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05 6段変速にまたがってハ○ーマックにミニ四駆を買いに行く

ノスタルジー強め回。

昭和じゃないんですよ、これは平成の物語なんですよ。

ついて来てくれる人には感謝しかありません。


 4月初旬、明日から新学期である。

 人生2回目の小学4年生として明日からもせっせと学校に通わねばならない。

 幸いなことに、俺の家には小学生用の学習百科事典が完備されているので、春休みの間に「小学4年生で勉強すること」は一通りざっと確認できた。

 俺が小学生になった時に親父が揃えてくれたもので、暇なときはしょっちゅうこれ読んで過ごしてたな。

 国語算数理科社会、まんべんなくわかりやすく色々な情報が乗っているので、普通に読み物としても楽しい。2回目の人生でも愛読することになるだろう。

 ソ連とか東ドイツとか言う国名が当たり前のように頻出するのが、哀しくも面白い。

 おお、そう言えばもうじきじゃねえか、ベルリンの壁が割られるのは……。

 などと過去の記憶を手繰りながら、勉強に関しては、とりあえずまだ無事について行けるだろう、と多少の自信を持った。大丈夫さ、たぶん。きっと。

 中学校3年生の英語とか理科とか数学になると、ちょっと自信がないが……。

「ハバキー! あそぼー!」

 勉強にひと段落つけて、外の空気を吸いに出たらクラスメイトの草摺襖くさずり あおが、俺の家の前に自転車でやって来た。

 3年生の途中から、なんかやけに襖に懐かれてるんだよな。

 前の人生ではそんなに仲良かった記憶がないので、不思議な気分である。

「お前、自転車で寒くねえの?」

 暦の上では春なのは間違いない。道路の雪もかなり溶けた。

 しかし路肩や歩道部分にはまだまだ雪の山がうずたかく積まれており、外に吹く風も冷たい。

「えー? ぜんぜん天気いいしあったかいじゃん! おもちゃ屋に新しいカードとかミニ四駆入ったって従兄弟の兄ちゃんが言ってたんだよ! 見に行こうよ!」

「あー、ミニ四駆か……じゃあ行くかな。ちょっと物置から自転車出してくるから待ってれ」

「うん!」

 さて、なにげに自転車に乗るのなんざかなり久し振り、実際のところ10年ぶりくらいじゃないかと思うが、はてさて上手く乗れるものやら。

 家の物置の中に、俺が小学生の頃乗っていた自転車が保管されている。

 とりあえず錆び取りスプレーをさっと噴霧して、タイヤに空気をシュコシュコと入れて。

「お、意外に行けるもんだな……」

 六段変速の愛車にまたがり、襖が進むその道をとりあえずついて行く。

 自転車とかスキーって、どうして久しぶりでも体が忘れないのか不思議だわ。

 冬の間に親父とスキー行ったときも、ちょっと滑ったらすぐに勘を取り戻したし。

「どっちの店に行くんだ?」

 うちの近所におもちゃ屋は2軒ある。国道沿いに建つ大き目の全国チェーン店舗と、住宅街の片隅にある小さな個人経営の店だ。そのうちどっちに襖が行きたいのか、とりあえず確認。

 この時代はミニ四駆の最初のブームが到来した頃なので、スーパーや本屋、農協の直売店でもミニ四駆が売ってたりしたんだがな。

 ちゃんとしたおもちゃ屋の方が、車体はもちろん改造パーツ等も豊富にそろっているので、基本的に小学生連中はおもちゃ屋でしかそれらのアイテムを買わない。

「先にハ○ーマック行こうよ!」

「オーケー」

 襖は国道沿いにあるデカいほうの店にまず行くつもりのようだ。

 あとから小さい方の店にも行くつもりなんだろうな。

 実際ヒマだし、俺としてはどうでもいい。

「じゃあ途中まで競争な!」

「は? いや、ちょ、待っ」

 言うや否や、襖は猛スピードで自転車をこぎ始め、住宅地を駆けていく。

 いや俺、自転車乗るのマジで久し振りなんですけど。

 全力でこぐなんて所業、主に心理的な面で無理なんですけど。

 こんな頼りない、保護具もなにもない乗り物で全力で猛スピード出すとか、俺もガキの頃にさんざんやったことだが、今思うと頭おかしいわ。転んだら痛いじゃ済まないんだぜ?

「くっそ、なめんなっツーの!!」

 しかしそれ以上に、小学生に負けたくないという意地が勝ってしまい、俺も全速力で自転車を走らせる。

 軽快、爽快、愉快痛快。

 久しぶりに乗ったがやはり自転車で風を受けて進むというのは、なんだかいいものだな。

 俺は襖の操るマシンに追いつくべく、ギアを3速、4速、5速と上げて、スピードの向こう側へ至るべく6速にガチャリ。

 なんでこんなに無駄にギアの沢山ある自転車が、この時代の子供用品として流行したんだろう……謎だ。

 と、余計なことを考えていたのがいけなかった。

 住宅地の中にあっては比較的広く大きな交差点を、体を景気よくバンクさせてアウトインアウトで曲がろうとした、その俺の目前に、やつがいたんだ。

 交通量が少ないところだと思って油断していたんですね、ハイ。

「白塗りの一般乗用車に追突してしまう!」

 危機的状況だというのに、無駄に自分の置かれている状況をわざわざ言葉に出して実況してしまった。

 言葉にあえて出したい日本語って言うのはあるんだよ。

 相手は交差点の一時停止標識で停まっている車だ。

 要するに停まってる車がすぐそこにいるのに、無理に曲がり角で大きくカーブして、自動車を避けきれなくなっている頭の悪い小学生男子がいるようにしか、周りには見えていないはずだ。

 頭の中は39歳+αのはずなんですけどね。

 路上で油断する悪癖でもあるのかな俺……。

 死にはしないだろうが、ぶつかって下手すりゃ怪我だな、と半ば諦めていた、その瞬間。


 ふわっ。


 浮いた。俺と自転車が、まるでETの映画みたいに空を飛んだ。

 そして停止していた車の頭上を飛び越え、反対側にある空き地の芝生に、無理のない速度で軟着陸した。

「あれぇ……?」

「え、な、なに、大丈夫なのかい、ぼっちゃん?」

 驚きと混乱のあまり、芝生に呆然と立ち尽くす俺を、運転席の窓から初老の男が顔をのぞかせて、やはり驚きながら心配している。

「え、ええまあ、なんかうまく避けれたみたいです。本当にごめんなさい」

「いや、ほんと、気を付けてよ……しかし、おかしなこともあるもんだな……飛んだように見えたけどな……」

 何度も不思議そうに頭をひねりながら、運転手は車を走らせて去って行った。

 騒ぎにならなくて、良かった……。

 と一安心したのもつかの間。

「危ないじゃないですか!」

 聞き覚えのある声に怒られた。

 どうやら買い物帰りのフェイルさんだった。手に文房具屋のビニール袋を持っている。

「や、やあ、こんちわ。え、今の、見てた?」

「見てましたよ! あんなに乱暴な自転車の乗り方で! 大怪我したらどうするんです!」

 ぷくーっと頬を膨らませて、心なしか顔を上気させて怒るフェイルさんも、良いものだ。

 いやそんな場面を堪能している場合ではなく。

「私がとっさに気付いたからよかったものの……いつもいつも、こんなに運よく助けられるわけじゃないんですからね! 気を付けてください!」

「た、助けた、って、何? え、俺今、フェイルさんに助けられたの?」

 アイキャンフライして無事に着地したの、フェイルさんのおかげ?

 なにそれどんなマジックを使ったんだ。

 あ、いやこの人たしか、異世界から来たエルフさんだけどさ。

「本当は、力を使うのは他の誰にも見られたらいけない、世間に知られたら大変なことになる、って、やじりからもしつこく言われてるんです。だから今回は本当に、特別ですからね!?」

「は、ハイ、ありがとうございます、ごめんなさい!」

 普段見せない表情でフェイルさんが勢いよく俺を叱るので、ついつい流されて素直に返事をする俺。

 なに、魔法なの? ESPなの? 精霊のご加護なの? 地母神様がもたらす奇跡なの?

 超気になるけど、根掘り葉掘り聞いて教えてくれる雰囲気じゃあないなあ……。

「それで、皆焼くんはどこに行くところだったんですか?」

「ああ、襖と一緒に、国道沿いのおもちゃ屋に。アイツ先に行っちゃったけど」

「危なっかしいので、私もついて行きますっ」

 確固たる態度でフェイルさんがそう言ったので、俺は自転車を降りて押して、彼女と並んで徒歩で目的地に向かった。

「ところでフェイルさんの手に持ってる袋、なんか買い物したの?」

「ええ、4年生になってから、絵画クラブで使えそうな道具を、鏃にお小遣いをもらって揃えました」

 どう見ても、Gペンの先とかペン軸とかインク壺とか雲形定規が袋に入ってるんですが、そこは突っ込まないでおこう……。


「ハバキ、おせー……って、弓束も一緒かよ」

 ライオンの絵が描いてある看板が目印、白とピンクのギザギザ凹凸屋根と言うけったいなデザインの店の前。

 先に店に着いていた襖がちょっと嫌そうな顔をしている。

 フェイルさんと俺の仲が怪しい、とクラスの連中が冷やかすこと自体は、春休み前にはほとんどなくなっていた。

 あまり度を過ぎると俺がキレて暴れるし、俺よりもさらに怖い綿噛先生の無表情圧迫質問攻めに遭うだけだからな。

 あと単純に、フェイルさんが周りのクラスメイトに危害を加えたり、嫌なことを言ったりする人でないということを、やっとクラスメイトの大半も理解したのだろう。

 フェイルさんに対するクラスメイト多数の「当たり」がギスギスしたもの、疎遠なものではなくなっていった。

 それでもまだ、そこまで仲のいい友人とかはいないようだがな。

 有名人ではあるが得体のしれない異質な存在、ということがどうしてもネックになっているんだろう。

 俺はどうなんだろうな。彼女の良い友人と言えるかどうか。

 俺自身、ちょっと事情が複雑なんで、何とも言えないところではある……。

「たまたまそこで会ってな」

「こんにちは、草摺くん。新学期もよろしくお願いします」

 ぺこ、と行儀よく頭を下げて挨拶するフェイルさん。

「あ、うん、どうも……」

 つられて頭を下げる襖。

「お、ほんとだ。カードデスの新しいのあるじゃん」

 二人の和気あいあいとした挨拶を横目に、俺は店の入り口近くに設置されている、トレーディングカード排出機を確認する。

 カードデスと言うのは、金を入れてガチャガチャのような機械を回すと、運が良ければいいカード、レアなカードが出てくるという商品である。そんなに運よくいいカードばかりは出ない。

 うん、俺は1回目の人生で死ぬ39歳の頃も、金を払ってガチャを回してたいがいゴミしか出ないゲームを遊んでいたんだがな!

 そう考えるとこのシステム考えたやつスゲーな。間違いなく天才だわ。善人ではないが。

 ただ、こうやって物理的にガチャガチャを回す商品は、機械の中の商品を全部買うだけの金があれば、レアカードもゴミカードもまんべんなく全部手に入る。

 そう言うところはとても商売として真摯で素晴らしいとは思う。

「何が出るかな。何が出るかな」

 鼻歌交じりに、1枚20円のカード「カードデスSDコンドム第4弾」をとりあえず100円分、5回がちゃり、がちゃり。

 ゾクタンクが1枚、ザーバム3機編成が1枚、ザーバム9機編成が1枚、なんだよこれ、何で3機編成のカードと9機編成のカードが分かれてるんだよ、死ね、運営は死ね! 

 ラブサイケデリコガンダムMkⅡが1枚。

 まあ、これは中当たりかな、キラキラしてないカードだが強いことは強い。

 最後の1枚は事務キャノン5機編成だった。

 5枚ガチャでこの戦果か……あまり深く考えないようにしよう。

「ロボットのアニメ、ですね」

「え、フェイルさん知ってるの」

 俺がガチャ回して一喜一憂しているのを横で見ているたフェイルさんが興味を持ったようだ。

「たまに、鏃がテレビで見てます。この前、げきじょうばん? というのをビデオ機器で見ていました。復讐のショウ、と言う作品だったと思います」

 よりによって復ショウかよ。

 駆動戦士コンドム劇場版・復讐のショウという作品は、少なくともこの時代から30年後も、忘れ去られずちらほら話題になるレベルの、まあ往年の名作である。

「で、どうだった? フェイルさん的にはああいうの面白いの?」

「レムロ・アイとショウ・アスナグル、二人の男性が敵味方としてぶつかり合うお話でした。憎しみだけではない色々な感情が渦巻いているようで、複雑ですけど楽しかったです。あと、出てくる赤いロボット、サザビエルというのが素敵でした。力強く美しく、でもどこか哀愁や切なさを秘めている風貌ですね」

 あんまり教育上よろしくない作品なので子供の前でそういうの見るなっつの、ヤジリー姉さん……。

 サザビエルは確かにかっこいいけどね。俺も好きなMSメタルソルジャーだわ。

 フェイルさん、どうやら長生きしてるし、おそらく精神年齢も大人なのかもしれないから、ああいうのも楽しめるのかな。

「え、弓束、復ショウ見たのか……テレビでまだやってないから、録画じゃないよな? レンタルで?」

 フェイルさんがいて居心地悪そうだった襖が、コンドムと言う好きなロボットアニメの話題なので喰いついてきた。

「いえ、鏃……私の姉が、ビデオ商品を買ったみたいです」

「ええー、い、いいなぁー! いつでも見放題じゃん!」

 いつでも何度も見たいような明るく愉快な話ではないぞ、襖……。

「よければ今度、草摺くんに貸してもいいか姉に聞いてみますよ?」

「マジで! やったー!」

 すっかり気を良くした襖と、俺と、フェイルさんと3人で、そのあと少しミニ四駆の車体やパーツ、その他のおもちゃを物色した。

 フェイルさんが一番興味を示したのは、森の中にある家、というシチュエーションで、小動物の人形たちが暮らすセットだった。

「懐かしい……」

 フェイルさんがそう呟いたように聞こえた。

 え、あなたの世界ではウサギが服を着て2足歩行して、台所に立ったりベッドメイキングをしたりするんですか?

次回予告

「激動の世紀、その時に人生やり直し男と異世界から来たエルフ娘は!?」

 おそらく田舎の小学校に通ってます。

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