159:決戦に向かう者と
「親方さん、どう?」
決戦用の船、ヤゴーナの夜明け号。その甲板に乗ったボクは、仲間の先頭で鍛冶屋の親方さんに声をかける。
ロルフカリバーの体になったライブリンガーの剣を作ってくれたり、他にも色々とボクらに味方してくれたり。そんな頼もしい親方さんも、この船の作り直しをやってくれてるんだ。
「おう! ご一行おそろいで! 順調も順調よ。きっちり仕上げてみせるから待っててくんな!」
角ばった無精ひげ顔に豪快な笑顔を浮かべて言うなら、なんにも心配いらないよね!
なんて思ってたけれど、親方さんの笑顔からとたんに勢いが無くなっちゃう。
「……って言っても、俺は船大工じゃあ無いからできることもそんなに無いんだが。まあ船部分には手を出す必要も無かったから良いんだかな……」
「それはそうでしょうとも父上。そもそもが用意するのは船の装備と外装だけという話でしかなかったでしょう」
不完全燃焼な風の親方さんにロルフカリバーがそう言うと、親方さんは分かっちゃいるんだがな、って肩を回してほぐす。
「……俺らのために戦って下さる勇者様がた。そのためにもっとしてやれることはあったかもしれんって思うとなあ……機兵回りの技術は盗みに行っとくべきだったかもしれんとな」
ため息混じりに力不足だって言う親方さんだけど、そんなこと無いよ!
「何を言うのか。新たな勇者の剣や父である稀代の鍛冶師が」
「まあそれは、ウチの工房末代までの誉れと言えるが、いやしかしだな、いまこの仕事がどうかと言うとだな……」
グリフィーヌに先回りされたひと言にも、親方さんの顔が晴れたのは一時だけ。そりゃあ、今の仕事でホントならもっとできることがあったかも、なんて思えちゃったらそうかもだけどさ……。
「そんなこと無いよ。ライブリンガーを、ボクたちを助けてくれようって、親方さん今までずっと働いてくれたじゃない!」
「そうですよ。親方さんの支えが無ければ、これまでにどうなっていたか。それに、機兵の技術を……といっても、それで親方さんに何かあれば悔やんでも悔やみきれませんよ」
「おお……! そう、そうだな! なんにせよ過ぎたことは仕方ない! 今できる最高の仕事をしてやるしかないからな!」
ライブリンガーからも声がかかって、気合の入った親方さんに、ボクらはみんなそれでこそって声を上げる。
「よっしゃ! 魔王でも穴が開けれないくらいにとびきり頑丈に仕立ててやるからな!」
そうして腕まくりに仕事に取りかかる親方さんに、ボクらは拍手で見送るんだ。
と、そこでいきなりひどい水柱が上がって、船が揺れる。
「イヤだぞー! おれは行かない! 行かないからなー!!」
「ええい! 我儘を言うな! 我々に味方すると決めたのだろう! ならネガティオンとの決戦にも参加するべきだ!」
「グランガルト様はイヤだって言ってるのよ! 第一、ライブリンガーとはそれでも良いって約束してるんだから、今さらダメなんて無しじゃないの!?」
「グランガルトとラケルに、ガードドラゴ!?」
波を立てた犯人の登場に、ボクが声を上げると、三人ともこっちに気づいたみたいで、またおっきな水柱を上げて甲板に上がってくる。
普通の船だったらこの水あげだけで沈んでるだろうけれど、ちょっと揺れるだけですむあたりやっぱヤゴーナの夜明け号ってスゴい船だ。
「いや、騒がせてすまない。グランガルトらにも参戦するように説得していただけのつもりだったのだが、つい熱くなってしまった」
ガードドラゴはドラゴンモードの長い首を下げて騒動を起こしてしまったことをあやまってくる。
まあでも熱が入るのもしょうがないよね。ネガティオン相手じゃあ、戦力どうしても勇士たちに限られるからちょっとでも多くほしいし。
「だからなんど言われてもイヤだぞー! ネガティオンさまこわい! パワーアップまでしてちょーこわいぞ! 殺されるー!!」
「そうよ! そっちと違って、私たちには合体してパワーアップなんて無いんだから! それにそもそも無理にネガティオン様相手に戦わなくても良いって約束だったわよね!?」
対してガンコに断ってるのがグランガルトたちだ。復活パワーアップしたネオネガティオンを怖がってチカチカした目で、約束にすがるようにライブリンガーを見るんだ。
「そうだね。私は確かにそう約束したよ」
「うむ。約束を交わした以上は誠実にあるべきだな」
ライブリンガーとグリフィーヌのこの言葉に、元・鋼魔の二人組はそうだそうだって声を上げる。
「そうは言うがな……」
「やめてあげてよドラゴ。みんなのために味方がほしいっていうのは分かるよ。でもさ、ムリじいしたって良くないよ」
だってこっちもしょうがないんだよね。
最初にグランガルトとラケルを味方につける時に、ネガティオンとの戦いはムリにしないでいいって約束してたんだから。今さらイヤだって言ってるのを戦えーは無しだよね。
「……しかたない、けど残念だな。グランガルトたちは、ボクらといっしょに立ち向かってくれるかもしれないって思ってたからさ……」
ポロッと出しちゃったひと言に、グランガルトとラケルは気まずそうにチカチカした目をそらした。
やっちゃったとは思うけど、期待してたって言うのも本当だし、今さら取り消すのも違うしでどうしたらいいんだろう。
「いいんだよ、来て欲しいって思うビブリオは何も間違ってない。そして、行けないと思うグランガルトたちもだ」
そうやってぐちゃぐちゃ考えてたら、いつの間にか変身してたライブリンガーが気にすることないってボクらに手をそえてる。
「いやー……でもなー……」
「ここでちゃんと味方しといた方が、後々の印象も良いだろうし、もし勇者様がたが負けたりしたら処刑されるだろうから、ちょっとでも勝てる可能性上げた方がいいですものね」
これにグランガルトとラケルは、参戦した方がいいんじゃないかってお断りの態度をゆるめる。けれど、ライブリンガーはゆっくり首を横に振ってそれは違うって。
「申し出はありがたい。だが、恐怖を乗り越えられたのでないのならやめた方がいい。臆して生き延びられるほど、ネガティオンとの戦いが甘いものでないというのはよく分かっているだろう?」
「ライブリンガーの言うとおりだな。戦いの先のことなど知らぬがどちらにせよ、深海に引きこもれば生き延びる目も無ではないだろう」
せっかく拾った命を捨てることないんだって。ライブリンガーもグリフィーヌも言う。けど、それってなんかおかしいよ!?
「待ってよ二人とも!? そんなこと言うの、なんからしくないよ!? やさしくないよ!?」
気をつかってるようだけど、期待もしてないって突き放すみたいでさ。
普段ならもっと、無理は言わないけど勇気を出すんだって熱く励ますじゃないか!
「だがそもそもの約束を違えるように強いるのは違うだろう?」
だけどグリフィーヌはさらっと最初の約束があるんだからって。それにライブリンガーもやさしい顔でうなずいてる。
「それは……そうだけど、だけどさ……」
グランガルトのこともラケルのことも意気地無しだって決めつけちゃうのはさ……。
「……じゃーやくそくだからなー! ホントに行かないからなー!!」
だからグランガルトもスネて海に飛び込んじゃった。続いてラケルもこっちにペコリって頭を下げてメカタコ足をしならせてジャンプ。二本目の水柱を上げるんだ。
「そんな……ここでお別れだなんて……」
引きとめるチャンスも与えてくれずに海に戻ってった二人組を見送るしかなかったボクの目の前を、クルマに戻ったライブリンガーがふさぐんだ。
「なんであんなこと言ったのさ!? ちゃんと説得したらグランガルトだってさ!?」
止める間も無かったのが残念だったから、八つ当たりに声をぶつけちゃう。
「本当に戦える気持ちになれたのならきっと来てくれるさ」
「そうでないなら戦場から離れている方が互いのためというのもあるが、まあそこは信じているからこそ、というヤツだな」
グリフィーヌと合わせてでそう言うけれど、そんなにうまくいくのかな。これから決戦だって言うのにホントにまとまれるのか。そんな心配がボクの胸の中に残ることになっちゃった。




