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保健室(2) 衝撃(中学2年生3月)

莉緒が文庫本から顔を上げ、怪訝な顔で優香を見た。

「あ…話したことないのに、馴れ馴れしく名前で呼んでごめんね。私、2年A組の佐伯優香です」

「そうなんだ。優香ちゃんも、今日から保健室デビュー?」

「あ、うん。今日からしばらく午後だけ保健室登校になるの。よろしくね」

「同級生の女の子が来て嬉しい。仲良くしてね」

莉緒はそう言って、華奢な手をひらひらと振って、ニコッと笑った。


莉緒は人形のように美しく可憐な容姿で、学校でも有名な存在だった。

ぬけるような白い肌に、色素の薄い大きな瞳とサラサラの長い髪、すらりとした体格。

優香も色白と言われることが多いが、莉緒の容姿は、肌の白さだけでなく、目鼻立ちも日本人離れしていて、ハーフかクォーターという噂だった。

確か帰国子女で、1年生の途中で転校して来たときには、学校中の評判になった美少女だった。


莉緒ちゃんが保健室登校しているとは、知らなかった…。

優香は、ふと、夏休み明けに、彩奈が部室で話していた噂話を思い出した。

莉緒ちゃんが便秘からくる腹痛で倒れ、運ばれた病院で浣腸されたのではないかという…。

保健室登校は、その噂と関係があるのだろうか。

気にはなったが、本人に確認することもできず、優香は莉緒の隣の席に座り、午後の授業の準備をした。


やがてチャイムが鳴り、監督の先生がやって来た。

5時間目は何事もなく過ぎ去ったが、6時間目が始まって少し経った頃、グルグルとお腹が動き出したのを感じた優香は、先生に申し出てトイレに向かった。

廊下を横切ってトイレに入ると、普段なら洋式を選ぶのだが、和式の個室に入ってしゃがみ、肛門に軟膏を塗り、中にも注入する。


その後、まだ排便できるほど便意が強まっていないので、一度教室に戻り、また自習をしながら便意が強まるのを待った。

15分ほどして、お腹がギュルギュルギュルと大きく音を立て、便意が急に強まったところで、優香は再び先生に声をかけ、トイレに急いだ。

下着をおろし、和式トイレにしゃがみ込むと、

ブボッ。ブリュリュリューーー。

勢いよく軟便が吹き出した後は、グチュグチュとした軟便が続く。優香は肛門のヒリヒリした痛みに顔をしかめながら悲鳴をこらえ、身体を震わせた。

痛みをこらえて軟便が出し切ると、用意してきたお尻ふきシートで、ヒリヒリと熱い肛門と周辺を丁寧にぬぐい、もう一度軟膏を塗って、容器を挿し注入する。

ようやく排便を済ませて優香が席に戻った時、終業のチャイムが鳴った。


6時間目終了後のホームルームは、戻れそうならクラスに戻っても良いし、戻らない場合は、そのまま今日の復習をしたり、日誌を書くように言われていた。


優香が日誌を書いていると、隣の席から莉緒が

「優香ちゃん、家どっち? もう帰るなら、一緒に帰らない?」と声をかけてきた。

結局3学期中は部活を休むことになった優香は、莉緒と一緒に帰ることにした。


上靴を脱いで靴箱にしまい、靴を履き替えて振り返ると、莉緒は靴箱から取り出した紙をグシャッと丸めてカバンに突っ込んでいた。

「どうしたの?」

「ううん、なんでもない。ごめん、お待たせ」


学校を出て、並んで歩きながら、莉緒は少し声を潜めて言った。

「優香ちゃんも、お腹の調子が悪くて保健室登校にしてるの?」

授業中にお腹が下るギュルギュルという音が鳴ったり、何度もトイレに通うので、そう思われることは覚悟していた。

「あ、うん…。ちょっと、調子が悪くて…」

痔のことまでは言いたくないので、優香は言葉を濁した。

「そうなんだ…。なんか、詮索したみたいでごめんね。私も時々お腹が痛くなるから、気になっちゃって」

「莉緒ちゃんも?」

「うん、時々お腹が痛くなるのと、クラスに変な噂が広がって、行きにくくなっちゃって」

「噂?」優香の脳裏に、彩奈の話が蘇る。

「私が病院で浣腸されたとか、それでそっち系の趣味に目覚めたとか」

浣腸という言葉に、ドキッとしながらも、優香は聞いた。

「そっち系?」

「そう。いるでしょ、浣腸が好きな人」

「そんな人、いるの…?」

優香は、彩奈たちが言っていたSMの浣腸の話を思い浮かべたが、そんな自分が恥ずかしく、知らないふりをして、聞いた。


「いるよ。身近なところだと、立川くんもそうだよ」

「立川くん!?」

唐突に上がった名前に、優香は驚いて聞き返した。

立川くんは、同じクラスになったことはないけれど、サッカー部で、背が高くて格好良く、人気のある男子生徒だということは優香も知っている。そして彩奈の話だと、莉緒と付き合っていたはずだ。容姿は美男美女で、お似合いだと思っていたけれど…。


「私ね、前にすごくお腹が痛くなって病院に運ばれて、その時、浣腸されちゃったの。その日、立川くんと一緒だったのね。立川くんは病院には一緒に来なかったんだけど、病院から帰った後に連絡があったの。最初は心配してくれて、私の体調とか治療とか聞いてきたのね。それで、浣腸されたことも打ち明けたんだけど、そしたら、なんかすっごい興奮しちゃって…。その時はそれで済んだんだけど、それ以降、浣腸されてどんな感じだったとか、興味津々で聞いてきたり、今度便秘になったら、自分が浣腸してあげるとか、そんなこと言うようになって…。気持ち悪くなっちゃって拒絶したら、医者にはさせたくせにとか、もう訳のわからないこと言い出してさ…。こっちは、お腹が痛くて苦しんでるっていうのに」


優香は衝撃を受けて、しばらく言葉が出てこなかった。

「……そうなんだ。大変だったね」

「うん。告白されて、格好いいから、ちょっといいかなと思って付き合ったけど、大間違いだったわ。別れたいって言ってもしつこく粘着されて…。まあ無理やり別れたけどね」

「じゃあ、変な噂って、立川くんが逆恨みして広めちゃったのかな…」

「うーん、立川くんも多少言ってるかもだけど、主に言いふらしてるのは彩奈だと思う」

「彩奈…?」

「うん、彩奈って立川くんのこと狙ってたから、私たちが付き合い出した時、私にすごく嫉妬してたのね。まあ、それをわかってて立川くんと付き合った私も良くなかったのかもだけど。で、そんな状態なのに、うちのママ、彩奈のママと同じ料理教室に通ってて友達なんだけど、私が病院に運ばれて浣腸されたことまでペラペラ話しちゃって…。それが彩奈にも伝わっちゃったのね」

「そうだったんだ…」

「彩奈は、私の格好悪い話を広めたり、浣腸好きの変態、みたいな噂話で、私が立川くんに嫌われればいいと思ったんじゃないかな。立川くんはその話で余計に興奮したかもしれないんだけどね」

莉緒はそう言って、軽く鼻で笑った。

「でも噂が広がったおかげで、机の中にイチジク浣腸の容器を入れられたり、さっきも靴箱に、ほら」

莉緒はカバンから、さっき丸めて突っ込んだ紙を取り出し、広げて見せた。

優香はそれを見て、息を飲んだ。


それは、A4の用紙に大きく印刷された写真だった。

倉庫のような薄暗い場所で、下半身だけ裸の女の人にライトが当たっている。

女の人は、優香が肛門診でさせられたような、四つん這いからお尻を高く上げたポーズを取っている。

優香の時と違っているのは、写真の女性は、手首と足首を縄で縛られ、お尻には大きな注射器のようなものが挿されていることと、こちらを振り向いた女性の顔が、苦痛に歪みながらも、どこか恍惚として、とろんとした表情を浮かべていることだった。

優香は強い嫌悪感で気分が悪くなり、すぐに目をそらしたが、写真の強烈な印象は、優香の脳裏にくっきりと刻み込まれた。


「ひどいでしょ。でもこんなのしょっちゅうよ。机にSM大好きとか変態とか落書きされたり…。私からしたら、浣腸に興奮して執着してる立川くんとか、変な噂話思いつく彩奈の方が、よっぽど変態だと思うんだけどね。で、気持ち悪いし、ストレスでお腹の状態は悪化しちゃうし、もう教室に行かないことにしたの」

「そうなんだ…」

優香は、莉緒の話と写真のショックが強すぎて、ほとんど言葉が出てこなかった。


「信号渡る? 私、ここ右なの。なんか、私ばっかり話してごめんね。同級生と話すの久しぶりだったから。懲りずに明日も一緒に過ごしてくれるなら、今後は優香ちゃんの話も聞かせて」

莉緒は、さっきまで浣腸とか変態とか言っていたとは思えない、可憐な微笑みで手を振った。




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