秘密(中学1年生11月)
今回のエピソードは、浣腸されたり、排泄する描写はありません。
親友が浣腸にニアミスした話から、恥ずかしい治療を意識することになった体験です。
月曜日、いつもの通り優香は、仲良しの茉莉果と下校していた。
優香は少し上の空だった。
お腹が少し重く、ガスも溜まって、張っているのがわかる。
一昨日、ウサギの糞のようなコロコロの便を、30分以上頑張って、どうにか出してから、お通じがない。
「便秘がひどくなると治療が大変になるから、早めに受診を」という、友井クリニックの医師の言葉を思い出す。
でも、便秘で受診したら、また浣腸が待ち受けているのかと思うと、怖気付いてしまう。
今日、明日くらいは様子を見てもいいよね、きっとそのうち出るだろうし。
優香は自分にそう言い聞かせた。
「ねえ、優香の家の近くに友井クリニックってあるでしょ。あそこ行ったことある?」
不意に茉莉果に聞かれ、まさに友井クリニックのことを考えていた優香はドキッとした。
「う、うん。風邪引いた時とか、お世話になってるよ」
「そうなんだ」
茉莉果はそう言って一旦黙り込むと、しばらくの沈黙の後で、声をひそめて言った。
「ねえ、優香。浣腸ってしたことある?」
「え!? どうしたの急に」
自分の頭の中を覗かれたようで、動揺を隠しつつ優香は聞いた。
「実は、土曜日お腹が痛くなって友井クリニックに行ったんだ。そしたら便秘って言われて。浣腸と飲み薬があるけどどっちがいい?って聞かれたの。いきなり浣腸なんて言われて、びっくりしちゃった」
「…それで、どうしたの? …浣腸…してもらったの?」
「してないよー!」
茉莉果は笑って、手と首をブンブンと横に振った。
「知ってる? 浣腸ってお尻から薬を入れられるんだよ! 看護師さんと、下手したらお医者さんにもお尻見られちゃうじゃない。絶対嫌だよー! それに、浣腸の薬を入れられたら、すぐにウンチが出たくなって、我慢できないんだって。恥ずかしすぎない!? 絶対無理だよ、そんなの。それにさー、友井先生って、若くて結構格好良くない? あの先生に浣腸してくださいなんて言えないでしょ」
「…そうだよね、普通飲み薬にするよね」
まさか、自分は病院でも自宅でも何度も浣腸されているなんて言い出せず、優香は茉莉果の調子に合わせた。
「うん、浣腸ならすぐ楽になるよって言われたけど、たとえ浣腸なら3分で治って、飲み薬なら3日かかるとしたって飲み薬でいいよ」
「そうだよね……。それで具合はどう? もう良くなったの?」
「うん。下剤が効きすぎて、日曜日は朝からお腹ピーピーで、もう大変だったよ。部屋とトイレ往復してる間に1日終わっちゃって。もうお尻がすりむけるかと思ったけど、夜には治って、もう元気」
「そっか、よかった」
茉莉果の屈託のない笑顔が、優香には眩しかった。
茉莉果は飲み薬を選べたのに、どうして自分は選ばせてもらえずに、毎回恥ずかしい浣腸なんだろう…。
今度、受診することがあったら、自分も飲み薬にしてもらおう、と優香は心に決めた。