132:雪崩れ込んで乱戦
「ミナミナミナギリィアアアアアッ!?」
「グウッ!? なんというパワーッ!?」
ハンドルをさばき損ねたような声を上げて突っ込んで来る巨体を、私はグランデのボディで受ける。
だが河を遮って見せるほどの質量は、重く強靭なグランデをもってしてもパワー負けに押し込まれてしまう。
殴り付けてくるメタルテンタクルから、友たちを丸めた機体の内にかばって、自分から後ろに跳んで間合いを開ける。
「ロルフカリバーッ!!」
「承知……いやなりません殿ッ!!」
そしてパワーアームも支えに、フルパワーブレードで迎え撃とうとしたところ、連携する剣から制止と警告の声が。
メタルテンタクルに捕まれたグランガルトとガードドラゴ。彼ら二人が人質兼の鈍器として振り下ろされてきていたからだ。
これに私は急ぎに大技をキャンセル。とっさに振り上げたアームで、二人を捕らえる蛇腹状の連なりを握り潰す。と、同時に別口で拳状に束ねられたメタルテンタクルもまた、グランデの機体を強かに殴り付ける!
「うわっほい!!」
「クウウッ!?」
「グッ! しっかり掴まっていてくれよ!」
ガード越しにも機体に響く衝撃を堪え、悲鳴を上げる友たちを落とさぬように丸めた機体をロック。さらに開放した竜騎士とワニの戦士をアームで掴み、もう一撃と襲いかかる触手拳にロルフカリバーを叩きつける!
この衝突に合わせて思い切り後ろへジャンプ! 今度こそ充分に間合いを取る。
しかしとたんに足回りに受けていた抵抗が消える。不審に思って辺りを見回せば、いま私が踏み込んだのは大きく拓けたエリア。中央に鋼の巨体が三人分と、一人の男性が囚われた処刑場であった。
幸か不幸か、強化ラケルに押されるままに目的地に踏み込んでしまったらしい。
「ら、ライブリンガーッ!?」
「いや、話にあったのと形が違うが?」
「別の姿を手に入れたと言っていただろう! それにあんなのが他にいるものか! とにかく奪わせるな!?」
グリフィーヌの陽動に対して留守番に残っていたのだろう機兵たちが、戸惑いながらも主命のままに私たちを攻撃しようと構える。
「やめてよ! そんなことしてる場合じゃ……」
「ウバババッバババババババッシャァアアッ!!」
戦っている状況ではないとのビブリオの言葉を遮って、触手を振り回した巨体が私たちを負いかけて突っ込んでくる。
「なぁッ!? 鋼魔……ぐふッ!?」
元は機兵だったのだろう小さな人型の上半身。それを生やした巨大クラーケンの登場に、機兵の一機が槍を向けたとたんにメタルテンタクルに貫かれてしまう。
それも一機だけではなく、触手の届く位置にいるものを手当たり次第に。
しかし愕然としてなどいられない。当然その魔の手は私たちにも。特に同じイルネスメタルの持ち主であるグランガルトを狙ってだ。
「距離を取るか、仲間を頼む!」
手短に仕事を依頼しつつ、私は水の騎士と戦士を掴んだパワーアームを大きく後ろへ。勢いで返事にはドップラーがかっていたが、殺到するメタルテンタクルを振り切るためとして良しとしてもらいたい。
しかし当然、代わりに仲間を手放したアームが蛇腹触手に絡めとられてしまう。
「ダブルドリルッ!!」
しかしパワーと繊細な加減を兼ね備えたクローからアームの先端を換装。フルドライブで回転させる。
ブレードの起きたドリルの回転が絡みついたメタルテンタクルを巻き取り引き千切る!
「レフト、サークルソーッ!!」
力任せに振りほどいた勢いのまま、私は右アームをストレート。高速回転するドリルの先端をより集め束ねたメタルテンタクルに突き入れ、掘削!
同時に回転ノコに換装した左アームを振り回しつつ前進。仲間たちに襲い掛かる触手を切り払いながら正面を塞ぎに行く。
「ライブリンガー! ボクらもみんなを助けに行くよ!」
「ええ。ここで守られてるばかりじゃいられないもの!」
片腕に庇った友たちの申し出に、私の頭脳に強敵を正面に、味方とは言えない機兵に囲まれた現状からためらいが生まれる。だが……!
「……分かった! 二人にも頼む!」
「うん! 任せてよ!」
「その代わり、ここはライブリンガーに任せるから!」
そう言って二人は私が背面に向けて作った隙間から魔法で滑空する形で飛び出す。
そして機体のロックを解いた私は、腰だめにロルフカリバーを突き出して、ドリルとサークルソーを振り回しながらメタルテンタクルの中心部へぶちかます。壁となってここから先へは進ませない。それが仲間を守り、犠牲者を減らす最善手だ!
「このまま止まれぇえええッ!!」
「アガギャギャギャギァアャッ!?!」
その一心で激突からさらに朝焼けに輝く刃を押し込む私に、強化ラケルは……いやその巨体の主導権を握るリーダー機兵のなれの果てが、眩しさに悲鳴を上げて悶える。そして輝きを嫌うあまりに、その巨体が後ずさりを。
チャンス!
この機に私はアームを元のグラップルクローに再換装。メタルテンタクルをその根本から捕まえ、外れたロルフカリバーの切っ先を、元機兵と強化ラケルの接合部にある金属結晶へ突きだす!
だがまさに刃が触れようというその瞬間、私の背中を衝撃が襲う。
構わずに刃を突き入れるが、しかしほんのわずかな乱れが切っ先を狂わせ、さらにイルネスメタルの放つエネルギーに滑らされてしまう。
そうなれば逆に捕まえていたはずの私がメタルテンタクルへからめとられ、締め上げられる形に。
その間にも私の背中を撃ったものらしい衝撃が、メタルテンタクル越しにでも襲ってくる。
「撃て! 撃て撃て! 鋼魔もろともにメレテに仇なそうとする鉄巨人を討ち取ってしまえ!」
「罪人のところへは行かせるな!」
そういうことか。このままでは王太子の命令に忠実な機兵たちに阻まれてライオたちを助けることができない!
ここは規模を絞って全身からのエネルギー放出で振りほどくしかない!
「うわぁあああッ!? ファイトライオッ!?」
「ハイドスノー、フォレストもッ!?」
「構うな! それよっか王様抱えて離れてなって!!」
しかし決断したその瞬間には、ビブリオとホリィの悲鳴じみた声が。もはや一刻の猶予もないと、私はバースストーンをオーバーロード。全身から爆散するエネルギーでもって拘束を吹き飛ばす。
同時に処刑台からメタルテンタクルに囚われてしまっていた仲間たちも、同じく自爆同然のエネルギー放射によって拘束を緩めていた。
ならばやることはひとつ。私は脱出を援護するため、朝焼けの輝きに焦げ付いた本体部分へプラズマバスター! 更なるダメージを与えていく。
これが功を奏したのか、ライオはほどけた触手を燃える斧で脱出路をこじ開ける。
「しまったッ!?」
「こりゃまずったな、兄貴」
「そんな、スノー! フォレストッ!?」
だが同じくダガーの二刀流で切り開こうとした双子のキツネは、切断面から尚も伸びてきた小触手を振り切れず、再びメタルテンタクルの縛られてしまう。兄弟揃って繭に閉じ込めようという勢いで殺到するメタルテンタクルはまるで彼らを道連れにしようとしているようでーー
「ライブリンガーッ!!」
「任せてくれッ!!」
言われるまでもないと、私は強化ラケルを止めるべく刃を構える。
だがその瞬間、繭状になった鉄の触手の内側から猛烈な霧とオレンジの輝きが溢れ出す。
高まる圧力に負けて弾けた繭の中から現れたのは二色の鉄巨人だ。
右半身が白銀、逆が朽葉色の細身の巨人。二色のキツネ頭を肩にしたその姿は、私たちにある可能性を期待させてくれる。
「合体した……できたのか、ハイドスノー、ハイドフォレスト……!!」
「いかにも! 兄弟合体、ミラージュハイドッ!!」
無事に生き延びるばかりか新たな力を得て見せたハイドツインズは、高らかに合体を果たした新たな名を名乗るのであった。




