裏側(中学2年生3月)
浣腸、排泄の描写があります
日曜日の午後。約束通り、莉緒は春休みの宿題を持って、優香の家を訪問した。
リビングにいた真斗に莉緒が挨拶すると、真斗は、
「いつも優香と仲良くしてくれてありがとう。今お茶を入れるから、ゆっくりしていってね。何がいいかな、紅茶ならアールグレーか、ミルクティーがよかったらダージリンもあるけど。コーヒーかカフェオレのほうがいい?」
「私、ミルクティー」
優香が言うと、莉緒も遠慮がちに「ありがとうございます、私も同じのをください」と答えた。
ミルクティーにお茶菓子のクッキーを添えてリビングに運ぶと、
「どうぞ。ごゆっくり」と言い残し、真斗はLDKを出て自分の部屋に向かった。
「お兄さん、すごく優しそうだね。私一人っ子だから、優しいお兄さんが憧れ」
莉緒が言うと、
「うーん、まあ確かに優しいけど、デリカシーないなーって思う時も結構あるよ」
身内の謙遜もあり、優香は言った。
「そうなの? そんな風には見えないけど」
「例えばね、すっごく嫌だったのは…。これ、誰にも愚痴れなかったから莉緒に初めて言うんだけど」
少しためらう優香を、莉緒は促すように、小首を傾げてじっと見た。
「学校を休む時、連絡するじゃない? それを風邪とか、その粒度の説明じゃなくて…、もっと、すごく事細かに説明するの。症状とか、治療内容とか…。木下先生にも何度も、下痢がひどくて、おかゆを食べてもすぐ下してしまうとか、お腹が痛くて病院で浣腸してもらったとか…。部活のコンクールに出る時なんて、さっき坐薬を入れたばかりって報告されたこともあったんだよ」
優香は思い出して、少し頬を赤らめながら言った。
「よりによって憧れの木下先生に、ね」莉緒は少し微笑んで、
「でも、それってデリカシーがないからじゃないと思うよ」と続けた。
「あー、お兄ちゃんと同じこと言うつもりね? 前に抗議したら、優香は学校を休んだり、学校で具合が悪くなることも人より多いんだから、そういう時に配慮してもらうためにも、症状を先生に知っておいてもらった方がいいって言われて、言い込められたんだけど…」
「うーん、それもあるけど。でもそれって建前というか、表向きの理由でしょ」
「えー? じゃあ裏の理由って何?」
「想像だけど…。優香が木下先生に憧れてること、お兄さんもなんとなく気づいてるんじゃない?」
「どうだろ…。そんなこと話した覚えないけど。でもそうだとして、どうして憧れてるって知ってて、そんな無神経なことするの? 私が恥ずかしがるってわかってるくせに」
「これも、想像だけどね。お兄さんは多分、優香を他の男の人に取られたくないと思ってるんじゃないかな。だから、優香が憧れてる人に張り合おうとしてるんだと思うよ」
「下痢の様子とか浣腸の治療とか、みっともない話ばかりするのが、なんで張り合うことになるの?」
「それは、優香の一番側にいる人しか知り得ないことだからじゃない。自分はそんな姿も知ってるとか、そんなことも相談されたり頼られてるって、アピールしてるの」
「そんなこと、あるのかな…」
「珍しい話じゃないと思うよ。ほら、ドラマとかでもあるでしょ。父親が娘の彼氏に嫉妬したり、心配を口実に、交際に口出ししたりするやつ。長年、手塩にかけて育てた可愛い娘だもん。取られたくない気持ちもあるでしょ」
「うーん、これは別に秘密じゃないんだけどね。お兄ちゃんは私のこと、長年手塩にかけてないんだよ。私とお兄ちゃんが一緒に暮らしてるのって、まだ2年ちょっとなの。ママが再婚してできた、新しいお父さんの連れ子がお兄ちゃんだから」
「そうだったんだ…。それで全然似てないんだね。だったら、家族愛だけじゃなくて、恋愛感情も混ざってるんじゃないかな。多分、どっちかだけではなくて、複雑に混じり合ってるんだと思う」
「恋愛? 血は繋がってないけど、兄弟だよ」
「うん、でも血が繋がってないなら、結婚だってできるよ」
「結婚!? ないわー、ないない。お兄ちゃんはね、確かに私にすごく優しくしてくれるんだけど、それは私のこと、かわいそうだと思ってるからなの。前に私のかかりつけのお医者さんに、お兄ちゃんが相談してるのを聞いちゃったの。私その時トイレにいたんだけど、ドアの向こうから、二人の話し声が、ちょっとずつだけど漏れ聞こえてきたのね。お兄ちゃんは、私のママのこと、確かネグレクトって言ってて。はっきり意味は知らない言葉だったけど、いい意味じゃないことはわかったの」
「育児放棄みたいな意味で使うね」
「そっか…。その時お兄ちゃんは、母親の代わりは無理でも、できるだけのことをしてあげたいって言ってくれてたの。それに甘えて、私、料理とか掃除とか、ほとんどお兄ちゃんに任せっきりなんだけどね」
「優香もいろいろ考えてるんだね」
「何も考えてなさそうだった? 心外ー」
優香が冗談ぽく笑うと、
「何も考えてなさそうとは思わないんだけど、優香はピュアというか、人の言葉の裏側とか、あまり深読みしなさそうだから…」
莉緒は少し笑って、そう言った。
その夜、夕食を食べ終えた優香は、
「それで今日は、お通じは?」
と、友井医師の指示を伝えていた真斗に、単刀直入に聞かれた。
「まだ、ない」
「もうしばらく様子を見て、出ないようなら、お風呂に入る前に浣腸しよう」
「うん…」
夕食を食べても動き出す気配のない下腹に、浣腸を覚悟して、優香はうなだれて頷いた。
それから2時間ほどして。
真斗はいつものように手際よく、トイレの前の廊下にバスタオルを重ね、洗面器に浸けてグリセリン浣腸を温め、必要なものを準備すると、優香を廊下に呼んだ。
「さあ、お尻をこっち側に向けて、横向きに寝転んで」
優香は、タオルの上で身体を丸めて、ぐっとお尻を突き出す、いつもの浣腸の体勢になった。
真斗に浣腸をしてもらうのは、痔が悪化してしまった3月のはじめ以来、約1ヶ月ぶりだった。
真斗は、優香の肛門にワセリンを塗りながら、
「よかった…。きれいに治ったね」と言った。
優香は、お風呂に入る前の肛門をまじまじと見られていることが恥ずかしく、何も言えずに顔を赤らめた。
「チューブを入れるよ」
と声をかけられ、ゆっくりと浣腸容器のノズル部分が挿入される。決して気持ちの良いものではないが、懐かしい感触だった。
「力を抜いてね。はい、…チューブが入ったよ。じゃあ薬を入れるからね。口を開けて、ゆっくり息を吐いてー。はー」
「はー」
優香は口を開き、目は閉じて、浣腸液を注入される不快さと、恥ずかしさに耐えた。
腸が驚いたように、ギュルルるると大きな音で鳴った。
優香は、久しぶりの浣腸後の我慢が辛く、2分も経たないうちに
「出ちゃう…」
と涙ぐんで、真斗にお尻を抑えてもらいながら、どうにか我慢した。
その後、ようやく許されたトイレで、1ヶ月ぶりに下剤による軟便ではない、形のある便を排泄した。
浣腸による腹痛とお尻の熱さはあるものの、恐れていたお尻の痛みはほとんどなく、優香は安堵した。
その時、トイレのドアがノックされ、真斗の声が聞こえた。
「痛い? 座浴の用意をしておこうか?」
「大丈夫…」
優香は10分近く時間をかけ、ゆっくりと排便を終えた。
お腹が落ち着くのを待って軟膏を塗り、ようやくトイレから出た。