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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
20/168

20:勝ち戦のお祝いだ

「乾杯! 勝利にかんぱーいッ!」


「勇者様にかんぱーいッ!」


「ヤゴーナ連合に乾杯!」


「メレテ王国、ばんざーい!」


 明るい月に照らされたメレテ王城。


 荘厳に佇む白い城を臨んだ広場で、人々がジョッキを打ち合わせている。


 広場中央の大きく古い獅子像の見守る中、人々は分け隔てなく肩を組み、勝利の喜びと酒の味を分かち合っている。


 ランミッド山脈砦の攻防戦に加えて、グリフィーヌの襲撃の撃退もあり、その勢いのままに予定を繰り上げて祝勝の宴が開かれたというわけだ。


 城でなく屋外の広場が宴の場となっているのは、私が城に入ると窮屈になってしまうからだ。

 車モードに体を折りたたむことで大分コンパクトにまとめることはできる。しかし、タイヤでお城のじゅうたんを踏んでしまうのは気が引ける。

 だが、結果的にはそれでよかったように思う。

 気持ち良く酔い、歌い食らう陽気な人々の無礼講な宴の場に溢れたエネルギーに、私もまた力を注がれているような気分だ。


 そんな心持ちで獅子像と並び見守る私のところへビブリオがホリィと一緒に駆け寄ってくる。

 ビブリオは手に串焼き肉やパイなどの料理で山盛りになった皿を抱えて。


「ライブリンガー! ほら、見てよこれ!」


「ハハハ、またずいぶんと貰ってきたんだな。お腹を壊すまで食べ過ぎたりしないように気を付けてくれよ?」


「大丈夫大丈夫! いざとなったら火の魔法でお腹を元気にして水の魔法で流すし!」


「何だか手慣れた風だけれど、さては前に調子づいて食べ過ぎたことがあるね?」


「ええ、実はたくさん食べられる収穫祭や大物が狩れた時の度々に……」


「ちょ!? 姉ちゃんばらさないでよ!? それに食べ過ぎるのなんてボクばっかりじゃ無いし!」


「やれやれ。ならそのお皿、二人で分けたら丁度いいんじゃないかな?」


「そ、そうそう! ホリィ姉ちゃんと一緒に食べようって抱えてたんだから、ほら!」


「はいはい。そう言うことにしましょうか」


 ビブリオが私の提案にあわてて乗っかり、串焼き肉のひとつを押しつけるのに、ホリィは見え見えだぞと苦笑する。


「ようようお三方! 楽しんでるかい?」


 ビブリオたちの様子を微笑ましく思っていると、今度はマッシュを先頭にした隊の皆が私に寄りかかってくる。


 赤みの差した顔に吐息に混じったアルコール。

 これは完全に酩酊状態だな。


「もちろん、楽しんでいますよ。ところで今は、人型モードなら構いませんが、その皆さんの状態だと車モードの運転席には乗せませんからね? 絶対に」


「おお? なんで?」


「酔っ払い。あとは曖昧あやふやな人。それに車で脅迫乱暴を行う人。これらにハンドルを握らせてはいけない。これは悲劇を避けるための絶対の真理ですので」


「お、おう……」


「あ、ああ、すみません。驚かせるつもりはなかったのですが……」


 聞いてた人はもちろん、自分でも驚くほどに冷たく厳しい声が出てしまった。なぜだろうか?

 ともかく、酔いを冷ますほどに脅かして怯ませてしまった。

 ここはやらかした私自身がなんとかしなくてはならないか!


「さて、酒も食事も摂れない私だが、ここでひとつ芸を披露させてもらおうかなー!」


「お、おぉー! ちょっと無理矢理だけども、おー!」


「乗ってくれてありがとうビブリオ」


 苦しい話題転換であったが、ビブリオを始めに立ち上がった私の周りに集まった皆が拍手してくれる。


「でも、大丈夫なんですか? 宴会芸だなんて……」


「なんのなんの。ちょっと遊び心にギアを入れれば、ね?」


 私の面白味のない普段が普段なだけにホリィの心配も分かる。実際ラヒーノ村や砦の酒盛りでも見守るだけだった。

 しかし、そんな私にも思い付いて暖めてきたとっておきがあるのだ!


 そうこうしているうちに、少し離れた人たちからもなんだなんだと注目が集まってきている。これは頃合いだな。


「では、お目汚しではありますが……」


 集まる視線に一回り礼をして、私は宣言通りにネタを一発!



「は、半端チェンジ……?」


 呆然と私を見上げた誰かがつぶやいたそのとおり。私は今、上半身部分を車モードへ変えて、人型モードの二本足で立っている。

 これが私のとっておき。名付けてハーフチェンジだ!


 しかし本番はこれから。

 ハーフチェンジ状態をキープした私は、その目隠しも同然の状態でその場でスキップ。さらに周りにスペースが出来たことをサブセンサーで確認してブレイクダンスをスタートする。


 これは拍手喝采も確実だろう………と思っていたのだがしかし、聞こえてきたのは、せいぜいが数人のまばらで弱々しいものだけだ。


 この雰囲気は、あれだ。完全に引かれてしまっている。

 拍手してくれているのもビブリオたちだけで、そのメンバーも戸惑いが勝ってる状態に違いない。


 変形ギミックときたら、中途半端な形態や、思いつくままの合体パターンを試すものではないのか? 解せぬ。


 解せぬがしかし、せっかくの宴会の空気が凍ったままなのは良くない。

 受けなかった芸には固執せず、折りたたんだ上半身を伸ばして人型モードに戻る。


「すまない……良かれと思って、良かれと思って、なのだが……!」


「い、いえそんな! 気にしないで!? 気にしないで下さいッ!?」


「そ、そうだよライブリンガー! 凄かったことは凄かったし……けどちょっと驚きすぎたっていうか……」


「いいんだ。ありがとう」


 一所懸命に慰めてくれるホリィとビブリオの言葉がありがたい。

 しかし、ここはもう私は大人しくしていた方がいいだろう。


「よ、よっしゃあ! 勇者殿が切り開いたこの流れに続くのはこのマステマス・ボン・イナクトだ! ビッグス、ウェッジ、お前ら手伝え!」


「た、隊長!? まさか酒入った状態でアレを!? 投げナイフ芸をッ!?」


「手伝えってことは、俺たちを的にするんですよね!? 酔っぱらってるのに、酔っぱらってるのにぃッ!?」


「大丈夫、大丈夫、一杯だけだから、一杯だけだから」


「嘘だッ!?」


「カッパカパ開けて十二杯は飲んでたでしょうが!?」


「いやいやいや、せいぜい九杯だったろ?」


「言ってることが違う、さっきとちがーうッ!?」


 宴の空気を冷ましただけで終わった私の一発芸を無駄にしないようにとしてくれるのはありがたい。が、あまり無茶はしないで欲しい。


「そ、それなら私が何かやります! その間に酔いを覚ましてくれば……!」


 そんな私と気持ちを同じくしたホリィが割り込みをかける形で立候補の声を。


「お、いいのかい? それなら任せた任せた。いやーホント言うとちょいと狙いが狂わないか心配だったんで助かるぜ」


 対してマッシュはあっさりと順番をホリィに譲って引き下がる。

 これに仰天したのはホリィだ。


 思いがけずすんなりと回ってきたバトンに悲鳴のような息を漏らす。


「ど、どど、どうしましょう?」


「決めずに言ってたの!?」


「も、もう少し粘って、自分が私がってなるはずだと思ってたから……」


 慌てたあまりに脊髄反射で名乗り出てしまったと。

 私も浅い考えで動いてしまっていたので、言えることはなさそうだ。


「じゃ、じゃあ歌で行くのは、どう? 姉ちゃんの喉は評判だし」


「えぇー……ひょ、評判って言っても、村だけよ? レパートリーも多くないし……でも、これしかないわよね……よし、やる! やるわ!」


 鼻息ふんすと拳を握り、心を決める金髪碧眼の美少女神官。

 ホリィはビブリオの拍手を後押しに心が鈍らぬうちにとばかりに前に出る。


 そして実際に歌い出してみれば、自信の無さはタダの謙遜だったのかと思うようなレベルのものが出てきた。


 月明かりの中に響いたアカペラは、淀みなく滑らかに広がる。

 このメロディと歌詞は村で過ごしていた間に聞いたことのある素朴なもの。だがホリィの喉を通したこれは、素朴さの中にも深みが、農園が拓かれたその時から豊かな実りを繁らせるまでの困難と喜びの歴史を思わせる。


「良い歌ですな」


「そうですね……っと、王様!?」


 好意的な評価に素直に同意してしまった。だがその相手が王冠は外しているが、間違いなくメレテの国王様だったことに気づいた私と、回りの面々は慌ててかしこまる。


「そう固くならないでくれ。抜け出したのが見つかると厄介でな」


 王様が苦笑しながら目をやった先にはいわゆる貴賓席が。

 貴族の皆さんで固まった集団がある。


 秘密だと目配せする王様に私たちは顔を見合わせ、いつも通りの姿勢になろうとする。

 しかし一国の長を前にしては完全にリラックスしろと言うのも無理な話だろう。ましてや国民である皆には。


 そんな関節の錆びた鉄人形のように強張った、私を含む下々の者をよそに、王様は黙ってホリィを見ている。


「あ、あの……陛下? 私がなにか?」


 王様の熱い視線が注がれる居心地の悪さに、ホリィはおずおずと理由を尋ねる。


「ああ、すまない……なに、素晴らしい歌声だったのでね。きっとフォステラルダ殿の元に行くまでは、良い師を得られるご令嬢だったのか……とね」


「いえ、そんな……私など、村からほとんど出たこともない辺境の村娘です。良家の出であったかなど、もったいない御言葉ですわ」


「ほう? では母上がどこぞの大きな家の生まれだったとか?」


「いえ、とんでもない。先生の話では亡くなった母自身はまぎれもなく平民だったのだと。ただ、さる高貴なお方に見初められて、そのために、辺境に流れることになったのだと……」


 外れた推測に続いて、王様が投げかけた別の推測に、ホリィは再び首を横に。

 奇妙なまでに食い下がっていた王様だったが、この答えを聞くや渋い顔で口を結んでしまう。


 この雰囲気に、ホリィたちは問いただしに踏み切ることもできず、どうしたものかと目配せをしている。

 ここは私が踏み込むべきところか。


「ところで王様、ホリィの出自だけが気になって、貴族の方々の輪を抜け出してきたのですか?」


 私の問いかけに王様は我に返ると、気まずげに咳ばらいをして頭を振る。


「……いや、ついつい気を取られてしまったが、用件はそれだけではないぞ。もちろんな」


 王様が姿勢を改めるのに、私たちはこれ以上促すでもなく本題が始まるのを待つ。


「用件と言うのは他でもない。ライブリンガー殿には旅立ってもらいたいのだ」


 旅立ちを願う王様の言葉に、ビブリオを始めとした友人仲間たちが色めき立つ。

 今の王様の言い方では、単純に私をメレテ王都から追い出すことそれだけが目的のように聞こえてしまう。

 これでは皆の反応は無理もない。それは私を思っての事であるのでありがたい。


「旅立つのは構いません。ですが、どこへ、何のために向かうのか。そこをはっきりさせていただきたい。具体的にお教えいただいてもよろしいでしょうか?」


 しかし私は旅立ちそのものは了解した上で、詳細な説明を求める。

 何事にも必要なのは納得だ。

 理にかなった理由。

 自分の決定。

 根拠はなんであろうと、納得がなければ先に進むことはできない。


 納得のいく、仲間たちを納得させられる根拠を求めてまっすぐに見つめる私に、王様は満足げに微笑みうなずく。


「うむ。話の通じるだろう御仁であるだろうとは見込んでいたが、余の目が狂っていたわけではないと安心したぞ」


 どうやら試されていたようだが、ひとまずは眼鏡にかなったようでひと安心というところか?

 内心で胸を撫で下ろす私を前に、王様はうなずくのを止めると改めて口を開く。


「さて、勇者殿に向かってもらいたいというのは、ある伝説の地である。そこにあるという、伝説の勇者の剣を手にしてもらいたいのだ」


「勇者の剣ッ!?」


「知っているのかい、ビブリオ?」


「そりゃもちろん! 古文書とか、そういうのに詳しくないのだって知ってるお話なんだ!」


 そうして仲間たちが代わる代わるに語ったところによると、聖なる獣を従える勇者だけが岩から引き抜くことのできる不朽不滅の剣が存在するのだという。


「なるほど。その勇者の剣を手に入れる事が出来たのなら、伝説に語られる勇者である証明になるということですね」


 もっとも、私自身としては勇者の称号の確定にそれほど魅力は感じないのだが。

 だってそうだろう? 勇者と呼ばれようが呼ばれまいが、私が人々の味方をして戦うのは変わらないのだから。


 しかし今さら躍起になって勇者という看板を下ろしたり剥がしたりするつもりはない。

 勇者と呼ばれている存在がいることで安心し、救われる人もいるのも間違いないのだから。

 それに、やろうとすればもっと大仰な称号を上書きされるだけだということは分かっているし。


「その勇者殿の志はまばゆいものであるが、認める理由が出来ることで、人々がまとまることができるのも、間違いないことであるからな」


 結局はそう言うことなのだ。

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