131:どうして悪しき力にすがり付くのか
救出すべき仲間の位置。そして同時に陽動の開始の報せをグリフィーヌから受けた私たちは川を遡っている。
だがタイヤを高速回転させてスピードを出しているわけではない。むしろタイヤはロックしている。
ならばどうやってかといえば――
「やるじゃないかグランガルト!!」
「そうかー? そうだろー! おれはやるもんだぞー!!」
ガードドラゴとグランガルト。その二人が連携して放つ強水流に乗ってである。私は二人が掴んだドラゴの大盾を足場にさせてもらってだ。
「わっほい! 早い早ーい!!」
「早い、のはいいけれど、少し揺れが激しくて……!」
そんな私の中ではビブリオとホリィがスピードと波に振り回されている。
しかしこうしないと私だけが先行してしまうので、全員で足並みを揃えつつ急行するにはこれが一番早いのだ。
そうして涸れた川に放った水流に乗って遡っていると、正面に巨大な鋼の壁が見えてくる。
「ラケルー!」
メタルテンタクルをうねらせて、その先端から放つ水圧カッターで周辺一帯の木々を切り倒しているモンスターダム。あれがラケルの変異した強化暴走態だというのかッ!?
大河を堰き止める鋼の壁となったラケルは、グランガルトの呼びかける声に反応したのか水圧カッターを放つ先端をこちらへ向けてくる。
「マズい! 散開だッ!?」
「おおッ!!」
とっさの私の指示に私はチェンジしつつ川岸へジャンプ。合わせてドラゴは私という重しと、グランガルトの手が外れた盾を振り上げてスプラッシュバッシュ。鋭い水圧カッターに反発の水圧をぶつけて相殺にかかる。
「ロルフカリバーッ!!」
弾ける水飛沫が降る中、私は剣を手元に。鞭のように薙ぎ払いにきた金属触手を叩く!
しなやかで弾力に富んだテンタクルであるが、バースストーンのエネルギーを重ねた刃ならば、中に流れるイルネスメタルのパワーもろともに断ち切れる!
痛みに悶えるようにうねり、地を跳ねるメタルテンタクルの間を抜け、別の触手が投げつけてきた丸太をプラズマショットで打ち落とす。
その勢いのまま踏み込もうとするも、また別の触手が水圧カッターを放つ先端を向けてくる。
これに私はとっさのプラズマショットとバックステップ。だが放たれた水圧カッターはエネルギー弾も切り裂いて私を追いかけて――。
「水の精霊よ!」
「刃を散らして私たちを守る盾となって!!」
だがビブリオとホリィの出した水魔法の盾がその鋭さを和らげてくれる。
それで広がりつつもなお強烈な勢いを帯びた水圧は、ロルフカリバーとレッグスパイクをアンカーにした私を後ろへと押し流す。腕に庇った二人の友が水流を逆回しにしようと力をかけ続けてくれてるにもかかわらずだ。
やがてひときわ重くなった圧力に、地面のぬかるみも重なって、私の機体は糸の切れた凧のように宙へ舞い上がる。
このパワー! 背を向けてライオたちの救出に向かうにはあまりにも大きすぎる!?
「やめろ、やめろよラケルー! ライブリンガーはおれたちを助けにきてくれてるんだぞー!」
しかし追撃の水圧砲を放とうとする触手に、大ワニに変形したグランガルトが食らいつき、機体から放つ水流でもって巻き取り曲げる。
この瞬間を逃してはいけない!
「マキシアームッ!!」
私の呼び声に獣の咆哮を伴って双腕仕様の超巨大パワーショベルが出現。グランガルトを放り投げたメタルテンタクルを握り潰す。
お返しだとばかりに自由な触手がアームと機体に巻き付き、締め上げに。その際マキシアームのボディを濡らした水分が凍りついて行っていることから、絡み付いたところから急速に熱を奪われていることも分かる。
「はははッ! いいぞいいぞ! メガクラーケンよ。そのまま勇者などと持て囃される鉄巨人を凍りつかせてしまえッ!!」
その笑い声は強化暴走させられているラケルの側。角飾りつきの機兵からのものだ。その腕には、機兵のサイズであっても抱え持たなくてはならないほどに大きな緑色の球体結晶が。
「あれでラケルをコントロールしているのかッ!?」
理屈としてはウィバーンがコントロール下にあるイルネスメタルを介してグリフィーヌを操っていたようなものか。リーダーらしい機兵の持つあれが、ラケルを強化させているメタルの片割れか何かで遠隔コントロールをさせているのだろう。
つまりあのコントロールメタルを破壊してしまえば、ラケルを解放することに近づくということだ。
「おまえが!? おまえがラケルをー!!」
グランガルトもそれに気づいたのか、私が仕掛けるよりも早く、チェンジしつつ渦巻く水流を拳に纏わせ躍りかかる!
だがこれはリーダー機兵に操られた太いメタルテンタクルに叩き落とされる。そこへダメ押しとばかりに振り下ろされる触手はガードドラゴが防ぐも、無数かつ縦横無尽の鞭の連打に防戦一方だ。
「おおっとぉ? てっきり勇者様御一行かと思ったが、これは鋼魔の残党か? 鋼魔の残党が我が国に仇なすと言うのなら、ここで殲滅してしまっても良いよなぁッ!?」
リーダー機兵からそんな喜びをにじませた声が響くや、メタルテンタクルの攻勢はいっそうに激しくなる!
「何言ってるんだッ!? そっちこそ鋼魔と手を組んで、王さま捕まえたり、人間をイルネスメタルのイケニエにしたりって知ってるんだぞ!?」
「そうよ! それに、その機兵に乗っていたらアナタも取り込まれてしまう! だから……!!」
「だまれッ!!」
リーダー機兵からの怒りの声と共に降ってきた鉄触手。刃で受け止めてなお地響き響かせるこの重みには、私の機体とロルフカリバーからも苦悶の声が上がる。
これでビブリオたちの言葉を遮ったリーダー機兵は、さらに高くコントロールメタルを掲げて叫ぶ。
「鋼魔との戦が終わったがために、俺たちにはもう正当な活躍の場が残っていないのだ! それも! これまで命を捨てて戦ってきた兵たちを讃えるでなく、我々に勝ち戦の誉れを授けるでなく! ぽっと出の怪しげな鉄巨人を勇者だなどと持て囃してッ!!」
彼の怒りの声が重なるに合わせて、メタルテンタクルが繰り返し振り下ろされる。刃が食い込むを顧みないその連打に、ビブリオもホリィも頭を抱えて身を低くする。
「そんなことの、そんな理由でライブリンガーを攻撃してるのか!?」
「ライブリンガーは、私たちも、あなた方も命がけで守ってくれたんですよッ!? それを……」
「だまれと言った小僧! 鉄巨人に乗っかって名誉を得たお前らには分かるまいが! それも我々兵が得られるはずの栄誉だったのだぞ! それをかすめ取っておきながらなあッ!!」
この叫びにビブリオもホリィも絶句する。まさか自分達の戦いを盗人の仕業のように評されるなど夢にも思わなかったからだろう。私のことは良い。どう言われても構わない。だが力を合わせて命を懸けて戦ってくれていた仲間たちを悪く言われるのは、辛い。
「そう言えば、鉄巨人に付き従う金髪青眼の神官娘……王の血を引く聖女だなどと言われている娘か! 討ち取ってその首を確実に捧げたとあれば新陛下の覚えも良くなるだろう! つまらん仕事を任されたとは思ったが、運が向いてきたということかッ!?」
なんだと?
聞き捨てならない言葉を受けて、私の心が黒いものに染まる。
怒りに噴き上がった力に任せてロルフカリバーを振るえば、私もろともに友たちを叩き潰しにかかっていた機械触手たちが切り裂かれる。
「んなぁ!? バカなッ!?」
「バカはおまえだー!」
驚き戸惑うリーダー機兵に、グランガルトが再びの水流拳。
この一撃が間欠泉に乗った木の葉のごとく機兵を打ち上げる。
そのままズシリと地に落ちた痛烈なダメージが、強化ラケルの触手を鈍らせて、同時に私の心を黒一色から鮮やかな色に塗り直す。
そうだ。かなりの高さから落ちた機兵だが、中の人は無事なのか!?
「ひぃ!? ち、チクショウ! なんでだ、機兵は俺たちの、人間の希望なんだろうが!? もっと、もっと力を出せよッ!?」
そんな私の心配をよそに、リーダー機兵は癒着していたコントロールメタルを抱えこんですがり付く。するとその機体が真下から立ち上がった緑色の光の柱に貫かれる。
「マキシアーム、ライズアップだッ!!」
その毒々しい色に抱いた危機感に突き動かされて、私はライブリンガーグランデへと合体する。




