157:友の思いが生んだ偉大なる三位一体! ※挿絵アリ
河合ゆき氏より頂きましたイラストを挿絵として使用させていただきました
私はライブリンガー。
つい先ほどまでは、強大な邪神に抗いながらも、力及ばずに倒れるところにまで追い詰められていた。
だが今は、これまでに体感したことのない力の充実を感じている。
「その姿……二つの巨大戦闘形態を重ね合わせたというわけね……」
大地を消し飛ばすつもりのエネルギー波を受け止め消した私に対し、邪神は警戒も露に身構える。
インバルティアが言う通り、いまの私の姿はマキシマムウイングでもグランデでもない。
背中のグリフィーヌの変形した巨大な翼はそのまま。グランデのボディ部が大型の肩装甲に。下半身部は脚部に覆い被さって強固な増加装甲となる。グランデ最大の特徴である二本のパワーアームは、腰部の増加装甲と共に両腰に折りたたまれてある。そして厚みを増した胸部には太陽を中心に猛禽を上、熊を土台にしたレリーフが。
まさに私たち三つの命と心がひとつとなったこの形態。名乗るのならば――
「いかにも、ライブリンガートリニティだッ!!」
日ノ出を模して大型化した冠が私の名乗りに合わせて輝く!
それにインバルティアは煩わしそうに体を傾げる。
「しかし、私の力を利用して創り出されたとはいえ、しょせんは組み合わせただけ! 私本来の力で破壊した形に創り直すのみ!」
しかし叫ぶやインバルティアは再びに大蛇の口と両目を光らせて濁った輝きを放つ。
当然その威力は、私が割り込みに防いだ先のものよりも大幅に優る。
「プラズマブラスターッ!!」
対して私は額の冠と胸部装甲からのエネルギー砲を発射。真っ向から衝突した私と邪神の光線は一瞬の拮抗の後、私のプラズマブラスターが一方的に押し込む!
「そんな、バカなぁあッ!?」
押し返そうとさらにエネルギーを込めた邪神だが、私の放つ朝焼け色の光線は勢いを落とさずに邪神の口内を焼く!
押し負けたことによる物理、精神的なダメージにインバルティアが鋼の体を揺るがせる間に、私はロルフカリバーを構えて踏み込む!
トリニティへの合体を果たした今、私の総重量はマキシマムウイングから倍できかないほどに増している。だがそれ以上に増した推力は超巨大化した機体をよどみなく空へと飛ばす。
「……ッ! おのれッ!? 調子に乗るなッ!!」
左右の手に見立てた五つ首の大蛇が、大口を開けて挟み込むように私に迫る。
これに私は両腕のアームローラーを右回転。ダブルシールドストームで食いつきに来るものを弾き飛ばして目的地へ一直線に。
「ストームホールドッ!!」
そして両腕の防御エネルギーを刀身に乗せたモノを飛ばし拘束。そこからまた右腕のローラーを反転させ、クロスブレイドへ。
さらに両腰のパワーアームをダブルドリルで展開。こちらも対回転によるフュージョンスパイラルを発動させてロルフカリバーの刀身に添える。
クロスブレイドにさらに上乗せになった同質のエネルギーは大きく伸びて夜空を切り裂く!
この一撃、名づけて!
「オーバークロスブレイドッ!!」
ロルフカリバーから伸びたエネルギーブレードは、縛られて身動きを取れずにいる邪神を唐竹割り!
私はそこから一気に刃と機体を翻して、さらに横一文字!
十字を描いて走った裂け目から、邪神はその体を崩壊させていく。
「そんな……バカな、この私が!? この世界の全てを作った、この私がぁあッ!?」
「……たとえ作り手だとしても、いつまでも手の内に収まり続けるなどと思うなッ!」
そうだとも。インバルティアが親でこの世界が子だとして、すでにこの世界に生きる命は親の引導を必要とはしていない。そしてそれは今ではない。太古の戦いでインバルティアが封じられたその時から、すでにだ。
「認めない、そんなことは、認めないぃいッ!?」
たとえ敗北を認められなくとも、インバルティアの体は光の粒となって消え去るのみ。復活のためその身に蓄えた怨念の数々と共にだ。
そんな雪の逆回しのように夜空へ昇って消えて行く光を見送りながら、私はゆっくりと地に足を着ける。
するとそこへ仲間たちが駆け寄ってくる。
「わっほい! やったねライブリンガー!! 邪神もやっつけたんだ!!」
「ああ。皆が力を貸してくれたおかげだよ。ビブリオもよくホリィを助け出してくれた。そしてホリィも。ホリィがこのトリニティにしてくれたのだからね」
「そんな……私はただ、もう少しだけ力があれば、ライブリンガーならきっと何とかしてくれるって思っただけで……」
「いやいや。誇って良いのですよ聖女殿。それでこうして実を結んだのは聖女殿がくじけずにいてくれたからですから」
ロルフカリバーが言うとおりだ。この勝利はホリィあってのもの。ホリィが邪神に負けずに私たちを信じ、自分を保ち続けていてくれたからこそだ。
「あ、ありがとう……でも、それも私ひとりじゃとても……ビブリオなら、じゃなくてみんなならきっと来てくれるって思えたし、本当に来てくれたから……」
「これではキリがないな。誰ひとり欠けずのこの勝利は我ら全員の手柄として、第一等を聖女ホリィとするしかないか」
支えになっているビブリオを抱えて恥じらうホリィに、ミクスドセントが功の譲りあいを取りまとめる。
「ですが、祝勝会やるには片付けなきゃならん相手が残ってますよ」
ミラージュハイドが言うのを待っていたかのように、鋼と鋼を打ち合わせる固く重い音が繰り返しに響く。そちらを見れば、ゆったりと拍手をするネガティオンとその側近がこちらへと歩いてくるところであった。
「見事。勇者たちよ、よくぞ邪神インバルティアを討ち果たした」
「王さま気どりなのかッ!? お前に誉められる筋合いなんかないや!」
「ほう? 我を鋼魔王と呼び認めていたのは人間たちだと思っていたがな?」
噛みつくビブリオに返して立ち止まるネガティオンに、私は油断なくロルフカリバーを握りしめる。
だがネガティオンは間合いをそのまま、バトルマスクを解除、腕組みして私たちと向かい合う。
「それに、我が誉めて筋が違うと言うことはあるまい。我もまたかの邪神はこの機に打ち倒すつもりでいたのだ。お前らが消耗させるどころか討ち取って見せたのは予想外であったが。なんにせよ、手間を省いてくれたことを称えて何がおかしい?」
「どうして? あなたはあの邪神の手引きでこの世にへ招かれたのでしょう? それがなぜ今になって倒すつもりだなどと」
このホリィの問いに、ネガティオンは口元を緩めて笑みを返す。
「今になっての心変わりではない。我は最初からインバルティアを消滅させてやるつもりだったのだ。機を見て解き放ち、跡形もなくな。アレを生かしておけば、我らとて気紛れの創り直しに巻き込まれていただろうからな。せっかく人間を滅ぼしたとして、再創造されても気に入らんしな」
なるほど。だからキゴッソの城を占拠してあっても解き放つことはせずに放置してあったと言うわけか。
侵攻が人々の懸命な抵抗はあったとしても緩やかだったのも、すべてはインバルティアも人間たちもどちらも滅ぼしたいという目的地があったからか。
「その言葉を信じたとして、どうしようというのだ? 目の上のたんこぶが消えたのを幸いに、我々とここで決着をつけるのか?」
武器を構えて前に出るミクスドセントに対して、ディーラバンも近衛としてネガティオンの前に。
それをきっかけに空気が張りつめ始める。だが、心配は無用だろう。
「待て待て。今はこちらにそのつもりは無い」
私が見立てたとおり、ネガティオンが忠臣の機体を掴んで待ったをかける。
「邪神を滅ぼす手間を省いてくれた我からのささやかな褒美だ。この場は生かしておいてやるぞ」
「何をッ!? そんな言葉を信じろというのかッ!?」
疑ってかかるミラージュハイドだが、今度は私が待ったをかける番だ。
「大丈夫。この言葉は信じていい。本気でネガティオンに決着を着けるつもりはないよ。この場では、ね……そうだろう?」
元は同じであったからか、不思議と確信が持てる。それを見て取ってか、ネガティオンはニヤリと笑みを深めてうなずき返してくる。
「我はそのつもりだぞ? 互いに万全を整えて、とな。褒美と我が半身である誼でな……その時までは我から人間への攻撃はしないと約束しよう」
仕掛けられたならばその限りではないが。と締めくくる魔王の申し出に、私は改めて仲間たちを見回してその意思を確かめ、代表として首肯する。
「それで、時と場所は?」
「一月後。場所は内海と外海の狭間にある境の島」
こうして私たちは次の決戦に向けて、この場は別れて終わるのであった。




