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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
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2:世界への違和感

「やっほー! ライブリンガー!」


 元気のよい声に合わせて、木製の扉が開け放たれる。


「やあ、ビブリオ」


 そうして衝立ついたてになるように積み上げられた道具の間を縫うように潜って入ってきたのは、赤毛の少年ビブリオだ。

 ビブリオと、彼の保護者の一人であるホリィを猛獣から助けた私は、記憶も行く当ても無いと言うことで、彼らの暮らす村に招待されて、宿として村の納屋に案内されたのだ。


 それは大変にありがたかった。のだが、案内される道中で、どうにも拭えない違和感に襲われた。

 まず、道として示されたものがとても通りづらいのだ。


 砂利道なのはまだいい。

 地域によっては舗装路の方が少ないところもあるだろう。

 ホリィ達に曰く、ここはメレテという国の辺境の土地であるということだから、万全なインフラ整備を、というのも厳しいだろう。

 それよりも問題なのは、狭さだ。

 人が一人、あるいは馬などの騎獣一頭に跨って通るのがせいぜいという道幅で、私のような車が日常的に通ることを全く想定していない道幅だった。


 なので通る時にはかなりの頻度で片輪走行を披露させられてしまった。というか、披露しなくてはまともに彼女らの村までたどり着くこともできなかったのだが。


 しかし、これはまだ違和感の序の口に過ぎない。


「でもここは暗いなぁ。せっかくいい具合に晴れてるのに……天よ」


「やはりどうにも慣れないな……明かりを点けるのに言葉一つで光の玉を召喚、だなんて」


 そう。これが一番大きな違和感だ。

 この魔法という能力・技術という存在だ。

 知らないことだらけな私ではあるが、これについてはなぜかどうしても素直に受け入れられず違和感を禁じえない。


「そう? まあ、みんながみんな出来ることじゃないけれどね」


 そんな私のヘッドライトを瞬かせながらの疑問に、ビブリオは逆に首を傾げながら私のフロント部分に腰を掛ける。


「たしか四つの属性があって、その力の根源である精霊に呼びかけることで力を引き出す……だったかな?」


「そうそう、天冥水火の四属性。それぞれの得意不得意はどうしても出てきちゃうんだけどね。魔法を使うだけなら結構な人ができるよ」


 言葉そのままの「水」と「火」。それに光と風を合わせたまさに天空の力である「天」。そして闇と地の力である「冥」。

 これら四つの世界を、自然を司る力を循環・管理させている四柱の精霊神がいて、その力を引き出すことで行使しているのが魔法、なのだという。

 ビブリオからの受け売りの知識であるが、世界の魔力循環だと言われてもいまひとつ腑に落ちない。が、そう言うものなのだと強引に納得するしかない。


「でもライブリンガーは魔法に慣れないって言うけどさ、ボクらからしたら鉄の巨人とかライブリンガーの変身した馬なしの馬車とかのが不思議でしょうがないんだけどな。魔法使ってないでどう動いてるのって感じで」


「その辺りは、私もこれこれこういうことができる、としか説明のしようが無いな」


「なんだよそれ。おっかしいの」


 ビブリオが笑い飛ばすとおり、私自身も不思議に思わないではない。が、どんな機能が備わっているかを数えることは出来るし、実際に変形も両形態での動きもスムーズに出来ているのだ。

 歩くメカニズムや筋肉が何を消費して動いているのか。そのあたりを理解していなくても人間が体を動かせるのと同じようなものだろう。

 そのあたりの知識は、私の空白の記憶に含まれているのかもしれない。


「でも、変わってるって思うけど、あそこにライブリンガーが来てくれたから、ボク達助かったんだよね。これってすっごいラッキーだったよ」


 そう言うビブリオの顔は屈託のない笑顔だ。

 初めて会ったあの時の、戦い終わって言葉を交わした時の怯えと疑問が前に出ていた顔とは違う。


 実際に窮地に割り入って助けたのもあるだろうが、私が名前しか答えられない迷子だと分かってからは、こうして旧知の友と接するように話してくれている。


 そう考えると、本当に幸運なのは私の方だ。

 ビブリオやホリィからすれば、私は強力で未知の存在だ。しかも人類の生活圏を脅かす存在といくつか特徴が一致しているという。

 例え実際に命を救われたとしても、そんな相手を素直に受け入れて、行く当てのないのに手をさしのべることができるだろうか。いや、そうそうできるものではないだろう。


「やだなぁ。実際ライブリンガーと話してみて、信じて大丈夫そうだって姉ちゃんと納得したからだよ」


 そんなところを感謝と一緒に告げてみると、ビブリオはくすぐったそうに後ろ頭を掻く。

 だがその表情は、すぐに申し訳なさそうに沈んでしまう。


「……それよりさ、ボクと姉ちゃんからしたら、恩人のライブリンガーに用意できる寝床が、こんなとこで悪いなって思ってるくらいなんだけど……」


「いや、そこはビブリオが気にすることはないさ。いま私が人前に姿を現しては怖がらせてしまう」


 そうだ、私は異物なのだ。それも人々の敵と通じる特徴を持った。

 重ねてになるが、そんなモノを受け入れられる者ばかりではない。

 すぐに私を受け入れてくれたビブリオやホリィでさえ、猛獣から守った直後では疑いや怯えの目を向けていたのだ。

 あんな風に怯えられるのはなるべく避けたいものだ。

 ……うん。改めて考えて見れば、自覚している以上に引きずっているようだ。


 それはともかく、それ以上に恐ろしいのは、私を命を救った存在だとかばったビブリオやホリィにも疑いの目が向くことだ。


「それに、この納屋の居心地も案外悪いものでもないよ」


「ホントに? こんな暗くてごちゃごちゃしてるのに?」


「そうだね。だがそれがいい、と言ってはおかしいかな? この暗くて物が多く積み上げられたのが落ち着くんだよ」


 ビブリオは寝床としてはひどいくらい粗末な場所だと思っているようだが、私にとってはこの雰囲気がどうも馴染むのだ。

 これがいわゆる実家のような安心感、というものだろうか。実家というものがあったのか、それさえ記憶にない私がいうのもおかしいだろうが。


「落ち着くって、なにか思い出したってこと?」


「いや、そう言うわけではないよ。だが、もしかしたら私は以前にこういう雰囲気の場所を寝床にしていたのかも知れないな」


 だから気にすることはない。と、私はヘッドライトでウインク。

 するとビブリオの顔は明るく晴れたものになる。


「それでもさ、やっぱり閉じ籠ってなくちゃいけないってよりは、自由に出入りできた方がいいんじゃないの?」


「それは……そうだね。ビブリオやホリィが合間合間に様子見に来てくれるから退屈はしないが、それでも自由が多く許されているのはありがたいな」


 思い立ったところで辺りの様子を調べに行ったり、心配になったその時に見回りに行ったり。そういう自由があればありがたい。

 何より、友人知人の危機を知りながら、人目を忍ばねばならないがために身動きができない、というような状態には陥りたくない。


 そんな私の正直な考えに、ビブリオは「そうでしょうそうでしょうとも」と繰り返しうなずく。


「やっぱり、隠れてなきゃいけないっていうのは何とかしなきゃだよね。いい感じに村の皆に受け入れてもらえたら、村の近くなら大丈夫ってできるのになぁ」


「しかし、ホリィとビブリオの紹介があっても、どこまで受け入れてもらえるものだろうか」


「うーん……こうなったら村のピンチに颯爽登場! 鋼鉄勇士ライブリンガーッ! とか?」


「それは……村に危機が訪れる事が前提になるね? 私の事を考えてくれるのは嬉しいが、それは……」


「だよねーボクもそれはヤダな。やっぱ今のは無しで!」


「そうだね。やはり信頼というものは一朝一夕に得ようとすると、どこかに無理が欲しくなる。コツコツと積み重ねていくのがなによりだよ」


「ホリィ姉ちゃんもそう言ってたけどさ。そのコツコツの積み重ねを始めるのも難しいんじゃないか」


 それはビブリオの言う通りだ。信頼を積み上げるための働きも難しい。それが私の誤魔化しようがない現状なのだ。


「……っと、フォス母さんに言いつけられてた仕事があったんだった。じゃ、また来るよ。それまでには色々考えてくるから」


「ああ、ありがとう。しかしビブリオも大変だね。なまじ魔法が達者なだけに、頼られることも多いんだろう?」


 ホリィから少しだけ聞かされた話だが、ビブリオは十歳と言う年齢からするとかなりの使い手なのだという。

 そもそも、天冥水火全てを器用貧乏にならないように使いこなせるだろう才そのものが稀有なのだ、ということらしいのだが。


 それだけに遊びたい盛りだろうに、頼られる仕事が多くなってしまっているのだろう。


「まぁね。でも、ホリィ姉ちゃんや母さんたちの力になれるのは嬉しいからさ!」


 しかし当のビブリオは、明るい笑みを浮かべて力こぶを叩いて見せる。


 そう言って神殿長のいいつけの通りに働きに向かうビブリオを、私は気を付けてと見送る。そうして閉めきられた納屋の中で、彼の残した光を見つめる。


 十歳のビブリオもそうだが、村の神官をやっているというホリィだって十五歳だ。まだまだ学び、遊んでいておかしくない年齢のはず。


 生きていくために必要なのだろう。それは分かっている。

 だが子どもと言っていい彼らが、働き手としての仕事を優先しなくてはならないのには、どうしても違和感を拭えない。


 こんな違和感を感じる私は、いったいどこから来たというのだろうか。

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