15:禍を消し飛ばす嵐 ※挿絵アリ
河合ゆき氏に描いていただいたライブリンガーマックス、およびマキシビークル二機の絵を挿絵とさせていただきました!
「な、なんだッ!?」
私の呼び声に続いて空に開いた光の門。
それを見上げた敵味方が誰ともなしに驚きの声を上げる。
各々が警戒も露わに空を見上げる中、光の門から出てきたのは巨大なローラーだ。
重々しいそれを先頭に落ちてきたのは、私が運転出来そうなほどの、大型マカダム式ロードローラー、マキシローラーだ!
受け止めた地面がひび割れ窪み、その衝撃が波となって広がり、大地と大気を揺るがす。
近くにいた魔獣たちは吹き飛び、ビブリオたちからも悲鳴が上がる。
だがこれは第一波に過ぎない。
マキシローラーを落とした光の門から、さらにもう一台の巨大ビークルが落下。
大型のロングタンクを引っ提げたそれはタンクローリー!
ローラーとわずかにずれて着地したマキシローリーは、先例以上に激しく地面を波立たせる!
二台合わせてマキシビークルの起こした立て続けの地震に、さすがのクレタオスもたまらずバランスを崩してよろめいた。
「トゥアッ!!」
「ぬおわッ!?」
この隙に私は浮いたクレタオスの足を跳ね上げ、その下から抜け出す。
「くっそ! お前ら逃がすなよッ!? 取り囲んでしまえッ!?」
尻餅をつきながらのクレタオスの指示を受けて、倒れていた大トカゲたちが慌てて立ち上がって私へ躍りかかる。
だがそれをマキシローラーとマキシローリーのぶちかましが弾き飛ばす。
ガイアベアに勝るとも劣らぬモンスターを軽々と撥ねていく二台のビークル。円の軌道で走るその中心を目掛けて私は踏み切りスラスターを全開!
飛び上がった私を追いかけて、ローラーは螺旋状のスロープを駆け上がるように上昇する。
一方のローリーは地面から離れることはなく、そのロングタンクを左右に分割。展開する形で伸ばしながら内向きにひねって向きを変える。
続いてタンク部分の尻となっていたパーツが展開。その部分を支えとするように立ち上がる。
合わせて天を向いた牽引車も展開変形。
私の真下で受け皿となるスペースを作る。
対して私を追い越して天高く駆け上ったマキシローラーもその形を大きく変えている。
最大の特徴である大ローラーからボディ全体を左右に開き、底部も開けてぽっかりとした隙間を私の頭上に見せている。
変形した二機に上下を挟まれた私はカーモードへチェンジ。真下のローリーへ向けて空を走る。
その私を追いかける形で展開したローラーも落下、双方の作ったスペースに私が挟み込まれる形で格納される。
双方からロックがかかり、接続。
瞬間、私の意識は二機のマキシビークルへと拡散していく。
合わせて、未だローラーの中に収まっていた拳が飛び出し、ローラーボディの上に出ていた頭部の額奥からバースストーンが見えるようにせり出す!
「ライズアップッ!」
これが、私が核となり、二機のマキシビークルが一体化した巨大戦闘形態!
その名も――!
「ライブリンガー……マックスッ!!」
大地を踏みしめ、拳を打ち合わせて名乗る私の姿を、敵も味方も、同じく呆然と見上げている。
「す、スッゴイやライブリンガーッ!? でっかいよ! カッコイイよッ!!」
「とてつもない力を感じる。なんという威容……!」
「マジかよ……大将、コイツは、コレなら……ッ!!」
ビブリオとマッシュが拳を握り、ホリィが胸の前で両手を組んでマックス形態の私を迎えるのに続いて、残る人々からも歓声が上がる。
これを受けてクレタオスは我に返ったのか、頭を振って私へ拳を突き上げた。
「ええい! 何がライブリンガーマックスだ!? でかくはなったが所詮は一人! 囲んで叩き潰してやれッ!!」
クレタオスが号令と共に放った火炎弾に続き、彼に従う魔獣たちからも攻撃が放たれる。
包み込むような炎の吐息に、岩をも溶断するだろう高熱の爪の連打。
なるほど、通常の私であればとても耐えきれなかっただろう高温の渦だ。
「シールドストームッ!!」
しかし私は右回転で風をまとった拳を突き上げることで炎も、とりついたモンスターたちも吹き飛ばす。
「うおお……っと、ただの風じゃねえか、驚かしやがって!」
しかしクレタオスは怯みはしたものの、すぐに持ち直して炎とエネルギー弾を応射してくる。
今のは防御用の機能だから通じないのも無理はない。
それならば――。
「プラズマショットッ!」
「ぐおおおおおッ!?」
額と胸、そして両腰の計四門。さらに威力も普段使いのから段違いに跳ね上がったエネルギー砲弾の嵐に、クレタオスが吹き飛び転がる。
それを見て私に敵わぬと見た魔獣たちがビブリオたちに狙いを。
「それは許さんッ!!」
狙いを変えた魔獣たちが動き出すよりも早く、私は拳と蹴りで魔獣たちを主人であるクレタオスの方へ飛ばしていく。
そして粗方まとめたところで、右拳を構える。
分割されたローラーでできた前腕部分が左回転。そうして生じた破壊エネルギーが渦を巻いて腕を包む。
「バスター………トルネードッ!!」
踏み込み、振るった拳から放った破壊の竜巻。
それはたちまちに地を抉り、クレタオスと折り重なった魔獣たちの集団を飲み込み吹き飛ばした!
「わっほぉい! スゴい、スゴいスゴいよライブリンガーマックスッ!!」
渦巻き貫いた破壊の風。その後に濛々と立ち込める砂煙に、ビブリオが喝采を上げる。
これに私はうなずき返しながら、残るもう一人の敵に向き直る。
だが、谷の岩肌に取りついてこちらを眺めていたはずのクァールズの姿はない。
「こりゃヤバイヤバイ! 逃げるが勝ちってね!」
「あ、あそこです!」
声とホリィの指さす方向をたどれば、峡谷砦の上を振り子移動に撤退している黒豹の姿がある。
「クレタオス! お前の魔獣たちには撤収指示出しとくから、お互い無事にまた会おうぜ。じゃあな!」
クァールズが逃げながらに残した言葉に振り返れば、手下の魔獣の下から顔を出したクレタオスと目があった。
「あ、あの野郎ぉお~……ッ!!」
怒りに声を震わせながらもクレタオスは牛形態に変形するや地中へ姿を消す。
「ライブリンガーマックス、逃げちゃうよ!?」
「大丈夫だ。任せてくれ」
もう一つ痛手を与えるべきだと判断した私は、クァールズの後を追う。
峡谷砦をジャンプで飛び越えた私の目の前には、地平線を埋め尽くす勢いで集まっている魔獣の集団が。
反転すべきか進むべきか混乱するそれらへ向けて、私は左腕を突き出して構える。
前に出した左腕からシールドストームを展開する一方、腰だめにした右腕もバスタートルネードを準備。
そのまま魔獣たちが迎撃に放った魔法を守りの旋風で防ぎつつ、両腕の回転数を高めていく。
「フュージョン、スパイラルッ!!」
そうして臨界に達した二つの回転エネルギーをぶつけ合いながら前へ!
左腕右回転による防御エネルギー。右腕左回転による破壊エネルギー。
相反する回転と性質のエネルギーが歯車的な衝突と融合によって生み出す力は、まさに極限をも貫き通す二重螺旋!
圧倒的な力の嵐を前にして、魔獣たちは泡を食って散らばろうとする。が、フュージョンスパイラルはそんな彼らをも引きずり込み、渦巻き衝突する奔流の中心部へ。
それほどの膨大なエネルギーも長続きはせず、十を数える間もなく散って凪となる。
しかしほんのわずかな時間ではあったが、暴力的な二重螺旋が通過した後には何も残っていない。
ただただ抉れ巻き上がった地面だけが広がるばかりだ。
「これは……強力に過ぎるな……」
自分の放ったあまりにも強烈な力の痕跡。その深すぎる爪痕を前にして、私の心を戦慄が満たす。
そして力を吐き出した分、急激に重みを増した体に沈められるようにして、意識を失ってしまうのであった。