体調不良(2)(梨沙)
梨沙がバスタオル1枚でトイレに駆け込んでから、数分が過ぎた。
トイレからは、軟便が水面を打つ音が途切れ途切れに響き、合間には梨沙の荒い息遣いが聞こえていた。
洗い物を終えた真斗は、身体が冷え切っているであろう梨沙のために、バスルームの狭いバスタブにお湯を張った。
勢いよく出るお湯の音で、苦しげな息遣いはかき消されたが、それでも、激しい下痢の排泄音は、まだはっきりと聞こえていた。
狭いバスタブにお湯がたまり、真斗がお湯を止めて風呂場から出ると、ようやくトイレの流れる音が聞こえた。
しばらくして現れた梨沙は、ひどい下痢のせいで、憔悴した表情を浮かべ、むき出しの白い肩が寒そうに震えている。
「大丈夫? お湯を溜めたから、少しお風呂で温まったら?」
「ありがとう…そうする」
真斗は梨沙と入れ替わるように脱衣所を兼ねた洗面所を出た。
扉を閉める時、床に汚れてしまったパジャマが脱いであるのが目に入った。
風呂場のドアが閉まる音がすると、真斗はもう一度脱衣場に入り、かすかな臭気を放つパジャマのズボンを拾い上げ、洗面台の上で洗剤をかけて、何度か水ですすぎながら、丁寧に洗った。
汚れが落ちると、念のため、ポットで沸かしたお湯をかけてから、もう一度すすいでよく絞り、洗濯機に入れた。
手を洗い、部屋に戻って時計を見ると、もう19時近かった。
真斗は優香に電話をかけた。
「もしもし…ごめん、帰るのがもう少し遅くなりそうだから、家にあるもので夕飯食べておいてくれる? 冷凍庫にグラタンがあったと思うから。カレーがよければカレーとご飯も。……お腹は大丈夫? 下痢がひどいなら、カレーはダメだよ、そんなに辛くなくても、香辛料が入ってるし、油分も多いから…」
合宿から帰ってきてから、カレンダーに下痢を表す三角が続いているのが気がかりだった。
ひどい下痢でなければ、便秘で3日ごとに浣腸が必要な状態よりは、まだましなのかもしれないが。
「…うん、少し遅くなると思う。夜には帰るけど、ちゃんと戸締りはして、先に寝ておいて」
真斗が電話を切ると、風呂から上がった梨沙が新しいパジャマに着替えて戻ってきた。
「落ち着いた?」
「うん…ありがとう」
「飲むものを持ってくるから、湯冷めしないうちにベッドに入って」
腰まで布団をかけて、ベッドの上で上半身を起こした梨沙に経口補水液を飲ませ、
「薬を飲んだのに、これ以上ひどくなるようなら、救急病院に行って点滴を打ってもらったほうがいいんじゃないかな…」
真斗は言った。
「大丈夫…。いつも薬を飲みだした翌日くらいに楽になってくるの。だから薬飲んでも半日から1日くらいはこんな感じ…。ごめんね…」
「謝ることじゃないよ」
「ううん。……お腹壊してるから、薬が効くまでは食べないほうがいいってわかってたんだけど…すぐに帰ってしまうのが寂しくて、おかゆ作ってって言ったの…。こんなにひどいことになるとは思わなくて…。ねえ、私、自分で言い出したことだけど…」
梨沙の目から、また涙が溢れた。
「今は体調が悪いから、心細いんだよ…。その話は、また元気になってからにしよう」
真斗はそう言って、梨沙の肩を抱くようにしてベッドに寝かせると、肩まで布団をかけてやった。