約束(中学2年生3月)
校門を出て、歩きながら優香は言った。
「なんか、びっくりしちゃった…。いろんな人がいるんだね」
「浣腸が好きな人がいるってこと、わかったでしょ? あ、恵理菜じゃなくて、立川のことね」
莉緒は、恵理菜が立川くんに浣腸されたと確信しているようだった。
莉緒は続けた。
「恵理菜は私への対抗心で、何を言っても反発するだけだから、止めさせるには私から立川に話をするしかないのかも…。気が進まないけど、このままだと恵理菜、身体だけじゃなくて、心も病気になっちゃいそう…」
「…優しいんだね」
「優しい、というか、立川が浣腸に執着するのって、元からの性癖もあるのかもしれないけど、半分は私のせいのような気がするから…」
「そんなこと…」
「ううん…。今思えば、病院の浣腸のことなんか言う必要なかったのに、全部を受け入れてほしい、かわいそうな私を慰めて欲しい、みたいな恋愛脳で、感情的に話しちゃったから、私も悪いの…。それに、その頃、立川はすごくエッチしたがってて、だけど私はまだ早いと思ってたから、分かっててはぐらかしてたのね、そんな状態で浣腸された話を妙に感情込めてしちゃったから、彼の頭の中で、浣腸がすごく重要な性的ファクターになっちゃったんじゃないかな」
「なんか、莉緒の洞察力って、いつもすごいね。圧倒されちゃう…」
「そうかな。いつも私が一方的に喋ってるから、そう思うだけじゃない? そうだ! 春休み、一緒に宿題やらない? というのは口実で、優香の話ももっと聞かせて欲しいの」
「聞かせるような話、あるかなー。でも一緒に宿題するのはいいね。明日は病院に行く日だから、明後日とかどう? うちに遊びに来ない?」
「明後日、日曜日だけどいいの? ご両親とかお休みでくつろいでるのに、迷惑じゃない?」
「大丈夫だよ。うち、両親はシンガポールに住んでて、家には兄と私しかいないから。あ、でも急に4月に帰ってくることになったんだった…。だけど、どうせ家にいるのは2、3日だと思うから、その時以外はいつでも大丈夫だよ」
「そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えて、日曜日、お邪魔しようかな」
優香は日曜日の約束をして、莉緒と別れた。
土曜日は、約1週間ぶりに友井クリニックを受診した。
指診と肛門鏡による診察を受け、順調に回復していると診断された優香は、食間の便秘薬は服用を止めるように指示された。
「寝る前の下剤も、毎日ではなく、二日に一回にしましょう。一気に全部止めてしまうと便秘になってしまうと思うので、今日の夜に下剤を飲んで様子を見て、明日の夜まで排便がないようなら、浣腸してください」
久しぶりの浣腸の宣告に、優香はたじろいだ。
莉緒に打ち明けて、少し気が楽になったとはいえ、飲み薬で済むならその方がいい。
「今のお薬を続けていくのは、ダメですか…?」
「処方している下剤は、継続して飲むようなものではないです。長期に渡って服用すると、腸の機能が悪くなってしまうし、副作用もあるからね。これまでは、お尻の回復を最優先にして、便秘で便が硬くならないように、短期集中で飲み薬を使ってきたけど、これからはまた浣腸でコントロールしましょう」
優香は、頷くしかなかった。
「明日の夜までお通じがなかったら浣腸をして、排便の有無にかかわらず、月曜日にもう一度診せに来てください。内服を止めても、お尻が悪化しないか確認するので。注入軟膏は、もうしばらく、入浴後と排便後に使ってください。では浣腸と注入軟膏を処方しますね」