140:一人でも多く
「精霊神様……どうか、先生を、みんなをお守り下さい……どうかッ!」
イナクト領に広がる丘陵と森林地帯の上空。
グリフィーヌに吊られて空を飛ぶ私の運転席で、ホリィが育ての母であるフォステラルダをはじめとした村人の無事を祈っている。
固く閉ざした目と、それ以上に強く組まれた手は白くなるほどで。彼女の切なる願いの強さがうかがえる。
気持ちの強さはもちろん助手席のビブリオも同じで、座席から腰を浮かして行き先を注意深く見ている。
「急げ! グランガルト! お前が急げばそれだけ救える人が増えるのだぞッ!?」
「いそいでるぞー! だったらおれたちもつるして飛んでくれよー!」
「そんなに抱えて早く飛べるものかッ!? マキシマムウイングならばともかくッ!」
空を急ぐ私たちの下では、ラケルを背負ったグランガルトも急いでくれている。
彼らと分散するわけにはいかない現状、これが一番早いのだから彼らに無茶をしてもらうしかない。
グリフィーヌの言う通りに、マキシマムウイングが使えるのならそれが最良だったのだろうが。
「機兵だッ!? 追われてる人たちもいる!!」
左斜め前に開けた土地を指差してビブリオがあげた声に、ラヒーノ村からの避難民かと私たち全員の体に力が入る。
「いや! 知っている顔はない! だがあのままでは持たんぞ!?」
目の良いグリフィーヌからの追加情報だが、知人の集団でないからと安心できる状況ではないぞ!
だが襲われると分かっていてフォステラルダさんたちを放っておくことなどできはしない。ならば!
「グリフィーヌ! ビブリオとホリィと共にラヒーノ村へ!」
「ライブリンガーは!?」
「グランガルトたちと彼らを助ける! それからすぐに追いかけるから!」
「それしかないか! 任せろ! 他にも見かけた場合は刃を振り回して突き抜けるくらいしかしないが!?」
「場所を伝えてくれたら、後は私に任せてくれ!」
「ちょっとライブリンガーッ!?」
「私の存在を陽動に出来たのならそれだけあちこちに回る戦力は減る! 二人とも、村の人たちを頼むよ!!」
そう言うなりに私はチェンジ!
車内から出たビブリオとホリィを預かったグリフィーヌが加速するのを見送りながらスカイダイビングだ!
「マキシアーム!!」
そして同時に、私をグランデとする頼もしいビークルを呼び出す。
だが今度もまた空中合体を狙ったものではない。
クローラーで地響きを起こして現れた超巨大双腕重機に先行して蹴散らして貰うためだ。
接近に気づいた機兵たちが構え直したところへ、剛力かつ繊細なグラップルクローが襲撃。掴んだ機兵を握ったままに陣を組んだ鋼の巨人兵士をなぎ倒していく!
この間に私は全身の関節とスラスターを駆使しての着地から再びのカーモード。タイヤを回して、強大無比なマシンの乱入に浮き足だった機兵たちに滑り込む!
「スパイクシューターッ!!」
そして正面の者へチェンジの勢いで身を翻しつつスパイクを膝!
片足を撃ち貫いたままに押し倒して、追いかける足を奪う。
「足は痛むだろうけれどもッ!!」
死なずにいるだけ良しとしてくれ。そんな願いをこめながら、私は背後で武器を持ち替える者の膝をレッグスパイクで貫く!
そこからすかさずのプラズマショット。連射で足回りを吹き飛ばして私に注意を向けさせようとする。
しかしマキシアームと私の乱入に混乱していた機兵たちは、何が私たちへの痛手となるのかを察したのか、一斉に別の方向に集中する。
その狙いとは人々だ。先ほどまで追い詰め蹂躙していた人々を一人でも多くと武器を向けたのだ。だが!
「グランガルトッ! ラケルッ!!」
「おっしゃあー!」
私の合図を受けるが早いか、返事とほぼ同時に突っ込んできたグランガルトが体当たりで機兵を蹴散らし、逃げてきた人々への流れ弾をラケルのメカタコ足と水圧カッターが払い落とした!
そうなればもう残った数体を拘束するのみ。マキシアームが自分のクローラーの下敷きに抑え込み、さらに捕まえたのの首から下を地面に埋めていく。
「さて、無理に引き剥がすのは危険だが、スパイクでエネルギーを打ち込んでも融合状態だからね……」
人質と敵戦力を直結させた機兵の対処。これは本当に頭の痛い問題だ。
乗り手が危険だからといって乗せたままでいては結局吸い殻になるまで生命力と精神力を吸いとられてしまうのだから。
「……乗せ続けるよりはマシになるとしてやるしかないか!」
せめて時も場所も一点集中で。と、私はスパイクシューターを動けなくなった一機の胸に押し当てて朝焼けに輝くエネルギーを注ぎ込む。
するとこの輝きを嫌うように機兵の体が膨らみ弾けて、乗り手だった兵士さんが出てくる。
「気を失ってはいるが、息はしている。外傷もない、ね」
やつれた兵士さんの様子を確かめて、私はひとまずは良しとする。
「おれたちもそんな感じでやればいいのかー?」
「いや。グランガルトたちだと機兵の中のイルネスメタルが活性化……パワーアップしてしまいかねない。辺りを警戒していてくれ」
「了解よ勇者様」
私はそうしてグランガルトたちにも仕事を頼むと、残る機兵たちへ拳とスパイクを構える。
これに乗り手を残して爆発四散した仲間の有り様を見た機兵たちは、みなどこか怯えたように震える。が、ここは容赦無しだ。次々とスパイクからのバースストーンパワーを突き入れていく。
「あ、あの……勇者様、ありがとうございました。おかげさまで助かりました」
乗り手救出作業の中、かけられた声に振り返れば、追われていた人々を代表した男性が声をかけてきた。これに私は最後の一機から乗り手を解放させると、カーモードにチェンジして視線を下げる。
「いえ。私も偶然通りかかっただけですので。こんなにも犠牲が出る前に助けられたら良かったのですが……」
「いえ、とんでもない! 勇者様が割って入ってくれなかったら、全員が死んでしまっていたことでしょうから!」
救援が遅れたことを詫びるのに、代表の鎧姿の男性が慌てて頭を振る。
強大な敵に追われて仲間を多く失った彼らの方が辛い思いをしているだろうに。もっと早くに来てくれたならと叫びたいだろうに。そんな彼らに遠慮をさせてしまっているのが申し訳ない。
「機兵から逃げるように誘導していた我々がもっと素早く、あるいはきちんと食い止められることが出来ていたのなら……!」
「そんな! 圧倒的に強大な敵に襲われて生き残り、守るべきを守れた。それだけで素晴らしいことじゃないですか!」
悔しげな代表役の彼を力付けようとフォローを入れるが、彼の顔はまったく晴れない。
「しかし、しかし……私は部下を捨て石同然に足止めに残し、その上で多くの犠牲を出してしまったのです! あの仮面の軍師に翻弄されるままに……!」
「なんと? いま誰に、と?」
「太子の腹心である仮面の軍師が、こちらへの侵攻の指揮を執っていたのです! 奴はこんな重要な拠点の見えない地方に侵攻して、村々を破壊して回っているのです! 民を根切りにする勢いで!」
なんということだ! 彼がこちらに来ていて、しかも殺戮をおこなって!
何のためにそんな惨いことをしているのか。それは分からない。問題になるのは……
「……その進行方向に見当は付きますか?」
「……確実にどこ、とは……しかしラヒーノは飲まれてしまうかと……」
「急がねば! すみませんが救出した兵のことをお願いします! 彼らも操られていただけなので!」
「分かりました。なんとか説得してみます。勇者様のお言葉があれば皆も納得できることでしょう。ご武運を!!」
代表の敬礼を受けた私はその場でチェンジ。からの振り向いてのカーモードで仲間たちの先行した故郷へ急ぐのだ!




