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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第五章:邪神、暗躍
119/168

119:玉座と王冠は重石だった?

 王座を退いたというイコーメ王……いや今はもう先王、あるいは先代様と呼ぶべきか。とにかく私たちの知るイコーメの王様は湯気を立てる魚の身を頬張っていく。


「まあ先代でも御隠居でも好きに呼んでくれたらよいが、御隠居の方が商家の元当主のちゃらんぽらん爺感が出て、良いな! しかしこの魚はあっさりとしながらもホクホクと美味い……! 毒見済みでないこのホカホカよ!」


「楽しんでいるところを申し訳ないのですが、なぜ王位を譲って? 政治と両立しては難しいとの判断は分かりますが……」


「それならこちらに代理を送るっていう手段もありますものね」


「まあ、それも悪くはなかったがのだがね……」


 私たちの疑問に御隠居様はにんまりと口元を拭いてうなずく。


「だが、いい加減爺が玉座に居座り続けるのも良くないからのう。それにへまをして切るのなら、若いのより先のない老人の方が良いじゃろうて。うひょひょひょ」


「なんと!?」


 自分たちを切り捨てるつもりなあんまりにもあんまりな言葉に、私は思わず仰天の声を上げてしまう。

 しかし御隠居様と共に野営する竜人たちは、「ひどいことを仰る」「これから楽隠居だというところであったのに」などと言いながらも、屈託無く笑っている。よく見れば彼ら全員が、鱗からツヤの消えたそれなりの年齢層の人物である。


「と言うわけで、余らはもう身軽な身の上だから、勇者殿を敵視してる連中に目をつけられても国許は知らぬ存ぜぬで片付けられるという寸法よ。うひょひょ」


「それは、そうかも知れませんが……なぜそこまで……」


 御隠居が言うような事になってしまえば、イコーメからの救いの手は秘密裏なものに限られてしまう事になる。そんな危険を侵してまでここにやってくる理由とは?

 御隠居はこの私の問いに、スッと目を細める。


「勇者殿を密かに排除しようだなどという、恥知らずな計画を聞きつければコレくらいはやらねばな」


「ライブリンガーをッ!?」


「そんな、どうしてッ!?」


 努めて抑えた声で告げられた情報に、ビブリオたちをはじめとした仲間たちが憤る。

 そんな皆に感謝しつつも、私は落ち着くように手で示す。


「……それは、私が第二のネガティオンになるのではという不安から、でしょうか?」


 勇士英雄が歓迎されるのは大難ある時。退けた後の平時には疎まれるもの。時によれば乱の火種にもなりかねない。これはセージオウルの言葉であるが、私自身の不安でもある。


 友たちは否定してくれていることだが、その友人たちがもし人の手にかかってしまったとしたら。そうなればグリフィーヌを奪われたと思ったあの時の、そしてネガティオンと分かたれたあの時の怒りと憎悪に狂って、際限無く人々にぶつけてしまうかもしれない。

 そうなってしまえば、私とネガティオンになんの違いがあるというのか。いや、憎しみに呑まれた私を命がけで滅ぼしてくれる仲間がいるという点は違うか。

 だがもしもの場合はそんな彼らをはじめ、多大な犠牲を強いてしまうだろうことも、ここまで思い至っていてなお、喪失の痛みと憎しみに耐えられるとは信じられないのだ。

 改めて言葉にしてはっきりした。私は支えを失えばもう一人の自分に転がりかねないのが不安でたまらなかったのだ。


「連中はそう脅威を主張してはいるが、所詮は題目に過ぎんよ」


 しかし私が自分の心に巣くった不安を認めた一方で竜人の御隠居は首を横に振るのであった。


「それは、どういう……?」


 問いかけたのは私か、それとも仲間たちのいずれかか。ともあれ私が肩すかしに呆けた間に御隠居は話の続きに入る。


「事はもっと単純じゃよ。連中は単純にライブリンガーが、鋼の勇士たちが邪魔なのだ。自分たちの大陸統一という野心を阻みかねないとな」


「なんと!? そんな勝手な理屈で……ッ!?」


「群れでか自分一人でか。程度の差はあれ、生き物というのは勝手なモノよ。ヤゴーナ連合とまとまっている余らも、様々に手前勝手な主張で争いと国々の興亡を繰り返してきたのは歴史の語るところよ」


 絶句するグリフィーヌに対して、御隠居の語りは淡々としている。

 御隠居も若い頃にはそうした争いのひとつに駆り出されていたのかも知れない。遠くを眺める御隠居たち老竜人たちの目にはそんな深い色がある。


「……で、共通の驚異の消失と図抜けた武力をもたらす新兵器。これが連合を己のものにしてやろうという、メレテのお世継ぎの願いを現実的にしてしまったからのう。ま、鋼魔平定の立役者たる鋼の勇士が居なければ、ではあるが」


 いや若い若い。と、御隠居は私たちを排除したがっているというメレテ王子の野心に苦笑する。


「そんな勝手を許せずに、御隠居は殿に、拙者たちに助力して下さるのだと?」


 だが続いたロルフカリバーの問いかけには吹き出し、大口を開けて笑いだす!

 この突然の大笑に、ロルフカリバーも私たちも戸惑って理由を尋ねられずにいる間に、御隠居は笑いを封じ込めていく。


「うひょひょ……うひ……いや、スマンスマン。そんな聖人君子のような義憤が理由だと思われてるとは、まさかでな……うひひ」


 違うのかと目で問いかける私たちに、御隠居は封じきれぬ笑いを溢しながら期待に添えんで悪いが、とうなずき返す。


「余が勇士殿たちに味方する理由も、他と変わらぬ手前勝手なモノよ。投資先としてより儲けが期待できる。だから商人として肩入れしておるに過ぎんのじゃよ」


「こう言う御隠居様だけども、俺を呼び寄せるのにキゴッソに結構な額を支払ってるんですわ」


「おいおい。双子のキツネ斥候殿、それを言ってくれるなよ。格好がつかんじゃろうに」


 そうなのだ。儲けが期待できるからだと言っている御隠居だが、今のところは立て続けの投資してばかりいるようにしか見えない。

 本当に儲けだけしか考えていないのだと言うのなら今話題の新鋭兵器である機兵に投資すればよいのだから。

 だがこの考えに対する御隠居様の考えはノー。静かに首を横に振るのだ。


「アレはいかん。確かに今は盛り上がっているが、それだけのことでしかない。胴元一人だけが肥え太るばかりで、最終的に肥やしにされた顧客が枯らされる。そういう類の商売じゃよ。そもそもポンとあんなものが出てきたことそれ事態がまず怪しいじゃろうが」


 渋い表情で頭を振った御隠居だが、すぐににやりと口元を緩める。


「余の狙いは民を食わせ、国を富ませることよ。そのためならばどんな商品でも揃えてやる。だからこそ勇者殿が良い。勇者殿がアジマ火山周りを開拓して希少な鉱石を流してくれて、開拓者に必要な品を動かす。その流通の活性が関わる者全ての飯の種になる……そうして広まり高まった豊かさが、いずれ戦に荒れた国を立て直し、つぎ込んだ資金以上の金が動くことになるという寸法よ」


「私の開拓働きでそんなに上手くいくものでしょうか?」


「さて、商機は水物。たしかに絶対と言うものは無い。だが余はそう睨んでおるよ?」


 見込まれるのはありがたい。だがしかし私の力の及びそうにないほどに大きな流れに、任せてくださいとは言いにくいね。

 同意に躊躇する私をよそに、竜人の御隠居は手を鳴らす。


「ともあれ、そんな勇者殿を失うワケにもいかんから、こうして身軽になった余が救出にやってきたというわけよ」


 そうして語られた救出プランというのは、このまま密かに川を下って伯爵領を脱出。数世代の付き合いがあり、イコーメに親しい侯爵領を経由してメレテ国外へと言うものであった。


「イナクト辺境伯もキゴッソに婿入りした倅を通じて協力を約束しておる。生まれの村の事は心配いらんよ」


 うひょひょひょと軽い調子で笑い飛ばす御隠居だが、この根回しには相当の骨折りがあったに違いない。私たちのために、まったく頭が下がる。このご厚意、無碍にする事は私にはできない。


「分かりました。こうなればなるべく急いだ方が良さそうですね」


「……っと、ちょいとお待ちを!」


 いざ脱出となりかけたところにかかる待ったの声。それはハイドフォレストによるものだ。

 彼はそのまま遠くを見つめて繰り返しうなずいている。双子の兄からの連絡が入ったのだろう。


「……見張りのアニキからですが、ちとマズイことになりましたよ。ファトマ伯爵の城から機兵の軍団がこっちに向かってるそうで」


 ハイドフォレストの報告の直後、いきなりに川面が爆ぜる。

 とっさに私が御隠居たちと川の間に入ると、飛沫を突き破る勢いでぶつかるモノが。


「なんと、バンガード魔獣!?」


 それは鋼を纏った巨大なイモリ。イルネスメタルに寄生されて鋼魔の手先にさせられた魔獣であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] おっ、久々のバンガード魔獣の登場! 死霊以来の強敵の予感!!
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