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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
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14:ただひたすらに出来ることを

「プラズマショットォッ!!」


 迫る鉄拳を、私はエネルギー弾で迎え撃つ!

 しかし拳は真っ向からエネルギー弾を打ち砕いた上で私の顔面を打つ。

 あまりの重さに頭が歪んだ。かと思った次の瞬間には、体が横に流れていた。


 チカチカと弾ける視界の中。細かく砕けた瓦礫がその形も鮮明にゆっくりと流れていく。

 ああ、私の頭は押し込まれていた城壁を突き破ってしまったのか。


「うおっとぉ!? なんちゅうもろい壁だまったく!」


 これにクレタオスはしまったと突き抜けた私の体を引き戻す。

 そのまま片腕一本で私の体を吊り上げる。


「やーれやれ、潰す分には蹴散らす感覚で面白いんだが……こういう時には加減が面倒くさいんだよなぁ」


 一長一短だとぼやくクレタオスに、私は足を振り回して蹴りをぶつける。

 しかし強引に振り回してるだけの蹴りでは威力が出ず、力自慢のクレタオスはビクともしない。

 ならばと、さらにプラズマショットに両手足のスパイクシューターを連打!


「えぇい! かゆいかゆい! うっとおしいぜ!」


「うぉお!?」


 だがクレタオスは苛立たしそうに喚いて私を地面に叩きつける。

 私の武装と力を惜しまないでの抵抗も、彼にすれば蚊に刺された程度だというのか!?

 いいや、例えそうだとしても、諦めてなるものかッ!


「ああくそッ!? かゆいんだって言ってんだろうがぁッ!?」


 吊り上げた腕に組み付き連打連射を続ける私と、その私を振り回し叩きつけを繰り返すクレタオス。

 泥臭いまでの根比べであるが、敵はクレタオスばかりではない。

 今は黒い霧もあって姿が見えないが、クァールズにグランガルトも抑えなくてはならないのだ。


『ライブリンガーッ! そっちはどうなってるのッ!?」


「ビブリオかッ!? ウグッ!? すまない、こっちも敵と、組み合っている最中なんだ……グゥアッ!?」


 不安にさせてしまうだろうかとの心配はあるが、応答しないわけにはいかない。

 向こうの様子が分からないのは私も不安だからだ。


『どうにか振り切れないの!? こっちにケガをした兵士さんを追っかけてきた鋼魔がッ! うわぁあああッ!?』


「ビブリオッ!? どうしたビブリオッ!?」


 応答を求めるが、ビブリオの返事はない。

 姿の見えないどちらかに襲われたのだろう。急がなくては!


「だから、は・な・せぇえッ!!」


「グハハハッ! 無駄無駄ぁ! ちっこいてめえがいくら暴れたって、かゆくてうざったいだけなんだぜッ!?」


 さらに力を振り絞って抵抗を続けるが、クレタオスは高笑いしながら私を振り回し続ける。


「お、おのれぇええッ!!」


「グハハッ 無駄だってんのが分かんねえのかこのアホが……グゥッハァッ!? 目がッー!?」


 しかし諦めずに放ち続けたプラズマショットの一発が、クレタオスの顔面にまぐれ当たり。その拍子に私を吊るす彼の手が緩む。

 このチャンスを逃さず、私は首にかかった手にスパイクを打ち込み振りほどくと、カーモードへチェンジしてクレタオスの足元から走り去る。


「ま、待ちやがれッ!?」


「いまアホって言ったのは誰の事だぁー?」


「わ、バカ野郎!? お前のことを言ったんじゃ……アッー!?」


 幸いに再び始まった仲間割れの声を背に受けながら私はビブリオたちのところへ急ぐ。


 すると私の目の前でビブリオを庇うビッグスとウェッジに爪を振り上げた大黒豹の姿がある。


「させるものかぁああッ!!」


 叫んで注意を引きつつ、チェンジしながらのタックル!

 これにクァールズは前足を振り下ろすのを止めてジャンプ。私の頭上を飛び越えた。


 そして巨体に見合わぬ静かな着地を披露すると、私を見て感心したように目を瞬かせる。


「おっとぉ!? クレタオスを振り切ってきたのか? やるねぇ」


「どうにか巡り合わせが良くてね。いいタイミングでクレタオスの失言もあったおかげだよ、クァールズ!」


「……あの単純バカどもが! 足を引っ張ってくれるじゃないか!」


 忌々しげに吐き捨てるクァールズに対して、私は油断なく構えながらケガ人を守ろうと立つビブリオとホリィ、そんな彼らを庇うマッシュ隊三人の様子をうかがう。


「無事だったかい?」


「大丈夫。ライブリンガーが間に合ってくれたから、重傷の人は増えてないよ」


 ビブリオの言う通り、前に出て対峙していたマッシュに、ビッグスさんとウェッジさんも自分で立って剣を構えている。

 だが無傷でもない。

 私の到着までにもてあそばれたのか、腕や足を血に濡らしてしまっている。

 その姿に私は感謝はもちろん、彼らの勇気に感服する思いを抱いた。


「ありがとうございます、三人とも……!」


「なんのなんの、水くさいって、なあ?」


「そうそう、そもそもコレはオレらの仕事ですからね」


「だとしても、こんな力の差のある相手に一歩も引かずに……あなた方こそ、勇者と呼ばれるべきです!」


「勇者様にそう呼ばれるとは光栄だが、なんともくすぐったいな」


「違いないや!」


 感謝と敬意を素直に口に出せば、三人はくすぐったそうに身を揺する。

 そんな三人を支えるようにして、ホリィとビブリオは手当てに回復の魔法をかける。


 その様子にようやくひと安心といったところで、私を衝撃が襲う。

 反射的にブロックしたものの、腕の装甲は削れ、踏ん張った足が地面を削る。


「ライブリンガーッ!?」


「大丈夫だ! それよりビブリオたちは治療を!」


 心配するビブリオに叫び返した私は、振り返りつつスパイクシューターを繰り出す!

 拳の勢いに乗って飛び出た鉄杭はしかし、黒豹にひらりと避けられてしまう。


「悪くない反応じゃないか。てっきりオレのことは忘れられてると思ったぞ?」


「まさか。ただあまりに仲間たちが心配だったのでね」


 からかうような口調のクァールズを正面に、私は傷ついた仲間と、彼らに任せた負傷者を庇うように構える。

 できることなら私が盾になっているうちに、皆が傷ついた人たちを安全圏まで避難させる。これがベストだ。

 だが四つの足でふわりと地を踏んだクァールズの構えはどう動くか予測ができず、下手に動くことができない。


「ふぅん? ずいぶんと人間どもに入れ込んでるじゃあないか。人間どもと言えば、お前、そいつらに勇者様とか言われてるのか?」


「ああ。身に余る称号ではあるが。人々を支える希望となるのなら、そうあれるように努めるだけだ」


「へえ。それだけでオレたちに楯突くって? まったく健気なことだぜ」


 どういうつもりかは知らないが、話をしていればマッシュたちが手当てを受ける時間を稼げる。

 このまま私に意識を向けさせて、皆が離れる隙を作らなくては。


 そうして黒豹のわずかな動きの兆しも見逃すまいと集中する私の前で、クァールズは緩やかに前半身を沈めて腰を上げる。


「オレたちに似ているがどうも違う……そんなお前のことは、しっかりと調べておかなくちゃならんわけだが……」


「だから私と戦って、戦闘力を計りたい、と?」


「ああそうだ。だが、調べるのにオレが直に当たる必要はないからな」


 願ったり叶ったり。いつでも来い!

 そんな私の構えを嘲るようにクァールズは垂直に跳躍。頭上に突き出した岩との間に張った線に引かれる形で上昇を続ける。


 それを追って私は額にエネルギーを集める。が、不意に地響きが起こる。

 これは足元から?


「ふんぬおりゃぁああッ!?」


「うぉあぁッ!? クレタオスかッ!?」


 そう察したときには時すでに遅し。地面を吹き飛ばして突き出したクレタオスの角によって、私は宙へはねあげられていた。


 そのまま真下で牛から人型へ変形している間に、私はスラスターを噴射して彼の伸ばしてきた手から逃れる。


「おおっとクレタオスに追い付かれちまったか。せっかく手柄が立てられそうだっていうのに」


「フン! スピード自慢の迅将クァールズでも、今度ばかりは素早くいただきとはいかなかったみたいだな!」


「そのようだ。というわけでこの場は譲ろう」


「ほっほう!? 聞き分けがいいじゃねえか。それじゃ遠慮なくこの手柄首は任せてもらうぜ!?」


 クァールズがどういうつもりであるかなど考えもせずに、クレタオスは私の首を狙って掴みかかってくる。

 これを潜って私は脇腹の装甲の隙間へスパイクを叩き込む!


「グフッ!? ちょこまかと、なかなかやるじゃねえか!?」


 が、クレタオスは呻きながらもよろめいただけ。完全に急所を刺したと思ったスパイクだが、浅い!

 重ねられた装甲に噛み止められる形で受け止められてしまっている。


 それを悟った私は打ち込んだスパイクをはずして逆の腕を振った。が、それが届くよりも早くクレタオスの振り下ろした拳が私に膝をつかせる。


「オラオラ! どうした!? 手も足も出ないか!?」


 私を叩き潰そうと容赦なく振り下ろされる鉄拳に、私はただ耐えるしかなかった。

 そんな呻くばかりの私に気をよくしてか、クレタオスのハンマーパンチの連打が勢いを増す。


「ウィバーンのヤロウも、参謀殿も! 小細工ばっかり考えてやがるから、こんな小せえのに痛い目にあわされるんだ、ぜ!?」


 一際重みを込めた一撃に、私はついに両手をついてしまう。

 その私の背を踏みつけようとクレタオスが足を上げる。が、そこで突然の爆音が鳴り響く。


「ぐおッ!? 人間どもがッ!?」


 それはマッシュ隊の三人とビブリオが放った魔法によるものだ。


「悪いな大将、今の今まで任せっきりでよ!」


「今の内だよライブリンガー!」


 私を助けようとしての掩護射撃に応えるべく、私は痛め付けられて軋む体を持ち上げる。だがそこへ幅広く重い足が重石となって落ちてくる。


「チクチクチクチクと、うざったいぜッ!」


 私を踏みつけたクレタオスは、ビブリオたちへ向けて肩からのエネルギー弾を発射。手前の地面を吹き飛ばす。


「うわあッ!?」


 しかし直撃しなかったとはいえ、土砂を含んだ衝撃波はビブリオたちを押し倒すには十分な威力だ。

 そんな尻餅をついたビブリオやマッシュ隊のみんなへ、クレタオスはわざと直撃を避ける形でビーム砲を連射する。


「び、ビブリオ……ッ!? み、みんなッ!?」


「オラオラ、漏らしながら逃げろ逃げろ! こいつが片付いたら追いかけっこで相手してやるからよ!」


 ビブリオたちを、人々をなぶって楽しもうだなどと!

 そんな怒りのままに手足に力を込めるが、私を踏み潰す足はびくともしない。


「むん? まったく諦めの悪いヤツだ、ぜ!」


 そんな私のささやかな抵抗を、クレタオスは念入りに踏み潰してくる。


 しかしそのクレタオスの頭にまたも炎が弾ける。


「おう?」


「誰が逃げるか! 友達を見捨てて逃げたりなんか、誰がするもんかッ!!」


 それを放ったのはビブリオだ。

 圧倒的な力に威圧され、土まみれにされながらも立ち上がり、私の助けになろうと力を振り絞ってくれているのだ。


「おうおう。ご立派なこったなボウズ。それじゃコイツらにもそのご立派な気持ちのまま立ち向かってくれよ」


 対してクレタオスは気の無い拍手を送る。するとそれを合図として、地面からクレタオスの従えているらしい魔獣たちが姿を現す。

 巨大なケラやトカゲたちを目の前にして、ビブリオは震える。だがそれでも退かずに立ち向かい続けている。


 何が勇者だ!

 これだけの気高さを見せつけられておきながら、非道に屈し、何も出来ずにただ這いつくばっているだけで、何が勇者だ!


 悔しさのあまりに拳を握る私の頭脳に、二つの名前が浮かび上がる。

 解錠アンロックされた機能の情報量に流されるまま、私はこの二つの名を呼んでいた!


「マキシローラーッ! マキシローリーッ!」

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