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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
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16:再び不穏な夢

 固くしっかりと舗装された道。


 はっきりとどこだとは言えないが、なぜか不思議と懐かしさを道の上を私は走っている。


 しかし運転手の男性のハンドルを握る手は強張っている。


 その原因は私のすぐ後ろを走る車だ。

 先ほどから極端に幅を寄せ、理不尽なクラクションと、聞くに堪えない罵詈雑言を散々に浴びせて煽ってきているのだ。

 そして煽り車の運転手は、私の運転手が怯えるさまを見ては、指をさして笑っている。

 こんな災難に遭っては落ち着いて運転など出来るはずがない。


 そうして執拗な煽りを繰り返してきた煽り車は、不意に私の目と鼻の先に割り込んだ!?


 これに私の運転手は慌ててハンドルを切る。切ってしまう。


 その結果私はスリップ。ガードレールを突き破って崖の下へ。

 落下の衝撃でひしゃげた車体が火を噴いてしまう。


 悪意をもって命が奪われ、破壊された悲しみと口惜しさに苛まれながら、私の意識は炎に呑まれる。


 そうして炎を区切りに景色が切り替わると、まず目に入ったのは山羊の顔だった。


 総金属製で羽を備えたその山羊は、たしか鋼魔の参謀であるバルフォットだ。


 いきなりに現れた敵の顔に、私はもしや攫われたのかととっさに構えようとする。が、全く動かない。

 しかし、慌てて構える必要もなかったのだが。


 なぜならば、バルフォットは首を白く巨大な腕に掴まれ、吊るされていたからだ。

 色は正反対であるが、視界に映った位置関係と感覚から吊るしているのは私であるようだ。しかし、離そうかと思っても目の前の手は指一本動かせないのであるが。


 この私の物のようでまったく私の自由にならない感覚。そして溶岩の光る洞窟の景色には覚えがある。

 前にも見た、別の体に押し込められて見た夢だろう。


 しかしバルフォットを片手一本で握って、軽々と吊るしているこの白腕のサイズ。バルフォットの体格がウィバーンやクレタオスらと大差ないとして……マックス形態の私の上を行くのではないか?


「お、お許しください……ネガティオン様ぁ……ッ!」


 それはそれとして握った手の中にいるバルフォットが震えながらに許しを請うている。


 私はもう離すつもりなのだが、あいにくと私が押し込められているこの体の持ち主、ネガティオンなる人物はそうでもなさそうである。


「……さて、改めて貴様が出した損害を数えてみよ」


 私とは違う太く低い声の問いかけに、バルフォットは掴み上げられた手の中でブルリと震えた。


「……ネガティオン様から頂いたイルネスメタルを破壊され、喪失いたしました」


 これを聞いて私の視界がうなずく形で上下し、掴むのとは逆の手で指が一つ立ちあがる。

 先を促すような無言のカウントに、バルフォットは固唾を呑むように言葉を詰まらせる。


「……に、人間撃滅のためにお借りしていた、魔獣たちの軍勢を壊滅させられ、ランミッドの峡谷砦……メレテ国攻略に失敗いたしました……!」


 絞り出すように並べた失態に、ネガティオンの指がもう二つ立ち上がる。


「このたわけ者がッ!!」


 そして怒りの声と共にバルフォットを地面に叩きつける。


「人間に味方する、我らと戦いうる敵が存在する。これを報告したのは誰だ?」


 言いながらネガティオンはバルフォットを投げて空いた手に光の玉を握って突き出す。

 そこには黒い鉄巨人、私の姿が映っている。

 恐らくはコウモリの偵察機と交戦した時に記録したものなのだろう、戦う私の姿を映した記録玉を突きつけられるのに、バルフォットは平服の姿勢だ。


「……に、逃げ帰ってきたウィバーン……そして我輩でございます……!」


「では貴様は、敵がいると知っておきながら、ろくな対策もせず、単純に砦の攻略を急がせたのか?」


 ひときわ声を低くしての確認に、バルフォットはひれ伏したままフルメタルボディを縮める。

 一度交戦した手応えと記録から、前に出てきた三人で充分だと判断したのだろう。

 だがいざ蓋を開けてみれば、マキシビークルと、それらと一体化したマックス形態を開封アンロックした私による鋼魔軍の壊滅である。


 データにない戦力のいきなりの登場である。無理はない。

 だが、かくし球が存在する可能性を考えなかったのは参謀としては減点だろう。


 そう返されるのが分かっているのだろう。バルフォットはマックス形態がデータ外であったことは口に出さず、震えてひれ伏し続けている。


「まーまーまー。ネガティオン様、参謀殿もブルッちまってますからそのくらいで」


「クァールズか」


「はいはい。迅将クァールズ、御身の前にでごぜーます」


 この場に現れたクァールズは足音もなくバルフォットに並ぶと、黒豹の体を伏せる。


「貴様、クァールズ!? 戦列に加わっていた三将中一人無傷で戻っておきながらよくも……ッ!」


 並びひれ伏すクァールズに、バルフォットは怒りの声を上げる。

 しかし責められた黒豹はゆったりと前足に顎を乗せるばかりだ。


「ちょいちょいちょい、フォローに入ったのにそりゃあないでしょうよ? それに俺はクレタオスとグランガルトにゃあちゃーんと早めに退くようにすすめましたぜ?」


 なだめようとするクァールズだが、その軽い調子が災いしてか、バルフォットの怒りの色は薄まらない。


「しかし! 貴様が……最後まで連携して援護をしていれば……ッ!?」


「たらればの話したってしょうがないでしょうよ? それに俺は俺で本領を……コイツをしっかりばっちりお持ち帰りしなきゃならんと思ったワケでしてね?」


 クァールズがバルフォットの仮定を遮り取り出したのは光の玉だ。

 ネガティオンが握るのと同じ、サイズ違いのそれは宙に浮かぶと、大きく膨らんで記録されたものを映す。


 それも私だ。

 ただし腕にローラーを着けた黒い巨体は、三機合体をしたマックス形態の、だ。


 記録映像の中で猛威を振るうマックス形態の私の姿は、我ながら軽く引いてしまうほどのものだ。

 バルフォットに至っては、顎のパーツが脱落しかねないほどになってしまっている。


「これが、巨大化したライブリンガーだというのか……!?」


「自称、ライブリンガーマックス……だそうで、このデータはきっちり持って帰らなきゃあと思った次第でしてね」


「ほほう。これが件の敵とやらか……これは良い情報だ。でかしたぞクァールズ」


「お褒めにあずかり光栄でっす」


 ネガティオンも満足げに認める情報収集の成果に、バルフォットはぐぬぬと呻く。


「……この情報の持ち帰りを優先したのは確かに、確かに正しい判断と言えるでしょう……しかし、このライブリンガーをどうにかして始末しなくてはならないわけですが……」


「あ、俺はそう言うのはパスで」


 速攻でいち抜け宣言するクァールズに、バルフォットは反射的に立ち上がる。


「きさ……貴様、クァールズ!? そんなのが通るかッ!? しかもネガティオン様の御前で、よくも堂々と言えたものだなッ!?」


 確かに、彼らがひれ伏すということは、ネガティオンという人物は鋼魔の首魁ということになる。

 そんな相手を前にはっきりと大仕事をパスすると宣言するとは、なんとも肝の据わったことだ。


 しかし私と視界を共有しているネガティオンは叱りつけるでもなく、どっしりと椅子に腰かけて、配下のやり取りを眺めている。


 そんな見守る姿勢の主君の前で、クァールズは角を突きつけてくるバルフォットに対してため息混じりに肩をすくめる。


「そうは言うがね。正直俺にゃ勝ちの目が見えやしないよ? 勝算があるならともかく、ないのに挑むのは無謀ってもんじゃあないのかね?」


「……しかしだからといって、アレを野放しにしておくわけには……こちらの軍勢再編には、どうしても幾ばくかの時間が必要なのだぞ?」


「さすがに好き放題にさせる気はないぜ? 足を引っ張るなり、情報収集なりはばっちりやらせてもらうさ。ただ正面からガチンコやるのは流儀じゃないんでパスってこったね」


 働くつもりはある。

 ただし諜報、斥候役としての範囲内に限って。


 さも当然のように言い放つクァールズに対して、バルフォットは苛立ちのままに顎を軋らせる。


「ええい! 誰ぞ、我こそはと名乗り出るものは無いのかッ!? 我ら鋼魔に盾突く愚か者を退治てくれようと名乗り出るものはッ!?」


 そしてやけっぱちに勇猛な戦士を求めて叫ぶ。


「ほほう。随分と面白そうな話をしているではないか」


 そこで不意に艶のある声が洞窟の奥から響いてくる。

 足音を響かせながら現れたのは、翼を背負った鉄巨人だ。


 翼と言ってもウィバーンのような刺々しいものとは違い、羽毛に包まれた鳥のものを思わせる滑らかな流線形だ。

 頭部はゴーグルにシャープなマスク顔という無機質なものであるが、高めで艶を帯びた声に、細身で丸みを帯びた起伏に富んだボディからするに女性型……鋼魔族の女戦士というやつだろうか。


「グリフィーヌ。お前が出るというのか?」


「へぇーえ? 最近じゃ人間ども相手の戦はボイコット気味だったってのによ」


「フン。人間の兵士相手ではどれだけの大軍だろうと戦う甲斐が無いのでな。私がやりたいのは、歯応えのある相手との力と知恵を振り絞った戦いなのだからな」


 バルフォットとクァールズが揃って窺い探るような目を向けるのに対して、グリフィーヌと呼ばれた女戦士は肩を揺すって軽く笑い飛ばす。


「それで、まさか私が討伐を引き受けるのに否やはないだろう? 我こそはと名乗り出るのを求めたのはバルフォット殿自身で……機動力、戦闘力を考えれば私以上の適任はいるまい?」


 自分を差し置いて他の誰に務まるのか。

 堂々とした立ち姿でそう語るグリフィーヌに、バルフォットは意見を求めるように私を……もといネガティオンの顔色をうかがう。


「ではグリフィーヌ、貴様に任せるとしよう」


「ハハッ! ありがとうございます!」


 主君の許可を受けたグリフィーヌはその姿をワシの前半身にライオンの後半身の形態へとチェンジ。外へ通じているのだろう洞窟へと駆け出すのであった。

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