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便秘治療(1)(中学3年生5月)

浣腸の描写があります。

 長時間にわたる治療を終えた優香は、一人診察台に横たわっていた。


 強い羞恥と苦痛をともなう治療と、激しい排泄の疲れでぐったりとしてはいたが、何週間にも渡り、直腸から肛門にかけて、びっしりと詰まっていたガスと便塊が取り除かれたことで、お腹の張りと痛みは楽になり、頬には血色が戻っていた。


 薄い衝立の向こうで、友井医師と真斗が話している低い声が聞こえてくるものの、優香の頭は自分がしてしまった粗相のことでいっぱいで、二人が何の話をしているのかはよく分からなかった。


 粗相についても、どうしてそんなことになってしまったのか、はっきりとは思い出せない。

 摘便を受けるうちに、うまく息が出来なくなって苦しくなったことまでは覚えていたが、その後は記憶が曖昧で、思い出せるのは、診察台で突如お腹が痛くなって、うずくまったまま下痢を漏らしてしまい、お尻に四角いオムツのシートを押し当てられている場面からだった。


 下半身裸で四つん這いになった惨めな姿で、覆うものもない肛門からは、茶色い軟便が勢いよく噴き出していく。


 自分自身には見えないはずの姿なのに、優香の脳裏にはその光景が、まるで自分が目にしたことのようにはっきりと浮かんでいた。まだ直腸と肛門にはグリセリン浣腸の熱い感触が残り、旅行中に怪我した掌と両膝がズキズキと痛む。それは、自分が浣腸の処置を受け、四つん這いの姿になって漏らしてしまったことが、夢や想像ではなく、現実だと伝えていた。


 優香は頬を伝っていく涙が、どんな感情によるものなのか、自分でもよく分からなかった。


 治療のつらさと恥ずかしさ、惨めさ、自分の不甲斐なさ、自分なりに努力して気をつけていたのに体調が悪くなる理不尽さ、自分の身体を自分でコントロールできなくなる恐ろしさ…。



 不意に衝立の向こうで、話を終えた二人が立ち上がる気配がして、優香は慌てて自分の手の甲で涙を拭った。


「気分は悪くない? 起き上がれそうなら、ゆっくり起き上がろうか」

 診察台の側に戻った友井医師が、優香の顔色を見て声をかけた。


「大丈夫です…。すみませんでした」

「何も気にしなくていいから。元気になってくれたら、それでいいからね」

 友井医師はそう言って微笑んだが、気にしなくていい、という言葉から、やはり自分が粗相してしまったことは現実なのだと察した。


「これからは、こんなにひどい状態にならないように、ちゃんと週に一度は通院して、家ではお兄さんのいうことを聞くようにね」


 友井医師はそう付け加えて、優香は意図がよく分からないまま頷いた。



 帰宅した優香は、何も食べる気にならず、お風呂に入ると10時前にベッドに入った。

 長時間の治療と激しい排泄の疲れか、久々に腸の詰まりが取れて身体の負担がなくなったからなのか、優香は朝まで目を覚ますことなく、ぐっすりと眠った。


 そして、十分な睡眠のおかげか、翌朝には体調や食欲も戻り、通常通り登校することができた。


 夕方、学校から帰宅して、夕食を終え、優香がリビングのソファに腰を下ろすと、真斗も黙って隣に座った。


 優香は、何か話があるのだろうと察しながらも、先に自分から口を開いた。

「昨日病院で、先生と何の話してたの?」

「…その話を、今からしようと思ってたよ。これからの治療の話……これ以上、悪い状態にならないように、1ヶ月間しっかり治療する必要がある。家でも毎日浣腸して、週に一度通院して診てもらうようにって…」


 毎日浣腸、という言葉が聞こえた瞬間、優香は「イヤ」と言おうとしてうまく声が出せず、「ヒッ」と短い悲鳴のような声をあげた。その声に自分でも驚いて、もう一度声を出そうと息を吸い込んでいるのに、どんどん苦しくなる。

 優香は必死で何度も息を吸い込んだ。


「大丈夫だよ。…大丈夫だから、お腹で息をして、ゆっくり息を吐いて」

 苦しげに大きく口を開けて息を吸おうとする優香の背中に、手を添えて前かがみにさせながら、真斗が声をかけた。


 しばらく背中をさすってもらい、口から何度も大きく息を吐いて、ようやく呼吸が落ち着いた優香は、乱れた髪をかきあげながら、ゆっくりと身体を起こした。


「落ち着いた?」

 優香が頷き、乱れていた呼吸が穏やかになるのを待って、真斗は口を開いた。


「…どうして、こんなに浣腸が苦手になってしまったんだろう。この前、気を失ってしまったから、怖くなった?」

「それもある…けど……」

 優香はしばらく黙り込んだ後で、ためらいがちに口を開いた。

「修学旅行で、お腹が痛くて起きられなくなって…。連れて行ってもらった病院で……浣腸するって言われて…それは、仕方ないんだけど……」

 そこまで言って、優香の目から大粒の涙が溢れた。


「これから……浣腸しますって…周りの人に聞こえるような大きな声で言われたり、…浣腸したから…今からトイレに入るって、みんなの前で大声で言われて……。それに…、浣腸する時は、口を開けて大きな声を出しなさいって、何度も怒られて……。寒いって言ってるのに、どうせめくるんだからって、タオルも何もかけずに…浣腸されて…その後の我慢も、ずっと、裸のままでさせられて…悲しくて、恥ずかしくて……。昨日病院で、苦しくて、声が出て……そしたら、思い出したくないのに、その時のことが頭に浮かんで、息が出来なくなって……」

 優香が泣きながらそこまで話すと、真斗は優香を自分の胸元にもたれかけさせるように、ゆっくりと抱き寄せた。


「ごめん……。嫌なことを、思い出させたね」

 そう言って、無言で優香の頭を撫でていたが、しばらくすると、もう一度口を開いた。

「いつも、変われるなら変わってやりたいと思っていたけど、昨日ほど強くそう思ったことはなかったよ。…本当につらそうで、苦しそうで、死んでしまうんじゃないかと思って…。でも今も、昨日と同じくらい、いや、昨日よりももっと、自分が変わってあげられたらいいのにと思う…」


 いつものように、病気の治療なんだから恥ずかしがることではない、と言われると思っていた優香は、意外な言葉に驚いていた。

 真斗は、優香を抱き寄せる腕に力を込めながら続けた。

「だけど、思ってもそれは叶わないから……せめて、もうそんなつらい目に合わせたくない。もう、俺の知らないところで、そんな嫌な病院に行って、嫌な目に合わないでほしい……。家でなら、出来るだけ嫌じゃないようにしてあげるから……。だから、お願いだから、ちゃんと治療を受けてほしい…」


 いつもの諭すような調子ではなく、懇願するような真斗の口調に、優香は初めて、兄らしく振る舞おうとしていない、生身の真斗という人間に触れた気がした。その表情を見たくて、胸元に埋めた顔を起こそうとモゾモゾと動くと、その気配を察した真斗が、優香を抱き寄せていた腕をほどいた。


 もたれかかっていた身体を起こして、顔を上げた優香に、

「嫌だった?」

と静かに聞いた真斗は、しかし表情も声も、いつもの兄らしく落ち着いた様子に戻っていた。


 優香は否定するために首を左右に振ったが、真斗はもう抱き寄せようとはせずに、

「お願いを聞いてくれる?」

とだけ聞いた。


 優香は、その目を見つめて、頷いた。

「…いつから?」

「今日」



 少しでもリラックスした状態でできるように、浣腸は毎晩お風呂上がりにすることになった。

 真斗は、優香が見つけてショックを受けないように、薬局から持ち帰って自分の部屋に置いた、30回分のグリセリン浣腸がぎっしり詰まった大きな箱を開けて、これから使う分をひとつ取り、準備した。


 優香は裸になった下半身をタオルで覆い、廊下に敷いたバスタオルの上に左側臥位で横たわっている。傍らには、パジャマのズボンと、その下にはショーツがきちんとたたんで置かれている。


 真斗は優香の側にひざまずくと、

「タオルをめくるよ」

と声をかけて、腰から下、曲げた膝の上辺りまでを覆っているタオルを、お尻の側から半分だけ捲り上げた。


 優香は身体を丸めて、湯上りで少しピンクがかったお尻を、真斗の方に向けて突き出した。


「ノズルを入れるよ、口で息をして」

と声をかけてから、湯上りで熱を帯びたお尻を開き、露わになった肛門に、ワセリンを塗った浣腸器の長いノズルの先端を押し当る。そして、優香が小さく開けた口元から、心細げに息を吐くのに合わせて、直腸深くへと挿入していった。

 ストッパーが軽く肛門に触れるまで挿し入れると、

「薬を入れるからね」

と、もう一度声をかけて、優香が口から吐く息に合わせて、浣腸器の膨らみを潰すように力を込める。


 グチューーー。


 グリセリンが半分ほど入ったところで、不意に優香がピクンと身体を震わせて、呼吸が浅く速くなった。

「はっ…はあ…はあ……はっはっ…はあ……」


 真斗は浣腸器に添えていた手を離し、指先をウェットティッシュで拭うと、片手を優香のお腹に添え、もう一方の手で背中をさすりながら声をかけた。

「お腹で息をして、ゆっくり息を吐いて…」

 口を大きく開き、優香が必死で息を吐くのに合わせて、柔らかなお腹を軽く押すようにして腹式呼吸を促していると、少しずつ優香の呼吸が深くなり、落ち着きを取り戻してきた。


 真斗は、まだ少し呼吸が荒く、苦しげに肩を大きく上下させている優香の姿を見守った。

 むき出しの白く小さなお尻には、残酷に思えるほど大きな浣腸器が突き刺され、透明な長いチューブが肛門から伸びている。チューブの先では、まだたっぷりとグリセリンの詰まった丸い膨らみが、荒い呼吸に合わせて微かに揺れていた。


 背中をさすり、励まそうとして、

「怖くないからね。嫌なことを考えずに、楽しいことを考えて…」

と声をかけながら、こんな状況で楽しいことを考えられるはずもないと、自分でも思う。


 羞恥心の強い思春期の少女が、下半身をあらわにして肛門まで人目にさらす。

 その上、排泄器官である肛門から、自然の摂理と反対向きに深々とノズルを挿し入れられ、強制的に排便を促す薬を直腸に注入され、刺激されながら、我慢を強いられるのだから。その苦痛はどれほどのものだろう…。


 苦しみに耐える痛々しい姿に、昨日の友井クリニックでの姿が重なった。

 直腸にびっしりと詰まった便塊を掻き出すため、治療のためとはいえ何度も何度も肛門に指を突き立てられて、苦痛に顔を歪めてうめき声をもらす姿を見守るのは、まるで目の前で犯されているのを見るようにつらかった。


 壁際を向いて横たわっていた優香が、首をひねってこちらを振り向かえったのを見て、真斗は我に返った。


「落ち着いた?」

 苦しみを堪えるように、切なげな表情を浮かべて優香が頷くと、

「時間をあけると余計に我慢がつらくなるから、済ませてしまおうね」

と声をかけて、再び浣腸器の膨らみに手を添え、力を加えた。


「全部入ったよ。チューブを抜くからね…」

 優香に声をかけるのと同時に、お腹がギュルルるると大きな音で鳴った。


 トイレットペーパーを添えながら、ゆっくりとチューブを抜き、肛門を軽く拭ってから、新しいトイレットペーパーで押さえて圧迫する。


「お腹痛い…もう、出ちゃいそう…」

 中断して注入に時間がかかったせいか、優香はすぐにトイレに行きたがった。

「薬だけ出てしまったら駄目だから、もう少しだけ我慢しようか」


 トイレットペーパーを肛門にぎゅっと押し当てながら、真斗が声をかけると、優香は目を閉じて頷いたが、グルグルと鳴るお腹の音は一層大きくなっていく。


「もう、本当に無理…」

「起き上がれる?」

 真斗は片手を優香のお尻に添えながら、もう片手でタオルで下半身を覆って、優香が身体を起こし立ち上がるのを手伝った。


 真斗に支えられながら、ゆっくりと立ち上がった優香の頬からは血の気が引き、貧血を起こしているらしく足元もおぼつかない。

 真斗が優香を片手で支えながらトイレのドアに手をかけ、便器に腰掛けさせた途端、


 ブシューー! ブチュブチュッ、ビューーッブリュッ。


 水っぽい排泄音が響いた。


 ドアを閉める前に、

「終わってもすぐに立ち上がったら駄目だよ」

 優香に声をかけると、真斗はトイレから出た。

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