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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
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1:助けを求める声あらば!

 私は走っていた。


 どこを、と問われてしまうと少々説明が難しい。

 簡潔に言えば光で出来た筒のようなもの。その内側らしいところを、私は走っているのだ。


 もちろん、こんな場所に覚えはない。紛れもなく初見だ。


 では、どうして?

 いつから?


 そう自分に問いかけてもみる。が、気づいた時にはここを走っていて、目が覚めてからはずっと走り続けている、としか答えようがない。


 分からないこと尽くしではある。が、それでも分かっていることがある。

 この光のトンネルの先に、助けを求める者がいること。そして、私がその助けにならなければならないということだ。


 さらに危機が迫ったのか、より高まる生きたいという切なる願い。

 その叫びを頼りに、私は四つのタイヤの回転を上げて、光トンネルを急ぐ!


 程なくトンネルを抜けた私を襲ったのは浮遊感だった。

 タイヤを空回りさせて宙に飛び出した私は、続く衝撃を無視。草地を蹴って前へ。


「グォオオオオオオオオオッ!?」


「イヤだ! 姉ちゃんッ!? 姉ちゃぁぁあんっ!?」


 野太い獣の声と、助けを求める叫び。

 はっきりと音になったそれらに導かれて、私は木々の間へボディを滑り込ませる。


 右へ、左へ。時には片輪を跳ね上げ、最短距離をショートカット!

 やがて私の目の前に、木の根元に倒れ伏した白い服の女性と、彼女を庇うように立つ赤毛の少年。そして彼らに牙を向けた熊のような巨獣の姿が!


「おぉおおおッ! チェーンジッ!!」


 危機に瀕した彼と彼女の姿に、私は弾みのままに叫び、跳ぶ!

 その勢いのままに伸びた拳が巨獣の横っ面を打つ!


 全速力に全重量を重ねた威力は、巨大熊を撥ね飛ばし、受け止めた木の幹を半ばからへし折る。

 だが起き上がった巨獣はダメージに怯むどころか、怒りに燃えた瞳を向けて唸り声を上げている。


「この二人に、これ以上危害を加えさせはしないッ!」


 対して私は、襲われていた二人を背後に隠して拳を構える。


 すると巨大熊はお返しとばかりに四本足でダッシュ。その巨体を叩きつけにくる。


 高密度大量の筋骨とそれを包む分厚い脂肪。猛然と叩きつけてきたこの重みに、私の体が軋む。

 だが、私は負けない。ここから下がらずに受け止める。


 女性と少年が襲われていた経緯を私は知らない。

 だが、今危機に瀕していた命を、たった今助けるために掴んだ手をみすみす手放しはしない。放すわけにはいかない。


「キミ……少年。動けるか?」


「え、あ……う、うん!?」


 私の問いかけに、赤毛の少年は白い修道女風の女性の盾になった姿勢のまま、たった今我に返ったとばかりにうなずき返してくれる。


「その女性の状態は? ひどいのかい?」


「血は、出てないけど……」


「ここから離れられるかい? できるなら、ここは私が何とかするから、少しでも巻き込まれない安全なところへ。頼めるかい?」


「う、うん……! わかった! ありがとう……金属の巨人!」


「ああ、任せてくれ」


 姉と慕う女性のこととあってか、赤毛の少年は素直にうなづいてくれる。

 しかし、そこから見せられたものには驚かされてしまった。


「天と冥よ、支えとなって。火は力を、水は癒しを……」


 少年がつぶやくや、彼の体が光を放ち、女性とはいえ少年よりも上背のある女性をひょいとおぶって走り去ったのだ。


 子どもとは思えぬたくましさ……という問題ではなく、明らかに不可思議な力の発露に驚かされていた私に、巨獣の牙がかかった。

 そしてさらに押し潰そうと爪を立ててくる。


 普通、獣の爪牙で私の黒い鋼のボディが破れるわけではない。

 しかし鋭くとがった一点に収束した圧力は鋼の塊である私のボディを軋ませる。

 それを成している獣の怪力に、私は戦慄した。


「なんという力だ……!? 体格もそうだが、やはり普通ではない……ッ!?」


 フルメタルの私さえバリバリと貪り食うつもりなのか。

 そう本気で信じているのか、強力巨大な獣の圧し掛かりも牙の圧力にも全くの躊躇がない。


 だが、こちらにももう受け止め続けている理由はないぞ。


 自ら後ろに倒れつつ、巨大熊の後ろ足を払い上げる。

 いわゆる巴投げの要領で飛んだ獣は鼻先から木の幹に突っ込み、なぎ倒した。


「スパイクシューターッ!」


 すかさず起き上がった私は右前腕から鉄杭を発射!

 振り向いた巨大熊の頬をかすらせる。

 これに怯んだ間に、さらに足元にも打ち込む。


 だがこの威嚇に巨獣は逆上。

 雄叫びを上げ、足元の杭を前足で薙ぎ払ってくる。


 狙いの逸れた効果は残念である。が、この暴れまわる猛獣をどうにかしなくてはならない。

 さらに振るわれた前腕を叩き落としていなし、首根っこを掴んで地面に押し付ける。そしてすかさず左のスパイクシューター!

 鼻先を掠める杭の迫力。加えて渾身の攻撃を払われ押さえ込まれているこの現状。

 ここまで力量差を示したのならば獣でも、いや、野に生きる獣だからこそ、リスクを悟り退いてくれるはずだろう。


 猛獣であるとはいえ、むやみな殺生は忍びない。


 助けを求めていた二人の命を救うことと、この巨大熊の命を奪うのはイコールではないのだ。


 そんな私の考えが通じたのか、獣は鋼のボディの下でおとなしくなる。

 もう二人を襲うつもりがなくなったのならば構わない。

 早く帰してやろうと、私は拘束を緩める。


 だが、その判断は早きにすぎたものだった。


「お、終わったの?」


 戦いの終結を察したのか、木の陰から少年がこちらを窺ってくる。

 巨大熊はその姿を見るや、涎を垂らして突進する。


 私への当てつけか。あるいはそうまでして彼を狙う理由があるのか。

 どちらにせよ、卑劣な!


 湧き上がった反感のままに私は車にチェンジ!

 急加速で一気に大熊を抜き去って少年との間に割り入るや再度ロボットモードへ。


 割り込んだ私の姿に、獣の瞳が怯えて揺らぐ。が、もうお互いに止まれはしない。


「スパイク、シューターッ!」


 そして真正面に迫る熊へ拳と、鉄杭を打ち込む!


「ウグゥオォオオオオオオオオッ!?!」


 カウンター気味に右の肩に入った一撃に、熊が苦悶の叫びを上げる。

 そうして刺さった杭から血を滴らせながらよろめきながら後退り。


 私はこの痛みに悶える獣に対して、もう一度拳とスパイクを叩き込むべく構える。

 すると熊は刻み込まれたばかりのダメージに怯えて、さらに後退。そのまま尻を向けて木々逃げていく。


 逃げてくれるのなら、わざわざ深追いすることもない。

 木々を薙ぎ倒しながら離れていく獣の後ろ姿を見送って、私は構えていた拳を下ろす。


「……危ないところを助けていただいたようで、ありがとうございます」


 そこでかかった感謝の声に振り返ると、赤毛の少年に支えられた、修道女風の女性が頭を下げている所だった。

 どうやら無事に目を覚ましたようでひと安心というもの。

 だが、いくら助けたとはいえ、一方的に見下ろしたままなのは失礼かと、私はなるべくゆっくりとしゃがんで二人の目線に近づける。


 近づいてみると、白いベール状の頭巾、ウィンプルから金の髪を見せた修道女風の女性は澄んだ青い瞳をしていて、目鼻立ちも整っている相当な美少女で驚かされた。


「いえ。そちらも目が覚めたようで、声を聞き付けて駆けつけたのが間に合って良かった」


 しかし無事を喜ぶ言葉にも二人はどこか怯えた、というかどうにも警戒を拭えないとでも言うべきか。どう返すべきか困った様子で私を見返してくる。


 これは、しゃがむよりも車に変形したほうが良かっただろうか?


 そんな、どうするのが正解だったかとの迷いが顔に出ていたのか、修道女が意を決した顔で口を開く。


「……あの、なぜ私たちを助けてくださったのでしょう?」


 何を言われているのか分からない。

 いや、言葉は分かる。通じている。今さら語るまでもなく。

 だが、なぜと理由を聞かれるのか、そこが分からない。


 私からすれば助けを求めたのは二人の側で、私はただ突き動かされるままに駆けつけただけなのだ。

 むしろ、誰かを助けるのに理由が要るのかと問いたい。


 そうして首を捻る私に、修道女と少年もまた不思議そうに顔を見合わせる。


「どうも、私たちの間には大きな認識の違いがあるようだ。なぜ私が君たちを助けてはおかしいのか。そう思った理由を教えてはくれないだろうか?」


 誤解があると分かったのならばそれを放置するのは良くない。

 というわけで、私は目の前の二人へ率直に相互の疑問を解こうと持ちかける。


「そう、なのですか? 見た限り、貴方が話に聞く鋼魔族こうまぞくらしいと思ったので……違うのですか?」


「鋼……魔、族……? 私のような、金属の大きいのを、そう呼ぶのかい?」


 いきなりに飛び出した知らない単語に、私は思わず首を捻る。


「え? 知らないの? 自分の事なのに?」


 不思議そうに念押ししてくる少年に、私は首を横に振る。


「いや……本当に知らない、初耳の呼び方なんだよ少年……と、少年と呼び続けているのも失礼だな。私はライブリンガー。こんな見た目だが、ただ単に助けを求める声を捨て置けなかっただけなんだ」


「これは失礼をしました! 助けていただいたのに名乗りもしないで……私はホリィ、こちらの男の子はビブリオ……」


 私が名乗ったのに、慌てて修道女のホリィがビブリオ少年と合わせて自己紹介をする。


「……って、あの、どうされましたか? ライブリンガーさん?」


 だが、私はそれどころではなかった。

 半ば聞き流してしまっているのが明らかだったのだろう。ホリィが私を気づかわしげに見上げてくる。


「あ、ああ……すまない。すまないが、教えてくれないか……ここはいったい、どこなんだ? 私の名前はライブリンガー……だが、他には何も分からないのだ」


 名乗ったことで気づいてしまったのだ。

 自分の名前と、機能。

 それ以外に私は私が何者かと語れるものを、何一つ持っていないということに。

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