161:今、決戦の火蓋を!
海原を進むヤゴーナの夜明け号。
私ライブリンガーと、頼もしい仲間たちを乗せて進むこの船は、その巨体と動力であるビブリオとホリィのバースストーンエネルギーによって、海の魔獣たちが向こうから退いていく威容を誇っている。
「見えてきたな」
そんな堂々たる船体の上。舳先の指す先を睨んでグリフィーヌがつぶやく。私も人型へチェンジして上げた目線で確かめたならば、水平線を歪めるモノが見えた。
アレこそがネガティオンの指定した決戦の地。ヤゴーナの大陸内海と外界の堺にある狭間の島なのだろう。
いよいよか。いよいよ私はネガティオンと、別たれた私自身と決着をつける時がやってきたのだ。
この戦いの予感に、私は船の心臓部にいる友へ通信を送る。
「ビブリオ、ホリィ。見えてきたからにはそろそろ襲撃があるかも知れないが、大丈夫かい?」
「わっほい! ボクらのコトなら平気。心配しないでって!」
「ええ。ライブリンガーたちがみんなでパワーを注いでくれていて、私たちはそれを制御しているだけだもの。疲れなんて全然よ」
うん、頼もしい。
このすかさずの行けるよとの返事に、私は反射的にうなずいていた。
ホリィが言ったように戦場で息切れを起こさないように、私たちからエネルギーを注いだのは確かだ。だが制御するだけと言っても大きな力のコントロールには気を配るものだ。それを難なくこなして船を操る二人の技量は称える他無い。
「私たちも見習わなくてはならないな、ライブリンガー?」
「そうだね。だが、グリフィーヌも任されてくれるのだろう?」
「言われずともだ。だが私も手綱の一部を預かる以上は、危機的状況にあっても強制排除など受け付けないからな?」
こうやって気負い無く承けてくれるのは本当にありがたい。そして、私に最後まで着いてきてくれようとする気持ちもだ。
「もちろんだとも。全員が一体となってでなければ、ネガティオンとはとても戦えないだろうからね」
ネオネガティオンとも互角以上に戦い得るだろう、私の、いや私たちの最強形態ライブリンガートリニティ。
それほどまでに凄まじき力であるだけに、そのコントロールは誤るワケにはいかない。
そんな決意を心に、私は三台のマキシビークルをここへ呼び出す!
「スーパーライズアップ!!」
掛け声に合わせ、三つのビークルは空に光のレールを敷きながら、高さの異なる円を描いて走る!
その内、まずは高くと低くを走るマキシローラーとマキシローリーがチェンジ。その間にカーモードで飛び込んだ私を挟んでマックスへ。
そこへ結界を為した円へ上から潜る形でグリフィーヌがダイブ。マキシマムウイングとして私の背に。同時に分解したマキシアームが肩や胸部、腰や両足に合体。胸の猛禽と熊に挟まれた太陽と、大型化した日ノ出を模した冠が燦然と光輝いて、最大最強の形態は完成する!
「ロルフカリバーッ!!」
「ここに!!」
グリフィーヌと声を揃えての呼び出しに、私たちの剣は威勢良く応じて柄から手の中に飛び込んで来てくれる。
「では行こうかライブリンガー?」
「勝ちに行きましょう!」
こうして完全武装を果たした私の後ろから、四聖獣合体のミクスドセントハーモニーと、左右双子合体ミラージュハイドが。
「ああ。最初から出し惜しみ無し。全力全開でだ!!」
私の号令に皆は応と力強く返して、揃って甲板から飛び立つ!
私とミクスドセントはその翼で島めがけて空を駆け、ミラージュハイドは海を走ってだ。
そうして進撃を始めた私たちへ、予想通りに島の側からも光が放たれる!
あいさつがわりとばかりに、しかし躊躇無く私とその背後にある船を狙った極太の濁緑に、私は胸と額からのプラズマブラスターを発射。
反発するエネルギーの奔流は、互いに喰らい合い消滅する。
この余波で削れた海面が戻るのに合わせて激しく波立ち、それに乗じて一頭の水龍が姿を現す。
全身が金属の甲殻に覆われた長い体を持つサーペントドラゴンは、紛れもなくバンガード化されたモノ。しかも角を生やしたその頭には蒼い炎を手綱と繋いだ黒騎士、ディーラバンの姿もあった!
「……我が王の前に出る資格があるのか、私を越えて示すがいい……!」
そう言って彼は右の槍と左の手綱を巧みに、サーペントドラゴンのブレスと同時攻撃を放った!
「こいつらは我らに任せて、ライブリンガーはネガティオンを!」
ミクスドセントは請け負いながら斧を振るって作る結界でブレスを弾く。また一方の槍はミラージュハイドのスローイングダガーが。
しかしすかさずに水面を破って振るわれた尾と、そのためにうねった巨体が、二人を大きく後退させる。
だが私も二人の支援に回ることは出来なかった。何故ならばもう一撃のエネルギー砲とエネルギーミサイルが私を狙って殺到していたからだ!
対して私はシールドストームによる盾を纏い、同じく右回転防御エネルギーを帯びたロルフカリバーで切り払う事で進行ルートを切り開く。
だがその先には待ち構えていたかのようにビットクローが!
ネオネガティオンの機体の一部。特に鋭利な部位を切り離した独立攻撃ユニット。ヤツが常に纏う対消滅エネルギーを帯びたその爪に、私は額のプラズマブラスター、同時のサンダークロー!
グリフィーヌの用いる爪の技、それを質と量共に大幅増幅したそれは、ウイングを起点に全方位に拡散。
そこからネガティオンのビット、エネルギーミサイルと絡まりもつれ合い始める。
互いを狙いドッグファイトする私と半身の追尾弾。それをよそに私はバスタースラッシュとシールドストームを叩きつけるストームバッシュでもって島からの砲撃を切り裂いてゆく。
しかし私はその半ばで、視界にちらついたモノに反射的に横っ飛び。同時に両腰のパワーアームを振り上げる。
その先端にある鋼の爪が掴んだのは、また白銀の鋭利な爪。ネガティオンのビットクローだ。
「まだあるとッ!?」
先の戦いで見せたものよりも数が多い。その事実に面食らいながらも、同時にあの時は本当に手を抜いていたのだとの納得が私の心を満たす。
とにかく捕まえたのだからと、ビットを握りつぶす勢いで圧をかけつつバレルロール! その勢いに乗せて放り投げる。
合わせてローラーの回りっぱなしの腕でロルフカリバーを両手持ちに――
「クロスブレイドッ!!」
そして回転の勢いに乗せて横一閃!
飛ぶように伸びた激突する螺旋エネルギーは、破壊の力を放つ島をそれもろともに横薙ぎにする。
遠目にも見るからに形を変えた狭間の島は、それまでの勢いが嘘のように沈黙する。
しかしそれも一瞬のこと。島から飛び立った白銀が瞬きの間に私の視界を埋め尽くす。
その白銀が叩きつけてくる刃に、私からもロルフカリバーをぶつけに!
「ライブリンガーッ!!」
「ネガティオンッ!!」
互いに翼のスラスターを全開にしてのつばぜり合い。
この余波だけで直下の海はすり鉢状にたわみ、上空の雲さえもが千々に。
トリニティとネオ。やはりここまで増した私たちの力ならば、この程度の衝突でもこれほどの影響が生まれてしまうか……。
離島を目印にした洋上の戦いであってまだ良かったな。
「フハハハハッ! 今のには驚かされたぞ? ずいぶんと思いきりが良いな我が半身よッ!?」
「おかげさまでな! 私の片割れッ!!」
悠々と笑うネガティオンと私は互いの刃越しに光線砲を発射!
これで真っ向からぶつかり弾けたエネルギーに乗って私は間合いを開け、同時にサンダークローをばらまき上空へ。
鏡写しに動いていたネガティオンと共に、互いの追尾弾を引き連れながら、雲の上を目指すのであった。




