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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第六章:災いの源
158/168

158:当たり前の日の出が来ますように

 ボクはビブリオ。

 ボクたちは今、港町で吹き付けてくる潮風を受けながら海を眺めてる。


「この先でネガティオンたちが待ち構えてるんだね……」


 ボクが見つめる先には丸まった水平線が。その向こうには、ライブリンガーの宿敵のネガティオンとの戦いの場所になる島があるんだ。

 姉ちゃんを助けて、邪神もやっつけたボクたちはその場に居たネガティオンと決戦の約束をしたんだ。


「そうね……どうしても、戦わなくてはならないのかしら……」


「それは、無理だろうね……もはや人への憎しみは、もうネガティオンがネガティオンである理由でもある」


 クルマ姿のライブリンガーが、どこか辛そうに、でもはっきりとやるしかないよって。

 前にライブリンガーから聞かせてもらったことがある。

 異世界でもともと一人だったライブリンガーとネガティオンには大事な友達がいたんだ。でもその人が、人間に殺されてしまった。

 だけど友達の同族だから人を大事にしたいって気持ちがライブリンガーになって、大事なものを殺した仇だって憎しみのかたまりになっちゃったのがネガティオンなんだ。

 ネガティオンの気持ちは分かるけれど、きっと殺されちゃった友達も、そんな憎しみに染まっちゃったネガティオンのことを悲しむと思う。

 だからライブリンガーも、そんなネガティオンの辛さが分かるから、ゆずれないことになってるって痛いくらいに分かってるんだよね。


「……それでも、どちらかが倒れるまで終わらない戦いをする必要なんて……だってネガティオンだって、ライブリンガーなのに……」


「ありがとう。ホリィは優しいね。私も、出来るのなら戦わずに済ませられたら、とは思うのだけれどね……」


 姉ちゃんの気持ちにお礼を言うライブリンガーだけれど、思うけれどってことは、やっぱりむずかしい、無理だって思ってるんだよね。


「うわっほい。なーにを黄昏てんだい、アンタらは!」


「わっほい!? 母さんッ!?」


「お、おどろいたー……もう、先生ったら」


 後ろからボクらをまとめて抱えたのはフォス母さんだ。

 母さんはボクらを抱えた腕をそのままぎゅって狭くしてくる。


「く、苦しいよ、母さん」


「何をだらしないことを言ってんだい、勇者様御一行が。これで落ちちゃうようじゃあ魔王との決戦になんざ行かせられたもんじゃないね!」


 降参だって言うボクたちに、母さんは構わないで腕の力を強くしてくるんだ。いやもうちょっとこの加減はシャレになってないよね!?


「うう……ら、ライブリンガー! 助けてよー!?」


 優しい目をして見てる場合じゃ無いんだけど!?

 このままじゃホントにボクも姉ちゃんも、決戦を気絶したまま寝すごしちゃうよ!?


「フォステラルダさん、どうかそれくらいで。お願いします」


「……しょうがないやねー」


 ライブリンガーが目を下げてお願いしたら、ようやく母さんはボクらを抱きしめた腕をゆるくしてくれる。

 その腕がまたいつしめてくるか分かんないから、ボクも姉ちゃんも母さんのに腕をからませておく。


「もう、強すぎるよ母さん!」


「なーに言ってんだい! こんなもん育ての親と子のちょいと雑なふれあいじゃあ無いかね。こんなもんアンタらが潜ってきた修羅場に比べりゃ軽い軽い!」


 言いながらフォス母さんは、やっぱり巻きつけた腕をしめてくるから。おじゃまに挟んどいた腕がさっそく役に立つ。


「もう、先生ったら!」


「はっはっは! 照れるないって! しかしアンタらも、連合中で称えられるようになって立派なもんだよ。勇者様の仲間としてアンタらを乗せるために、あんな船が用意されるようになったんだからね」


 そう言う母さんの目は、港に繋がれた船たち、その中でも特に大きな船に向いてる。

 マストが無いその船はやたらに大きな船体全部を鉄で包んであって、よく沈まないなって感じだ。セージオウルが言うには船そのものが重くても浮かせる力、浮力が上回ってれば平気なんだってことらしいんだけれど。

 そんな船は、決戦のために今作られてるヤツじゃあない。

 ウィバーンが作らせてた騎兵船のもう一隻。王太子が乗るためにって用意させてたヤツなんだ。

 ウィバーンが消えて、心臓役だったイルネスメタルも消えた。だからこの船もただの浮かぶ鉄にだったんだ。それをじゃあバースストーンを代わりにして動かそうってなって、使えるように直してるんだ。


「メレテの栄光号改め、ヤゴーナの夜明け号。うん! 陛下にしちゃあなかなかいいセンスじゃないかね。麗しのホリィ号とか名付けられるよかよっぽどさ!」


 この言葉にボクも姉ちゃんも目をそらす。それにライブリンガーだって、目を体の中にしまっちゃった。

 母さんが感心してるのに言えないよ。最初はその名前つけようとしてて、姉ちゃんにイヤがられたからしぶしぶ代わりにってつけた名前だなんて。

 ボクはキライじゃないけど、そういうの姉ちゃんの趣味じゃないもんね。そのあたり、王さまってよく分かってないんだよね。


「そもそもが、アレはビブリオとの二人がかりで動かすことになっているからな。片割ればかりを強調したその名前は良くないと、他の首脳たちからも否定されていたからな」


「なんだい翼様。最初はその名前で行こうとしてたってのかい? 見直して損しちまったかね!」


 言わないでおいたボクらの気づかいは、けっきょく降りてきたグリフィーヌにバラされて台無しになっちゃうんだけど。……まあいいか。


「ともかくあの船と護衛の船、そして私たちもいる。……が、安心しろとは言えないか。それでも心配は尽きないというものだろうがな」


「それを言ってくれちゃうかね」


 グリフィーヌの言葉に、母さんは困り笑いを返しながらボクらを抱えた腕に力を入れてくる。

 それは離したくない。行かせたくないって言ってるみたいでさ。

 そうか。そうだよね。母さんからしたら心配になるよね。ボクと姉ちゃんだっておたがいのことを心配になるんだから。

 いつも堂々としてて肝のすわってる母さんからしたららしくない感じだけど、見送る母さんからしたらそんな気持ちになるよね。


「信じて待っててよ。母さん」


「そうね。私たちで拓いてた村もまだまだこれからなんだもの。きちんと仕上げて、先生にも見せたいんだから。だからみんなで帰ってくるから」


 このボクらの言葉に、母さんはニッと晴れた笑い顔になってボクたちふたりをぎゅって抱きしめてキスしてくる。


「……ったく、いっちょまえに言うじゃないか!  そこまで言うなら、そのうち絶対にアタシに孫抱かせてやるくらい言えばいいもんを!」


「ま、孫って……それは、先生には必ず会わせるつもりだけれど……」


 照れちゃった姉ちゃんのキレイな金の髪と、ボクの赤い髪を、母さんは抱えたまんまワシャワシャって。

 あらっぽい手つきだけど、この母さんらしいのがなんかうれしくなってきちゃうんだ。

 母さんはそれで満足したのか手を止めると、あらためてライブリンガーの方へ振り返る。

 これにライブリンガーもグリフィーヌも、だまって並んで向かい合うんだ。


「勇者様がた……いや、アンタらももちろん帰ってくるんだよ。それで勇者様だなんて堅苦しい呼び方じゃなくて、同じ村の気のいい兄さんとその奥さんって感じで呼ばせておくれよ」


「今だってそう呼べば良いじゃない?」


 ライブリンガーはライブリンガーで、グリフィーヌだってそうだ。二人ともどっちかって言えば気安い呼ばれ方のが好きなのに。

 二人がオッケー出す前にそんな気持ちで聞いたなら、母さんはそりゃあそうだろうがねって笑うんだ。


「だとしても、背負いこんだ使命を全部果たして、帰って来てからの方がキリも良いだろうさ。勇者がいなくても大丈夫ってなった後での方がさ」


 そうか。これでホントに平和になったなら、ライブリンガーも戦わなくて良くなるんだもんね。大工仕事や畑仕事をして、それでグリフィーヌと試合して。そんなライブリンガーといっしょにいられる日になる……いや、するんだから!


「ありがとうござい……いや、ありがとうフォステラルダ。私もそう呼んでもらいたいからね」


「まあ私のライブリンガーがいるのだ。当たり前の日の出がくるつもりで待っていれば良い」


 二人もこう言ってくれてるんだ。きっと……ううん、絶対にできるよ!

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