100:キミはキミなんだから!
「うぉああーッ!?」
「グヌウッ!?」
「ライブリンガーッ!?」
ボク、ビブリオが見てる前で、ライブリンガーマキシマムウイングとネガティオンがぶつかり合って、朝焼けと毒色の光の渦巻きに包まれちゃった。
この渦巻は二人のでっかいメタルボディを、マユみたいにまるっと包んだけど、一つも数えない内に弾けて、閉じ込めた二人を吐き出したんだ。
くるくる回って飛んでたライブリンガーだけど、すぐにグリフィーヌの羽根を振り回して空中にどっしり正眼の構えだ。
よかった、何でもないみたい――って、見た時には思ったんだけど、ぜんぜんそんなことない! 構えたライブリンガーからチカチカ出てる光に緑色が混じってるんだ。それに地上でよたついたネガティオンからは澄んだオレンジ色の光が。これじゃあべこべじゃないか!
「ライブリンガー、大丈夫……」
「……ものか、認められるものかッ!!」
ボクが心配になってもう一度呼びかけようとしたけれど、ライブリンガーはボクの声が勢いつくよりも前にまたネガティオンに斬りかかった。
「それはこちらの台詞だッ!」
けれど体ごとに叩きつけるような剣は、ネガティオンの振り上げに迎えられて受け止められちゃう。そのまま二人は剣や光弾、拳や蹴りをもつれ合うようにぶつけ合い始める。その内ライブリンガーの拳とネガティオンの膝が同時に入ったことでお互いに間合いが開いて、大きく振りかぶった一撃をまた叩きつけ合う。そこからのつばぜり合いで、ネガティオンが歯を剥いてとんでもない言葉を吐き出した。
「我とお前が元はひとつ……いや、お前が我の切り捨てた甘さであり、未練……弱さであっただなどと、なんの冗談だッ!?」
なんだよ、それ……それこそ、なんの冗談だよ? ライブリンガーがネガティオンの一部だったとか……そんなのあり得ない、ライブリンガーはライブリンガーなんだよ!
「そんなのウソだ! 光の渦の中で何があったか知らないけど、そんなことあるもんかッ!」
イヤな言葉を取り消させたくて、ボクは天と冥の二つを合わせた魔法を撃つ! ……けれど、今出せる全力だったのにネガティオンのメタルボディにはあっさり弾かれちゃう。
だけど注意は引けたのか、うなり声を出しながらボクの方をジロリって。でもそのあとすぐにニヤリって笑った。
「ビブリオ、こっちッ!?」
嫌な予感を感じたボクが前に出るより早く、後ろから出てきた姉ちゃんにつかまれて引っ張られちゃう。
それと同時にネガティオンがわざと剣を引く。これで不意打ちにバランスを崩されたライブリンガーが前のめりにされた体をひくよりも早く蹴とばす。その上剣を出したのと逆の手の大砲から破壊力の玉をバラまいてライブリンガーを……だけじゃなくてボクらもまとめて吹き飛ばすつもりのだ、こまぎれに!?
「危ないッ!!」
慌てて腕を前に出して防御するボクらの前で、ライブリンガーはシールドストームとロルフカリバーを体ごと振り回して、ボクらを巻き込む力の塊を弾き飛ばしてくれた。
でも振り回した腕を構え直す間にネガティオンが踏み込んで前蹴りでまた蹴飛ばす。
「ライブリンガーよ、お前が友と呼ぶ人間たちも、我とお前の関わりは受け入れがたいようだぞ? 気が合うようで良かったではないか」
その言葉に踏ん張り直したライブリンガーの目がボクに向く。なんだか揺れるみたいなその光に、ボクは首を横に振る。
「ライブリンガーはライブリンガーだからだよ! うまく言えないけど……とにかく、負けないで!」
「そうよ! 前にも言ったでしょ元々がどうとか関係ないわ! 今のライブリンガーがどうしたいのか、その気持ちで戦って!」
「……ああ! ありがとうビブリオ、ホリィ! ネガティオンは私たちに任せてくれ、だから……」
「うん、人間のみんなはボクたちに任せてよ!」
ボクと姉ちゃんの言葉で両目を強く点滅させたライブリンガーに、ボクらもしっかりとうなずき返す。するとライブリンガーは頼んだって感じにまた目をチカっと。それで振り向きながら、ネガティオンが撃ってきてた光の弾を切り上げ砕いて踏み込む!
振り抜いた姿勢のままの体当たりに、ネガティオンは予想外だったのか、うめき声を上げて結晶の剣でとっさのブロックだけ。そこへライブリンガーはバスタートルネードを直打ち。それをマキシマムウイングのパワーを全開にしてさらに押し込んだ!
「なにをッ!?」
「こんな場所で全力を出させるわけにはいかんからなッ!!」
そのまま破壊竜巻もウイングのパワーも緩めないで、空に飛び上がろうとするみたいな勢いで火を噴く山の上に運んでく。いくらライブリンガーでも無事で済まないでしょ!? そうとしか思えない危険な場所を戦場に選んで飛び込んでく友達には、バカなことしないでよって引き留めたくなる。けど、ここは必ず無事に帰って来てくれるんだって信じるんだ。ボクらにはボクらでやらなくちゃならないことが、ライブリンガーに任された大事な役目があるんだ。それは――。
「うわぁああああ!? 火が、溶岩が!?」
「囲まれてて、死ぬ! 死んじまうよぉーッ!?」
「うろたえるな! バラければいい餌食だぞ! まず正面に魔獣を、隣に味方を、だ!」
ネガティオンが起こしたアジマ山の噴火に混乱している兵士さんたちをどうにかするってことだ。マッシュ兄ちゃんが声を上げてむやみやたらに動くのを抑えようとしてるけれど、落ち着いたのはマッシュ兄ちゃんの周りくらいだ。ほとんどの人たちはバラバラに逃げ回ってて、クレタオスやグランガルト、それに魔獣たちに襲われそうになってる。ミクスドセントやハイドツインズが、させるもんかって守ってくれてるおかげでそんなに被害は出てない。けれどミクスドセントはディーラバンが、ツインズにはクァールズがしつこく邪魔をしてて、このままじゃ絶対に悪いことに、どこかでおっきなダメージが出ちゃうことになる!
そんなのでライブリンガーが安心して戦えるもんか!
「落ち着いてーッ!!」
だからボクと姉ちゃんは声を揃えて、この時この場に夜明けを作る。
このまぶしさが味方のも敵のも関係なしに目を引いて、動きを止めさせた。
「合体した聖獣様の守りの中でまとまっていて下さい! そうすれば必ず聖獣様は皆を守って下さいます!」
「ケガをした人もボクらのところにまとめて! ボクらでできる限りの回復はするから!」
魔法で拡大したボクらの言葉を聞いた兵士さんたちは、光を放ったボクたちから近場の仲間を見て、それから頼もしい鋼の巨人たちを、それからもう一度ボクたちを見る。
「おお! 聖女様と小聖者様に聖獣様方の合身巨神、それにまったく新しい聖獣までついてるんだ!」
「勇者様が鋼魔王をここから遠ざけて戦ってくれてるのもあるってのを忘れちゃだめだぞ!」
「ここまでのご加護があるんだ。生き延びられるさ、俺たちは!」
「女子供の聖女様と小聖者様が落ち着いてるってのに、俺たちがいつまでも混乱していられるかって!」
それで互いに盛り上げの声を掛け合って、陣形を組み直して手近な敵に対処し始めてくれる。
良かった、連合軍の兵士さん全体が落ち着き始めてくれた。その一方で――
「ぐあー! まぶしぃー! 目がー!?」
グランガルトやクレタオス達、ボクらの起こした夜明けをモロに見た鋼魔たちはまだもだえ苦しんでる。
「……ったく、どんくさいったらないぜ!」
そんな仲間たちを踏み台にクァールズが飛び出してボクらを狙ってくる。でもそれはハイドツインズのダガーが受け止めてくれる。
「お前も大差ないと思うけれどな!?」
「ハッ! 言ってろよ!」
ツインズの出した火炎弾冷気弾を、クァールズが大きく飛び退いてよけると、ディーラバンの槍が飛んでくる。けどこれはミクスドセントが払ってくれる。
「二人ともよく士気を回復してくれた。しかし、これで私は溶岩を堰き止めなくてはならなくなってしまったな」
「降って来てるのにはずっとどうにかしてくれてたでしょ?」
「それはそうだが……一番きついだろう魔王を任されてくれたライブリンガーのためにもやらねばならんか」
重たげに言う割に頭の羽を力強く羽ばたかせるミクスドセントに、ボクと姉ちゃんもまかせっきりにはしないというのを見せるつもりでバースストーンを光らせる。