表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
10/168

10:束ねた力で多勢を破れ!

「ホリィ、ビブリオッ!?」


 友人たちを始めとした村人たちへ襲いかかろうとするスケルトンへ、私はプラズマショット。

 しかし、すでに距離が近すぎて巻き込みかねない。そのためどうしても撃てる範囲は限定され、後押しに出てきたものをもぐら叩きにするのが精々だ。


 だがビブリオたちも一方的に追いつめられるばかりではない。

 ホリィに襲いかかるものをビブリオの操る大地の牙が地中へ引き摺り戻し、フォステラルダさんやホリィの呼び出した蒼白い炎の輝きが、イルネスメタルに包まれた亡者の行進をつまづかせている。


 骨の一体一体はイルネスメタルの力を受けてはいても、それほど強くはないようだ。

 多勢に無勢には違いないが、今は私以上に手近な脅威を退けることができている。


「ボクらはボクらで何とかするから、ライブリンガーだってッ!?」


 ビブリオが言うように、私も自由に動ける状態ではない。

 私の足を掴み止めていた緑の人骨。巨人のものとおぼしきそれらは、すでに私の脛どころか腿や腰の辺りにまで這い登り、手をかけているのだ。

 これではビブリオにも自分達どころではないピンチだと思われてしまうはずだ。


「これくらいならどうという事はないさ! スパイクシューターッ!」


 両腕からのスパイクが体にすがり付く巨人の腕骨を易々と破断。

 そのまま土をひっくり返して現れた頭骨も割っておく。

 巨人のスケルトンを振りほどいた私は、ビブリオたちを守りにいこうとプラズマショットを放ちつつ駆け出す。

 だがそんな私の足が引かれ、この不意打ちに堪らずバランスを崩してしまう。


 そして倒れる私の先にはマステマスさんに従う兵士さんが!?


「伏せてッ!!」


 とっさに腕と膝を支えに、下敷きコースの彼を腹の下に。

 飛び散った土を含んでしまったのか、唾と吐き出す音がある。


「すまない、無事だろうか?」


「お、おう……まぁな、これくらいはまああることさ」


 覗きこんで確認する私に、涙目の兵士さんは軽く手を振って応じてくれる。

 しかし下敷きを防いだことの確認に安堵したのもつかの間、私の背中に叩きつけるような重みがかかる。

 これに四つん這いになった私の体が僅かに沈む。


「お、おぉい!? どうした?」


「うぐぅお!? すまないが……抜け出してくれると、助かる……うっぐッ!」


 揺れに続いて呻く私に、兵士さんは黙ってうなずき、私の下から這い出していってくれる。


「デカブツの骨の仕業かよッ!?」


 這い出た彼の叫びに振り向けば、私の背中を巨人の骨が棍棒で殴り付けていた。

 しかもその頭蓋骨は大半が欠けたもの。

 私がスパイクシューターで打ち砕いた、あの巨人スケルトンだ。


「グッ……頭をいくらか砕いた、くらいでは……ということか!?」


 恐らく足を掴んで転ばせたのもこの骨なのだろう。

 私は棍棒が振りかぶられた隙に合わせて蹴りつけ、合わせてのレッグスパイク。棍棒を持っていた腕を根本から、肋骨と肩甲骨をまとめて貫き砕く。

 だが胴と離れたはずの腕が蹴りつけた私の足に絡み付き、足首の関節を捻りあげようとしてくる。


「グゥッ!? 脆いが、そのわりにしぶといッ!?」


 しかし完全に砕けばどうかと、私は足首を捻られるのを無視して、割れた頭蓋骨狙いのプラズマショットを放つ。


 この一撃で巨人スケルトンの頭は下顎を残すのみになる。が、足首を捻りにくる力はまったく緩まない。

 ならばもうしかたないと、自爆を構わずに足にも撃って絡み付いた腕骨を散らす。


 そうしてようやく振り払って回りを見れば、常人サイズの人骨相手の場合にでも、状況の明暗がくっきりと別れていた。


 私と同じように急所らしいところを潰した場合には結局決め手にはならず、分断した先が独立して動くのに翻弄されてしまうことに。


 魔法の、特に冥属性のもので全身骨格丸々をまとめて冥府送りにした場合にでもなければ、潰し損ねた部位に虚を突かれてしまうことになる。


 結果、マステマスさん率いる兵士の皆さんの方が追い詰められていて、神官であるフォステラルダさんにホリィとビブリオを主力とした村人たちの方が組織的に防戦できているくらいであった。


 しかし防戦できていて頼もしい限りではあるが、だからといって丸投げに任せてしまって良いはずがない。

 まだ動き続けている巨人のイルネスメタルコートスケルトンをもうひとつ細かく破壊しておくと、マステマスさんに絡もうとする一体を握って空に放る。


「た、助かるぜ、サンキューな!」


「いえ、それよりも村の人たちと固まりましょう。どうも倒すのはフォステラルダさんたちを主力にした方が良さそうです」


「パンはパン屋に、お弔いは神官にってことか。たしかにな」


 そう言うとマステマスさんは部下の兵士さんたちををまとめて村人たちとの合流を急ぐ。

 私はそれを助けるべく、のし掛かられるほどに追い詰められた兵士さんの上からスケルトンをどけ、味方を巻き込まない範囲のにプラズマショットを浴びせる。


 そうしているうちにスケルトンたちは、私に狙いを定めるようになる。

 だがそれが私には好都合だ。

 襲いかかるならば、私に集中してくれた方が良い。


「しかし、キリがないなッ!?」


 私ではなく村人たちへ向かった分を打ち払って、マステマスさんが叫ぶ。


「騎士が泣き言言ってんじゃない! アタシらだって数を減らしてるんだから!」


「そうは言いますがね。俺らだって休まず戦い続ける何てことは無理なわけで、ビブリオくんだってバテてきてる。どうにか勝ち方を考えなきゃならんですよ!?」


「ぼ、ボクなら大丈夫……まだ、まだやれるよ!」


「無理をしてはダメよ! 私たちに任せて!」


「そうだよ! ビブリオがそんなに無茶したりすることなんてないのに!」


 ビブリオは強がっているが、エアンナに支えられて肩で息をしている。ホリィの言う通り、随分と無理をしているのは明らかだ。

 適性の関係か、追い払うのではなく確実に送る魔法を連発できるのはビブリオだけ。

 そうなれば負担が集中するのも当然だ。


「でも、ボクが……ボクだってやれるんだから……!」


「いや、ビブリオ! だからこそだ、だからこそ温存してくれ。ガイアベアと同じなら、この骨の集団にも頭脳というか、核、本体と言えるものがあるはず。それと決着を確実につけるためにも、ビブリオには魔法の力を残しておいてほしいッ!」


 私は足元に集まったのを蹴散らしながら、なおも無理をしようとするビブリオの言葉を遮り頼む。


 これに反応したのはビブリオ……ではなくマステマスさんだった。閃きに目を輝かせた黒髪の騎士は、目の前の骨を縦一文字に両断する。


「それだ! 本体があるなら、それを探り出して潰してやればいい! 蜂の巣を潰すには女王蜂を! 蜂の巣コロリ作戦だッ!!」


「了解です! ではどうにかして本体をッ!」


 方針が決まり、私はいざ行動だと意気込む。が、勢いづいたのは私とマステマスさんだけで、残りの皆さんは逆に力が抜けてけつまづいた風だ。


「……マッシュ、あんたその作戦名は何とかならないのかね?」


 フォステラルダさんが皆を代表する形で、マステマスさんのネーミングに難色を示す。


 何故、蜂の巣コロリ作戦でいけないのだろう?

 シンプルで分かりやすい名前だと思うのだが?


「名前のことはともかく……ともかくとして、ですよ。蜂の巣を潰すみたいにって言っても、その巣が、本体がどこにいるのか分からないですよね?」


 私が首を捻る一方で、ホリィから至極もっともな疑問が上がる。


 敵が無尽蔵に現れるのなら、存在するだろう元を断つ。

 その発想は正解だとしても、狙いを定めずむやみやたらの攻撃が成果を上げるのを待てるほど皆に余裕はない。

 ここはひとつ冷静に、候補を絞っていくべきだろう。

 敵が隠れるのならばどこか?


「木を隠すなら森の中……とはよく言うけどもが……」


「無いとは言えませんが、どれも反応は同じ強さなんですよね」


 マステマスさんはさすがの着眼点だが、狙える地点にある高密度集団は優先して薙ぎ払ってきているものの、これまで何の影響も見られない。

 よほど巧妙に立ち位置を変えているのだろうか?


 そんなことを考えながら、また一つイルネススケルトンの集団を吹き飛ばす。が、やはりスケルトンたちの勢いに変化はない。


「となると、湧いてくる地面、かしら?」


「試す価値はあるだろうね」


 ホリィの意見にフォステラルダさんと同じく私もうなずく。

 地面からの発生という過程を挟んでいる以上、何かしらの接点というか、つながりがあるのは間違いない。

 あとは、どうやってスケルトンたちの本体に仕掛けるかということだが……。


「ボクがこの辺の地面に冥府送りを流すよ!」


 ビブリオの案しかないだろう。


「ビブリオ、大丈夫なの?」


「任せてよ、姉ちゃん。ただちょっと集中して魔力を集めなきゃだから、時間をちょうだい」


 心配そうなホリィの声に、ビブリオはうなずき返すと私へ視線を移す。

 その曇りのない眼差しに応えよう。

 そう思った私の頭脳に、あるモノが浮かび上がる。

 閃くような輝きと共に思い浮かんだそれは、私の額を通してビブリオの左腕へ。


「うわッ!? な、なにこれブレスレットッ!?」


「それは、ライブブレス。きっと、ビブリオの助けになってくれるはずだ」


 ビブリオが驚き掲げた手首に巻き付いているのは黒く、少年の腕には少しゴツいブレスレットだ。

 私の体に輝くものと同じオレンジの宝石、バースストーンの収まったそれは、ビブリオの心の光を受けてどこまでも輝きと力を強めることになる。


「ありがとう、ライブリンガー! きっと上手くやるから!」


「ああ、頼むよ」


 屈託のない笑顔で役目を負うビブリオに対して、私の気分はどうも晴れない。


 助けになるものを出し惜しみした形になってしまったのは、たった今思い出したのだから仕方がない。

 曇らせているのはそこではなく、閃くように思い出すまま、迷いなく問答無用にビブリオに装着したことだ。

 幸いビブリオは喜んでくれているし、ライブブレス自体はビブリオの意思で着脱自由の害のない品である。

 だがそれでも、勝手に動いて渡した自分自身の体に、私は不安を禁じえないのだ。


 しかし私は思い悩む場合では無いと、不安をよそへ押しやって群がるイルネススケルトンを薙ぎ払う。


 その一方で、ビブリオはマステマスさんにフォステラルダさん、ホリィたちに囲まれ守られた形で、必要な魔力を練り上げている。


「わっほぉい! このブレスレットスゴいよ! さすがライブリンガーのプレゼント、ボクの魔力がグンって上がってる! グンって!!」


 ご機嫌に掲げた左腕には、ライブブレスが夜明けの輝きを放って。

 その光だけでも、不用意に近づいた緑のスケルトンは風化するように朽ち始める。


 ならばと私も真似して、バースストーンにエネルギーを集中。

 すると私の胸と額から溢れた朝日の光が溢れて、イルネスメタルでコーティングされた人骨たちが焼けて消える。


「うわっほい! コイツはスゴイ! このまんま小細工抜きに消し飛ばしきれちゃいそうな勢いじゃないのさ!」


 フォステラルダさんがビブリオに似た歓声を上げて言うように、私とビブリオから生じた光は、このままスケルトンたちを殲滅する勢いだ。


「だからって、手心をかけてやる理由なんかありゃしませんよ」


 マステマスさんの言う通り、攻めの手を緩める必要はない。

 うなずいたビブリオは予定通りに、想定以上に早く完成した魔法を地面へ――。


「危ないッ!?」


 しかし魔力が炸裂すると同時に、ビブリオが突き飛ばされる。

 それをやったのは鳥人の少女エアンナ。だが彼女に理由を尋ねる間もなく、その細身の体が天に向かって押し上げられる。


 それは地面から突き出した無数の骨の塊だ。

 本来はビブリオを掴もうと狙ったそれから、彼の身代わりに捕らわれたのだ。

 このエアンナの献身に、私はとっさに踏み込む!


「スパイク、シューターッ!!」


 そしてエアンナを吊り上げた骨の塔へ叩き込んだ拳からの鉄杭は、過たずに骨に隠れた金属塊を穿った。


 制御を失い骨の塔が朽ち崩れる中、私は落ちてきたエアンナの体を柔らかく受け止める。


「大丈夫かい? よくビブリオを庇いにとっさに飛び出せたね。なかなかできることじゃないよ」


「……別に、アンタに褒められたくてやったわけじゃないの!」


 エアンナはそっぽを向いて鼻を鳴らすが、抱えた私の手から逃げようと暴れたりはしない。

 そんな姿に、私の口元が思わず緩んでしまう。

 この私の笑みを見咎めて、エアンナは大きな目をジトリと細めて私に向ける。


「……なにがおかしいの?」


「いや、私相手でもちゃんと返事をしてくれた。それが嬉しくてね」


「変な鋼魔もどき!」


 素直に答えた私に、エアンナは再びそっぽを向いてしまう。しかし暴れずに大人しく収まっていてくれているのも相変わらずであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ