合宿(6) 羞恥と不安と涙(中学3年生4月)
便器に叩きつけられる水のような排泄音が止んでからも、一向にトイレから出てくる気配のない優香に、真斗は廊下から声をかけた。
「大丈夫…? まだ出そう?」
「……立ち上がれない…」
ドアの向こうから、消え入りそうな優香の声が聞こえた。
「開けるよ」と真斗が声をかけると、
「流すから待って…!」
と、優香が弱々しいながらも切迫した声で答えた。
真斗がいったんドアのノブから手を離して待つ間、トイレからはシャワートイレを使う音と、
「…ひっ!…うぅぅ……い!…痛いよぉ……」
という優香の、悲鳴のような、泣き声のような、痛々しい声が廊下に響いていた。
「大丈夫? 痛みがひどいなら、軟膏を塗る前に座浴しようか」
「…うっ……うぅぅ…」
返事なのか泣き声なのかわからない声に、真斗は、
「準備してくるね」
と言い残して浴室へと向かった。
優香の痔の治療のために、座浴用に購入した大きな洗面器を出してたっぷりとお湯を張る。
トイレに戻り、
「開けるよ」
と、声をかけてドアを開けると、そこにはどうにかお尻を拭いて、下着とズボンをあげたものの、立ち上がることができずに、青白い顔で便器に腰掛けたままの優香の姿があった。
頬には涙が伝っている。
「痛む? 座浴でお尻を温めたら、少しは楽になるよ」
真斗は優香を抱え上げ、浴室に運んでくれたが、優香が泣いているのは痛みのせいだけではなかった。
浣腸で気を失ってしまった混乱と恥ずかしさ、そしてようやく治ってきた痔が、またぶり返してしまったかもしれないという絶望と不安…。
もし今までの痔の治療が無駄になり、もう一度あのひどい状態の肛門に戻ってしまって、一から治療をやり直さないといけないとしたら…。
優香の脳裏には、座ることもできないほどの肛門の痛みと高熱のつらさ、診察台で四つん這いのような格好になってお尻を高く上げさせられた恥ずかしい肛門の診察、肛門鏡の冷たく硬い感触、慣れない下剤でトイレまで間に合わず玄関で漏らしてしまったこと、学校の寒い和式トイレにしゃがみ、肛門の痛みに涙を流しながら、下剤で強制的に排泄しては時間をかけて軟膏を注入していた惨めな思い出が、次々に蘇った。
優香は、真斗に手伝ってもらって、下半身だけ裸になると、再び抱え上げられてお風呂場に入り、洗い場で洗面器にお尻を浸した。
温かいお湯でお尻の傷を癒しながら、優香はしゃくり上げて泣き出してしまった。