135:紛れて潜む魔の手
「よぉ、ビブリオ! それにみんなも、元気してたか?」
「マッシュ兄ちゃん!」
港から続く街道の警備をしてたボクらに声をかけてきたのは、黒髪をきれいにまとめて立派なマントを羽織った馬上のマッシュ兄ちゃんだ!
ボクが返事をしたら、いっしょの馬に乗ってたフェザベラ女王もしばらくってあいさつしてくれる。
それに護衛役で着いてきてるセージオウルもだ!
東から内海を船で渡ってきて、港からここまでっていうキゴッソ一行の道は、他の偉い人たちがほとんど使わない道なんだ。だから仲間内だけの気安い感じでふれあえて、なんだか嬉しいや。
そんなキゴッソ王家と従者たちって一行に、アカキツネのハイドフォレストが前足で土をかきかきに目を光らせる。
「ちょいちょい、マステマス様、人だったころは隊の部下だった俺たちまで、みんなーでひとくくりですかい? そいつはちょいと寂しいじゃないすか」
そんな見せびらかすみたいにすねてるハイドフォレストをとなりのギンキツネのスノーが小突く。けれどマッシュ兄ちゃんもフェザベラ女王さまも笑顔で返してくれる。
「悪い悪い。ないがしろにしたつもりはなかったんだが。お前らも大変だったらしいじゃないか。けど、土壇場の新しい力で乗り越えたんだろ?」
「そうそう。兄弟合体ミラージュハイド! 兄貴が右で俺が左の合体戦士さ! でかくなってパワーアップするけれど、スピードと幻術はそれ以上さ! いやこのパワーが無かったら今ごろどうなってたやら」
「調子に乗るな。窮地を乗り越えきれたのも仲間たち全員の力があってこそだろうが」
「そうなのですか。力を増しより頼もしくなったこと心強く思います」
夫共々に頼りにさせてもらうとフェザベラさまは笑ってる。けれど後ろに続く従者たちの馬車からはヒソヒソと話す声がする。
それがなんだか気になったから、天の精霊で風を操って、話し声を届けてもらう。
「……兄弟で合体するんですって!」
「それはもう、ぴったりくっつくだけじゃないのよね?」
「それは心も体もひとつに……」
そんな侍女さんたちの内緒話を向こう側のエアンナといっしょに首をかしげて聞いてたんだけど、姉ちゃんがボクは知らないで良いんだって魔法をとかれちゃった。
わけがわからないよ。
それでマッシュ兄ちゃんはそんな後ろの話を知ってか知らずか、改めてハイドツインズやボクたちを見回してくる。
「その話も含めて、大変なこと続きだったって聞いてる。すまないな、こんなことになるのを防げなかったばかりか、肝心な時に力になれないで」
「そんな、頭を下げないでください! あれだけ抱き込んで体勢を整えていた太子側が上手だっただけなんですから」
「ホッホウ。しかりしかり、それでどうにかこうにか回るところから手を回していって今の状況に至るわけだからな」
ライブリンガーとセージオウルのフォローに、ボクたちみんなでそうだそうだってうなずく。
そんな風に話してると、遠くからズシンズシンって足音が響いてくる。
まさか大型の魔獣がって振り向いたボクたちだけど、見えたのはそれ以上のまさかだった。
「機兵ッ!?」
「集団で、まさか攻めてきたのッ!?」
ドラゴたちの守りを突破するかかわすかしてきたのかって、ボクらは慌てて戦いの姿勢に。だけどそれにマッシュ兄ちゃんが待ったをかける。
「上げてる旗がメレテのじゃない。連合の一国エカサの旗だ」
「なんだ都からの太子軍じゃないんだぁ……って、安心なんかできないじゃない!?」
「ああ、呼ばれて話し合いに来たって言ったって、機兵を何体も連れてきて……アレらが暴れだしたら事だぞッ!」
駆けつけなきゃなのは変わらない。
そううなずきあったボクたちは、大急ぎで機兵たちの進む先へ向かうんだ。
「どういうことだね? 我々が入れないというのは!?」
「いや、話には聞いてますでしょう? 機兵は危険な鋼魔からのプレゼントなんだって。せめてどこかに隔離して、乗り手にも降りてもらわないことにはお通しできません」
「おいおいおい!? なんなんだそれは!? せっかく我々が話があるからと来たのに、そのための護衛を手放して丸腰になれとでも言うのかね!?」
それで急ぎ足でやってきた先では、エカサの偉い人の従者っぽい人が、検問で止めてる竜人の兵士さんにすごんでた。
「この様子だと我々を捕らえて祖国に脅しをかける腹積もりかも知れんぞ!?」
「なるほどたしかに! メレテの反乱軍に着いて土足で上がり込んでいるような輩ですからな!?」
「鋼魔もどきの鉄巨人とも親密な連中のことだ、奴らの野心に唆されているのかも知れん!」
なんて言い方!
ホントの事を見ようともしないで、ご隠居さまやライブリンガーたちを悪者にして!
ライブリンガーの中で大声を聞かされてたボクと姉ちゃんは、カッとなってライブリンガーから飛び出そうとするけれど、ドアを開けてくれないんだ!
「……鋼の勇士達のことをなんと?」
けれどそこへメレテ王さまと、イコーメのご隠居さまがやって来る。
歩けない王さまは輿に乗ってでご隠居さまは担ぎ手たちの前に立ってって形でだけど。
「おお。メレテとイコーメの先代様、ですかな? なんとと言われましても、野心をもってメレテに乱を招いた鋼魔もどきの鉄巨人、と」
「アイツら、よくもまあ堂々と……」
「エカサの立ち位置は太子支持だとここまでハッキリと……」
二人を前にしてまったくひるまないで言ってのけたエカサの人に、キゴッソ王家二人はドン引きだ。ボクらはそれどころじゃなく頭にきてるけれどね!
「うひょひょ、たしかにワシはもうイコーメの王では無いから、隠居ジジイ呼ばわりでも別に構わんのじゃがな。こっちのメレテのまで先代呼ばわりとはいただけんな。正式に継承せずに、乱をもってして奪い取った簒奪者を王と呼ぶのかね?」
でもご隠居さまはさすがだ。冷静に相手の言葉をつついてく。
「強い王が必要だとの志をもっての武力による継承、大いにけっこうではありませんか! 実に頼もしい。我らが盟主と仰ぐにふさわしい胆力では?」
でもつつかれた側はまるきり効いた感じもなしに、メレテの王さまは代替わりしたんだと言って見せる。
ふざけてるんじゃないか? でなきゃ挑発かってセリフだけど、こっちの代表相手にアレだけ言うんだから、エカサはそういう風に考えてるんだって思われても良いんだってことだ!
「私たちはそうは思いませんがね。むしろ鋼魔に続く、いやそれよりも厄介な新しい国難だと考えてますよ」
そこへキゴッソ王家の二人が馬を寄せながら声をかける。
さんざんライブリンガーにひどいこと言ってたエカサの人たちも、ボクらの勇者そのものの登場にはあわてるだろ……そんな風に思ってた瞬間がボクにもあったよ。
「これはキゴッソ女王とその王配。見苦しい場面をお見せしたようで……しかし我らからすればそのお考えこそ分かりませんな。力強い人の王ではなく、どうしてぽっと出の鉄巨人に全幅の信頼を置けるのか」
ライブリンガーの方をチラリと見て、それでもこうやって言えるだなんて……ショックすぎてボクも姉ちゃんも言葉が出ないよ。
「轡を並べて戦った戦友だからです。誰よりも危険で、誰よりも強大な相手とぶつかり続けてくれた頼もしい仲間だからです」
キッパリとライブリンガーこそが味方なんだって言ってくれるフェザベラさま。
それをお子さまだとエカサの人が鼻で笑うと、それを合図に機兵の一機が跳んだ!
音もない、金属の巨体からは信じられない軽々としたジャンプ。そこから宙返りする勢いで鉄杭が飛んだ!
風を切ってうなるそれらは、マッシュ兄ちゃんたちとご隠居さまたちを狙ってまっすぐに!
早く降りなきゃ! それでライブリンガーを変身出きるようにしなきゃ!
「させるかよ!」
でもあわてたボクらに心配無用だって、鉄杭はどっちもハイドツインズが弾き飛ばしてくれる。
「暗殺などと卑劣なマネを!!」
それで翼を広げたグリフィーヌが斬りかかる!
だけれど暗殺を仕掛けた機兵は弾かれた杭を巻き取りながらグリフィーヌの機動を限定。自分からも跳ぶ感じで剣の威力を抑えたんだ。
その稲妻の剣に焼かれた腕がまた王さまたちを狙うのに、今度は変身できたライブリンガーも構える。
「グワァッ!?」
「ば、バカな!?」
だけれど大きな暗殺者が次に狙ったのは自分の。エカサの偉い人たちだった。
杭の一撃と繋がる糸のひとふりで血しぶきを上げさせた機兵はまた音もなくジャンプ。この場から逃げ出した!
「追っ手を! 暗殺だ!」
その号令が早いか、逃がしてたまるかって追いかけようとしたボクらだけと、残りの機兵が膨らんで合体をし始めたからそれどころじゃない!
それで機兵バンガードを退治した後に聞かされたのは、見失ったって報告と、ボクらがエカサの偉い人をだましうちに殺したってウワサが流れてるって話だったんだ。




