162:空への援護もさせてくれないから
「がんばって、ライブリンガー!」
水晶板に映った、空に昇ってく澄んだオレンジと濁った緑の光。友だちとその宿敵をボクは見送るんだ。
でも、ボクも空のかなたの戦いを見まもってるだけじゃいられない。
「いくわよビブリオ!」
「任せて姉ちゃん! とりかじーッ!」
一緒にオーブを握ったホリィ姉ちゃんのかけ声に合わせて、ボクもライブブレスからの魔力を送る。
これでヤゴーナの夜明け号は、波立つ海を左方向に舵を切るんだ。
「ボクらだってだまってないんだからな!!」
それで右側の魔力砲から、ディーラバンの操るサーペントドラゴンに雷と炎のかたまりを発射してやるんだ!
この魔法弾の雨あられにディーラバンは手綱の動きを逆に。バンガードサーペントの動きを無理やりに切り返させるんだ。
だけどそれはミクスドセントの仕掛けてた網にぶつかって、波に巻かれたところを魔法弾と合体聖獣の斧に殴られるんだ。
「どうだ! 機兵の槍を取りつけた魔力砲だぞ!? ただ勇士のみんなを運ぶための船なんかじゃないんだから!」
バッチリに決まった援護にボクと姉ちゃんは顔を見合わせてうなずき合うんだ。
でも浮かれてなんかないよ。反撃が来るはずだって、外の様子を見せてくれる水晶板から目をはなさず、船の回転の水かきもゆるめてないんだから。
「危ない! 逃げろーッ!?」
なのにライブブレスから飛び出した警告はまさかで、何からどう逃げたらいいのって水晶板を探しちゃう。だってディーラバンの操ってるサーペントは船からの魔法弾に埋もれてて――
そんな風に思ってたら船が揺れる!
これはミラージュハイドが荒っぽく飛び乗ったからだけれど、本命のはこの後だった。
ミラージュハイドが空に向けた燃える木の葉と雪の吹雪を押しつぶして、青い炎が降ってきたんだから!
「うわっほい!? 姉ちゃん、防御!」
「やってるわ!!」
まさかの上からの攻撃に、ボクらはマジックバリアを全開にして船を全速前進!
めちゃくちゃに揺さぶられちゃうから、ボクも姉ちゃんもおたがいに抱きあって、操縦のオーブにしがみついてく。
それでようやく攻撃から抜け出したボクたちは、水晶板から外の様子を見る。
すると後ろ側を見せてくれる板には、長い鋼の体をくねらせて空を泳ぐサーペントドラゴンの姿があったんだ。
「ボクらの攻撃に隠れて飛んでたっての!?」
しっぽにぶたれないように船を逃がしながら、ボクらは鋼魔の近衛騎士にしてやられたんだって思い知らされた。
でもくじけてなんかいられないんだ。だってヤゴーナの夜明け号はまだ沈んでなんかないんだから!
「向けられる魔砲を全部だ!!」
後ろ向き、それも空を狙えるのはそんなに無い。でも構うもんかって、ボクはとりあえず使えるの全部に天の魔力を吐き出させる!
フクロウ型になった雷弾の連射は空に泳ぐ巨体にぶつかっては弾けてく。
全部が当たったワケじゃない。でもうっとおしいって思ったのか、ディーラバンはこりないならもう一発やるかって感じに、サーペントドラゴンの顔をこっちに向けさせるんだ。
「逃げて! 動け!!」
これを見たミラージュハイドがあわてて急がせて来るけど、言われなくたって!
でも空を泳ぐメタルサーペントの鼻先はもう夜明け号のお尻近くにまで来てる!
「そこでテトラジェイルだ!」
だけどミクスドセントハーモニーが割り込ませてくれた結界が、サーペントの顔面を受け止めてくれたんだ。
ホッとするボクらの見てる中で、傾きの違う四角をいくつも重ねた結界が、檻か縄になってディーラバンとその騎竜を捕まえようとする。
だけど閉じきる前にサーペントは結界に滑らせるみたいに体をくねらせて、その勢いで黒いのが上から飛び立つんだ。
「黒騎士ッ!? させるかよッ!?」
ボクらを狙う。そのために夜明け号に乗り込もうとしてる。
そんなことはさせないって、ミラージュハイドとミクスドセントは船の守りを厚くしてくれる。
だけど黒騎士は、蒼い炎を巻きつけた槍を構わずに投げつけたんだ。
ボクらの乗った船じゃなく、自分が乗ってたサーペントドラゴンを捕まえる檻に。
「んなッ!?」
勇士たちならそうするだろう。そう読みきっていた動きに、誰からともなく声が出る。
その間にメタルサーペントは結界のゆがみをこじ開けて海へ飛び込んだんだ。
馬代わりにしてたバンガードに遅れて海に消えたディーラバンを追いかけて、ミクスドセントもミラージュハイドも攻撃を投げこんでく。だけれど爆発する水面にかまわないで泳いだ長くて大きな影は、船のまわりを大きく回りながら逆に炎や槍を投げ返してくるんだ。
「ボクがうち落とすから、姉ちゃんは!」
「守りなら任せて!」
水中からのディーラバンの攻撃を姉ちゃんといっしょにしのぎながら、ボクは距離を取ろうって船を動かしてく。
だけど黒騎士が手綱を握るメタルサーペントは夜明け号からまったく離れてくれないんだよ!
「じわじわって遊んでるみたいに! しかけるんならやればいいじゃないかッ!?」
イライラさせられた勢いで叫んじゃったのが聞こえたわけじゃないと思うけれど、ディーラバンの乗ったサーペントの影が沈んだんだ。
「下からやるつもりッ!?」
やっちゃったかもって気持ちで、ボクはあわてて船を急がさせるんだ。
「ミラージュハイド、守りは任せたッ!!」
「なんと、四聖獣さんッ!?」
その一方でミクスドセントが海中にダイブ!
そりゃ、潜って追いかけるんならドラゴの力も持ってるミクスドセントが一番だろうけどさ。今までやらなかったのはそれでも不利が勝つからって思ってたからだよねッ!?
「ええい! 出来るだけ惑わしてやるしかないかッ!!」
それでもためらいなく飛び込んだミクスドセントに応えなきゃって、ミラージュハイドが炎と氷をバラまいて海の上に夜明け号の偽物を作ってくれる。
二人が支えてくれてるのにボクらもやらなきゃって船の守りとスピードを上げてく。
込めたパワーに船の中が低くうなる。
けどそれだけみなぎっても、船は動かないんだ。
渦巻き始めた海に足を取られて動けなくされちゃったんだ!
「なに、なにこれ!?」
「ディーラバンがやらせてるの!?」
混乱するボクたちをよそに、ミラージュハイドの作ってくれた幻を突き破って空に飛び出すのが。
ディーラバンがしかけてきたって構えたボクたちだけど、水柱を上げて打ち上げられたのはミクスドセントハーモニーだった。
だけどそれといっしょに渦巻きはスンって収まって、今だって感じにボクは船を全速力で動かしてく。
「ありがとう、ミクスドセント!!」
吹き飛ばされても渦を消してくれたんだろう勇士に姉ちゃんがお礼を言う。けれど頭の白い羽根を羽ばたかせて構えなおした合体四聖獣は、違うんだって。
「私だけではない。海中で味方してくれたモノがいたのだ!」
海の中の味方って、それってまさか!?
そう思った瞬間、また夜明け号の幻が水柱に割られて吹っ飛ばされちゃう。
空に舞い上がったのを見て、ボクたちは船の甲板をその下にすべり込ませてくんだ。
ズドドンって船を揺らして落ちてきたのは、鋼の魔獣が二体。
ワニ型とタコ型のそのふたりっていうのはもちろん――
「グランガルト、ラケル!?」
「やっぱり来てくれてたのね!?」
「おー! おくれて悪かったなー!」
「グランガルト様がやる気になったなら来ないわけにはいかないじゃない?」
元仲間と戦うのをイヤがってた、鋼魔水軍の長と副官だ!
このふたりが人型に変身して親指を立てて見せてくるのに合わせて、サーペントドラゴンのバンガードも船を大きく外れた後ろから空へ飛び上がるんだ。
食いついたサメやらなんやらの魔獣を身体中にぶら下げて。




