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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
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26:朗報を持ち帰る道すがらに聞く凶報

 西よりの太陽が差し込む木々に囲まれた野営地。

 メレテ王都に程近い村。そこから少し外れた場所に設えられたキャンプ地に私は駐車している。


 そんな私の黒い車体に、マッシュが葉を被せてカモフラージュを施している。


 伝説の勇者の剣、天狼剣を無事入手した私たち一行は、数日をかけたメレテ王都へ帰還する道すがら、途中の村落を頼って休息を取ることにしているのだ。

 もっとも、私はこうして外で草葉を布団に野営であるが。


 私が私を知らぬ人の目については怖がらせてしまうので、これは仕方がない。

 それに行きの旅でも、集落に宿を乞うた場合には同じように私は村の外に隠れていたので今さらだ。


 ビブリオとホリィ、エアンナは反対したし、マッシュ隊の皆もそれならいっそ全員で野宿しようとは言ってくれた。

 しかしちゃんとした寝床を使える機会は逃すべきでないと、私が強く押し通したのだ。

 結果、トラブル対策として交代で私の近くに待機する当番を作ってしまったので、手間を増やしてしまった面はあるのだが。


「よっしゃ、こんなもんだろ!」


 私のカモフラージュという設営の仕上げを終えたマッシュはやり遂げた顔で額を拭う真似をする。


「すまない。手間をかけさせてしまったね」


 私が自分でやろうにも、人型モードでうろついてはどうしても目立って騒ぎになってしまうだろう。

 そんな本末転倒を避けるために、どうしても仲間たちに負担を強いてしまうことになる。


「なぁにいいってことよ! 持ちつ持たれつ、互いに庇い合い、互いに助け合う、それが隊ってモンだろ?」


 そんな私の申し訳なさを、この気のいい男は軽々と笑い飛ばしてくれる。


「ありがとう。マッシュ」


「だから気にすんないってさ。それよりアレだ、伝説の剣、またもう一回よく見せてくれよ」


 そんな拝むように頼まれなくてもお安いご用だ。

 マキシビークルたちを呼ぶときと同じ、それよりも控えめなサイズの光の門を開いた私は、キャンプ地に突き立つ形に天狼剣を呼び出す。


 手にしたことで私を主と認めてくれたのか、鍔に白狼の刻まれた両刃の剣は、私の呼び出しに応じて手元に来てくれるようになった。


 マッシュはそんな、白銀の刃を支えに立つ天狼剣を見上げつつ、その回りをぐるぐると歩き回って見回す。


「いやー、何度見せられても見事なもんじゃないか、なあ?」


 うっとりと同意を求めるマッシュに私も同感だ。

 岩の中に封じられて風雨から守られていたとはいえ、錆び付きも刃こぼれもない綺麗な白銀の直刃。

 鍔の白狼のレリーフも見事なもので、それに続く握りにも劣化は見られない。

 ただ一ヶ所、白狼の額に埋め込まれた朝焼け色の宝玉が半分になっていることを除いては。


 永い時を経ているだろうにこの輝き、そして振るったときのあの威力。

 さすがに伝説の剣の本物と言う他ない。


「まさか本当に、ここまで力も名も備えた勇者の剣だったとは……驚いたよ」


「おいおい、信じてなかったってのか?」


「正直なところ、力に関してはね。式典用の勲章として割りきっていたものだから」


「その辺は俺も右に同じくって感じだからな、なんも言えねえや」


 そう言ってカラカラと笑うマッシュに合わせて、私もまたヘッドライトを弾むように瞬かせて笑う。


「しかしそれはそれとして、このサイズだ。完全にライブリンガー専用サイズで、まるっきり人間から破滅の道を断ち切る勇者が現れるのなんか期待してないぜってな感じだよな」


「いや、この天狼剣だが、大きさは変わるぞ?」


「なんじゃとてぇ?」


 改めて天狼剣を見上げてため息をついていたマッシュだが、私の言葉にまん丸な目になって振り返る。


 とても信じられんという顔をされてしまったが事実だ。


 使い手と認められたからかは知らないが、天狼剣を手にした瞬間に、伝説の剣にどんな力が備わっているのかが私の頭脳にはインプットされている。


 そのデータの中に、天狼剣が伸縮自在にそのサイズを変えることができるという能力についてもあったのだ。


「つまり私がマキシビークルと合体しても変わらず使うことが出来るということだが、同時に車内に収められるほどに小さくもできるということだね」


「じゃ、じゃあ試しに俺が持てるサイズにしてもらっても構わないか?」


「ああもちろん、お安い御用だ任せてくれ」


 マッシュの頼みに私は二つ返事で天狼剣に縮むように念じる。

 すると人型の私に最適なサイズの剣はみるみるうちにマッシュの体格に沿ったものになる。


 そのままでは刃が掘った穴に落ちてしまうので、ついでにマッシュに寄せた地面に刺し直す。


「お、おお……マジか、マジにか……」


 自分用サイズに改まった天狼剣を目の前にして、マッシュは身構える。


「……これ、掴んでみても、いいのか?」


「どうぞどうぞ。素振りもしてもいいよ」


 私が勧めに、マッシュはそれならばと恐る恐るに手を伸ばす。

 伝説の剣に再挑戦する形であるが、贋物の錆剣と違って拵えがしっかりとしていて綺麗なので、今回は汚れるのも壊れるのも気にせずにしっかりと握れるだろう。


 信心が咎めるのか、触れるまでは腰が引けたマッシュだったが、一度触れれば踏ん切りもついたのかしっかりと柄を握る。

 そして引き抜こうと力をこめる。


「おろ?」


 だが天狼剣は動かない。


 マッシュは首を傾げながら、また繰り返し引き抜き持ち上げようと試すが、やはり剣は微動だにしない。


「どうしたんだい?」


「いや、どうした……って、これビクともしないくらいに重いぞ!? 重さそのまんまなんじゃないのか?」


 そんなまさか。


 大きさが変わるだけで重さが変わらないだなんて、不思議現象としては中途半端な。

 しかし事実として、マッシュは天狼剣を全く動かせずにいる。


「だぁー、ムリムリのカタツムリだって! ダメだこりゃあ!」


 程なくマッシュはとても持ち上げられたものじゃないとギブアップ。天狼剣から手を離す。


「やっぱ振り回せるのは勇者だけ、持ち主だけってことかね」


 そういうものなのだろうか。

 使えている身としては正直実感がわかないのだが。


 私がそんな疑問を抱える一方、マッシュは力んだ腕を振って疲労を振り払っている。


「しっかし、勇者と馬を並べての戦いに生き残って、さらにこれで伝説の剣の探索と発見に功績アリか。俺もなかなかデカい箔がついたんじゃあないかな」


「たしか、適当な婿入り先を見つけて、そこに転がり込むつもり……なんだったっけ?」


「おう、優秀な嫡男が上にいる次男だからな!」


 出会ってからこれまで、旅の道すがらにマッシュの身の上もいくらかは聞いている。

 戦に出ているのは父の後継ぎである兄に万が一が無いようにとの代理。功績も国境守護の要である辺境伯家の武威の証明とするため。

 誉は家に残して、自分は実を知るどこかほどほどの家に貰われて。

 それがマッシュが組み立てている将来設計なのだと。


 ひたすらに家と兄に尽くした上で、なんと慎ましやかな望みなのか。


 その姿勢を立派だと思うが、それ以上に家に縛られた不自由さを憐れに思う。というのが私の正直な感想だ。

 以前にこれを率直に告げたことがあるが、困ったように笑って礼を言われただけだった。


 やはりこの辺りの感覚のズレはどうにも根深い。

 その地区を世襲で統治する貴族家なのだからそれなりに重たいのは理解できる。

 だがやはり一家一族は結局一家一族だろう。というのが、私の根っこにあるようだ。


 この辺りはずれているなりに、もっと学んで歩み寄り、擦り合わせていかなくては。


「それで、その婿入りする最有力候補はフェザベラ王女の所になるのかな?」


 さておきと私がふった話に、しかしマッシュは腕組みに難しい顔をする。


「あー……まあ、な。キゴッソの王都陥落の時に落ち延びるのを助けた縁から気に入られててな……ありがたいし、もったいない……うん、もったいない話、なんだよなぁ」


「ありがたいと言う割には、歯切れが悪いね? 歳の差……は、それほど問題じゃない、という話だが?」


 フェザベラ姫はビブリオやエアンナと同じくらいの年ごろ。マッシュとは八つほどの違いだ。

 これくらいはよく聞く程度、眉をひそめるほの年齢差ではないと、私は聞いている。

 ならば当人同士に不満が無いのなら、あとはどんな問題があるのか?


 そんな疑問に私がヘッドライトを鈍く瞬かせていると、マッシュは説明の言葉を探し始める。


「あー……と、まずひとつキゴッソを鋼魔から奪還するのが上手いこといかなきゃならん。大将のおかげで希望は持てたが、それでもな……」


 その懸念は分かる。

 大船に乗ったつもりで任せてくれ。と、言いたいところだが、鋼魔は知る限り強者揃いだ。弱音を吐く気はない。ないが、軽んじられる相手ではない。


「で、だ。仮に国土奪還がトントン拍子に進んだとして、お国の再興にゃどんだけの苦労が……いや、そりゃあいい。単純な壁や試練にだったらいくらでも立ち向かってやるさ……だがなぁ、いらん嫉妬ややっかみで足引っ張られるのはなぁ……」


 マッシュが言うところによれば、フェザベラ王女の作る流れに任せていれば、苦難が山盛りの亡国の再興役とはいえ王族入りだ。

 積み上げた功績でいくらか和らげられるだろうとはいえ、やっかみはあることだろう、と。


「そうでなくても再興には人も物も入り用なのばっかだろって、足元も見てくるやつも出てくるだろうに……兄貴や親父も家臣の手前、きつめに締め上げてくるだろうしよぉ」


 それが政治というやつか。

 多くの意志が束ねられればそれは大きな力になる。

 私でも翻弄されるしかなくなるほどに。

 正直、ピンとくるものではないが、こちらも学びつつ配慮をしていくしかないだろう。


「……っと、ぼやいて暗くしちまったな。悪い悪い」


「いいや、構わないさ。苦難が目に見えていれば愚痴を言いたくなるのも人情というものだろう」


「悪いな……っと、それと天狼剣もありがとうな。わざわざ召喚してもらって」


「なんのなんの」


 丁寧に礼を言うマッシュに軽く返して、私は天狼剣をゲートの向こうに送り返す。


「あ!?」


 ふとそこで私をある気づきが襲う。


「どうした!? まさか鋼魔の気配か!?」


 私がいきなりに声を上げたために、マッシュは警戒を露わに辺りを見回す。

 それに私は、違うそうじゃないと、敵襲を察知したわけではないと宥める。

 じゃあどうしたのかと尋ねる彼の目に、私は気まずさを抱えつつも意を決して答える。


「その、だね……こうして目立たないように配慮しているのに、天狼剣の召喚で全部ご破算にしてしまったな、と」


 これを聞いてマッシュは膝に矢を受けたようにその場に崩れる。


 お互いに伝説の剣入手に浮かれるあまりにこんな本末転倒をやらかしてしまった。


 そうして自分たちで自分たちの気づかいを台無しにしてうなだれていたところへ、茂みをかき分け走る音が近づいてくる。


 光を潜って現れた剣に何事かと様子を見に来た村人か。

 そう身構えていた私たちだったが、草むらかき分け飛び出したのは軽装の兵士ウェッジだ。


「ウェッジ? どうした、ホレ水飲んで落ち着けって」


 マッシュが息急ききって飛び出した部下を労って差し出すと、ウェッジはその中身をグイっとあおって一息つく。


「どうもです。それで、都からの緊急のなんですよ、鋼魔の連れた飛行魔獣の群れがランミッドを越えて王都に一直線、だそうで」


「なんだとッ!?」


 ウェッジの伝令を聞いた私たちは、休んでる場合じゃないと、大急ぎに野営の片付けにかかるのであった。

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