体育祭(1) 学校で(中学1年生10月)
このエピソードに、直接的な嘔吐、排泄のシーンはありません。
大学の授業を終え、家に帰った真斗が、家庭教師のアルバイトに向かう準備をしていると、電話が鳴った。
画面を見ると、優香の中学校の番号が表示せれている。
「はい、佐伯です」
「佐伯優香さんの担任の木下です。お兄さんですか?」
「はい、そうです。いつも優香がお世話になっております」
「実は優香さんが先ほど学校で嘔吐してしまって」
「え…!?」
「今日は体育祭で、昼間は特に変わった様子はなかったんですが、夕方片付けを終えて、ホームルーム中に具合が悪くなったようで、急に戻してしまって。意識ははっきりしているのと、今日は曇りでそれほど暑くもなかったので、熱中症の心配はなさそうなんですが…。吐いたあとは少し落ち着いたようだったので、救急車は手配せず、保健室で休ませて様子を見ているんですが、腹痛もあるようで。学校まで迎えに来ていただけますか?」
「わかりました。すぐ行きます」
真斗は電話を切ると、アルバイト先に事情を話して今日は休ませてもらい、学校へと向かった。学校までは歩いて10分ほどだが、タクシーを拾い、帰りもそのまま乗って帰れるように、学校の前で待っていてもらうことにした。
受付で用件を告げ、案内された保健室のドアを開けると、優香は水枕をあててもらって、体操着姿でベッドに横たわっていた。傍には、木下先生と保健医らしき白衣の女性が付き添っている。
「優香! 大丈夫か?」
真斗が声をかけると、優香は熱があるのか少し赤らんだ顔で、弱々しく頷いた。
「お腹痛い…」
額には脂汗が滲んでいる。
「ホームルーム中に、急に気分が悪くなったようで…。片付けを終えて制服に着替えていたので、戻したときに少し制服を汚してしまって、体操着に着替えさせました」
木下先生が説明して、汚れてしまった制服が入った紙袋を手渡した。
「少し熱が出ていて、37度8分です。腹痛で、何度もトイレに行ってるんですけど、便は出ないみたいで…。下痢はしていないのよね?」
保健医に促され、優香は小声で「はい」と答えた。
「同じ給食を食べた職員や生徒も、具合が悪くなった人は他に出ていないので、食中毒ではなさそうです。痛んでいる場所と痛みの感じから、盲腸でもないと思います」
保健医が続けて説明する。
「そうですか。ご面倒をおかけしました。元々胃腸が弱い子なので、体育祭の疲れがお腹に来たんだと思います。念のため、いつもお世話になってい病院で診てもらいます」
「そうですね。腹痛が心配なので、早めに病院を受診してください」
保健医が言った。