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体育祭(2) 病院で(中学1年生10月)

直腸(肛門)診、浣腸の描写があります。

 下腹を押さえて苦しむ優香を、抱えるようにしてタクシーに乗せると、真斗は友井クリニックの診察券を確認した。


 今日は木曜日。診察は18時、受付は17時半までとなっている。

 時計を確認すると、すでに18時を20分ほど過ぎていた。

 祈るような気持ちで、真斗は電話をかけた。


 コール音が5回ほどなったのち、

「はい、友井クリニックです」

 聞き覚えのある若い男性の声が聞こえた。

「時間外に申し訳ありません。何度か診療していただいている佐伯優香の兄です。実は、妹が急に具合が悪くなって嘔吐してしまって、腹痛もあるようで。診ていただきたいんですが、今日はもう診療は終えてらっしゃいますか?」

「時間は過ぎていますが、診療します。看板と玄関の灯りは消えていますが、玄関は開けておくので、すぐに連れて来てください」

「ありがとうございます。これから伺います」

 真斗は電話を切ると、運転手に行き先を告げた。


 クリニックに着くと、友井医師の説明通り、すでに看板の灯りは消えていた。

 薄暗い玄関を入ると、受付は無人だが、診察室とその前の廊下には灯が灯っている。

「失礼します」

 真斗はぐったりとしている優香を抱きかかえるようにして、診察室のカーテンをくぐった。


 友井医師は、診察室のデスクに向かって待っていた。

「すみません、時間外に」

「閉める前でよかった。奥の診察台へ」

 下腹を庇うように手を当て、苦痛で顔を歪めている優香を見て、友井医師が指示した。


「今日、体育祭だったんですが、夕方急に嘔吐してしまったと学校から連絡がありました。下痢はしていないんですが、腹痛がひどいみたいです。熱も少し出ていて、37度8分です」

 真斗は優香を抱えて、診察台に仰向けに寝かせながら、優香の症状を説明した。


「脚を軽く開いて膝を立てて」

 友井医師は優香にそう声をかけると、お腹の診察のために、優香の体操着を捲り上げ、ズボンを腰骨の辺りまで下ろした。

 露わになった白い下腹は、華奢な体格には不釣りあいにポッコリと膨れ、見ただけでひどく張ってしまっているのがわかる。触診で軽く圧迫されると、「ギュルっ」という水っぽい音が響き、優香は「うぅ…」と低いうめき声を漏らした。


 触診の後で、聴診をしながら友井医師は言った。

「お腹が下って、かなりゴロゴロいってますね。便は出ている?」

「…今日は、出なくて…。昨日の朝、出ました…」


 腹痛の苦しみに加えて、付き添いの真斗もいる前で、お腹が下っていると指摘されたり、便通について答えなくてはいけない恥ずかしさで、優香の声はか細く震えた。

「お尻からも診察しますね。こちらにお尻を向けて」


 お尻から診察…?

 意味をよく理解しないまま、優香が指示の通り体勢を横向きに変えると、腰から尻、太ももを覆うようにタオルがかけられた。


「ズボンと下着を下ろして、お尻を出して」

 恥ずかしかったが拒否できる状況でもなく、優香はモゾモゾと身体を動かして、体操着のズボンとショーツを腿まで下ろし、タオルの下でお尻を露出させた。

「すぐに済むからね。膝を曲げて、身体を丸めて、お尻をぐっと突き出すように…」


 お尻が出るように、タオルが半分めくられる。

 優香は、覆うものがなくなったお尻を、恥ずかしさを堪えてぐっと突き出した。


「直腸診をしますね。口を開けて、ゆっくり息を吐いて」

 友井医師はゴム手袋をはめて、優香のお尻を開くと、潤滑剤を塗った人差し指を、露わになった肛門にぐっと突っ込んだ。


「うっ…!」

 不快感と痛みで、優香は思わず眉をしかめてうめき声を漏らした。

「楽にしていたら痛くないからね。口で息をして、お尻とお腹の力を抜いて」

 友井医師は低く優しい声で言った。

「…肛門の手前に、硬くて大きな便塊がありますね。便がたくさん溜って団子状に固まって、お尻に栓をされているような状態、重症の便秘です」

 優香のお尻の中を、指を回すように触診しながら、友井医師は言った。

 お尻の穴に入れられた指の感触と「お尻に栓をされる」という生々しい表現、「重症の便秘」という指摘が優香の羞恥心を強く刺激した。


「お腹をこわして下痢をしているのに、出口は栓で塞がれている状態なので、下に行き場がなくて、上から戻してしまったようなものです。辛かったでしょう」

 優香は脂汗を浮かべ、ぐったりとしたまま頷いた。苦痛と恥ずかしさで、もう声も出なかった。

 真斗は労わるように優香の額の汗をハンカチで拭い、髪を撫でた。


「浣腸して、詰まってしまっている便を出しましょう。便が出たら熱も下がって、お腹も楽になるからね。すぐに浣腸の準備をするので、このまま少し待って」

 追い討ちのように、浣腸の宣告が下される。

 友井医師は優香の肛門から指を抜くと、反対の手でめくっていたタオルを広げて優香のお尻を覆った。



「これから、グリセリン浣腸をします」

 腰の下にひんやりとしたシートが敷かれた後、改めて浣腸を宣告され、友井医師の手でまたタオルがめくられて、再びお尻を丸出しにされる。


 いつも浣腸は女性の看護師さんにしてもらっていたが、今日はもう看護師さんは帰ってしまったようだ。

「膝を抱えるようにして、お尻をこっちに、もう一度ぐっと突き出して」


 優香が恥ずかしさを堪えて指示されたポーズになると、友井医師の手によって、お尻の割れ目が大きく開かれ、お尻の穴までが露わになってしまう。


「潤滑剤を塗るので、ちょっとお尻が冷たくなるよ」

 ひやっとする感触があり、優香の肛門に、ヌルッとしたものが塗られた。

「痛くないからね。力を抜いて、楽にして…。浣腸します。ノズルを入れるので、口を開けて、口からゆっくり息を吐いて」

 痛くはないことはわかっていても、恥ずかしさと気持ち悪さで、優香は思わず身を固くして呻いた。

「うっ……うぅ!」

 少しでも楽になるようにと、真斗は優香の背中をさすった。


 しかし、優香にとっては肛門の診察や浣腸をされる様子を真斗に見守られていることが一層恥ずかしく、診察室から出ていてもらったらよかったと、後悔したが、もうどうしようもなかった。

「もっと大きく口を開いて、ハーハー息を吐いて。お腹を楽にして、お尻の力も抜いて……。…はい、ノズルが入った。今からグリセリン浣腸液を注入していくから、もう一度ゆっくりと口から息を吐いてー。はーー」

 優香が口を開け、息を吐くのに合わせて、お尻から、ゆっくりと生暖かい液体が入ってくる。

「あぁ…」

 恥ずかしさと惨めさ、気持ち悪さで思わず声が出る。

「半分入ったよ。あと半分。頑張れ。あと少し……。はい、全部入ったよ。ノズルを抜くのでしっかり肛門を締めて」

 お尻にトイレットペーパーがあてがわれ、ノズルがスポンと抜き取られた。


 お尻を優しく拭われた後、トイレットペーパーをぎゅっと押し当てられる。


「少し我慢しようね」

 友井医師は言った。

「下着とズボン、自分で上げられるかな」

 優香は頷き、横になったまま、膝まで下されたショーツとズボンをどうにか引き上げた。

 友井医師は手早く使い終わった浣腸器と、使用済みのゴム手袋をビニール袋に入れると、優香のお尻にタオルを広げながら言った。

「お通じが毎日あったとしても、量が少なかったり、お腹が張るようなら、気づかずに便秘をして詰まっている状態かもしれないから、早めに受診するようにね。便秘は長引くほど、出すのもしんどくて出せなくなるし、治療も辛くて長引くからね」

 押し寄せる腹痛と便意に必死で耐えながら、今こんなにも恥ずかしくて辛いのに、もっと辛い治療なんてあるんだろうか、と優香は思った。


「あともう少し」

 友井医師が励ますように声をかける。

 答えるように、ギュルギュルと優香のお腹が音を立てて蠢いた。

 優香は、この苦しくて恥ずかしい時間が、一刻も早く終わるように願うことしかできなかった。


「もう少しだから、頑張ろうね」 

 色白な優香の顔は苦痛で歪み、顔中に脂汗が滲んでいる。

「そろそろお手洗いに行こうか。お尻をしっかり締めて、ゆっくりと仰向けになって」

 友井医師は、優香を抱きかかえるようにして、起き上がるのを助けてくれた。

「はい、じゃあゆっくり起き上がろう」

 医師の手を借りながら、優香はゆっくりと起き上がった。漏らしてしまわないように、必死でお尻の穴を締める。

「ゆっくりベッドから降りて。歩けそう?」

 優香は真斗の手を借りてベッドから降り、ゆっくりとスリッパに足をつけた。

「左手のドアがお手洗いです。一人で行けそう?」

 優香は苦痛に顔を歪めながらも、頷いた。


 我慢の限界を迎えた優香が、片手でお腹をさすり、もう片手でお尻を押さえながら、トイレに駆け込んでいく。


 勢いよくドアが閉まるのを見届けると、友井医師は優香の後ろ姿を心配げに見守っていた真斗に向きなおって言った。

「元々、胃腸が弱くて、便秘や下痢をしやすい体質ですね。今は、便秘で腸管内の状態が良くないところに、疲れも重なって消化不良を起こしています。浣腸で出口を塞いでいた便の塊が取れたら、数日間は下痢が続くでしょう。下痢は無理に止めずに出し切るしかないので、整腸剤で様子を見ましょう」

 真斗は心配そうな顔で頷いた。


 静かな診察室に、優香の排泄音がかすかに聞こえてくる。

 ドアを隔て、流水音に紛れていたが、「んーー」という息み声が、優香が排便に苦しんでいる様子を伝えていた。

 やがて、ポチャンポチャンと、肛門を塞いでいた固く大きな便塊が便器に落ちる激しい水音が響き、その後は断続的に、水っぽく激しい下痢の排泄音が続いた。


「下痢が治まるまでは、消化のよい食事にして、安静にさせてください」

「はい…。食事は、どんなものがいいんでしょう?」

「便の状態が目安になります。完全に水のようなひどい下痢の間は、絶食で、脱水症状にならないように、水分だけはしっかり与えてあげてください。水様便までいかなくても、便がゆるい間は、便と同じくらいの軟らかさの食べ物、やわらかく煮たうどんやおかゆですね。すりおろしたリンゴも消化に良くて、便が固まりやすいです。ひどい下痢でなくても、軟便が続く場合は、しばらくは胃腸に負担がかからないものを、いつも以上によく噛んで食べることです。キノコやこんにゃくのような消化が悪いもの、カレーのような刺激物や辛いもの、脂っこいものは控えて。納豆のような発酵食品も、元気な時はいいんですが、お腹が弱っている時には腸の負担になるので避けてください」

「そうですか…。わかりました」

 真斗は几帳面にスマホでメモを取った。

「整腸剤は3日分出します。3日経っても腹痛と下痢が改善しないようなら、また診せに来てください」


 真斗への説明を終えると、友井医師は、受付も看護師も帰ってしまっているので、浣腸の処置を行った診察台を片付け、処方箋を用意して、受付のレジで診察料金を打ち出した。


 真斗が会計を済ませたところで、長い排泄を終え、優香がトイレから出て来た。

 浣腸による腹痛と激しい排泄で消耗し、表情はげっそりとしていたが、熱は少し下がったのか、赤らんでいた顔はいつもの色白な顔色に戻っている。


「スッキリしましたか? お腹は少し楽になった?」

「…はい」

 友井医師に尋ねられ、優香は恥ずかしげに答えて俯いた。

「しばらくは下痢が続いてしんどいと思うけど、無理に止めない方がいいので、頑張って出してしまおうね。溜まった便を全部出して、身体をよく休めたら、早く良くなるからね」

「…はい…」


 二人は時間外診療のお礼を言って、診察室を出た。

 玄関まで見送りながら、

「閉めてしまう前でよかった」

 友井医師は、もう一度そう言った。

「今日はゆっくり休んで。我慢しないで、具合が悪い時は早めに来るようにね」

 優香の顔を覗き込むようにしてそう言って、二人を見送った。

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