莉緒(3) 相談(中学3年生4月)
莉緒が保健室のドアを開けると、中原先生が心配そうに声をかけた。
「秋月さん、かなり具合が悪いの? さっき監督の小林先生がいらして、すごく辛そうだったって」
「朝から少しお腹が痛かったんですけど、急に痛みが強くなって、気分も悪くなってしまって…」
「大丈夫? トイレに行ったら少しは楽になった?」
「はい…大丈夫です」
「お腹は、下してるの?」
「いつもの便秘の腹痛です。昨日の朝、家で浣腸して少し出たんですけど、出しきれなくて…。ガスも溜まってしまったみたいで。さっきもう一度浣腸したら、ガスが出て、痛みは大分楽になりました」
莉緒はためらわず、浣腸を使用したことを報告した。
中原先生には、自分の便秘や治療のことを何度も相談しているのと、必要な治療である浣腸について隠そうとすると、余計に恥ずかしく、惨めな気持ちになりそうだと思って、意識的に堂々と「浣腸」という言葉を口にしようとしているからだった。
「そう…。少し横になって休みなさい。奥のベッドは今、ほかの生徒が使ってるから、手前のベッドを使って」
中原先生に言われて、莉緒が手前のベッドのカーテンを開け、スカートのホックを緩めて横になろうとすると、中原先生がベッドに近づき、声をかけた。
「秋月さん、横になって楽にしながらでいいから、少し話せる?」
「はい」
莉緒は上履きを脱ぎ、ベッドに横たわりながら答えた。
「以前、下校中に倒れて病院に搬送されたのは、半年ほど前よね?」
「はい…」
「それ以来、倒れてしまうほど体調が悪くなったことは?」
「気を失ったことはありません。お腹が痛くなって、冷や汗が出て、気が遠くなりそうなことは時々あるんですけど、浣腸すると治まるので…」
「浣腸が駄目と言うつもりはないから正直に答えてね。…今はどれくらいの頻度で浣腸してるの?」
「最近は、3日くらい便秘が続くと浣腸で出すことにしています。あとは、さっきみたいに急に気分が悪くなった時に使ったり…。それとは別に、便秘がひどくなって自分では出せなくなってしまった時に、病院で大きな浣腸をしてもらっています」
「そう…。浣腸も正しく使ったら癖にはならないんだけど、乱用したり、頼り過ぎたら駄目よ。便秘は、倒れた頃よりひどくなってない?」
「それが、だんだんひどくなってるみたいで…。今の病院は、詰まった時に駆け込んで、出すのを手伝ってもらうだけで、詰まりにくくするような治療は、下剤の処方くらいなんです。便秘そのものを治療したくて、排便外来も探したんですけど、通えそうな病院はすごく人気みたいで、予約も1年待ちって言われて…」
「そんなに先なの? 排便外来を掲げてなくても、胃腸科とか消化器内科とか、いい病院が見つかるといいんだけど…。とにかく、今はゆっくり休みなさい」
中原先生は莉緒にそう声をかけると、そっとカーテンを閉めた。