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傷跡(8) 治療(中学2年生3月)

 痛みを堪えてどうにか排便を終え、タオルを巻いて下半身を覆った姿でトイレから出た優香は、看護師さんに診察台に案内され、再びお尻を出して消毒してもらうことになった。


「台に上がって、横向きに寝て、もう一度こちらにお尻を突き出してください」

 恥ずかしさをこらえ、浣腸した時と同じ左側臥位になってお尻を突き出すと、タオルが太ももにずらされて、再びお尻がむき出しにされた。


「ちょっと冷たくなりますよ」

という看護師さんの声かけの後、お尻が割り広げられ、露出した肛門にスプレーで消毒液を噴霧されると、

「…うぅーー!」

 優香は思わず悲鳴のような、鋭いうめき声をあげた。


「ごめんね、少し触りますよ」

 冷たさと肛門に走った痛みに驚いて、思わず声をあげてしまった優香だったが、余分な水分を優しく拭ってもらうと、刺激は少し落ち着いた。

「はい、きれいになりました。軟膏を入れますね。チューッと入りますよ」

 容器の硬い異物感が、ぬるりとした感触に変わる。

「拭きますね」

 軟膏を塗り広げるようにして、肛門が優しく拭われていく。

 軟膏が傷を覆うせいか、薬を塗ってもらった安心感なのか、ズキズキとしたお尻の痛みも少しだけ和らいだようだった。


 消毒と軟膏の注入を終え、身支度を整えて診察デスクの前に戻った優香に、

「大丈夫? 気分は悪くない?」

と友井医師が声をかけた。

「はい…」

 恥ずかしさと気まずさで、伏せ目がちに返事をした優香に、友井医師は真斗の横の丸イスを指して勧めた。

 椅子にはドーナツ型のクッションが用意されていた。恐る恐る腰掛けた優香だったが、クッションのせいだけではなく、先ほどの浣腸で、内側から肛門を刺激していた硬く大きな便塊を排泄できたおかげで、お尻の痛みは座っても大丈夫な程度に回復していた。


「お尻の痛みは、少しは楽になった?」

「はい……。座っても大丈夫です」

 肛門の状態を心配されていることが恥ずかしく、優香は小声で答えた。


「よかった。肛門の負担になるので、自宅での浣腸は当分控えてくださいね。代わりに、しばらくは経口薬を出します。便秘をして便が硬くなると痔も悪化してしまうので、1日3回、食間の便秘薬と、寝る前には緩下剤も飲んで、詰まらないように、便を緩くして、しっかり便通をつけましょう」

 登校中に急に催して、トイレまで間に合わずに漏らしてしまった悪夢が、ついさっきのことのように生々しく、優香の脳裏に蘇る。けれど反論もできずに、無言のまま、涙を浮かべた悲痛な表情で友井医師を見た。


「朝起きて1時間くらいと、食後1時間くらいは、腸の動きが活発になって便が出やすくなります。なので、朝早めに起きて、まず便秘薬を飲んで、家を出る2時間くらい前に朝食を食べましょう。家で落ち着いて排便をすませて、きれいに洗って薬を塗ってから登校したら安心だからね。今は肛門の腫れが酷くて痛みが強いと思うので、排便の前にも軟膏を注入して、5分くらいして薬が効いてきてから排便するようにしてください。その方が痛みが和らいで、排便が少し楽になるからね。注入の仕方はこの前説明したけど、うまく使えてる?」

「はい…」

「学校にも便秘薬と注入軟膏を持参して、お昼ご飯の前に便秘薬を飲んでください。食後、排便があったらお尻ふきのシートで優しく拭いてから、軟膏を使いましょう。トイレに行きにくいようなら、しばらくは午後の授業だけでも、保健室登校にして」


 クラスメイトに理由を詮索されないかな…。

 楽しそうに噂話をする彩奈の顔が思い浮かび、優香は暗い表情で黙り込んだ。


「怖がらせたくはないけど、便秘も痔も、長引くと治療も難しくなって、手術が必要になったり、手術しても治りきらず、一生つきまとうものになってしまいます。今なら治せるから、できることをして、早めにしっかり治しましょう。今からしっかり治療すれば、来年の新学期には内服薬を飲まなくても良くなって、また普通に登校できるからね。それに、お腹の不調で保健室登校をしている生徒さんも結構いるので、同じような悩みを抱える友達もできたら、気も楽になるんじゃないかと思います」


「担任の先生に相談してみよう」

 黙ったままの優香の背を軽くさすり、顔を覗き込みながら真斗は言って、続けて友井医師に聞いた。


「生活で、何か気をつけることはありますか?」

「トイレで長時間息むのは良くないので、便秘薬と緩下剤で息まずに排便できる状態の便にして、トイレは短時間ですませてください。排便後はこすらずに、シャワートイレでさっと洗い流して、トントンとたたくようにトイレットペーパーで水分をよく拭き取って、濡れたままや汚れたままにはしないように。学校でもおしりふきシートで、強くこすらずにきれいにすること。学校でも大便を我慢しないこと」

 質問したのは真斗だったが、友井医師は俯いた優香の顔を覗き込みながら言った。

「それから、お家では血行をよくするために、お風呂にゆっくり浸かるのがいいです。ただ、今は傷がひどくて、菌が入るとよくないので、大きめの洗面器に人肌のお湯を張って、シャワーでお尻をきれいに洗ってから、お尻をつけて座浴をするのがいいでしょう。できれば、朝も排便の前後に肛門を温めると、痛みが楽になります」

「わかりました。食事はどうするのがいいんでしょうか?」

「以前、優香さんにはお話ししましたが、あまり神経質にならずに、3食バランスよく、美味しく食べるのが一番です。水分は不足しないように、食事はよく噛んで食べて。それから、肛門に炎症がある間は、刺激の強い辛いものは避けてください。また3日後にお尻の状態を診せにきてください」


 3日分の内服の消炎鎮痛剤と便秘薬、緩下剤、外用の注入軟膏の処方箋を受け取り、優香と真斗はクリニックを後にした。


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