剣を両手持ちに二つのローラーを回転、相反するエネルギーの渦を二重螺旋に刃へ乗せて切りかかる!


「いいじゃないか」


 渾身の力を込めた一撃だった。

 目の前の敵を打ち破る。そのために振るった一撃だった。

 だがネガティオンのこの一言を受けた次の瞬間、私の放った一撃は折れていた。


 固い音を響かせて、宙へ舞っていたのだ。


「お、折れたッ!?」


 刃を根本だけ残した天狼剣の無惨な有り様。


 一目で破られた?

 不滅であるはずでは?


 手の中で朽ちていく伝説の剣の残骸に、私は動転し、混乱していた。

 それどころではないはずであるのに。


 動揺する私の思考を断ち切ったのは強烈な衝撃だ。

 恐らく殴られたのだろう。

 技を破られ、剣を折られた私は身構える間もなく吹き飛ばされてしまった。


「なんだ。随分と脆い剣ではないか。我が軍勢を吹き飛ばした、あの二つ竜巻の嵐を一点集中に束ねたのか、強烈な力を感じたが……がっかりさせてくれる!」


「ぐぉおおおおおッ!?」


 あっさりと折れた天狼剣。そしてそれだけで隙を見せた私への落胆も露に、ネガティオンは倒れた私へ容赦なく腕のエネルギー砲を叩き込んでくる。

 一撃一撃が重いこの砲撃は、私に起き上がることを許さず、一発ごとに地の深みへ押し込み、沈めていく。


「さて、配下にさんざんに煮え湯を飲ませてくれた礼だ。ここらで引導を渡してやるとしよう」


 地面へ大の字に埋まった私を見下ろして、鋼魔王は折れた水晶体の剣を再生、私の根本を断ち切ろうと振りかぶる。


 ここで終わってなるものか。


 そんな思いからプラズマショットを放ち、起き上がろうとするも、対するネガティオンはうるさげにエネルギーキャノンで押し潰してくる。


「お待ちください!」


 抵抗する力を磨り潰そうとする砲撃の中、待ったをかける声がある。


「バルフォットか。お前の話ではライブリンガーの到着前に人間どもを蹂躙する……そのはずだったが、結果は見かねた我が手を下してこの有り様だぞ?」


 待ったをかける参謀には厳しい言葉を浴びせる一方、この隙に腕を右回転させようとした私にも砲撃を浴びせかける。


「策を、言葉を違えてしまいましたことには誠に申し訳なく! だからこそ、だからこそその責を取る機会を我輩に与えていただきたく存じます!」


 そんな主君へバルフォットは平伏しながらも引き下がらない。

 そんな部下を見下ろすネガティオンの目は、しかし冷ややかだ。


「責任を取ると言うが具体的には? どうやって重ねた失態を取り戻すというのだ?」


 魔王の冷厳な言葉を受けて、バルフォットは顔を上げて人型へチェンジ。

 ローブを着込んだ魔術師然としたシルエットになった参謀は、正座に座り直すや、曲がりくねった禍々しい短剣でもって切腹する。


 突然のハラキリを披露した鋼魔参謀は、割り開いた腹部に手を突っ込んで中身を引きずり出す。

 緑色に脈動するそれはイルネスメタルだ。


「無論、この命をお返しして……ッ!!」


 バルフォットは宣言するや、腹を割った刃を脈動する心臓部へ叩きつける。

 すると二つに割れたイルネスメタルは、傷つき倒れた魔獣二頭へ取りつく。


 飛竜と、翼を持つ虎。

 バルフォットのイルネスメタルを受けた彼らは傷を補うようにメタルパーツを生やし、全身を金属へ置き換えながらバルフォットへ近づいていく。


 分かたれたのが再び一つに戻ろうとするように集合した彼らは、金属の体を折り重ね、噛み合わせていく。

 やがて三つの鋼を束ね、巨大な一つの機体を成した彼らは四つの足を支えに立ち上がる。


 虎の前足に、竜の後肢と長い尻尾。

 背には六つの翼を広げ、右腕の先は虎、左腕は竜の首となっている。

 その真ん中にあるヤギの頭には人型のバルフォットの上半身がまるで最後の名残のように額から生えている。


「フハハハッ!! よかろう! 貴様の覚悟は受け取ったぞバルフォット。命を賭したその力、存分に振るうがいい!」


 配下が心臓部を砕いて得た合成機械魔獣の姿を、ネガティオンは天晴れとして武器を納めて踵を返す。

 捨て身の心意気を酌んでこの場を任せた主君に、巨大キマイラ化したバルフォットはその三つの頭を垂れて見送り、私へ向き直る。


「さあ、我輩の策をさんざんにひっくり返してきた、しかるべき報いを受けてもらうぞッ!!」


 そして天狼剣を失った私へ、三つの首のを揃え束ねた咆哮をぶつけてきた!

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