133:幻惑の戦士ミラージュハイド!
ミラージュハイド!
それがボクたちの目の前に現れた、新しい鋼の勇士の名前だ!
ハイドスノーとハイドフォレストが、いっしょくたに金属のタコ足に押しつぶされそうになったのにはもうダメかと思った。だけど逆に二人は右と左で一つになった姿になって無事にボクたちの前に戻ってきてくれたんだ!
ライブリンガーにミクスドセント。それに続く新たな合体戦士の姿を、ボクと姉ちゃんは二人がかりで気絶した王様を支えたまま見上げるんだ。
そんなミラージュハイドだったけれど、吹き飛ばされて四方八方にばらまかれてたタコ足からの槍に襲われちゃう。けれどそんなのきっとへっちゃらさ! ……なんて思ってたら、ミラージュハイドの白とオレンジの半分こボディは串刺しにされちゃったんだ!?
「うわっほい!?」
「そんなッ!?」
このむごい姿に、ボクも姉ちゃんも目をそらしかけて、そこでめった刺しになってたミラージュハイドの姿が雪と燃える木の葉になって消えちゃったんだ。
「よかったあそこ!」
「そうね、そこに!」
「あれ?」
どういうことってみんなでキョロキョロやって見つけたけれど、指さした先はみんなてんでバラバラだ。でもみんな正解なんだよ。だってミラージュハイドはボクらみんなが指さした先全部、それだけじゃなくてそこら中に立ってたんだから!
「名付けてシャドーダンスッ!」
スノーらしくも、フォレストらしくもあるようなないような。そんなノリで四方八方から技の名前を響かせてくる。
「わっほい! こんなんじゃホントにどこにいるか分かんないや!?」
だったらシラミつぶしだって感じで金属の化けタコ? 化けイカ? とにかくモンスターにされたラケルは触手を振り回すけれど、当たるのは分身にだけで、ミラージュハイドの分身も潰された分、いやそれよりも多く新しいのが出てくるんだ。
「行くぞロルフカリバーッ!!」
「承知!!」
こうやって敵が分身に振り回されてるうちにライブリンガーはロルフカリバーをグランデサイズからさらに巨大化、その大きさは先っぽが雲を突き刺しちゃうくらいだ。
それだけハデな構えを向けられれば、当然誰だって危ないから邪魔しなきゃってなる。だけどそのために振り回した触手たちはドラゴの盾とグランガルトの牙が止めて、ライオの斧と急降下してきたグリフィーヌの剣が切り裂くんだ。
「ライブリンガー! 斬るなら!」
「ここを避けてッ!!」
合わせてボクらも取り込まれた人たちに元気を注いで、朝焼けの光でその位置を分かるようにする。
「ありがとう、みんなッ!!」
ボクらみんなの支えを受けて、ライブリンガーはドでかいロルフカリバーで一刀両断。斬るべきところだけでキレイに真っ二つだ!
「うおおー! ラケルー!」
重たい剣に吹っ飛ばされた金属モンスターの片っぽ。錆びて崩れてくその中から出てきたタコ人魚にグランガルトが飛び付いて受け止めるんだ。
そんなナイスキャッチから、グランガルトが良かった良かったっておんおん泣いてるから、ちゃんと生きてるみたいだ。
これからはどうなるにせよ、まずそっちは無事でよかったよね。問題は……。
「ああ、そんな……」
でももう一方。そっちの塊から大部分が出てきた人たちはひどいものだった。
取り込まれたその時にやられちゃってたのか、胸を貫かれている人や、首が曲がっているのも。
そんな風に亡くなってしまってる人たちの他にも、生きてはいるけど体が金属とくっついちゃってたりって。しかもその金属部分はじわじわって大きさを増してるようにも見える。
「うぁあ……ぐ、げぇえ……」
「しかもこいつは、惨いなんてもんじゃねえな……」
それで特に、ファイトライオもあわれむくらいにひどいのは、リーダー機兵のバンガードから落ちてきた乗り手だ。身体中が金属に埋まってしまっていて、まともな声も出せずにくるしそうな声を出してる。
「早く治療しないと。ライブリンガーもみんなも、バースストーンの力を貸して!」
姉ちゃんの音頭に、もちろんだってボクも、ライブリンガーたちもそろってうなずく。そうしてそれぞれの輝石を輝かせてボクと姉ちゃんに集める。
それで人の体にもぐり込んで悪さをする力を吹き飛ばしてやるんだ!
「水の精霊たちよ! その清らかなる流れをもって……」
「命をむしばむ邪悪を押し流して!!」
みんなから預かった力で作った癒しの水。それを大雨の後の川みたいな勢いで思いっきりに浴びせる。
すると人の体と溶け合ってた金属はそれだけが水の力を受けてべりべりってはがれて、分離した後の傷はあっという間に埋まってくんだ。
「やった! うまくいったね!」
「ええ!」
金属変化が上手に解除できたことに、ボクと姉ちゃんは音を鳴らしてハイタッチする。
全員じゃないけど、とにかく助けられた人がいる。それが何よりだからね!
そんなボクらを片膝立ちの姿勢で見ながら、ライブリンガー達も救出の成果に手のひらを叩き合わせてる。
「う、うう……どうやら、助かったのか?」
そんな風に喜びを分かち合ってると、解放された兵士たちの中から目を覚ました人が出てくる。
「うわ!? なぜ、勇者殿が? 鋼の勇士たちもこんなに!?」
「何言ってるのさ!? さっきまで王様を助けにきたボクらをさんざんジャマしておいてさ!」
「へ、陛下を!? うわ、本当にいらっしゃる!? だが救出の邪魔を我々がとは、どういうことだ……」
「それに、ここはいったい? 俺たちは王都守護の機兵乗りとして……それがどうして……!」
最初は今さら何をとぼけてって思った。けれど、起き出したみんながみんな訳が分からないよって顔をしてるから、ボクは何もいえないで頼もしい友だちを見上げるしかなかった。
ライブリンガーも混乱した兵士たちに、目の光を悩ましそうに弱めていたけれど、ボクと目を合わせるとその柔らかい光を大きくチカチカさせる。
「私も彼らがとぼけているようには思えないよ。おそらくは機兵を、そのエネルギー源であるイルネスメタルを通じて心もコントロールされてしまっていたのだろうね」
たぶん、ライブリンガーが言う通りなんだ。生き物の体と心まで侵略するイルネスメタル。許しておいちゃいけないよ!
「た、隊長! 隊長、なぜ我々がこんな……説明を、詳しい説明をお願いしますよ!」
そんな風に思ってたら、混乱した兵士たちは同じく倒れてたリーダー機兵の乗り手を見つけて助けてって。でも……。
「たいちょう? おれのこと? いや、あんたらだれさ? それよりさ、とおくでオオカミでもないてない? ひつじたちをこやにいれなきゃだろ」
頼りにされた隊長もなんにも覚えてなかった。それどころか自分が部下を持ったことも、いや兵士になったことさえ覚えてない。
ふるさとで家族と過ごしてた子どものころにまで心が戻ってるんだ。
「そんな……命や力といっしょに、心まで……!!」
「みんな! 機兵から降りろ! このままでは隊長のように大切なものまで吸い尽くされるぞ!」
あんまりにもあんまりなありさまに、助かった人たちはまだ機兵に乗ってる仲間たちに降りるように言う。
だけれどだまされてるんだって叫びに対する機兵からの返事は槍だった。
「危ないッ!!」
これをライブリンガーたちが叩き落とすけれど、機兵は払われた槍をあっさり手放すとひとかたまりに集まる。それで何をするのかと思ったら、真下からエネルギーを噴き出して飛び上がったんだ!
そのために起きた風が殴りかかってくるのから、鋼の勇士たちがボクらみんなをかばっている間に、かたまりになった機兵たちはもう雲の上にまで。
「いったい、何がしたかったの?」
ライオたちを処刑するんだって固めた戦力があっさりと逃げていくのに、ボクらはとまどったままに見上げるしかなかった。




