122:第三のマキシビークル! ※挿絵アリ
河合ゆき氏より頂いたマキシアームのイラストを挿絵として使用させていただきました
大地を踏みしめ吠える鋼の馬頭鬼。
ビリビリと押し寄せる圧を、私たちは身構えこらえる。
そこへ踏みつけにくる足を私はステップ回避。合わせてのスパイクシューターとプラズマショットを浴びせる。
同時にロルフカリバーのエネルギー刃と、グリフィーヌの電刃。そしてラヒノスの爪が鋼の巨体を叩く。
だが機体の表面に押し上げられた兵の姿に鈍らされ、ぶ厚い装甲を削るだけで終わりにされてしまう。
その浅手の傷を修復させつつ、鋼の馬頭鬼は私たちを蹴散らそうと手足を振り回す。
激情に任せたかのようなこの動きは単調。しかしながらごうごうとうなりを上げる大質量は、かわしてなお強烈な圧力を機体にぶつけてくる。
グリフィーヌが頭回りを飛び交い牽制することで狙いを逸らしてくれていなければ、とても凌げていないだろう。
「接近は危険だ。残存の機兵隊は距離を取って包囲を維持! 魔法撃に徹して撃ち続けるのだッ!!」
そうして戦っていると、後方から仮面の軍師の指揮の声が。
「なにを言うのか!? 軍師殿、それでは鋼魔の怪物と戦っている勇者殿たちを巻き込むことにッ!?」
「それにあの怪物は伯爵家の跡取り様で、アレに取り込まれているのは我々の仲間なのですよッ!? どうか、どうかお考え直しを!?」
しかしこの指示に包囲陣形を組んだ機兵たちからは反発の声が。
「主命を忘れたか!? 我らに任された使命は、我らの新たな脅威になりうる鉄巨人ライブリンガーを排除すること! ここで鋼魔に呪われたか、暴走を起こしたモノと共倒れに出来ればむしろ好都合というものだ。構わず撃てぇい!!」
「んな!?」
「ふざけるなよお前ぇえッ!?」
対する軍師の指令に反対した兵士さんたちは絶句。ビブリオは火のような怒りを吐き出す。
覚悟はしていた。してはいたが、こうもハッキリと言葉にして聞かされるのは正直ショックだ。
ビブリオの激しい反感も見ていなかったら、膝をついてしまっていたかもしれない。
しかし反発を受けた仮面軍師はこれを鼻で笑い飛ばす。
「主君の命令に背くのか? 剣に立てた誓いを、己を育んだ祖国を裏切るか? 一時の義理立てと矜持のために、命に背いて追われるつもりか!? 取り込まれた同僚のように暴走機兵のエサとなるか!?」
この念押しに、機兵の乗り手たちはうめき声を上げて自身の機体に武器を構えさせる。
「そうだ! それでいい! 我々の使命を察しながら、それでもなお守ろうとする。そんな素晴らしい英雄として、もろともに葬ってやれば良いのだ! ああ、素晴らしい悲劇の勇者よ!!」
皮肉めいた賛辞の言葉を合図に、包囲する機兵たちからの魔力砲が放たれる。
私たちをではなく、なるべくにより大きな的であるバンガードを狙った攻撃からは、兵士の皆さんの従わざるを得ないがための苦悩が見てとれる。
しかしなるべく狙いから外しているとはいえ、射線上に私たちがいるのは変わらない。
バンガードを抑え、背中も撃たれないようにする。両方やらなくてはならないというのは中々に難しい。
そんな中、仮面の軍師は機兵たちを煽るように腕を振り回す。
「どうしたどうした。狙いが甘いぞ、密度も薄いぞ! もっと激しくやってやれ!」
「おのれ! あの卑劣漢めが! 機会があればきっと目に物見せてやる!」
グリフィーヌは配下に無理強いする軍師への怒りを露に、しかしその刃はあくまでも正面の馬頭鬼バンガードへ。
腕甲に人質の浮いた右腕をやり過ごし、肩口から斬り込むグリフィーヌ。だがそんな彼女を横合いから振るわれた鉄拳が襲う。
「グッ!? バラけていた時より鋭い!?」
彼女をとっさの防御ごとに殴り飛ばしたのは馬頭鬼バンガードが背中から生やしたもう一つの右拳だ。
餌食としての機兵を狙って無数に広げていたのを束ねたのだろうそれは、空に逃れたグリフィーヌを追いかけ伸びる。
援護に行きたいが、こちらにもホリィたちを狙ったのが伸びてきている。
「すまないグリフィーヌ、持ちこたえてくれ!」
「こちらは気にするなッ! むしろ引き付けておくのは私の方だろうッ!?」
グリフィーヌは詫びる私に筋違いだとばかりに返して、自分に迫る手を蹴りつける。
そうやって彼女が空で腕の一部を引き受けてくれているのならば、なおさら私がなんとかしなくては!
「ラヒノス! ほんのわずかでいい、腕ひとつを抑えていてくれッ!!」
私が受け流しに叩きつけた鋼の腕に、ラヒノスがその全体重をかける。
またビブリオ達への流れ弾はロルフカリバーに任せて、私は偽装をパージしてカーモードへチェンジ。タイヤを鳴らして囲む機兵からの攻撃を掻い潜ってバンガードの足元へ。
「たとえ多くを取り込んでいたとして、真なる核は、イルネスメタルはひとつッ!!」
それさえどうにかしてしまえば、ピエトロと分離してしまえばいくら人質を取られていようと!!
そして人型へのチェンジから、体ごとぶつかる鉄拳とスパイクシューター!
杭打ちに撃ち込んだ朝焼け色の輝きは、バンガードの纏う分厚い装甲のへこみからその奥へ。
鋭く甲高い音を響かせて沈み込んだ!
だが拳とスパイクを撃ち込んだ私の機体を、横殴りの衝撃が襲い、地に弾んだのを踏みつけられる。
「ごふッ!? そんな……ッ!? バースストーンのエネルギーは、たしかに入った……はず!」
私を踏みつけにするその巨大な足は馬頭鬼バンガードのものだ。
苛立ちに任せて力を籠めるその足には、なんの衰えも見えない。
イルネスメタルの対となる私のエネルギーを打ち込んだというのに!
しかし、目を背けたところで通用していない現実は変わらない。押し返そうと上方向に力を向ける。
だが踏みつける足はビクともせず、私の機体がメキメキと軋み音を立てる。
「ライブリンガーッ!? この、邪魔をッ!?」
踏みつけられた私を助けようと、グリフィーヌが駆けつけようとしてくれる。だが二本に増えた腕に阻まれて空に留められてしまっている。
「フハハハッ! 良いぞ! まとまった今こそが好機! 抑えている間にまるごと焼き尽くしてしまえ!」
そして包囲している機兵たちからは軍師の指揮によって集中された砲撃が。
「ロルフカリバー、ガードを! ラヒノスはボクと一緒に、お願いッ!!」
「任されよビブリオ殿!」
見かねたビブリオの掛け声に、ロルフカリバーとラヒノスが力強く応じると、ビブリオは軽く下がった熊の肩に乗る。
そして雄叫びを上げてラヒノスが踏み込むのに合わせ、その背にあった私の工具たちをビブリオの魔法が持ち上げる。
「ライブリンガーを、はなせぇえええッ!!」
ハンマーに鋸に斧、シャベルに大振りの鋏。オレンジの輝きを帯びて浮かぶ大工具を引き連れて走るラヒノスは、やがて自分自身もバースストーンの輝きを纏う。
眩いほどに輝くラヒノスとビブリオの突撃は、しかし振り下ろされた腕に叩き伏せられてしまう。
「ラヒノス、ビブリオッ!?」
踏みつけにされた足の隙間から見せられたのは、肩口から大きく体を裂かれて地に叩きつけられたラヒノスの姿。
転げ落ちたビブリオも心配だが、ラヒノスは明らかに致命傷だ。
しかしグッタリと伏したラヒノスの傷口から溢れるのは赤い液体ではない。倒れてなおも纏う朝焼けの、バースストーンの光。肉体の内側から溢れだしたそれが、彼の体を、辺りに散らばった私の工具を包むのだ!
「何の!? なんで光るッ!?」
仮面の軍師のものらしき狼狽の声が上がるが、そんなこと私に聞かれても分かるはずが……いや、分かる。ラヒノスを包んだ光が脈打つのに合わせて、私のバースストーンも応えるように点滅させる。この共鳴がラヒノスの心と、何に生まれ変わろうとしているのかを私に伝えてくれている!
勢い増す対の光に、バンガードがもう一撃を加えようというのか雄叫びを上げる!
「マキシアームッ!!」
これに負けじと放った私のコールに、朝焼けの輝きから飛び出すものが。
遅れて光が爆発する眩しさの中、私を押し潰していた重圧が取り除かれる。
そして私が目にしたのは山のように巨大な重機だ。
バンガードを投げ飛ばす力強い二本一組のアーム。どんな足場でも鋼の巨体をどっしりと支えられるだろう四つのクローラー。
そして黒と黄色の重厚な機体に輝く熊の顔のエンブレム。
これが、これこそが、ラヒノスの生まれ変わった第三のマキシビークル。超巨大双腕仕様機、マキシアームだ!!




