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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第四章:分かたれた者
103/168

103:ボクらは必ず生き延びるから!

 ボク、ビブリオと姉ちゃんは、鎧の間から血を流してる兵士さんたちに回復魔法をかける。

 担がれてる方と担いでる方。どっちが出してる血なのか分かんないくらいに血が絡んじゃってるケガ人に、ボクと姉ちゃんもしっかりと握りあった手から、火の活性と水の癒しを噛み合わせて組んだ魔法を浴びせる。

 周りに味方がいるから息継ぎくらい出来るようにはなってる。けれどそれでもボクも姉ちゃんも魔力切れすれすれだったから、バースストーンの増幅だけじゃ追いつかなくて。だからライブリンガーがグリフィーヌやロルフカリバーとやってるみたいに、触れ合いから石の力を共鳴させてやってみたんだけど、これが大正解。パワーアップも節約にも効果ありで、おかげでケガ人がどんどん運ばれてきててもなんとかなってる。まあでも、ボクと姉ちゃんくらい息が合ってないとここまでの効果はないかもだけど。


「すまん、助かった。もう一人で立てる」


「よっしゃ。そんじゃ行くか!」


「無理はしないでください、傷は塞がった程度で、流れた血もいくらか補えたくらいなんですから……」


「死力を尽くすって言ったって、ホントに死んじゃうのは違うんですよ!?」


「分ってますって。そんでも怪我したのを聖女様らのとこまで担いでくるくらいは出来ますよって!」


 そう言って走り出す兵士さんを、ボクらは止められない。

 ライブリンガーがネガティオンを火山のてっぺんに突き飛ばしていって。それでも鋼魔の勢いは緩まないから、戦う人はいくらでも欲しいし、ボクらもボクらで旗代わりに出してる朝焼けオレンジの魔力光を目印に、手当してほしいって兵士さんたちが集まってきてるんだから。

 こうやってケガ人を運ぶ先の目印になってるバースストーンの光だけど、効果はそれだけじゃない。


「聖女様たちの加護は篤いぞ! 勇者様も山頂で敵首魁を討ち取ろうと戦ってくださっている! 恐れるな、足並みを揃えて持ち場を、隣の味方を守れ!」


 マッシュ兄ちゃんの声に周りからバッチリに揃った返事が。ビリビリするみたいな勢いで押し寄せてくる音の波は、バラバラじゃとても起こらない。この場の連合軍を結びつけてまとめる柱みたいな力にもなってる。


「アレさえ、やたらに眩しい小僧と小娘さえ潰しちまえば……!」


「人間どもなんぞ、落ち葉を散らすみたいに吹き飛ばせるってーのによ!」


 それを鋼魔も分かってる。だからこんな風に、クレタオスやクァールズもボクと姉ちゃんを最優先にって狙ってくるんだけど――


「さて、そのルートは予想通り。というわけでトライジェイルを食らえ!」


「オイオイオイ、その落ち葉で惑わされてるヤツがよく言うぜ……っと、着火!」


「うっぜぇえーッ!?」


 狙いがはっきりしてるのを逆手にしたミクスドセントの罠やハイドフォレスト、スノーの幻惑に引っ掛かってあしらわれてる。


「うあーもー! こっちもわながあるーッ!? その上に人間たちがまほーかぶせてくるからー!?」


 じゃあ近道しなければいいやって数で押してきたグランガルトも、引っ張ってきた魔獣たちと一緒に罠でからめとられて、じたばたしてる。

 これも連合軍が逃げるのも受け止めるのもまとまって出来るようになったおかげだ。一人きりや二、三人の小さな塊で逃げ回ってたままなら、そりゃあ鋼魔の気のむくままに蹴散らしていけてただろうけれど。


「まとまっててくれれば手に負えんということもないぞ。さて次に危ういところはっと、ディーラバンの槍か!?」


 使った分のトラップを設置しながら、ミクスドセントは自分とボクらにって飛んできた槍を叩き落として、大斧に青い炎のムチを受け止めた。

 そのムチの逆端、兜から火を伸ばした黒騎士は、ランスの先をまたミクスドセント狙いに飛ばしてくる。

 これに合体聖獣は合体武器を手放すどころか、逆に投げつけた。それで空いた手に火を灯して槍を打ち砕くと、引き寄せと投げつけで飛んできた大斧を盾で受けたディーラバンへひとっ飛び。水の槍で覆われた蹴りを叩き込んだ!

 ムチのほどけて飛んでくる大斧を受け止めながら、ミクスドセントは雷と突風をおまけにディーラバンとその取りまきを押し流した。


「今の内に後退後退! 全員で一気に逃げるにはもっと壁と間を詰めて!」


「ボクらを閉じ込めてる壁だけど、逆に言えば脱出できたら堤防をやってくれるってことです! 焦らないで、みんなで生きて戻るために、確実に!」


 ミクスドセントの号令に続いて、ボクも姉ちゃんと一緒に道しるべの光を後ろへ送る。

 力を合わせて鋼魔を凌げてるボクたちだけど、実はそんなに余裕はない。コースはずれてるし、最初のはライブリンガーが吹き飛ばしてくれたけど、それでも今もアジマ山の斜面をボクらに向かって溶岩が滑り落ちてきてるんだ。

 届く前に、この分厚い鉄の囲いを破らないと、みんな焼け死んじゃう!


 そうやって溶岩の動きをって山の方を見てたら、山のてっぺんで大爆発が。

 ボクらまでよろっとしちゃうくらいなその揺れに、また噴火かってみんなが、味方も鋼魔もそろってアジマのてっぺんに注目する。でも新しい火を噴き出すわけじゃない。それはつまり、あの場所で大きな力が、決着になるようなぶつかり合いが起きたんだってことだ。


「ライブリンガー……無事かしら」


「大丈夫だよ姉ちゃん! ライブリンガーが負けるもんか!」


 爆発の中にいる。そのはずの友達を心配して姉ちゃんの手が震えたのを、ボクはしっかりと握りしめて元気づける。

 ボクらの勇者ライブリンガーと、鋼魔の魔王ネガティオン。二人がホントに同じ命から分かれて生まれたんだったら、一方的に負けたりなんてするもんか。それにこれまでだって、危なかったことは何度もあったけど、ライブリンガーは全部何とかしてきたんだ。今度だって絶対大丈夫。任せてくれって言ったんだ。だから必ずボクらのところにグリフィーヌも、ロルフカリバーもそろって戻ってくるんだ。絶対に!


「そうね。私たちが大丈夫だって信じて、無事を願う祈りを届けないとダメよね?」


「うん! だよね、姉ちゃん!」


 ボクと繋いだ手を優しく握り返してくれる姉ちゃんに、ボクはそうだって何度もうなずき返す。


「……めでたいことだな少年。我が王が、父が倒れるはずなどないだろう」


 だけどディーラバンは静かだけどよく通る声で、ライブリンガーが勝つわけがないだなんてことを言う。


「……お前の道理は全て逆にも返ること。ならば私は、今度こそ騎士として全うできる生を与えてくださった我が王の勝利のために尽くすまで……!」


 ディーラバンはそう言うとボクが言い返すよりも早く槍を構えて踏み込んできた!

 マッシュ兄ちゃんにボクと姉ちゃん。人間の軍隊の心臓をやってる塊をまとめて貫いてやろうって突撃は、ミクスドセントの仕掛けを盾を犠牲に、ハイドツインズの氷と炎を鎧の厚みに任せて突き破って。


「よっしゃディーラバンに続くぞおらぁー!」


「のりこめー!」


 罠を踏み潰して切り開いたその足跡を、勝利に届く道だと猛牛と大ワニが追いかけて突っ込んで来る。


「それは、いかん!?」


 捨て身の勢いで先頭を突っ込んでくる黒騎士に、ミクスドセントは放つ間も惜しいって斧に込めた力を叩きつけに。三つの力に輝く大斧は槍を正面から打ち砕いてく、その勢いはぶつかりに行くディーラバンのパワーもあって、枯れ木でも割るみたいに黒騎士の鎧にまで届いて、それも砕く。そうなってバラバラに弾けて飛んだ黒騎士の体には、頭に腕や足って形を保ったのに混じって、心臓役だって言う緑色の結晶の欠片も。


「ディーラバンが、死んだッ!?」


「ウッソだろ、おいぃーッ!?」


 鋼魔の仲間から見ても即死確実なむごいありさまに、後に続いてたクレタオスたちが信じられないって、足を止める。

 うん。ボクももしライブリンガーたちフルメタルな仲間たちがこんなことになったらって思うと正直気分が悪い。握り合った手が震えてる姉ちゃんもおんなじこと思ったみたいで、青い顔してる。


「やった! 鋼魔の騎士を一撃で粉微塵に討ち取った!」


「さすがは合体聖獣様! 精霊神様の遣わした我らの守護神ッ!!」


 だけれど周りの兵士さんたちは単純に大金星だって盛り上がって。ここでボクたちが冷めるような態度をとってちゃよくないよね。


「大丈夫か、二人とも? ここまで士気が上がったからには無理はしないで、少し目をつむって休んだら良い」


「ありがとう、ビッグスさん……じゃなくてハイドスノー。でも、大丈夫だから……」


「ええ。まだまだ正念場の最中なんだもの……!」


 ボクらを心配して、金属のバラバラ死体との目かくしになってくれてるハイドスノーの背中に、ボクも姉ちゃんも平気だってうなずいてみせる。


「うおッ!? なんだぁッ!?」


「ひ、ひっぱられるぞー!? どこに持ってくんだー!?」


「うげぇー!? に、逃げ損なった、俺としたことがーッ!?」


 そこでいきなりに、鋼魔の将軍たちのっぽいすっとんきょうな驚き声が上がる。

 それを追いかけて上を見たら、緑色の欠片でキラキラした風に包まれて、鋼魔の将軍たちが引っ張られていく姿が見えた。


「……我が同胞、我が兄弟たちよ。今こそ我らが父のため、生み出された命を父に返す時!」


「黒騎士、自分からわざと殺されに来たというのか!?」


 濁ったきらめきを含んだ風から響いた声に、ミクスドセントとハイドツインズを始めとしたみんなが構える。


「い、いやだー! 死にたくなーい、消えたくなーい」


「捨て身の忠義なんぞ、自分一人で勝手にやってくれってーの!」


「俺たちは俺たちなりの忠誠の尽くし方がある! これは俺たちのやり方じゃなーい!!」


 火や水を放ったり、紐付き鉄杭を地面に打ち込んだりと抵抗して拒絶の声を上げるクレタオス達。だけれどそれに返る言葉はなくて、抵抗し続ける鋼の巨体は強引に運ばれて行ってしまう。そうして運ばれて行った先にあるのはボクらを閉じ込める分厚い囲いだ。

 金属の壁は運ばれてきたクレタオス達が触るなりに、まるで待ちきれないところにエサがようやくって勢いで、ぐにゃりと溶けて食いついた!

 これに誰かが短く悲鳴を上げるけれど、それをズドン、ズドン、ズドンって連続した爆発音がかき消してくる。その爆発音といっしょに壁から伸びたのは、牛とワニと豹の頭の巨人の腰から上だ。それが三方からボクらを取り囲んでる。

 その三体の巨人それぞれの手の中に、それぞれの色をした光の玉が出来て、ボクらを狙って振りかぶった。


「むぅん! スプレッドデルタッ!!」


 けれどこれにミクスドセントは大斧を分解。元々のオウルの杖とドラゴの盾、ライオの斧にして三方向に飛ばす。牛には竜、ワニには獅子、それで豹にはフクロウって向かって出来た三角形は対になる力同士で打ち消し合って、受け止める。


「ぐぅう……!? さすがに、これだけ上乗せしてるだけはある圧力だ……重いッ!!」


「ミクスドセントッ!?」


「すまんが、押し返しきれるか、分からん。私の近く……だが足元周りからは少し外れて、集まってくれ!」


 広げた獅子の腕が三方からの圧力に負けて肘を曲げちゃっているけれど、合体聖獣(ミクスドセント)はなるべく多くを守ろうとしてくれてる。そんな彼の指示にうなずいて、ボクは旗代わりの朝焼けオレンジを姉ちゃんといっしょに光らせて連合軍を誘導する。


「古参の聖獣様がたにばっか良い格好させるかよ!」


「苦労もな!」


 軽い調子で飛び出す赤茶色の弟に、呆れたような一言といっしょに冷たい銀色のお兄さんが続く。

 対になる色をしたツインズは、ミクスドセント近くに集まる連合の兵士さんたちを追いかけてくる魔獣たちを攻撃、幻惑して追い打ちをさせない。


「助かるぞ。受け止めと同時に牽制するのはは難しくてな。さてウィバーンを欠いているからか、デカ物の出てきていない方角があるにはあるが……」


 数が足りないから出来てるんだろう攻撃の穴に目を向けるミクスドセント。だけどそれはピンチを切り開く糸口を見る目じゃない。


「あからさまなくらいの罠、だよね?」


 村の狩人もセージオウルも言ってたけれど、獲物の逃げ道は罠のある方向に残すことってね。逃げるならあっちだって飛びついた道に待ち伏せを仕込んでおくだなんて、基本的な話だ。


「そう見えるが、どちらにせよこの状態ではな……」


 三方同時の攻撃を受け止めてるミクスドセントは動けないし、その動けない合体聖獣を中心にしてる連合軍にだってできないよ。

 こうなったらボクと姉ちゃんもミクスドセントとバースストーンを共鳴させて、囲いごと押し返すしかないんじゃないかな?

 そんなことを考えていたら、また山のてっぺんの方から大爆発が。

 それに釣られて山を見たら、その前の大爆発もあって、頭がボコボコに歪むまでにえぐれちゃった山が見えた。


「……ライブリンガーッ!?」


 あの場所で起こってるぶつかり合いの激しさ。それを見せつける景色に、ボクはたまらずその死闘の中心にいる友達の名前を呼んでた。


「うぐおッ!?」


 そうしてよそ見をしてる間に上がった苦しそうな声はミクスドセントのだ。ボクらを守って支えてくれているその姿勢のまま、いつの間にか体を何本もの槍に刺されてる!


「そんな!? しっかりして下さいッ!!」


 このショックな姿に姉ちゃんとボクとで反射的にミクスドセントへ魔力を注ぐ。


「助かった。おかげで私は大事ない! だが今ので均衡が!」


「全員、後方の壁に突っ込めッ!」


 負傷で制御が乱れたせいで押し込まれる。おまけに、また合体聖獣を突き刺しに槍が作られてきて!

 コレをミクスドセントが三方からの三属性ごとに吹き飛ばすのに合わせて、マッシュ兄ちゃんが号令を出す。壁から生えた巨人たちは、また合体攻撃を飛ばそうとしてて、ミクスドセントを突いた槍はまた囲んで突き刺しそうとしてる。ミクスドセントとハイドツインズも手いっぱいじゃ、罠かもしれないって思ってても動くしかないから!


「仕掛けがあっても丸ごとに突き破って人間を舐めんなってところを見せてやれッ!!」


 後押しするマッシュ兄ちゃんの声に雄々しい叫びと足音を返事にして兵士さんたちが突っ込んでく。


 でも連合軍の総突撃を受ける直前に、壁は爆発を起こす。


「やっぱり!」


 ボクらを待ち構えてた罠がどうなっても平気なように、ボクは魔力を振り絞る。だけどその必要は無かった。壁はもうバラバラに散ってて、破片に羽根を生やして飛んでいっちゃってたんだ。


「止まるな! 穴が開いたなら好都合だろ、抜けろぉ!!」


 思ってもない結果にびっくりしちゃったボクらを、マッシュ兄ちゃんが後押ししてくれて、突撃の勢いを取り戻せた。

 そのままバラバラに崩れていく壁を押し広げてく感じで、ボクたちは壁の外に飛び出していく。


「た、助かった、俺たち、助かったのか!?」


「あ、ああ、生き延びた、生き延びたんだよ!!」


 巨人の体ごと崩れて散ってく壁を後ろに見ながら、兵士さんたちが喜びの声を上げる。それが波のように広がってく中、ボクと姉ちゃん、それにマッシュ兄ちゃんは顔を見合わせる。


 ボク達はたしかに生き残った。けれど、ライブリンガーは? ネガティオンとの死闘に向かったライブリンガーたちはまだ無事かどうかも分からないんだ。

 ボクたちは気持ちを一つにしてうなずき合うと、山のてっぺんの友達の無事を祈りはじめるんだ。

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