112:態度の温度差で風邪ひきそう
「あーもう! ムカつくーッ!!」
広い広い建物。勇者の宿って言われてるライブリンガーたちの建ててきた家たち。
そのうちのキゴッソの都にあるものに飛び込みながら、ボクは怒鳴り声をあげる。
それと一緒に出た回復の水魔法が、クルマになったライブリンガーのボディを洗う。
いっしょに入ってきた姉ちゃんも、グリフィーヌ側に水の精霊魔法を浴びせる。
「ちょ、ちょっと、どうしたんだ!? 強すぎるよ?」
「そうだぞ一体全体何があった? 二人ともらしくないじゃないか!?」
「あ……ご、ゴメン」
ライブリンガーたちの声にボクらはカッとなってた頭に自分たちのシャワーを叩きつけられた気持ちだ。
怒りすぎて色々見えなくなっちゃってたって言ったって、友達に当たるだなんてなんてひどいことをしちゃったんだ……。
「二人とも、本当にごめんなさい……」
「ゴメンよ」
姉ちゃんといっしょになって小さくなって謝ると、ライブリンガーは目をパシパシと動かして、グリフィーヌも優しく首を横に振ってくれる。
「なんの。少々驚かされたがな」
「ああ。大丈夫さ。それで、二人がそんなに怒るだなんて、何があったのか聞かせてくれないか?」
こんなに優しい人たちがに、偉い人たちはなんて仕打ちをするんだ!
いや、いけない。イライラの原因を聞かれてまたぶり返しそうになっちゃってた。
息を落ち着けて何があったのかを説明しようとする。
「実は……」
「そいつは俺たちの側から説明させてもらうぜ」
でも話を切り出そうってところで、声が割り込んでくる。振り返ったら重そうなマントを羽織ったマッシュ兄ちゃんとフェザベラ様、その侍女をやってるエアンナが護衛の鳥人たちを引き連れて入ってくる。
それと一緒にセージオウルもぴょこぴょこと跳ねるみたいにして入ってくる。
「やあ、セージオウル。久しぶりだね。あまりそんな気はしないが」
「ホッホウ。知恵を貸しに輝石の同調で話をしていたからな。顔を合わせるの自体は確かにしばらくではあるがね」
「和やかに再会のあいさつをしているところに割り入ってすみませんね」
「こちらが招いておきながらの不快な思いをさせてしまって、重ねての無礼を申し訳ありません」
ライブリンガーとセージオウルがあいさつしてるところで、マッシュ兄ちゃんと姫さま……じゃなかった、女王さまがボクらに頭を下げてくる。
「ふぇ、フェザベラ様……供の者が見ている前でそんな……」
「同盟相手の、ひいては人間種族全体の非礼です。これから王冠を戴く私が、率先して頭を下げて何も間違いはない……いえ私こそがまず頭を下げてお詫びするべきなのです」
エアンナが良くないのではと声をかけるのに、フェザベラ様は堂々とした声で返す。
そうだよね。国を引っ張る人が真心で向かい合うべきだよね。
やっぱりキゴッソ王国なんだよね。
これまでのつきあいもあるし、女王さまもちゃんとしてるしで。
「ホッホウ、上が範を示すべき、という考えは素晴らしい。しかし少々青い、幼いまである誠実さだな。今連れているのが腹心ばかりだという考えがあってのことだろうがな」
けれどセージオウルはなんの味方だか分からないことを言う。
そりゃあボクたちの味方には違いないから警告のつもりなんだけど、面白くないな。
そんな風に姉ちゃんたちとジトッとした目を向けてたら、マッシュ兄ちゃんが手を鳴らす。
「さてさて。問題はいま聞いた通りなんだが、具体的には俺たちがライブリンガーたちを戴冠式からの式典に招待したことに連合首脳の中から難色を出す方々が出てきてな。こっちが予定してる会場や方式じゃなく、伝統に則った様式でやるべしってな」
要するにライブリンガーを閉め出したいんだよね。そういうことを言い出した人たちは!
鋼魔をやっつけるのに散々ライブリンガーを頼っておいて、その苦労に報酬を出す気もない!
そんなのゆるせない! そんなセコいことをゆるすだなんて、そんなのぜったいゆるせないじゃないか!?
「落ち着いてくれよ小姓殿よ。俺たちだってそんなことは受け入れられないから、それならこっちはこっちでやるからって最初の予定で押し通したんだからな」
マッシュ兄ちゃんもおんなじ気持ちなんだってなだめられて、ボクはまた頭に血が上ってたことに気がついた。
ライブリンガーが話の中身にショックを受けるより、ボクのムカムカに目をチカチカさせちゃってるじゃないか……恥ずかしいな。
「ホッホウ。平時となれば国家が英雄というものを重荷に思うのは変わらぬものよ。幸いにもこのキゴッソ女王とその王配、それとイコーメの竜人王は連合の中でも我々の味方でいてくれるようだがな」
セージオウルが言うように、王さまのたちのみんながみんなひどいことを考えてるワケじゃないのもホントなんだよね。
だから安心してくれよって風なマッシュ兄ちゃんとフェザベラさま。その後ろのみんなの堂々と胸を張った姿に、ボクはホッとした気持ちになった。
「まあそんなワケだから、色々とごちゃごちゃした腹でやってくるのはいるだろうが、気にせずに参加してくれよ。ライブリンガー無くして今日の再興なしなんだからよ!」
この一言を合図にして、お供の人たちが外においてあったものを壁の中に運んでくる。
何人がかりで担いで来たのは大きな木箱だ。
中身抜きにしても見るからに重たいんだろうなってそれを、お供の人たち石畳の床に置く。それに曲がった金属棒を次々に叩きつけてバラバラにしてっちゃう。
親のかたき討ちみたいな勢いで木箱が割られると、中から出てきたのはびっしりと藁に囲まれて守られた布の塊だった。
「これまでも、これからも何かと必要になるならなんだろうって考えて準備したものだ。使ってくれよ」
「これは……マントかい? 私たち用の?」
マッシュ兄ちゃんたちからの贈り物は、変身したライブリンガーにピッタリのマントだった。
オレンジ色の宝石の光る太陽のエンブレム。それを囲うようにいくつもの勲章を並べた留め具。
メタルボディを覆う布も分厚くて、それだけで光ってるみたいにツヤツヤのオレンジ色で、もう見るからに良いものだって感じだ。
しかもそのライブリンガー用の一枚だけじゃなくて、グリフィーヌ用の金糸の稲妻模様が輝く飾り布に、ロルフカリバーのための狼と剣の紋章を刺繍したマントもある。
「これって、このデザインは……」
「わっほうい! 前にイコーメ王様に話したヤツ!」
「おう。ロルフカリバーみたいに伸び縮みはできないからそこは注意してなってさ」
「いや、合体して式典に出るようなことはまずないからね?」
前に話したあやふやなイメージ話からバッチリに仕上がった勇者の式典用装備。これはもう感動モノだよ!
「しかし、武辺者の私にも分かるが、これはなかなかに高くついたのではないか?」
試すように体に当てていたグリフィーヌの言葉に、ボクは浮かれていたのからハッとなってマッシュ兄ちゃんとフェザベラさまを見る。
そうだよ。このサイズにこの質なんだ。ボクと姉ちゃんのパーティ衣装なんか比べ物にならないはずだよ。
だけど二人はなんのって感じに笑い返してくるだけだ。
「なに、たしかに安い買い物じゃ無かったが、これっきりで仕舞われるモノでもないだろ? また別の式にでも使えるしな」
「それにイコーメ側との貿易を盛んにするのは、どうあれ同じことだもの」
「かたじけない」
「俺らと勇者殿の仲じゃないの。水臭いこと言いっこなしだって」
せっかくキゴッソ王家と竜人王さまのご厚意なんだ。ライブリンガーたちもピッカピカに仕上げなくっちゃだよ!
「お手柔らかに頼むよ」
そんなはりきるボクたちに、ライブリンガーとグリフィーヌは困った風に笑うんだよ。なんでさ。




