148:大物落としの後始末
「やったあッ!? ライブリンガーが勝った!!」
「四聖獣揃い踏みでの合体もあって……精霊神様のご加護ね!」
ライブリンガーにトドメを刺されて爆発したウィバーンに、ボクたちはグランガルトたちの上で跳びはねハイタッチ。合わせて連合のみんなも勝どきを上げるんだ。
そうやってうかれてるボクたちのところに、鉄の塊が飛んできた。
それも一個や二個じゃなくて、雨が降るみたいに!
「なんてこと!?」
「鉄の雨だなんてじょうだんじゃないや!」
「おおきかったもんなーみんな食べちゃったウィバーンはー」
「ホントに最後まで迷惑だわね。元・参謀様は。このままじゃ人間たちも危ないんじゃなくって?」
それはそうだ!
あわてて準備した魔法の障壁を張って、できる限りにウィバーンの破片の勢いを緩める。
グランガルトとラケルも手伝ってくれて、結構な範囲が守られる。
だけど魔法障壁に鉄の塊が触ったところで、変な手応えを感じたんだ。
「なに、この気配……?」
「まって、あの中にまだ生きてる人がいるわッ!!」
飛んでくるのを打ち落とそうとしてるグランガルトとラケルに、姉ちゃんが慌てて待ったをかける。
そうか。都に居て丸ごと取り込まれちゃってた人たち。その人たちの中でどうにか生きていてくれた人たちだっているんだ!
「なら助けなくっちゃだよ!!」
「そうよ! みなさんも! 降ってくる鉄の中には生きた人が閉じ込められているかもです! 水か天、冥の魔法で和らげられる方はそれで受け止めて!! でも無理はしないで、まず当たらないように逃げて!!」
ボクと姉ちゃんだけじゃなく、指示の届いた人たちも破片が飛んでくる勢いを柔らかくして、お互いにダメージが出ないようにする。
もちろんグランガルトもラケルもしょうがないなって感じで、水のクッションを前に出す方向に切り替えてくれてる。
「すぐにライブリンガーたちも破片の雨に回ってくれるから、だからがんばってッ!!」
そうやってボクもまわりのみんなを元気付けようって声を出してたら、もうライブリンガーたちが分離して手分けし始めてた。
今必要なのはパワーじゃなくて数なんだって、巨大戦闘形態をあっさりやめにして救助に入ってくれてるんだ!
「わっほい! さっすが、判断が早い!」
そんなライブリンガーたちに拍手して、ボクはまっすぐこっちに飛んできた破片に空気、水、土の三種壁を重ねる。
柔らかい土を破るころにはすっかり勢いの緩んだその破片は、土の上をゴロンゴロンって転がって止まるんだ。
けどそれ、放っておくか、打ち緒とした方が良かったヤツかもしれない。
「王太子!?」
原っぱに倒れたそいつは、敵のボス。……いや、いいようにあやつられてたんだからそういうのも変かもだけど。とにかくボクらの平和を引っかき回した王子さまだったんだ!
「コイツが……コイツが、ウィバーンにあやつられたりしてなかったらッ!!」
都の人たちが苦しむこともなかったし、いろんな人がウィバーンの手先にされることもなかった。それに、ラヒーノ村が焼かれることだって無かったんだッ!!
そんな怒りのままボクは魔力をフクロウに竜に獅子、それと三首番犬の形に練り上げる!
「ビブリオ! それはッ!!」
姉ちゃんがとっさにボクの手をつかんだから、投げた魔力の狙いはでたらめになってばらまかれちゃった。
「だって姉ちゃん! アイツがだまされたから……アイツのせいでッ!!」
姉ちゃんだって苦しめられてたはずなのに、どうして!?
だけど姉ちゃんは振り向いたボクに向かって、どうしてもって首を横に振るんだ。
「……別に私だって、憎むのは罪だけだなんて、とても心から言えないわ……ただ、あの人の血でビブリオの手が汚れるのがイヤなのよ……」
ぎゅってボクの手をつかむ手は痛いくらいだ。だから姉ちゃんが辛い気持ちをがまんしてるのが伝わってくる。
そんな辛いのに、ボクのためにダメだなんて言われたら、もう何もできないじゃないか!
「あぶないぞ!?」
「なんッ? グランガルトッ!?」
唐突な警告といっしょに振り落とされたボクらが顔を上げたら、そこには宙を舞うグランガルトとラケルが。
今のと、受けた電撃にしびれながら声をあげる二人の姿を見たら、庇われたんだって分かる。だから手当ては姉ちゃんに任せて、ボクはグランガルトたちを、いやボクらを襲ったなにかに構える。
「あー……クソッ……せめて、仕返しに勇者のお友達どもを、と思ったんだがな……」
「わっほい!? アンタがなんでそんなッ?!」
ふらふらになりながら立ち上がってるのは、さっき落ちてきたメレテの王太子だ。
コイツがボクらを攻撃しようっていうのは分かる。でもさ、なんでグランガルトを吹き飛ばせるような魔力があるのさ!?
いや待った。コイツ、口が動いてない? その代わりに声が出た時に、悪趣味な王冠の宝石がピコピコ光ってたような……それってつまりは。
「お前、王子じゃなくて、ウィバーンかッ!?」
「ほおーう。良く分かったな。伊達に勇者の友達やってないよってか?」
立ってるのもやっとって風な王子の頭で、ドラゴンモチーフな王冠が目玉をギラギラさせて言う。
「余計な力を使わせてくれて……と、思ったが、まあいい。逆に好都合だ。グランガルトとラケルのコアまとめてを奪い取れるからな」
そう言いながら進んでくる王子だけれど、その動きは王冠に吊られてるっていうか、引きずられてるって感じだ。それに無理やりに引きずられてる王子の体は、どんどんやせていってる。
それだけじゃない。王冠にだってひび割れができて、動くごとに広がってるんだ。
「グランガルトもラケルもお前なんかに渡すもんかッ!!」
そんなウィバーンの王冠に、ボクはライブブレスから朝焼けの光を浴びせてやる。
だけれどウィバーンはこれに王子に枯れ木みたいな腕を上げさせて、濁った緑の光をぶつけてくる。
ウグ、絞りカスみたいな見た目のクセして、なんてパワー!?
「グリフィーヌの時といい、まったくお優しいコトだな。だがな、ソイツらはお前らにすり寄って生き延びようとしてるだけだぞ? 今のだってお前らに貸しを作りたいって味方するポーズでしかない。そんなヤツらを庇う価値があるのか?」
「うるさい! そんなの関係ない! ボクが守りたいから守るんだ!」
迷わせようったってそうは行くもんか!
ウィバーンはグランガルトたちを食べたいだけ、そうしなきゃ消えてしまうんだから。
それに、ふたりに守ってもらっておいて見捨てるだなんて、恥ずかしくてライブリンガーに顔向けできないじゃないか!
「見上げた心意気だな。眩しいくらいだ。だが無意味だ」
だけどウィバーンがイルネスメタルのエネルギーを軽くひと押し強くすると、ボクは朝焼けの輝きといっしょに押し流されてしまう。
「ビブリオッ!? やらせはしないッ!!」
「優しいだけじゃなく勇ましいな。おおいに結構」
それはボクを守ろうとした姉ちゃんの光も同じに。
「頼みの綱の勇者殿たちにも、抑えを向けてあるからなすぐには届かんさ。なに安心しろ。アイツらで鋼魔四将全員分とおまけ付きだ。すぐにお友達ごと死後の世とやらに送ってやるよ」
「そんなこと、させるもんか……」
あきらめない。あきらめてたまるもんか!
そんなボクの気持ちに、バースストーンは応えて光を放ってくれる。
だけどウィバーンはうんざりだって風にため息を吐いてボクに手を向けてくる。
だけど次の瞬間、王子の頭とそこに乗っかった冠ウィバーンを青白い炎が貫いたんだ。
「んが……? おまえ、生きて……?」
「……私だけではない、貴様が汚させたもののこと、我が王はお怒りだ……」
「ば、バカな……ッ!? 生きているはずが、俺はアイツを……王を、神をも越えて、世界を……!」
後ろから自分を刺したなにかに、ウィバーンは目をチカチカとさせる。そのぼうぜんとした声が終わる前に、王冠はその持ち主といっしょに砂になって崩れたんだ。
その砂の向こうには全身をマントで覆った人影が。
いや、アレは人じゃないよ。フードの下でチカチカしてるあの光は鋼魔のだ。
「……我らの不始末を片付けてくれたこと、感謝する。この場はこれ以上の手を下さずに立ち去ることを約束しよう」
その人サイズの鋼魔は一方的に言うと、青白い炎を振り払って兵士のみんなのなかに紛れてく。
「……今一つ。我が王から、勇者へ伝言だ。再びまみえる時を楽しみにしている。と……」
この一言を残して、ウィバーンを始末した鋼魔はこの場からいなくなっちゃったんだ。




