145:メレテ城浮上!
「なんだいありゃあ?」
夜が明けて、王都攻めの先鋒と進む私たち。
私の隣に並んだファイトライオが、目の光を絞りながら訝しげにつぶやく。
その視線の先には、瘴気に煙った人影たちが。
結界と太陽の光の中にありながらなお濃い瘴気。この中をゆらゆらと揺らぎながら歩いてくる大きな人型の一部には見覚えがある。
「クレタオスに……クァールズ?」
いまいち自信が持てなかったのは、その挙動のせいだ。
腕を前に出し、のろのろとこちらに向けて歩いてくるその動きは、私たちの知る彼らの物ではない。むしろ彼らの意思も存在していないようで、鋼魔の姿形を真似ただけのなにかでは、とさえ思える。
「なんにせよアレが敵であることには違いなし。ならば斬るだけだ。もし本人たちの抜け殻であるのなら、なおのこと忍びない」
かつての同胞へのせめてもの慈悲。人型にチェンジして剣を構えるグリフィーヌの決断の早さはありがたい。
このままにさせておくこと。それこそが最悪なのだから。
「そうだね。行こう」
だから私も二本足にチェンジ。拳を握って前に踏み出す。
「マキシアームッ!!」
容赦無用と心を決めたからには全開で。ラヒノスの生まれ変わった機体とひとつになって、グランデとして立ち上がる!
「ライズアップ! ライブリンガーグランデッ!!」
「そんじゃ私たちも続くか。ホッホウ!」
「おお! ライズアップッ!!」
私に続いてミクスドセント、ミラージュハイドも合体完了。三つの巨体となって前に出る!
そんな私の手に収まろうと飛んでくるロルフカリバーに、しかし手のひらで待ったを。
「ロルフカリバーはグリフィーヌに!!」
「奥方に? 承知ッ!!」
私の指示にロルフカリバーは疑問を挟むことなく、刃を翻してグリフィーヌの手に収まる。
「私一人だけが合体からあぶれているからということか?」
「その心配もして無いではないが、私との合体もあってグリフィーヌならば力を合わせて使いこなせるだろうと思ったからだ!」
「勇者の剣を使えると見込まれたと言うのなら仕方がないか! 任せよッ!!」
グリフィーヌが軽口混じりにロルフカリバーの分厚い刃を翻せば、刀身から狼を象った稲妻がほとばしり、ゾンビウォークの機兵たちに食らいつく。
牙から流し込まれる電撃に、食いつかれた機兵らは激しい痺れが走ったかのように痙攣。その場に倒れる。
そのまま崩れた衝撃でバラバラになってしまう。
「なんと!? やりすぎじゃないかグリフィーヌよ!?」
「バカなッ!? 派手にやったがそこまでの威力は乗せていないぞッ!?」
「ああそうだ! グリフィーヌが力加減を間違うはずが……」
電撃狼の一頭一頭に込められていたエネルギーから機兵相手でもスタンする程度のはず。そのつもりだったグリフィーヌの感覚も、信じた私も間違いではなかった。
痺れて崩れ落ちた機兵たちはがらんどうで、中身が無かったのだ。
融合させられているだろう乗り手がいない、という意味ではなく、イルネスメタルのエネルギーで動くからくり仕掛けの中身すべてがだ。
「見かけ倒しの案山子かッ!!」
「中身が何処に、というのは気になるが、目の前のに遠慮無用というのは違いないか」
「待て! 私がやらかしたみたいな疑いをかけておいてひと言も無しかぁッ!?」
がらんどうが動かされているだけだけなら遠慮は無用と蹴散らしにかかるミラージュハイドとミクスドセント。これを追いかけて、グリフィーヌもまた稲妻ほとばしるロルフカリバーを構えて斬り込む。
それは私も同じく。人の手に奪い返すべき都に攻めのぼるのを阻もうとしているのがただの操り人形ならばと、プラズマバスターで薙ぎ払う。もちろん中身が無いと解析できたものに限ってだ。
こうなると、後方にいるビブリオとホリィが居てくれればもっと広く見切れたのだろうと、分散したのが惜しくなるな。もっとも、この絡み付いてくる邪気に友を沈めるなどもっての他なのだがな。
「ずいぶんと慎重なことじゃないかライブリンガー!」
「乗り手つきがいないと油断させておいて、人質を乗せたのを混ぜておく。それくらいは企んでいるかもしれないからね!」
大斧によるトライフォース・スマッシャーで敵軍を大きく吹き飛ばすミクスドセントに、私はサークルソーとドリル、そしてラヒノスクローをがらんどうに叩き込みながら叫び返す。
しかし私は分かっている。私を慎重と言う合体聖獣も、キチンと人がいないと見切った上で大技を放っているということを。
その間にもミラージュハイドは、分身と分離合体を繰り返しながら蹴散らし疾走。空のグリフィーヌは一太刀ごとに稲妻の狼の群れを放っては敵を転がしていく。
そして私は、瘴気に紛れて足元に絡み付いてきていた目に光の無いクレタオスとクァールズに、ラヒノスクローを突き刺す。
バースストーンの力をこめていたとはいえ、たったの一撃で容易く崩れる鋼魔の破将と迅将。その機体の胸部にはやはりと言うべきか、心臓部たるイルネスメタルは存在しなかった。
「性懲りもなく、同胞にまでこんな仕打ちを……!!」
核となる石を奪い取った上、その後の機体を使い捨てに放り出すこの手口。ウィバーンの案だろうどこまでも自分本意で残酷なこの仕打ちに、私の機体も怒りに熱くなる。
命を奪われていたのならば、せめて手厚く葬ろう。そう思い機体を抱え直そうとしたのだが、二体の鋼魔将の遺体はガラガラと崩れて私の腕からこぼれ落ちてしまう。
あわてて追いかけ掴まえたものの、握った拳からトロリと溶けて逃げて行ってしまった!
これは、再生したウィバーンの残骸と同じ!
「土に溶けて、どこへッ!?」
消えて無くなった遺骸を探して視線を巡らせらせたなら、地面がぐらりと揺らぐ。
残る機兵をバラバラに崩す威力の地震に、私はアンカーを打ち込んで踏ん張る。この一方で空のグリフィーヌは後方の仲間たちを、ミクスドセントとその足にぶら下がったミラージュハイドは都の方を注視する。
収まりを見せない大地の振動に合わせて、転がる機兵の残骸たちも跳ね、城の方向へ流れ出す。その動きはまるで自分の意思で走っているかのようで――
「止めなくては!」
イヤな予感に突き動かされるままに私はプラズマバスター。跳ね転がる残骸を焼き払う!
合わせて空の仲間たちも私の熱線が届かぬところを吹き飛ばしてくれる。
だがあまりにも数が多く、範囲が広い。無数の残骸のいくつもが私たちのばらまく攻撃を逃れ、都の外壁に届いてしまう。
直後の激震!
到着を引き金として、今までのが余興だと言わんばかりの地震が起こり、メレテの都は爆発する。
そして立ち込める粉塵を突き破って飛び出すのは、鋭く巨大な鋼だ。
「ハッハハハハッ!! 正直に倒してくれてありがとうよ勇者殿たちよ!!」
「この声、まさか……ッ!?」
「ウィバーンだとッ!? バカな、今度こそ倒したはずだぞッ!?」
強化再生した機体もコアも破壊した。それは間違いないはずだ。
だが未だ健在であることには戸惑う私たちを見下ろした笑い声は、因縁深い彼のものだ。
「やられてやったフリに決まっているだろうがおめでたいなッ!? 神に選ばれたこの俺があの程度で終わるかよ!!」
巨大な翼と長い尾が振るわれ、ヴェールとなっていた土煙を吹き飛ばす。その風圧はグランデである私であっても、身構えてしまうほどのものだ。
「さあ刮目せよ! これが今の俺の真の姿……世界を導く王であり、城そのものだッ!!」
自信に満ちた声と共に御披露目されたその巨体は、まさに竜の城だ。
いくつもの尖塔を備えた鋼の城砦。そのもっとも長い中央のものに竜の首をつけ、強靭強大な翼二対を備えた山のようなウィバーンが姿を現したのだった。




