102:むき出しでの激突!
「うぐぁああああああッ!?」
目を貫いて頭部をかき回すダメージに私は堪らず声を上げる。
「な、なぜだ!? なぜ動けるッ!? どこで攻撃をッ!?」
「あの程度で動けないと思い込むとは、人間への怒りから目を逸らすことといい、つくづく甘いヤツめ!」
閉ざされた視界の中当てずっぽうに武装を振り回して抵抗する私に、ネガティオンは嘲笑を浴びせてくる。
何をされているのか、どうなっているのか、まるきりさっぱりなこのままでは手と背の仲間たちが不味い!
そう思った私はロルフカリバーを手放し、マキシマムウイングのグリフィーヌをパージ。そしてまだ辛うじて動く両のローラーを全力対回転。マックスボディに打ち付ける。
狙いも何も無しの融合反発はマックスボディを引き剥がして、ノーマルの私を露に。
爆風に煽られながら私は人型へチェンジ。着地の衝撃を機体で受け止めながら、正面の白いのへスパイクシューター! しかし発射した鉄杭は空を貫き、ジグザグに走る白い影が唸る音を響かせ迫る。
マズい! そうとっさに伸ばしたスパイクに強烈にぶつかるものが。
「フン、よく止めたものだな?」
ギャリギャリと音を立ててスパイクを削るチェーンソー。それを押し当ててニヤリと笑うのは、私と同じサイズ、同じデザイン、色違いの白銀の鉄巨人だ。その声と、メタルボディに毒々しく輝く緑の結晶、ということはまさか――
「ネガティオンッ!?」
「お前に合わせて、ネガティオンネイキッド、とでも名乗らせてもらおうか?」
まさか普段の巨体が、ただいま打ち破ったあの姿が、私でいうマックス形態だったとは!?
破壊したマックスボディを脱ぎ捨て現れた本来の姿、奴曰くネガティオンネイキッドは、私よりも厳つく角張った顔に笑みを深くして、私のスパイクシューターと同じ位置から伸ばしたチェーンソーを押し当ててくる。私のスパイクに食い込んだ回転刃は、メタルのスパイクを木材の障害物を破ろうという勢いで、容赦なく火花と粉を散らし迫ってくる。この威力、これが私のマックスヘッドの顔面破壊をなした攻撃の正体かッ!?
そのままマックスヘッドに続いて、ノーマルの私のボディもスパイクごとに両断しようと、笑いながらに押し込んできていたネガティオンだが、ふと眼光を脇に逸らすや一気にバックステップに飛び退く。直後、私の目の前を稲妻が切り裂く。
「ライブリンガー、大丈夫かッ!?」
「グリフィーヌか、ありがとう!」
分離から単独形態にチェンジし直して援護の刃を落としてくれたグリフィーヌの問いに、私は深く切り込まれてしまったスパイクを放り出しつつ応える。しかしその一方で素早く引いていたネガティオンはカーモードにチェンジ、その勢いを受けて私へ。
「殿ッ!!」
これにロルフカリバーが分厚い刃を挟んで盾としてくれる。が、ネガティオンはそれをグリフィーヌに向けたジャンプ台に。
「させん!」
これを私は強引に刀身を抱えて振り回し、その勢いで持って乗り掛かったネガティオンを放り投げる。
そのままノーマルな私の手の内に収まるサイズになろうとするロルフカリバーを振り上げてネガティオンを狙う! が、人型にチェンジから両腕にチェーンソーを出したネガティオンはその回転でロルフカリバーとグリフィーヌのサンダーブレードを滑らせて流してくる。
「素早い判断だったが、しかぁしッ!」
そのままきりもみ回転に落ちつつ斬りかかって来るものを私はロルフカリバーで受け流し、プラズマショットの連射を添えて切り返す。
しかしネガティオンはプラズマショットを切り払いつつ、朝焼け色のオーラブレードの間合いから離れる。さらにそこを狙ったグリフィーヌの急降下からの斬撃に合わせさえもする。
「フハハハ、さすがは元・鋼魔随一の武闘派、というか!?」
「ぐぅッ!? しまったッ!?」
返しの刃で腕を負傷したグリフィーヌ。火花の散る装甲の裂け目を庇いながらバランスをとる彼女に、ネガティオンは容赦なくさらにチェーンソーを叩きつけにいく。が、それを許す私ではない。ロルフカリバーを振りかぶった逆の手でスパイクを発射。剣を金鎚代わりにしての釘打ちへ。しかしネガティオンは直撃の寸前にスラスターを偏り吹かせてターン。グリフィーヌヘ向けて構えていたチェーンソーを私へ!?
「まるでお見通しというわけか!?」
「ちょいと身内を危ういところへ送って見せればすぐに釣れる……お前が読むまでも無く単純だというだけのことだ」
私の動きを見透かしての動きに、内心で歯噛みしながら、とっさに捻った刃で受け、首へ迫ったものを頭部のアンテナを削らせるに留める。
「フハハッ! まさかこれで凌ぎ切ったなどと思ってはいまいなッ!?」
「まさか、なッ!」
無論それだけでは満足せず、ネイキッドな鋼魔王は両腕のチェーンソーを交互に息つく間もない連打を仕掛けてくる。
右から左から、方向を変え角度を変え襲い掛かってくる凶暴な刃を、厚く頼もしいロルフカリバーで滑らせ、返していく。が、間隙をぬったはずの返し刃も逆に捌かれ、受けに戻すことに。
そして反撃と逆撃とを絡め合い重ねていくうちに、グンと鋭さを増した一撃が!
リズムを崩して迫る刃を、私は辛うじてロルフカリバーで凌ぐ。しかし刃に大きな火花を散らす鋭さに押され、私はバランスを崩してしまう。そこへ蹴りが腹部を強かに打つ。
がら空きのところを襲った、重く鈍いこの衝撃を受け損ねて、私の機体は地を離れて大きく後ろへ。
だがネガティオンはここで一気に決着に踏み込んでは来ず、グリフィーヌの飛ばすサンダーブレードもあってか、後退する。
「しかし、ぬるいぞ。この程度で、よくも我を止めようだなどどほざく」
「そのぬるい私に……ボディを一段破壊されておいて、よくも言えたものだ」
私の立て直しを待っているかのような悠々とした構えに、私は返しの言葉と共に切っ先を向ける。蓄積したダメージを支え損ねて膝がぐらつくが、そこは気力で補う!
そんなどうにか体裁を保つ私と並ぶ形で、女騎士型のグリフィーヌが降りてくる。
「それも余裕のつもりだろうが、油断して受けきれるなどと思うな!!」
「油断? 余裕? まさか、我はただ待っているだけのこと。その余興につき合わせてやっているのだよ」
「何をッ!? 何を待っているというのだッ!?」
飛ばしたサンダーブレードを軽く弾きながら言うネガティオンに、グリフィーヌは問いと飛剣を重ねる。
「直に分かる……と、言ってる内に、それ見てみろ」
ネガティオンはグリフィーヌの放った刃をまた軽々とつぶして、私たちを飛び越した向こうを指さす。と、同時に爆発音が!?
「麓から、連合軍が!?」
人々の、つまりは友人たちの危機に私は思わず振り返る。すると山の麓では連合軍を取り囲む壁の一角から、牛頭巨人の上半身が生えていた。
「クレタオスかッ!? バンガードを取り込んでッ!?」
軍勢を逃がさず取り囲むほどに長大な壁。それを作れるだけの、魔獣の大群で構成されているのだろう壁バンガードを取り込んだだけに、上半身のみながらそのサイズは、マキシマムウイングの私の倍に届くほどだ!
しかも現れたのはその一体だけではない。爆発を伴ってワニ頭、豹頭の巨人が壁を支えにして連合軍を見下ろしているのだ!
「いかん! アレではいくらなんでもッ!!」
東西南北四方を取り囲もうとする鋼魔将を象った巨体に、ミクスドセントらの対応力超過を、すなわち仲間の犠牲拡大を予感して身を乗り出す。出してしまった。
「まったくどれだけ同じ手に掛かれば気が済むのだ?」
「ッ! 危な……ぐぁああッ!?!」
そして背後からの呆れ声に、私はとっさに隣のグリフィーヌを押して逃がす。直後、私の背はチェーンソーに深く刻まれてしまった。