保健室(8) 反転(中学2年生3月)
翌日。熱が下がった優香は学校に登校し、午後からはまた保健室横の教室に向かった。
「おはよう」優香が教室に入りながら声をかけると
「優香ちゃん。おはよう、体調大丈夫?」
「うん。昨日は熱が出ちゃって。もう下がったから平気」
「よかった。私が変な話ばっかりしたから、ショックで具合が悪くなっちゃったんじゃない?」
「そんなことないよ。今、飲みなれない薬を飲んでるから、ちょっと身体が疲れてたみたいで…。昨日いっぱい寝たら治ったよ。莉緒ちゃんの話は、確かに私には刺激が強かったけど…」
優香が少しはにかんで言うと、
「やっぱり優香ちゃんって、清純で可愛いね」
と莉緒は笑った。
莉緒のような美少女に、お世辞かもしれないが可愛いと言われて、優香はちょっと照れて笑った。
「優香ちゃんて男の子にモテそうだね。今は彼氏とかいるの?」
「え、全然モテないよ。今というか、ずっといないよ」
「本当? 同級生は子供っぽいから興味ないとか?」
「んー、どうかな。確かに同級生は友達って感じで、年上の人がいいかな」
「3年の先輩? もうすぐ卒業しちゃうけど」
「先輩より、先生かな。木下先生とか」
「ふーん、ああいう感じがいいんだ。確かに、爽やかだし優しいよね」
「莉緒ちゃんは?」
「私も同級生は懲りたから、性にガツガツしてない大人の男性かな」
「なにそれ…」
二人で笑い、優香は莉緒と随分仲良くなれた気がして、保健室登校も悪くないと思い始めていたが、次の日、莉緒は欠席だった。
金曜日、いつものように、気だるげに文庫本を読む莉緒の姿を見て、優香は安心した。
「おはよう。昨日はどうしたの?」
「おはよう。入れ替わりで、今度は私が体調崩しちゃった」
「大丈夫…?」
「うん、もう大丈夫。私、ある程度は、体調を薬でコントロールできてるんだけど、それも10日間くらいが限度で、だんだん調子悪くなっていって、自分ではどうしようもなくなっちゃうのね…。だから、定期的に病院で処置してもらわないとダメなんだ…。今週は優香ちゃんがいるから、平日は頑張って登校しようと思ってたんだけど、力尽きちゃった…」
莉緒は少し疲れた笑顔を見せた。
「そうなんだ…。処置してもらったら、しばらくは調子いいの?」
「うん、所詮はただの便秘だからね。病院で大きい浣腸をしてもらえば、とりあえずは大丈夫なの。でも引くぐらい大きいから、自分ではできないし、時間がかかるから週末に行くか、学校休むしかないのよ」
莉緒はさらりといったが、優香は「浣腸」という言葉に反応してしまった。
またあの、莉緒がお尻を高く上げ、大きな注射器のような浣腸器を突き立てられている光景が頭をよぎり、とっさに言葉が出なかった。
「あ、ごめん。引いちゃった…? 私、懲りもせず、また浣腸の話してるね。これじゃ机に変態とか書かれても、反論できないよね」
莉緒は冗談ぽく、笑いながら言ったが、
「変態だなんて、そんなことないよ…。だって病気の治療でしょ? 病気を治すために、嫌な治療も頑張って受けてるのに、どうしてそんなひどいこと…」
優香は思わず、自分自身にも言い聞かせるように言った。
「優香ちゃんて、やっぱり清純で可愛いね」
莉緒にそう言われて、優香は
「え、そうかな…」とはにかみながら、頭から離れない光景から、必死で気をそらそうとしていた。